第4話 イケメンと猫田君
「あっ、それぼくきみの新刊じゃん!」
猫田はキョトン、とした顔で彼を見た。
当然だ、全く知らない男にいきなり声をかけられたのだから。
しかし、彼もやっちまったみたいな顔をしているので、おそらく無意識に言ってしまったのだろう。
同じ高校の制服を着ているせいもあり、猫田はどうにもこの男に対し警戒心を抱けなかった。
「あはは、これ面白いですよね」
「えっ、あっはい。友達に借りて読んで…」
そこまで言って、男の動きが止まった。どうしたんだろう、と思いつつ、猫田はある事を思い出していた。
(そう言えば、あれから続き貸してないな…)
猫田はある出来事がきっかけで疎遠になってしまった、ある少女の事を思っていた。
◆◆◆
(どどどどどうしよう…!)
本棚を一つ挟んだ先に、猫田君がいる。
しかしながら、そこからどう踏み込んで良いのかがわからない。
(何の計画もたてて無かった!!!アホ!!!今猛烈に死にたい!!!)
ざっくりと「猫田君の仲良くなって、そこからラッキースケベを起こす!」という作戦しかたてていなかった上に、ラッキースケベについてばかり考えていたため、肝心の仲良くなるまでの工程ついて何も考えていなかった。
(いっそもう、さり気なーく隣に立ってみるか…)
そっと猫田君のいる方へと移動する。本命の一冊を見つけたのか嬉しそうに微笑む猫田君がいた。可愛い。
何を買うのかな、と手元を覗いてみる。
「あっ、それぼくきみの新刊じゃん!」
猫田君はキョトン、とした顔で雪を見た。
当然だ、全く知らない男にいきなり声をかけられたのだから。
勢いだけで話しかけてしまった、後悔の波が押し寄せてくる。
「あはは、これ面白いですよね」
「えっ、あっはい。友達に借りて読んで…」
雪は思った、やはり猫田君は天使だったのだと。この微笑みは世界を平和にするな、と。
そう言えば、今日が発売日だったか。 結局借りた後、見事にハマり、全巻揃えてしまったのだ。
(あっ、)
これを貸してくれたのは千歳じゃなくてーーー
「あの、大丈夫ですか?」
「えっ、あっはい大丈夫です」
固まっていた雪の顔を心配そうに下から覗き込む、猫田君。可愛い顔が視界を占拠する。
思わず、視線を逸らして一歩後ずさる。
逸らした先にある一冊の本を手に取った。
「これもオススメなんですけど…知ってます?」
ある日魔力を手にした主人公が、美少女達と共に世界を救うというストーリーのライトノベルだ。
(主人公と男友達の絡みがやたら多い……あれは完全にデキてる。それを抜きにしても面白いんだよね、女の子みんな可愛いし)
「まほせか僕も好きです!」
「…猫田君好きです」
思わず口から出た言葉に驚きつつも、何とか誤魔化そうと必死に口を動かす。
「あ、いや今のは友達になって欲しいって意味で!猫田君と仲良くなりたいなってずっと思ってたんですよ」
「そう言えばネクタイの色同じですね、何組ですか?ちなみに僕は3組です」
猫田君は自らのネクタイを指で軽く摘み、そう言った。
思わず私も3組です、と応えそうになる。が、それはまずい、当然こんな奴はクラスにいないのだから。
「えーっと1組です、棟が違うからあんまり会わないと思いますけど」
「わーすごい、特進クラスなんですね!」
そうなんですー、と答えながら雪は胸が痛くなる。雪はそんなに頭が良くないのだ、本当は普通クラスの中の普通の成績である。
「あとお名前聞いても良いですか?」
「あーえっと、橋本です、橋本」
嘘は言っていない、少し罪悪感が湧くが。とは言えフルネームを名乗るわけにもいかない。
「橋本さんですね!僕は猫田優太郎です。折角ですし、連絡先交換しませんか?」
◆◆◆
「まさか、こんなにトントン拍子で進むとは思ってなかった…」
ベッドの上に寝転がりながら、スマホを眺める。某アプリでは色々と都合が悪いので、メアドと電話番号を交換した。
雪は電話帳を眺めて一人ニヤニヤとしている。
メールが届く、明日の昼休みは一緒にとらないかという内容だった。
雪はすぐさま、楽しみにしている、と返事を送る。
「よーしもっと仲良くなって早くラッキースケベするぞー!!!」