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魔術師、対抗策を編み出す

南方領地は、窮地にあった。

二千もの兵を集めてハルパーが決起したために、その全てを南方は失った。

神殿騎士団も兵を派遣していたが、その数は二百。

ハルパーに応じず残った兵はおよそ百。

平原の多い南方は移動し易く見通しも良いが、それだけ魔物も数多く生息していた。

一つ一つの集団が大規模で、襲撃ごとの被害が大きかった。

人々は村を捨て、町に固まる事を選んだ。

ハルに最も近い街エブレスと、そこから二方向に延びた街道の先にある二つの町に、避難した。


レンとユニアは、その手伝いをしていた。

転移による人々の移動、念動による住居の建設。

一ヶ月もすれば、充分な形になっていた。




「北でそんな事が・・・。」


その報せはニイからもたらされた。

預けた念話板からの思念を受信したのだ。

北からフロストジャイアントが南下しており、襲撃が激化していて、今は攻勢を何とか凌ぎ、砦を建設しているところだと言う。


「奴らが大人しかったわけではないが、急激に増えているそうだ。

物見による早期発見と警戒が無ければ、北は総崩れとなっていてもおかしくはなかった程らしい。」


北の領主とは知り合いだった。

気にはなるが、砦の建設に取りかかれているのなら、今のところは大丈夫なのだろう。


「情報ありがとうございます。

レニアはどうですか?」

「概ね平和だな。

あれ以来妙な事件も起きていない、

毎年行っている催し物の支度も始まっている。

一ヶ月後には開催されるだろう。」


それは防壁の上を走って競うと言うものだ。

レニアの街が出来てから毎年開催されており、毎回盛況なのだと言う。

ニイは出ないが、酒と料理を持って知人達と盛り上がるのだそうだ。


「絶対見に行きます!」


二人で笑って念話を終えた。


「何だって?」

「北が襲われているみたいです。

突然襲撃が増えたと言う事なので、少し怪しいですね。」


あの男の手によるものでないとは言い切れない。

砦を建設しているのなら、今は襲われない方が都合も良いだろう。

フロストジャイアント達に何があったのか。

それを調べるべきだと考えた。


「北へ行きましょう。」


ハルへ転移し、さらに空を飛び、二人は建設途中の砦を越えてさらに北へと向かった。

砦にはテヘラの魔力があったので、心配はいらないようだ。

他にも印導具を渡した二人の魔力もあり、兵達の人数も充分。

守りは万全と言えた。

顔を出すべきかとも思ったが、今は先を急ぐ事を優先した。

もし紫瞳の男が絡んでいるなら、一刻も早い解決が望ましい。




フロストジャイアントは、砦の様子を窺うようにして見ている。

彼らにしては恐ろしく警戒していた。


「テヘラが叩きのめしたんじゃない?」

「そうですね。」


巨人達を見下ろすのをやめ、北へと急ぐ。

しばらくは彼らの縄張りが続いたが、唐突に魔物の姿が消えた。

フロストジャイアントだけでなく、何者もいない。

魔力感知に、何の反応も無い。

そしてその先には、魔力そのものが無い。

いつかの魔喰いに似ていた。

レンは一旦、地上に降りる。


「何か、起きてるのね?」

「魔力が無いんです。

食われているのか、消去されているのか・・・。」


レンは手に、二本魔剣を作った。

片方は普通の物、もう片方は消去耐性を入れた物だ。

それをゆっくり差し出す。

普通の物は消えてしまった。

一方で、消去耐性のある物は消えていない。

魔喰いであれば両方が消えたはずなので、違うと判断出来る。

消去耐性で抵抗出来ているのだから、魔力を消去する力場が発生しているのだろう。


「魔物達は、これを嫌がるんでしょうかね。

もしかしたら、大気の魔力でも彼らには必要なものなのかもしれません。」


ともあれ、この先に紫瞳の男がいるか、関わりのある何かがありそうだった。

警戒しながら徒歩で進む。


「あら、レン。

剣が消えちゃったわ。」

「あ、ごめんなさい!

すぐ新しいの作りますね!」


ユニアの印導具には、まだ消去耐性を加えていなかった。

すぐに同じ物を二つ作り出す。


「ありがと!」

「どういたしまして。」


ユニアの印導具は、見た目は短杖だが、その先から刃を形成する。

しかしユニアが望んだのはここまでだ。

それ以上は成長を妨げるとして、何も望まなかった。

そしてその刃も、普通に買える物よりは斬れると言う程度の、大した事のない刃だ。

自らを鍛える事に余念の無い戦士。

今も変わらない姿勢がそこに表れていた。




魔力を消去する力場を進むと、辺りの大地が次第に荒れたものとなっている事に気付く。

草が枯れ、土は乾き、空気は淀む。

それは再生される前の、この世界に似ていた。


「魔力が無くなると、大地が荒れる・・・!」


そういう事なのか、レンは考えた。

しかも、この世界に以前来た時には、魔力は存在していた。

それはつまり、一度そうなったら魔力が蘇っても大地は蘇らないと言う事。

急がなくてはならない。


「飛びましょう!

このままでは、大地がまた枯れてしまう!」


高速念動で再び飛ぶ。

二人で見回し、この事態を引き起こしている何かを探した。

並行して、レンはこの中にあるものでも感知する方法を考える。

現在、魔力感知は何も感知しない。

消去耐性をつけているのに、だ。


(そもそも魔力感知はどうやって感知してるのかな?

消去耐性を付けても感知出来ないのは何故?

考えられるのは、魔力が一切繋がっていないから。

それなら、繋がれば感知出来る?)


魔剣を作り、力場の外に向かってその切っ先を伸ばす。

細く長く伸ばし外へ到達した瞬間、魔力感知が外の魔力を感知し始めた。

推測は当たっている。


(やっぱりそうだった!

それならこの力場の中を満たしてしまえば、感知出来る!

どうやって満たす?

いや、今は強引でも良い!

魔力、霧型、大型化、消去耐性、持続!

それに魔力付与!)

「魔霧!」


レンから霧が拡がっていく。

消える事無く広範囲を瞬く間に覆い尽くした。

ユニアの目には青白いばかりで、何も見えなくなる。

しかしレンのする事なので、特に気にはしなかった。

妙な気配も今のところ無い。

ならば、任せておけば良いと考えていた。


「あった!

ありましたよ!」


笑顔でレンはそちらへと飛ぶ。

二人が降り立った場所では、真っ黒な杭が大地に突き立てられていた。

それが、この広範囲の魔力を消し去っている元凶だった。


(魔力、消去、対象、消去耐性、継続消費!

そこに魔力付与!)

「魔力消去!」


施された術が杭の魔力を上回り、急速にその力をかき消していく。

やがてレンの魔力感知が、杭から力が消え去った事を報せた。

杭は、ただの杭になった。

それからレンは、念のために魔霧を散布して辺りを飛び回る。

まだ枯れ尽くしていないのだから、復活するかもしれない。

祈るような気持ちで魔法を使った。




そこで、二人は数日を過ごす。

レンは植物や大地の様子を見ながら、時折魔霧を散布する。

そうする内に草木が活力を取り戻し始めた。

萎びていた葉に緑が戻り、大地には活力を取り戻した草が背を伸ばしている。

フロストジャイアントを筆頭に魔物達も姿を見せ始め、元気良く襲いかかって来た。

もう大丈夫だ。

笑顔で追いかけっこなどしながら、レンは喜んでいた。


「何やってんだか。」

「嬉しいんですよ!

戻って来てくれたんですよ!」

「まあ、これで北の町や村も助かるだろうし、良いんだけどね。」




転移でレニの家に帰ると、今は昼寝の時間だったようだ。

揺り椅子で、愛らしい寝顔を見せている。

ユニアはそれを眺めて和み、一方でレンは長椅子で考え事をする。

魔霧で対抗するのは即効性に欠ける上、常時行える事でもない。

別の手法が必要だ。


(魔力が繋がっている事を条件に感知しているのなら、空間の要素を使ったらどうかな?)


範囲内の空間を対象とした感知であれば、最初から霧が拡がったような状態で感知出来るのではないか。

魔力消費が恐ろしい事になるだろうが、レンには関わりが無い。

そして、試すための魔術も考える。


(魔力、消去、箱型領域、地点、消去耐性、持続。

消去領域。)


中に何も入れないままの消去耐性を組み込んだだけの印術を宙に浮かべ、それを消去領域で囲む。


(魔力、空間、感覚、知覚、自己、消費耐性、継続消費。

魔力感知。)


そして、最新の魔力感知で印術を感知出来るかを確かめた。

結果はほぼ成功だった。

消去領域を感知してしまい、中の印術自体を感じる事が難しかったが、それは精度を上げれば解決出来る問題だった。

そしてその手段も既存の魔術が手がかりを示している。

高温や高速などの要素があるならば、高精度も通用するはずなのだ。

早速組み込んだ。

そしてさらに最新となった魔力感知を使う。

成功した。

はっきりと、印術の魔力を感じられる。

とうとう、あの紫瞳の男を捉えられる時が来た。


(そうだ!

魔導具で逆に察知される可能性も無くはないよね。

隠せるようにしておかないと。)


さらに要素、隠蔽を加えた。


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