第5話 腐女子と転校生
少し間が空いてしまいました(´・ω・`)
「へー転校生?」
「うん、何か女子が騒いでたよ」
千歳は言いながらも、興味無さそうにスマホをタップしている。雪にとってもさほど興味が湧く事でもなかったが、一つ気になると言えば、転校生のスペックだ。
もし男で、更にイケメンだとしたら、聞き捨てならない案件と言える。
「他に何か情報ないの?受けとか攻めとか」
「ウチが知るわけないでしょ」
スマホが顔面に飛んできた。千歳の反応に雪は察した、フルコンボを逃したのだと。聞いたタイミングが悪かったのだと。
痛む顔面をさすっていると、千歳は我に返ったようで、ごめんと謝った。
「まあ、どうせこの後のHRでわかるでしょ」
そうだね、と答えるのと同時に担任の先生が教室に入ってきた。席に着き、先生を発表を待つ。誠意を示すために全裸になりたいところだが、さすがにそれは出来ない。全裸待機はTPOを守ろう。
「急だが、今日からこのクラスのメンバーが一人増える」
みんな待ってましたとばかりに、わっと沸き上がる。もちろん雪もその一人だ。
ガラッと手前の扉が開く、各々の期待が膨れ上がる。しかし、転校生が入ってきた瞬間、みんな思わず固まった。あまりの情報量の多さに。
「木津 悠也です!あ、これ地毛ですよ、ヤンキーじゃないので怖がらないでください!」
光り輝く金髪に、空を映した青色の瞳。バランスのとれたスタイルの良い四肢。そして何より整った綺麗なお顔。あまりの情報量に女子さえ悲鳴をあげるタイミングを逃していたし、男子に至っては頭を抱えて絶望するしかなかった。
そんな中、雪は冷静に頭をフル回転させていた。その回転の速さたるや、チーターも真っ青…いや、比較対象がおかしいか。
(受け…いや、攻めもありかもしれない!でも猫田君の彼氏となるとまた違うような…)
やっぱり猫田君にぴったりなのは私だけだ、と雪は一人納得した。
転校生はこの何とも言いがたい空気をものともせず(慣れているだけかもしれないが)、また話し始める。
「あ、この学校には橋本雪さんに会いに来ました!」
その一言でクラス中の視線が雪に集まる。妬みやら、純粋な疑問やら、色々な感情が込められているが、いかんせん雪にも何の心当たりとないし、わからないのだ。
どうやら、とんでもない爆弾を投下されてしまったらしい。
「木津くんってぇ、ハーフ?」
「髪ほんと綺麗だよね~」
「てか彼女いるの~?」
瞬く間に群がる女子、女子、女子。
他クラスの人間までもが、雪達のクラスへと押し掛け、転校生を囲んで質問攻めをしている。
雪としては彼女よりも彼氏の有無が知りたいところだった。しかし、呑気に構えていた雪にまたもやミサイルが投下される。
「え、ていうか橋本さんとどういう関係?」
またもや数多の視線が雪に突き刺さる。
勘弁してくれ、と思いつつ訂正を入れる。
「私は木津君と全く面識はないですし、多分木津君は誰かと勘違いしてますよ?」
「え、俺のこと覚えてないの…?」
しゅん、と犬が尻尾を垂らすように、わかり易くしょんぼりとする転校生。女子の視線がますます鋭くなる。
「ちょっと橋本さん酷くない?」
「木津くんのこと覚えてないとかありえなくない?」
「木津く~ん、元気だして!」
しょんぼりと耳と尻尾を垂らしたまま、転校生は弱々しく微笑む。
「うん…ありがと」
ズキューン、と音がしそうなほどわかり易くノックアウトされていく女子生徒達。
千歳が思わず「これは受けだわ」と口から漏らしてしまったほどだ。
転校生はとことこ、と雪の元までやって来ると、可愛らしく小首を傾げる。
「雪が覚えてなくても、俺は覚えてるからね、これからよろしくね!」
そう言って雪の手を握り、ぶんぶんと振った。転校生は「ところで、」と小声で言うと腕をぐいと引っ張られる。お綺麗な顔が目の前までやって来る。
「ハンディライト、上手く使ってる?」