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衛士二人、救援に向かう 二

「彼らは、ありとあらゆる事態への対応を想定された部隊でな。

千人程の小規模な部隊だが、月帝様直下の兵であるそうだ。」


オサヒロもよくは知らないらしい。

千の内の五百を率い、八石の大地への救援に出る。

それが彼に伝えられた任務内容だった。

月帝は、よく言えば斬新、悪く言えば突飛な事を行う帝であった。

執政であり妻となったヤエですらも時折諌めずにいられないような行動や政策を選ぶ。

この部隊についてもそうなのだろうと、衛士達は考えている。


「今回のような任にはうってつけですね。」

「確かにな!」


兵達は陣地の建設に取りかかっている。

さらにその北側には、障害や罠をも設置するつもりでいるようだ。

楽ではある。

しかし衛士達は、何とも言い難い虚しさを味わっていた。


「やる事が無い・・・。」

「兵が優秀過ぎるとこうなるわけか。

得難い経験だな。

ま、喜ばしい事だし、ありがたいさ。」


衛士七人は、二人を陣地設営の管理に残し、村へと足を運んだ。

そこでは第一衛士隊から残った十人の兵達が、村人と話し合いを持っていた。


「衛士の皆様、これはちょうど良いところに。

実は村から、税の事で相談を受けまして。」


度重なる襲撃と兵の維持により、村の食料は少なくなっていた。

この状況にあって税を取られては、村に食料が無くなってしまうと言う話であった。


「ふむ、それはまずいな。」


衛士五人は、まず村の食料事情を探った。

各民家には、今は充分と言えるだけの蓄えがある。

ただし、三ヶ月には足りない。

しかし倉庫内の備蓄は、極めて少量だった。

第一衛士隊は、ここから食料を得ていたのだろう。


「次の収穫までは、後どの程度の日数がかかる?」

「およそ一ヶ月です。

しかしそれを合わせても、村と皆様が次の収穫までに食べる分を満たせないでしょう。」


オサヒロ達も食料は自前で持って来ている。

しかしそれも、持って三ヶ月だ。

それまでにフロストジャイアントの襲撃が止めば良いが、恐らくそう都合良くはいかない。

止めるには、攻めに転じなければならないだろう。

しかしそれは、死出の旅路に近いものだ。

そして月帝は、自分達増援の部隊がそれを行う事を望まない。

統治は、あくまでもその場の者によって為されなければならない。

その意識が無ければ、氷国のように倒れるのみ。

オサヒロも、それはよく理解していた。

だから今のこの村の状況も、最悪の事態の言えた。

月帝なら、西か東かどちらかのムツ村を撤退させる。

位置を考えれば、西を撤退するだろう。

そして戦力を東ムツ村の北付近に集めて布陣、凌ぎつつ村の農地を拡げる。

それを想定するならば、ここは第一衛士隊に伝令を出し、西ムツ村を捨てさせなければ。

それを文にしようと考えたところで、カネヒサがオサヒロに声をかけた。


「オサヒロ殿、討ってでましょう。」

「カネヒサ殿!

何を血迷った事を!」

「東ムツ村に陣取っていても、ここは場所が悪い。

最低でも西ムツ村と同じ高さにまで北上するべきです。」


カネヒサはオサヒロとは逆に、東ムツ村と言う退いた場所に陣を構えるのではなく、よりフロストジャイアント達に近い場所まで攻め入る策を提案した。

それは西ムツ村と陣を同じくすると言う考えに基づいており、北の地に大きな拠点を建設する事を見据えた作戦であった。


「かつての氷国でもそうでしたが、私達の国は雪国です。

いつまでもここにいられるわけではありません。

ならば、そのためのお膳立てをすれば良い。

北に拠点を置く事が出来れば、この一帯を農地にする事も可能です。

食料の問題も消えて無くなりましょう。」


自分達が大きく手を貸す事になる。

しかし、これならばこの地の者達だけでも守れるようになるだろう。

資材は北方領地の各所から回してもらい、建設はここにいる兵達が出来る。

一時凌ぎのものを作り、後でしっかりした砦を作っても良いだろう。


「ヨリタカ様への文は、税の事も含め私が書きましょう。

必ず説得します。

第一衛士隊へはオサヒロ殿から。

衛士長として出していただければ、一考せざるを得ないでしょう。」

「あいわかった!

カネヒサ殿の策、乗らせてもらうぞ!」


二人は固く握手を交わし、それぞれに文を伝令に持たせた。

伝令は馬を走らせ、北と南へ向かう。

陣地の設営は直ぐ様取り止め、資材をかき集めた部隊は北へと進軍を開始した。

勝手に動く事となるが、速度こそ肝要と考えたオサヒロの判断だった。

フロストジャイアント達の襲撃があったばかりのこの機、逃す手は無かった。

部隊は、北上出来る限りに北を目指す。


「俺の策は上手く行くと思うか、イエノブ。」

「オサヒロ殿と同じくだが、時間が重要だと思うぜ。

陣地も無しにフロストジャイアントと戦うのは、俺とお前以外には辛いだろう。

陣地は、襲撃に先駆けて作らねばならん。

しかし出来れば、西ムツ村よりは北に作りたいな。

いきなりそこを目指さなくとも良いかもしれんが、どうせ最後にはそこを目指すのだ。

一回で済めば、それに越した事はあるまい。」


イエノブの答えに、カネヒサも同意するように頷く。


「そうだな。

ならば、提案がある。」

「ほう、どんな?」

「俺とお前で、フロストジャイアントを足止めするんだ。」

「ああ、なるほどな。

生きて帰れるかわからん策だが、拠点を作り上げられる可能性は高く出来るな。」

「俺達には、レン様からいただいた力もある。

それにフロストジャイアント達は獰猛だ。

二人と言えど、立ち塞がった者を放って先には進まないだろう。」


賭けに近い作戦だ。

しかし確実を期するならば、これ以上は無いように思える。


「それなら早く行こうぜ。

北であればある程良い。」


二人はオサヒロに近付く。

そして笑みすら浮かべ、別れを告げた。


「オサヒロ殿、私達は北へ向かいます。

そこでフロストジャイアントの足を止めますので、こちらはお任せ致します。」

「何を言っているのだ?

・・・まさか、二人で行くつもりか!

馬鹿な、死ぬぞ!」

「死なん程度に暴れて来るさ。

俺は死ぬ覚悟も、死なせる覚悟も出来てないからな。」


そして二人は、馬を走らせた。

時折イエノブが治療や活力、運動強化を使い、加速させる。

二人は食料以外の荷を兵に預けたまま出発した。

少しでも身軽であるための手段だったが、その手にも腰にも、背にも武器を帯びていない。

オサヒロ達には、二人が何を考えているのか全くわからなかった。




「済みません。

恩人であるあなたにこのような事を頼むのは心苦しいのですが。」

「気にするな、ヨリタカ。

お前が立派に育った姿を見られて、私は嬉しいのだ。

そのお前の役に立てると言うのだから、断る理由など何処にも無い。

ちょうど最近、西ムツ村には寄ったところだったからな。

資材の輸送依頼、確かに受けたぞ。」

「ありがとうございます、テーさん!」




西ムツ村に、大量の資材が転移によって運び込まれた。

文を受け取ったばかりのナガヤスは驚愕したが、白い髪の女性魔術師に感謝の言葉をかけ、兵達にまとめさせた。

すぐに荷馬車を用意し、資材を次々積み上げていく。

それはナカツに備蓄されていた、全てだ。

幾度もの転移によった運ばれた資材を全て積み、第一衛士隊は予定地点目指して荷馬車を進める。

魔術師はそれを手伝う事を申し出、同行した。

妖艶な容姿に凛々しい眼差しは彼らを惹き付けたが、手を出そうとする者はいない。

何故なら彼らの中に、その姿を覚えている者があったからだ。

無尽の魔術師の仲間である二刃が一刃、雷刃。

彼女はテヘラと言う名の魔法戦士だった。




カネヒサとイエノブは、かなりの距離を北上した。

距離にして、西ムツ村から馬の足で二日。

そこまで来て、ようやくフロストジャイアントの群れと遭遇した。


「かなりの距離が稼げたな。」

「正直、こんなに要らなかったと思うけどな。」

「離れていれば、離れている程良いさ。」


二人は馬を逃がす。

二頭は来た道を逃げるように戻って行った。

フロストジャイアント達の脅威を感じ取ったのだろう。

今や彼らはこちらをその目に捉え、木を引っこ抜いたような棍棒を持って二人へと走り始めていた。

数はおよそ五十。

五十もの巨人が、地を揺らしながら駆け込んで来るのだ。

その恐ろしさは、これまでに感じた事の無いものであった。


「やるか。」

「ああ。

ここで足止めを・・・。

いや、俺達で片付けてしまおう。」

「おう、それは良いな!

一丁、やってやるか!」


足を止めるのではなく、片付けてしまえば良い。

全滅させて、凱旋すれば良いのだ。

そう、考えを改めた。

初めての敵ではない。

かつてより遥かに、自分達は強くなった。

そして、無尽の魔術師より力を受け取った。


「疾く来れ、蒼蓮!」


前に差し出した手の内に、蒼い輝きが現れた。

剣の、刀の柄に似たそれを握ると、その先より蒼の光が迸り、鍔と、緩い反りを持つ刃が生み出される。

カネヒサは刀を掲げた。


「紅蓮の炎、出でよ!」


深紅の炎が溢れ、三掴み程の棒の姿を取った。

握った瞬間光が走り、一方には十字の穂先と長い柄、もう一方には石突きが生じる。

イエノブは、槍をかざした。


それを無尽の魔術師は印導具と呼んだ。

思念による言葉に応じて、何処からでも転移により召喚される二つの武器。

名は、二人が付けた。

武器の色と、感謝を込めて魔術師の名を合わせた。

彼は気恥ずかしそうにはにかんだが、その愛らしい姿からは想像出来ない程の魔法を見せられた。

魔法により作られたこの贈り物が、自分達の命を救うだろう。

そんな確信が、二人にはあった。


五十の巨人と対峙する。


「行くぞ、イエノブ。」

「了解だ、カネヒサ。」


蒼と紅の光が、地響き上げる群れへと飛び込んで行った。


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