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魔術師、思い悩む

紫瞳の囚人の尋問が行われていた。

領主のフリントと相談役のニイ、それにレン達三人の、計五人が囚人の前に立っている。

囚人は猿轡が外され、椅子に座らされていた。

テヘラだけが口を開く。


「聞かせてもらうぞ。

邪神の封印を解いたな?」


テヘラがずっと追い続けて、結局辿り着けなかった者。

この囚人がそれだと睨んだのだ。

そして、その推測は正しかった。


「ええ、解きましたよ。」


囚人は正直に認めた。

拍子抜けではあったが、話が早く済む。

そう考えておく。


「何故だ?

詳しく聞かせろ。」

「利害の一致ですよ。

邪神は封印からの解放。

私達は世界の破滅。」

「何故、世界の破滅などを行おうとした?」

「存在する全ての世界の破滅。

それは悪魔全てが望む事では?」


囚人は、聞き捨てならない言葉を口にした。

自らが悪魔であるかのような、それはそんな物言いであった。

世界の破滅。

テヘラはそんな事を望んではいない。

ただ、それは元旧神だから、生粋の悪魔ではないからだとも言えるだろう。


「お前は、悪魔なのか?」

「ええ、そうですよ。

導具を作る専門の、ですけどね。」


悪魔は皆、このように考えていたのか。

ならば、相容れない存在だ。

他にも仲間がいるだろうか。

テヘラはそこで、先の言葉を思い出す。


「先程私達、と言ったが、具体的には他に誰がいる?」

「灰色の魔石が一つ。

それだけですね。」

「魔石が世界の破滅を望んだと言うのか?」

「他の八つも、元は悪魔ですよ。

もちろん望みは同じです。

実際にこの世界を破滅させましたしね。」


魔石が悪魔だった。

それは驚異の事実だ。

そして魔石が、世界を破滅させていた。

何故だ。

そう疑問に思い、テヘラは聞く。


「悪魔が破滅を望む理由は?」

「破滅させられた世界は、悪魔のものとなるんです。

それが、神と悪魔の戦いです。」


かつて神であったテヘラには、心当たりがあった。

神は、世界を守りたいと願う。

そこに生きる者達を大切に思う。

七柱いたが、その全てがそう考えていた。

では、邪神はどうなのか。

だがあれは、果たして神と呼べる存在だったか。

生命を生み出ししたと言えど、必ずしもそれが神であるとは言えないのではないか。

邪神は生命も、世界すらも守らなかっただろう。

滅んだとしても、また創れば良いと考えたに違いない。

しかしそう考えると、神であるとも言えるか。

破滅しても、また創り出せるのだから。

創造と破壊。

それが邪神の二面だった、と言う事か。


脱線した思考を戻す。

そうなれば、魔石達の行動がわからない。


「魔石も悪魔だったと言ったが、では何故彼らは世界の再生を行った?」

「心を入れ替えた、などと言ってましたが。

私と灰色に言わせれば、今更と言ったところですね。」

「心当たりは?」

「正義と愛に触れた、などと戯言を。

散々命も魂も奪い尽くした果てにそんな事を抜かしていたので、石に変えてやりましたよ。」


イルハルやエルハルに接触したのか。

いや、異界の事なのだから、それは無い。

単純に、そんな出来事があったのだろう。

心を入れ替えられる、と言う事は、悪魔も十人十色と言えるのか。

テヘラの胸には、疑問が湧き続ける。


そうして問答は続いた。




最後に囚人は、死を願った。


「このままいつまでも牢で暮らすくらいなら、契約したニベルのところにでも行きますよ。

そこで使われていた方が、退屈もしないで済むでしょう。」

「わかった。

話してくれた情報に免じ、私が介錯しよう。

今後もニベルの下で、私達に協力してくれると嬉しい。」


願い通りに、テヘラの手によって刑は下された。

その魂は、ニベルの下で忙しく使われている。




説得に全く応じなかった第九の石は、他の魔導具と共にサールの倉庫に預けられた。

数々の悪しき魔導具に紛れて置かれた開かない箱の中で、力を使う事も蓄える事も出来ずに永劫の時をひたすら孤独に生きる羽目となった。

それは生き地獄であり、紫瞳の男が避けた未来でもあった。




「これでようやく、全部終わったんですよね?」

「多分ね。」

「ようやく、普通に旅が出来るんですよね?」

「だと、思うわよ?」

「良かった・・・。」


レニの家の長椅子に座り、レンはユニアにもたれかかる。

表情は言葉とは逆に沈み、隠すように、誤魔化すようにユニアの腕を胸に抱いた。

悪魔と石の末路に、胸を痛めているのだと察せられる。

四国の大地では邪神の封印を解いた。

そして蘇った八石の大地では人心を惑わす種を撒いた。

レンが対処していなければ、どちらの大地も滅ぼされていただろう。

それは到底許される事ではなく、犯した罪には罰が下されなければならない。

そうとわかっていても、心苦しいのだ。


ユニアからもレンに身を寄せ、胸に抱く。

頭を撫でて、柔らかに微笑んだ。




「そうか。

相変わらず冒険してるな、二人は。」

「たまに羨ましくなるけど、戻りたいとまでは思わないのよね。」


兄夫婦であるモロウとティカは、ユニアの話を呆れながら聞き、苦笑いした。


ユニアはレンに、迷宮の町へ帰る事を提案した。

また、少しでも休養するべきだと考えたのだ。

そうして帰ってみると、少しだけ変化があった。


「兄さんも冒険者に戻ったんでしょ?

順調なの?」


モロウは再び、迷宮に潜っていた。

ただ、それはアリサの付き添いであるらしい。

法国の宮廷魔術師トリトに師事し帰って来たアリサが、迷宮に行きたがった。

現役の冒険者と組む事を勧めたのだが、アリサはモロウと行きたいと言ったのだ。

それは、モロウ以上の戦士がいなかったからなのだが、娘にそう言われて喜ばない父親などいない。

無理をしない事を条件に、たくさんの術紙を持たせて、仕方なくティカは許可を出した。

ティカが心配しないようにと、帰る度に探索中の話を聞かせている。


「今は六階を探索させてる。

実力から考えたら七階も行けそうだが、もう少し様子を見たいところでな。」


嬉しそうに笑むモロウに、不服そうなティカ。

結局モロウもユニアと同じ根っからの冒険者で、ティカも変わらずの心配性なのだ。

本来なら、ティカも一緒に行ったのだろうが、今は行けない理由があった。

二人目の娘、ルナだ。

今年八歳になる娘は呆けたようにしている事が多く、手はかからないが目の離せない子だった。

預けて迷宮に同行したとしても、気になってしまって足を引く事が目に見えている。

それなら行かずに、ルナのそばにいようと決めたのだ。

今は長椅子に座るレンの膝の上で、長い銀の髪を撫でられながら、ぼうっとした青い瞳でレンを見ている。

レンが微笑みかけると安心したのか、目を閉じて眠り始めた。

レンの隣にはアリサが座っており、ルナの手に指を握らせて笑顔を見せていた。

ルナは、あまりにもモロウやティカとかけ離れていて、親二人を不安にさせる。

だが、これまでに何かがあったと言う事は無く、大人しいだけの良い子だった。


「アリサもルナも、レンが好きね。」


二人の姪の様子に、ユニアは笑う。

レンは苦笑いだった。


「そりゃ好きだよ。

叔父さん可愛いじゃん?」


笑って答えるのはアリサだ。

母譲りの茶の髪を耳の高さで揃え、茶の瞳は悪戯に微笑んでいる。

このアリサも、親二人の頭を悩ませていた。

本人はそこまでの意味を込めていないのだが、叔父が好きだと言ってはばからなかった。

さすがに冗談だろうとは考えているのだが、憧れてしまうにはレンの実力は充分過ぎる。

そして何処となくユニアに似てきたせいもあって、否定しきれないでいるのだ。


ユニアの笑顔、モロウやティカの困った顔、アリサのしたり顔、ルナの穏やかな寝顔。

レンは日常に帰って来て、ようやくひと心地ついたような気がしていた。

旅は好きで、今後もやめるつもりは無い。

けれど、こうして日常を過ごす事も必要なのだと感じていた。

今回のように、やむなく誰かと争う事になってしまった時には、旅人が焚き火で身体を暖めるように、大切な人達に暖めてもらおう。

そう思う事が出来た。


これからも旅は続ける。

その中でまた思い、悩み、そして沈んでしまう事があるだろう。

慣れてしまった方が辛くない、割り切ってしまった方が苦しくない。

しかしレンは、そうなりたくなかった。

ユニアがそれを望まない事もあるが、強い力を、強過ぎる力を持ってしまった自分がそうなったらどうなるか。

それを思うと、恐ろしくなるのだ。

悪人、魔物、そういった他者を傷付ける事に躊躇しない存在が相手だったとしても、それを容易く葬ってしまう事が恐ろしい。

魔物相手には既にそうなっている。

この上で人に対してまで躊躇わなくなったら?

想像するだけで身震いするようだった。

守るためには強い力が必要な事もある。

けれど、それを振るう事には躊躇いを持ち続けよう。

力は恐ろしいものなのだと、覚えていよう。

そうでなければ、自分が自分でなくなってしまう。

そんな自分は嫌だ。


その考え方が、以降もレンがレンとして在り続けるための根幹となった。

どれだけ強い力を手に入れても、それを恐れる事を忘れない。

恐怖を抱く事を忌避しない。

そのせいで、どれだけの年月が経っても弱々しく見えていた。

けれどそのおかげで、レンが悪に走る事は無かった。

誤った道を行く事は無かった。

そうなったなら自分が止めなければ、とユニア意気込んでいた。

しかしその時は、一向に訪れないのだった。


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