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間話 細工師ニイ

ニイ・・・、ニベルは復興作業を手伝いながら、今の自身の状況を感慨深く思っていた。

この世界が再生して十年、自分が人に混ざって生活出来るなどかつては考えもしなかった。

ニベルと言う名は、イルハルとエルハルが二柱の神となってからは悪魔の一人を表す名となった。

他の四柱と同様に、悪魔へと堕とされてしまった。

以来人の持つ貪欲な側面が強くなり、実に悪魔らしい日々を送って来た。

それが今、一人の人間としてここにいる。

遥か昔の、人であった頃のように、普通の人間として生活している。

穏やかな日々であるはずなのに、毎日胸が踊るようなのだ。

街の建設から関わっていたが、それは八年経ったいまでも変わらない。

ニベルは、このレニアの街を愛していた。


レンやユニアとニベルが会ったのは偶然と言える縁だった。

通り魔の被害が出始めた頃に、まずテヘラがやって来た。

ニベルの強い魔力を感じ取って、確かめるために訪ねて来たのだ。

一目でテヘラベルだとわかった。

人であった頃と同じ姿で現れたのだから当然だ。

自分がニベルだと話すと、テヘラはすぐに納得してくれた。

レンから聞いていたのだ。

魔力感知を持っているテヘラベルが訪ねて来たのは僥倖だと考え通り魔への対処を頼むと、レン達に依頼する事を勧められた。

話は自分が通すと言ってテヘラは去ったが、その後は早かった。

翌日には二人がやって来たのだ。

そして二人は、見事に解決した。


二人が今、自分と同じように救助や復興に当たっている事は、ニベルも知っていた。

街の住人の一人として、本当にありがたいと思っている。

特にレンは、この世界に人々を連れて来てくれた。

そして自分に、人の姿を与えてくれた。

おかげで退屈な日々から脱却出来た。


ニベルはこちらの世界へ来てから、気が遠くなる程の時間を過ごしている。

こちらへ囚われたのは、一人の男からの召喚が原因だった。

男は、強大な悪魔との契約を望んでおり、その召喚によってニベルが呼び出された。

男が望んだのは、ニベルの世界へ行く事。

奇妙な願いだと聞いた瞬間には思ったが、この世界は荒廃していたから道理かと考えた。

ニベルは悪魔だ。

だから、願いをそのまま叶えたりはしない。

契約に基づき、願いは聞き入れた。

いつかは、成就するだろう。

そう告げた。

それを不服に思ったのだろう。

魔導具の力により、男はニベルをこちらの世界に束縛した。

そうして男はいずこかへ去り、ニベルはそれより退屈な日々を送る事になった。

どれだけの時が流れたかはわからない。

時折契約のために呼び出され、願いを叶えてやり、その魂を迎えた。

それでも退屈は紛れなかった。

魔物しかいない世界で、何もかもが停滞しており、何もする事が無かった。

そんな時に、あちらへの穴が開いた。

喜び向かったが、自分は通れなかった。

あの男の魔導具の力が、邪魔をしたのだ。

それを嘲笑うように男が姿を現し、穴をくぐって行った。

男は、未だ死に至っていなかった。

ニベルを召喚した当時と変わらぬ姿のままで現れ、彼は願いを成就させた。

その姿を、その目をニベルは忘れない。

足に届く程に伸びた黒髪と、哀れな者を嘲笑って見下すような紫の眼を。


その後レンと出会い、平和な日常を得るに至った。

レンは荒れ果てた世界を再生し、人の姿を与えてくれた。

そして穏やかな、しかし心踊る日々。

ニベルはレンに、大きな恩義を感じていた。




その日の夕方、復興作業から帰ったニイはいつも通りに自宅一階の工房で作業していた。

オルゴールを報酬としてユニアへ渡したので、新たに一つ作っているところだった。

今回はどの曲にしようかと考えている。

音色のために明るい調子の曲はなかなか合わないのだが、あえてそうしてみるのも面白い。

しかし定番は穏やかな曲だろう。

切ないものも良いのだが、ニイの好みではなかったので選択肢に入らない。

などと考えていると、入口から鐘の音が聞こえた。

それは来客を表すもので、戸につけた鐘が鳴った音だ。


「いらっしゃい。

あんたか、久しいな。」

「そうは言っても、二ヶ月程でしょう。」


訪れたのは栗色の髪に水色の瞳を持つ男、フリントだった。

外に馬車と騎士を待たせ、戸を閉める。

フリントはニイに勧められて、椅子へと腰を下ろした。


「茶を淹れよう。

少し待ってくれ。」


作業を一旦中止し、ニイは奥へと消えた。


二人は、レニア建設の頃よりの友人だった。

これだけの大きな都市を作り上げるには、労力も必要だったが、戦力を求められた。

度重なる魔物の襲撃にさらされ、騎士と兵は少しずつその数を減らした。

フリントも力の限り応戦したが、やはり師匠であるレン程には戦い続けられなかった。

そんな時に作業に当たっていた民の一人が参戦してきた。

彼は上級魔術、爆炎をもって次々魔物を駆逐し、その窮地を救った。

以降は増援もあって持ち堪えたが、それ以来フリントとニイは友人となった。

フリントにとってニイは良い相談役でもあり、時折こうして話を聞きに来る。

ニイにとってフリントは良い得意先でもあり、領主の屋敷にある家財道具はほぼ全てニイの手による物である。

そして通り魔の事件の話は、フリントから聞かされたものだった。


「まさか師匠を読んでもらえるとは思ってませんでしたよ。

おかげで事件も解決しました。

師匠とは知り合いだったのですか?」

「お前の師匠は無尽の魔術師だったな?」


フリントは、巷では無尽の弟子と呼ばれており、その話はニイの耳にも届いていた。

そして無尽は、八石の大地を再生した人物。

しかしニイにとって、それはレンだ。

そう考えれば、無尽とはレンの事であると思い至る事が出来る。


「そうか、お前はレンの弟子だったか。

レンは、知り合いと言えば知り合いだな。

俺も世話になった者だ。

共通の友人がいてな、そいつがレンに声をかけたのだ。」

「そうでしたか!

師匠がニイ殿と・・・。

不思議な縁ですな。

ともあれ、助かりました。

今日は甘味です。

ご賞味下さい。」


提げ持っていた包みを手渡す。

ニイは、食や酒に目がない男だった。

神となり、悪魔となって、物を食べる必要は無くなっていたのだが、永遠とも思われる空虚な日々の中でそれを忘れ去ってしまっていた。

しかし唐突に訪れた人間としての生活に触れて、食べ、飲む事の喜びに目覚めた。

何もかもが新鮮で、何もかもが美味だった。

今現在、その欲望を最も満たしてくれるのはフリントだ。

いつも何かの礼として、美味しい物を持って来るのだ。

それは料理であったり菓子であったり、酒であったりする。

その度にニイは内心で大喜びし、夜一人でじっくりと楽しむのだ。


「毎度ありがたい。

今後もよろしく頼む。」

「もちろんですとも。」


二人の関係は、実に良好だった。


今日の用事は、礼の品を渡す事だった。

目的を果たしたフリントは雑談しつつ工房の商品を眺め、小物を一つ購入して帰った。




ニイの工房は南東区画の北東側、大通りから支路に入ってしばらく進んだところにある。

そこは民家が多く連なっている場所で、工房はニイの一軒しか無い。

二階建ての建物で一階を工房とし、二階に住んでいる。

一階は店としても使っており、完成した小物を陳列している。

そこを日に数人の客が訪れ、見て回っていく。

ニイの小物は珍しい意匠が目を引くのか、それなりに売れていた。

オルゴールのような変わり種もあり、そう言った物への客の食い付きようは見ていて面白い。

この仕掛け細工は高めの値段になっているためなかなか売れないが、時折訪れた貴族などが飛び付くようにして買っていく。

そして、お得意様となってくれた。

おかげで生活雑貨のような物を安く並べる事が出来、平民でも手が届くようになった。

しかしニイは、忙しく作業する事はしなかった。

一つ一つ丁寧に仕上げる事を第一として考えていると言う理由もあるのだが、単純に自分のやり方を変える気が無いだけでもあった。

穏やかに日々を送る。

それこそが、ニイにとって最も大切な事なのだ。




そんなニイの日常に、少し変化があった。

レンとユニアが顔を見せるようになったのだ。

二人はニイの作品を気に入り、じっくり熱心に眺める。


「冒険者が買うような物でもないと思うがな。

家でも持っているのか?」

「はい。

家族と住んでますので。」

「なるほど、そういう事か。」


家があるならば、小物にしろ家具類にしろ置く事が出来る。

しかしニイは、物好きと言う印象を抱いた。

住処がありながら冒険者の道をわざわざ選ぶなど、考えられない事だ。

もっと穏やかな生活を送れば良いものをと、思わずにいられない。

二人は、旅が好きなのだろう。

様々な土地を訪ね歩き、様々なものを見る。

時には魔物や悪党と戦い、時には美味いものに舌鼓を打つ。

そんな生活を愛しているのだろう。

家族が不憫に思えてしまう。

ただ、この二人ならばいつでも帰れる。

心配に思うと言う事は無いのかもしれない。

そんな風に、ニイは二人の客を眺めていた。




食事のために出かける支度を済ませ、工房を閉めて、自宅を見上げる。

かつて四国の大地にいた時は、大きな空間を持つ遺跡に住み着いていた。

紫瞳の男に呼ばれてからも、その遺跡を再現して住処とした。

そして今は、この建物がニイの住居。

以前のように大きなものではないが、とても気に入っている。

年を取れない関係でいつかは出て行かざるを得ないのだが、それまではここでゆっくりしようと考えている。

ニイは少し微笑んで、行き付けの酒場へと向かった。


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