表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
73/114

魔術師、新世界へ 四

倉庫に戻ると、ニイは作業を再開していた。

木の板で出来た丸みのある筒状ものに、精緻な細工を施している。

何本もの形の違う刃物を使って、少しずつ丁寧に彫り進める。

そうして何日かかけて、一つを仕上げるのだろう。


「これか?

中にな、灯りを入れるんだ。

そうすると綺麗に見えるはずだ。

貴族からの依頼でな。

灯りの光量を抑えるのに役立つ、洒落た物を作れないかと相談があったのだ。

手間はかかるが良い金になる。

・・・それで、その剣は何だかわかったのか?」

「あ、はい。

触れた者を人斬りにするそうです。」

「それはまた物騒だ。

勘が働いて良かったな。

通り魔、連れて行くんだろ?

帰って来たら、報酬の話をしようか。」

「あら、出るの?

嬉しいわ。」

「当たり前だろう・・・。」


通り魔を引き渡す前に、レンには確認したい事があった。

魔弾を大量に浮かべ、麻痺を解く。

通り魔はレンと魔弾を凝視し、身を引いて怯える。


「あなたは、この剣を何処で手に入れたのですか?

答えていただきますよ。」

「商人からだ!

行商の男が、剣を安く売ってくれたんだよ!

なあ、俺は正気を失ってただけだ!

もう我に返ったから許してくれ!」

「何処で会ったのですか?」

「南東だよ!

この街の南東で会った!

なあ頼む、見逃してくれよ!」

「また麻痺しといて下さい。

それを決めるのは、私じゃありませんよ。」


身体の自由を再び奪い、浮かべて連行する。

魔弾は消した。


「犯人は剣ってところか。」

「そして黒幕がいるわけね。」

「それを突き止めるのは、衛兵さんや領主さんのお仕事ですね。」




また雨に濡れながら、二人は領主の屋敷へと向かう。

理由としては、剣の話をしなければならないからだ。

衛兵では荷の重い話である。

それに、ここの領主は元冒険者だと言う話だ。

聞き入れてもらえる可能性が、少しはあるだろう。


屋敷の前には、やはり兵がいる。

二人の兵は槍を構えた。


「止まれ!

何用か、答えよ!」


兵は露骨に、三人を怪しんだ。

雨の中三人はフードを目深にかぶっており、その内の一人は俯き加減になっているため、表情が全く見えない。

これでは怪しまれても仕方ない。

レンもユニアも笑うしかなかった。


「通り魔に関する話で、領主様に伝えたい事があります。

取り次いでいただけませんか?」


顔を見せて、いつもの穏やかな笑みでお願いした。

レンに合わせて、ユニアも顔を見せて笑顔を作る。

兵の緊張が少し解れるが、警戒は解けない。

兵達の目は、後ろに注がれていた。


「そいつは何だ!

顔を見せろ!」

「彼が通り魔です。

今は魔法で束縛しているので危険はありません。」

「何と!

しばし待て!」


兵の一人が屋敷内へと姿を消し、少しして帰って来た。

手には乾いた布を数枚持っている。


「領主様が面会を許可された。

入って、布で身体を拭うと良い。」

「ありがとうございます。」


入ってすぐの広間で、二人はクロークを預けて軽く水気を拭う。

ユニアはレンの作ったクロークを使っている。

光量を抑え、色も深い緑にしている。

それが魔力の塊であるなど、誰にもわからないだろう。

兵達は宙に浮く通り魔を凝視していた。

覗き込めば諦念に至った表情が見て取れる。

レンは通り魔の外套も脱がして預け、水気を拭った。


「そのままここで待て。」


兵に言われ、待つ事しばし。

騎士二人に守られて、栗色の髪の男性と赤毛の女性が姿を見せた。

レンとユニアは何となく見覚えがあると感じたが、その答えはすぐに得られた。


「師匠!

それにユニアさん!

お久しぶりです!

通り魔を捕まえて下さったのは、お二人でしたか!

また世話になってしまいましたな!」

「フリントさん!」

「久しぶり!

今、ここで領主やってたの?

出世したわね!」


突然の再開だった。




フリントは法国の侯爵に仕えていた頃に、二人と出会った。

侯爵の命により挑んだ迷宮で、私兵五十は数名を残し潰滅した。

その際に、命を救われたのだった。

その後、レンの好意により杖と簡易な魔法書を授かり、以来フリントはレンを師匠と呼ぶ。

それからも幾つかの手解きと助言を授かっており、レン自らが弟子と認める唯一の人間となった。

ただし、実際にはあまり高度な事を教えられていない。

調整出来る事や強化出来る事、それに同時に複数使える事。

レンが教えたのは、ここまでだった。

後にティカやテヘラ、そしてネザーレ、ナナなどには合成が出来る事を教えているため、一番教えを与えていない事になってしまった。

ちなみにレンは、この四人を弟子とは考えていない。

ほんの少し後押ししただけのつもりなのだ。

彼らの中で合成まで出来るようになったのは、ティカとナナの二人だけだった。

テヘラとネザーレは、魔術を修め過ぎていた。

それまでに蓄積し、凝り固めてしまったものを崩せなかった。

しかしティカとナナの二人も、その先には到達していない。

結局レンに並ぶ者は、現れなかった。


迷宮での出会いの後、フリントは法国で起きた内乱の鎮圧に協力した。

それはフリントを雇っていた侯爵によるもので、無尽の弟子として鎮圧の一助となった。

その中で幼馴染みのメリアと再会を果たし、彼女は伴侶としてフリントのそばに今も寄り添っている。


侯爵の代わりに領地を治める事となった元執政、グリエラルドの招聘に応じてからは、彼からの教えを受けて、日夜領地を守るために働いた。

その功績と能力によって、この土地を治める領主を務める事をグリエラルドから勧められた。

グリエラルドに相談を持ちかけたのは八石の大地を統治する事となった二人の大司教だ。

その内の一人、イルハルのルタシスとは、フリントは面識があった。

フリントに魔力量を成長させる修練法を教えたのが、ルタシスだった。

そんな繋がりもあって、ハルの街とレニアの街の関係は良好だ。




相手がフリントだったので、話は簡単に済んだ。

剣の仕業とあって通り魔の男は軽い刑罰で済む事になり、身元も知られぬよう配慮される。

刑に服した後は定められた法に従い、復帰への手助けを受けられる。

男は感謝して、大人しく兵に連行されて行った。


「しかし、恐ろしい魔導具もあったものですね。

人を操ってしまうとは・・・。

それの処遇はお任せします。

お二人なら、それももう決めているのでしょう?」

「確かに預かって下さる方と話はついてますが。」

「さすが師匠!」


フリントの、レンやユニアを敬愛する心は今も同じだった。

グリエラルドに政治や統治に関わる事柄を叩き込まれたとフリントは話したが、根本にある人の良さも変わり無いようだ。

レンは安堵する。


「しかし老けたわね、フリント。」

「十年ですからね。

お二人はお変わりありませんね。

いつまでもお若い。」

「羨ましいよね。

秘訣とかあるの?

あたしにも教えてよ。」

「メリア。

失礼だろ、自重しろ。」

「秘訣と言っても、何もしてませんし・・・。」


二人共が年を取らないのだから苦しい答えだが、本当の事を言うわけにもいかない。

それで我慢してもらう外無い。


「今日は泊まって行って下さい。

礼もさせていただきたいですし、まだまだ話し足りません。

それに師匠には、相談させていただきたい事もあります。」

「相談ですか?」

「はい。

後程、伺わせて下さい。」


ここで言えないと言う事は、人に話せない事柄だ。

何か抱え込んだのだろうか。

レンは少しだけ、フリントを案じた。




泊まる事にはしたのだが、レンとユニアにはやる事があった。

サールに剣を預け、ニイから報酬を受け取るのだ。

まずはサールの下へ転移した。


「戻ったね。

こっちだ、付いといで。」


サールの店には地下二階があった。

地下一階の奥から更に螺旋階段を下ると、重厚な扉へと行き着く。

その扉を開錠したサールに続いて中へ入ると、そこにはたくさんの、禍々しい気配を持った魔導具達が集められていた。


「どれもこれも、その剣の同類さ。

所有者を害する、禁忌の魔導具だよ。」


サールは場所を指示し、レンは言われた通りに置く。

これで一安心だ。

三人は部屋を出て、サールの手によって再び施錠される。


「言わなくてもわかってると思うけどね、他言無用だよ。」

「はい!」

「もちろんよ。」




それから今度はニイの工房へ行く。

報酬をもらえる、と言う話だった。


「俺の細工物で良ければ、話が早いんだが。」


実は興味津々だった二人は、工房の中を隈無く見て回った。

家具類も少数取り扱っており、見慣れない装飾や機能の付いた独特な物を多く見る事が出来る。


「古代文明時代やそれ以前の意匠なんだがな。

今でも売れそうな物を再現してみている。

気に入った物があれば、一つずつ持って行くと良い。」

「本当ですか!

目移りしますね・・・!」

「どれもこれも見た事が無いわね。」


今日のような雨の日でなければ、ニイの工房は客が多く訪れる。

注文を受けて作る事もあったし、相談を繰り返して望みに近い物を作る事もあった。

人々の中に溶け込んで、ニイはすっかりレニアの住人となっているのだった。


結局レンは木製の灯篭を選んだ。

内に紙が張ってあり、中に魔術で光を入れると幻想的な加減で辺りを照らす。

それが痛く気に入って、迷いはしたもののそれを報酬としてもらう事にした。

一方でユニアはあっさりと一つに決めた。

ぜんまい仕掛けにより音楽を鳴らす小箱だ。


「オルゴールと言う。

魔導具ではないぞ。

レンならわかると思うが、魔力は一切使われていない。

細かい部品の組み合わせで動く仕掛けだ。

発明されたのは古代文明時代以前。

曲もその時代のものだ。

使い方を教えておこう。」


ユニアはそれを早速妖精の部屋の居室に配置した。

レンの灯篭は寝室だ。

この部屋での楽しみが、これで二つも増えた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ