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魔術師、魔石を集める

「そうか、本当に陸地は存在せなんだか・・・。

お前には世話をかけたな。

他の国の王にも伝えてやってくれ。

そしてゆっくり眠って、休んでくれ。」

「勿体なきお言葉。」

「かしこまるな。

お主の方が、今や尊い人間だわ。」

王は笑い、魔術師は謙遜する。

その場にいる誰もが、その和やかさに笑みをこぼした。

しかし魔術師の運んだ情報は、国にとって、人にとって、大陸にとって、無慈悲な閉塞感を伴うものだった。

過去、船舶によって多少の探索は行われていたが、とうとう確定してしまった。

世界には、他に陸地が無い。

それは最も恐れていた報せだ。

あって欲しくはなかった事実。

間違いであってくれと願った真実。

人の住める場所は、この小さな大陸たった一つだけ。

王も、宮廷魔術師も、大司教も、それきり言葉を発せなかった。

魔術師は一礼して姿を消す。

謁見の間には、三人だけが残された。




その事実は、各国の王とその側近にのみ伝えられた。

高名な魔術師が二年かけて調べ尽くした結果。

これまで誰もが知りたいと望んでも知り得なかった世界の秘密。

その魔術師は、果てに行き着くまで飛び続けると言う前代未聞の方法で、それを突き止めた。

何度も何度も何度も飛び、そして何度も何度も何度も大陸の逆から帰った。

大地は球を為し、しかして陸地は一つのみ。

あとの全ては青き水。

誰がそんな事実を求めただろうか。

王達は悲嘆に暮れる。

我々は、この大陸から出られないのだと。


氷の王は狂気に陥った。

貴族と騎士と民を連れて、最奥の遺跡へと向かう。

その向こうに別の世界がある。

そこを目指したのだ。

襲い来る数多の魔物に民は逃げた。

騎士は戦い貴族は怯え、王は笑う。

やがて遺跡に辿り着くも、その中には溢れんばかりの魔物。

結局助かったのは、逃げた民だけだった。

民だけでも、助かって良かったと言うべきか。

以降氷の国は消えて無くなり、その土地は雪の国が管理している。

他の国は、遺跡を目指そうとは思わなかった。

その世界を訪れた魔術師からの報告を信用していたからだ。

ひび割れた雑草すら育たぬ大地、晴れる事の無い空、そこに住むのは魔物達。

そのような土地に、誰が足を運ぶと言うのか。


山の王は覇道に目覚めた。

雪の国にあちらへずれろと、威をもって迫った。

しかし山脈を越えられる軍などおらず、街道洞窟へ逆に押し込められた。

村の人々ですら北に逃げ延びる事を選び、そして覇道は三国による全面包囲によって潰えた。

その土地は誰もが欲しがらず、山脈までを雪、他全てを法とする事で落着した。


世界は四国となり、そして四国は結託した。

これ以上の争いは無用。

平和に、しかし人口を調整、管理し、増え過ぎぬよう生きて行く。

減ったら、増やす。

減るまでは増やせない。

それしか、選べなかった。




世界に広がる閉塞感を他所に、レン達は今日も集まり、庭で遊ぶ子供達を楽しげに見つめた。

三人の子供達はそれぞれに何事か喋りながら、追いかけ合ったり転げてみたり、レンの作り出す玩具で遊んだりしている。

親達と義姉、祖母は、穏やかに優しく微笑む。

しかしその声音は静かに交わされた。

「本当に行くのか、レン。

この間帰って来たばかりじゃないか。

一年や二年休んだって・・・。」

「その一年や二年を耐えなきゃ行けない人もいるんです。

だったら私は、何とかしたい。」

「その心は確かにイルハルにもエルハルにも通ずるものだ。

だが、お前一人で為さねばならんものでもないだろう。」

「私しか、多分出来ないですから。」

決意を定めた、けれど何処か諦めたような瞳で笑い、レンは子供達を見る。

その背後から、ユニアが抱き締めた。

言葉は無い。

レンの脳裏にあるのは、あの日魔石が見せた光景。

そして求めるのは、魔石達が為そうとしていた事。

(それを目指すのね。)

(はい。

魔石を集めて、彼らの願いを。

大地の復活を為し遂げるんです。

私達の、子供達の未来のために。)

レンはもう、心に決めてしまった。

胸に二つを抱えた自分が、それを果たす。

その上で頼まなければならない。

人の移住を。




協力者はいた。

各地をさすらう旧神テヘラ。

その力は魔力感知。

レンとテヘラで大陸中を探して回るのだ。

魔石は極めて高い魔力を持つ。

感知は容易い。

後は強引でもなんでも手に入れる。

レンは盗み出すつもりでいたが。

そうして八つを揃えれば、きっと魔石達は力を合わせてあの世界を再生する。

その時に頼み込むのはテヘラの役目だ。

その時レンは、恐らく生きていない。

赤の魔石は、青と同じに心臓へ食らい付いた。

ならば、他の魔石も同様にするだろう。

今はまだ動いているし、今後も何とか動かしていくつもりだ。

しかし夢で見たように、魔石達が心臓から離れて世界を回るなら、その時には深刻な損傷を受ける事になる。

鼓動は、止まる。

心臓を失って、魔力を生み出す魔石も失って、それで生き残れる方法など少なくともレンは知らない。

これは誰にも話していない。

テヘラにも、直前まで話さない。

覚悟は決めた。

「惹かれ合って一緒になった二人が、他人の死を願わずにいられない世界なんて、私は認めない!」




最初の一つは既に決めていた。

知っている人物が大切に持っていたのだ。

花の咲き乱れる美しい都。

そして慎ましやかな王の城。

つい先日、報告に来たばかりの謁見の間。

そこに、宮廷魔術師と法王が待っていた。


「今日は、何用かね?

お主ならいつでも歓迎だがな。」

法王が柔らかく、しかし何処か冷ややかに、レンを見つめた。

宮廷魔術師の方は、優しく笑みを見せている。

「申し訳ありません、猊下。」

魔術師の声は常とは違う、凛然たる響きで二人を圧倒した。

あまりの事に目を見開く程に。

魔術師の表情からは穏やかさが失せ、冴々しい迷いのない眼からは、少しの心情も読めない。

「先日の報酬をいただきたく。」

「ほう、珍しいな。

何か欲するものがあるのだな?」

「は。

私に、魔石を賜りたく存じます。」

宮廷魔術師は言葉を失い、しかし法王は笑みを浮かべた。

「お主には隠しても無駄なのだろうが、一つ聞かせてくれ。

お主は既に一つ持っておろう。

何ゆえさらに求める?」

魔術師は瞑目する。

しばしの時間考え、そして選んだ言葉を口にした。

「・・・私個人の、納得のため。」

「あなた、何を・・・!」

激昂する宮廷魔術師を法王が手をかざして止めた。

そして促すように、手で指示を出す。

宮廷魔術師は納得のいかない様子で従い、程なく小さな小箱を持って、再び姿を現した。

「持って行け。

大事にしろよ。」

宮廷魔術師は魔術師の前に歩み出て、その箱を開く。

そこには、漆黒の魔石が鎮座している。

魔術師は大切そうに受け取り、ふとその瞬間だけ、眉根を寄せて、申し訳無さそうな表情を見せた。

一歩下がって顔を上げた時には、表情は消えていた。

「確かに受け取りました。

感謝致します。」

そして魔術師は、再び姿を消した。

「あの子は、何かを抱えてしまったのでは?」

「そうかもしれん。

しかし俺達にはどうもしてやれん。

何か頼まれたら、惜しまず協力してやれ。」

「はい・・・。」

無理をして、今にも泣きそうな子が、あの無尽・・・。

宮廷魔術師は、魔術師が消えた跡をしばらく見つめていた。




「首尾は?」

「はい、大丈夫です。

渡してくれました。」

「そうか。」

そこは地の底。

かつて邪神を封印した、深いだけの遺跡。

二人が仮のねぐらと決めたのは、その闇の中だった。

限られた者しか知らない、限られた者しか入れない場所。

灯りが無ければ一寸先すら見る事の叶わない、全き闇の深淵。

罪を辞さないつもりの自分達には似合いの場所だとここを選んだ。

その罪は私が代わりに、とテヘラは言った。

しかし胸に宿しているのは自分だからと、レンは退かなかった。

毒をこの身に食らうのだから、他の誰にも食わせない。

そう言われては、何も言いようが無かった。

不甲斐ない、無力だ、そう言葉にして俯くのは簡単だったが、テヘラはそれに我慢出来なかった。

そうして協力を申し出たのだ。


レンは服を脱ぐ。

そして黒の魔石を胸に当て、その共鳴に身を任せた。

次第に石はその身へと食い込み、やがて貫き、押し入った。

血が溢れ、レンは手でそれを止める。

呻きと叫びが響き渡り、テヘラの心と臓を揺さぶった。

唐突に声が止み、レンが音を立てて倒れ伏した。

押さえる指の隙間から血液が漏れ出でて、床を赤く濡らしている。

呼吸の音も鼓動の音も消え失せ、静寂が訪れた。

息苦しそうなテヘラの呼吸の音だけが、闇に消えていく。

そしてまた突然に、倒れた身体が浮かび、動き出す。

ぶるぶると始めは小さく、徐々にがたがたと大きく、さらに震動するように。

血液は逆流し、全てその身へと戻って行く。

その様はあまりにおぞましく、テヘラをして恐怖を与えた。

溢れ流れた血液が、その一滴まで胸に収まる。

そして傷が塞がり、糸の切れた人形となって床に叩きつけられた。

おずおずと近付き、膝をついて身体に触れる。

体温は感じた。

呼吸の音も聞こえる。

胸は上下し始めた。

頬も赤みを帯び出して、いつもの愛くるしさを取り戻している。

テヘラは腕に抱き締めた。

後何回、これを見なければならない?

この心は耐えられるのか?

目からは涙が溢れ、レンの顔もよく見えない。

喉からは留めようも無く嗚咽が漏れ、息さえ上手く吸えていなかった。

「レン、レン!

私の大切な息子が、どうしてこんな目に!

どうしてこんな道を選ばなければならなかった?

この子が、私達が何をしたと言うのだ!

どうして何度も殺されるような責め苦を・・・!

定めたのは誰だ!

イルか?エルか?

この子はあなたの親友だっただろう!

この子はあなたの恋人だっただろう!

何故こんな運命を寄越したのだ!

あの時死の間際まで苦しんだのに、まだ苦しめと言うのか!

ああ、また絶望に染められていく・・・。

レンから・・・、私の希望から、幸せを奪うな・・・!」




その魂は、かつて息子であった者。

病に伏し、苦しみの果てに死した魂。

七柱の内三柱が神となったきっかけ。

その魂は現世にあっても尚、苦痛に見舞われてしまった。


助言をいただき、タグを追加しました。

感謝感激でございます!

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