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魔術師、魔術の真実に至る 二

(魔力、弾型、射出・・・。)

「魔弾。」

レンの指から撃ち出された魔弾は、矢の形ではなくなっていた。

名の通りに小さな弾の形で、空の彼方に飛んで行く。

おお、と上手く言ったり事にまず驚く。

レンは町の遥か上空で、魔術の試し撃ちを行っていた。

誰に知られても、見られてもいけない。

そのための場所に、誰も来られない空を選んだのだ。

少し冷えるが、しっかりと着込んでいるので問題は無い。

誰も来られないのを良い事に、一つ一つ呟きながら、突き止めた事柄が真実である事を確認していた。

魔術合成の導いた答え。

魔術の根本。

(魔力、刃型、射出・・・。)

「魔刃。」

魔力が風刃と同じ、刃の形で撃ち出された。

これまで行っていた魔法の合成は、つまるところ要素を合わせて行使していたに過ぎなかった。

それに気付いてしまえば、必要な要素だけで魔法を発動出来る。

そして錬金術師サールは言った。

組み合わせに名前を付けるのは固定観念を植え付けるが、想像に易くなり効力を上げる。

今のレンなら固定観念に捕らわれる事も無く、使いこなせるだろう、と。

(魔力、剣型、持続・・・。)

「魔剣召喚。」

レンの右手に、輝く剣が現れる。

ひと振り二振りして、使い心地を確かめた。

その刃は薄く鋭く、そして軽い。

「炎、付与、持続・・・、炎付与。」

魔剣の刃が炎を巻き上げ、熱を帯びた。

満足して、掻き消す。

組み合わせで、夥しい数の魔術を駆使出来るようになっていた。

しかし、レンにも出来ない事はあった。

「魔力、槍型、射出、大型化・・・、魔槍!」

発動しない。

中級、上級魔術に含まれる、一部の要素が使えないのだ。

大型化、範囲化などを含むと、発動に失敗する。

何でも出来る、とは行かなかった。

しょんぼりして転移で帰る。

家の屋根に現れ、庭へと浮遊で降りた。

「戻りました。」

「おかえり。」

ティカがアリサを抱いて、長椅子に座っている。

そのそばで、ユニアが笑みを浮かべて姪を見ていた。

本当に楽しそうな、可愛くて可愛くてしかたないのだと見て取れる笑顔だ。

「歩き出して、喋り出すのが楽しみよね!」

「ええ、本当に。」

ティカも柔らかに微笑む。

レンもそばに寄って、その小さな手に指先で触れる。

あまりにも小さなこの手が、いつか自分のものと同じ程に大きくなる。

その時は、きっとアリサの方が大きいのだろうなと複雑な気もするのだが、手を合わせて比べるその日が楽しみでもあった。


アリサが寝付くと、ティカの仕事が始まる。

「レンがいてくれる内に、いっぱい作っちゃわないとね!」

そう言って、ひたすら術紙を量産するのだ。

そんなティカを見て、レンは笑う。

今となっては触れずに魔力譲渡出来るので、洗濯物を干す傍らで魔力を受け渡す。

快晴の空は高く青く、冷え始めた空気に降り注ぐ日が暖かい。

アリサの声が聞こえたので、レンは飛んで行く。

抱き上げてあやすと、静かになった。

「大丈夫、みたいですね。」

「ありがとね。

本当、助かるわ。」

ティカはこれを一人でこなしていたのだ。

レンは心底すごいと感じていた。

モロウも衛兵の仕事を得ているので、家にいない事が多い。

そのため、どうしても家事、育児、術紙と忙しくなってしまう。

けれどティカは幸せそうだった。

もう戦う事などほぼ無いのだし、モロウは必ず帰って来る。

術紙を作る事で人々を支えられる事もやり甲斐を感じていた。

近所付き合いも良好で、日々平和に、穏やかに暮らしている。

充実しているのだと、見ていてわかった。

自然と笑みを浮かべてしまう。

その一端に触れていられる事を嬉しく思いながら、アリサを抱いたままで庭に向かった。

感知に人がかからないのを良い事に、魔法を使う。

(移動、念動、対象、継続消費・・・、念動。)

それは浮遊から制限を取り除いたものだ。

浮遊の魔術には、高度制限と抵抗が容易になる制限がかけられていた。

それはサールによるものだ。

危険を避けるための抑制と言って良い。

今のレンには必要無い要素だから取り除いた。

そうして作った魔術、念動で洗濯物を干す。

ティカの目は、もう誤魔化しても仕方ないので気にしない事にしている。


「相変わらず、進化を続けてるのね・・・はは。」

ふわふわと浮いて、何枚もの衣類やシーツが干されて行く。

あっという間に終わっていた。




レンはユニアと、夕食の支度をしていた。

レンがトマトソースのパスタを作る一方で、ユニアは鍋を前に考え込んでいた。

「何か足りないわね・・・。」

スープを作っているのだが、物足りない出来のようだった。

五感を使った魔法を試す機会だと思い、要素を組み立てる。

(味覚、嗅覚、知覚、自己、対象、継続消費・・・、味見。)

魔法は発動した。

幾つかの調味料、香辛料とスープを対象と指定し、組み合わせを探る。

ユニアの好きな味になるよう、最適の三つを選び出し渡した。

「この三つはどうですか?

二摘まみずつくらいで、多分ちょうど良いと思います。」

「今、また何かしてたわね?

それじゃ、試してみようかしら。」

調味料一種、香辛料二種を加え味見すると、ユニアも納得の味と香りで整ったようだった。

その表情で上手く行ったとわかり、レンは胸を撫で下ろす。




そうして、日々の生活の中ですらも魔術への理解が一層深まる心地で、レンは組み合わせを考えるだけでも楽しかった。

同時に使える魔術数も九になり、指定出来る対象数も三十となった。

魔弾などの同時射出数や、強化、念動力などで指定出来る数が三十と言う事である。

また、魔術の強化と考えていた行動への理解も深まった。

これは、後付けで消費する魔力量を増加させる事で効力を上げていたのだ。

どれだけ魔力を込めるか、それも自分で調整出来るものであった。

そして、量が増えればそれだけ練り上げる事に手間がかかるが、これは訓練による技術の向上で短縮出来るとわかった。

調整として行っていた事も、一から自分の任意で指定出来るようになった。

これにより強化と調整は同じものと理解出来た。

そして今は、頭の中を様々な要素が巡り回っている。

思い付けば思い付いただけ自分の力になるのが、魔術だと気付いたのだから。




そうしてその日の夜は、新たに思い付いた事を思考し、試行していた。

妖精の部屋に入り、意識を集中し始める。

外には出さず、自分の中で行うようにしっかりと意識し、魔力の集中を開始した。

自分の内側を魔力で満たし、さらに集中し続ける。

溢れるような感覚を抑制し、圧縮し、尚も集中し続ける。

内側でうねり、氾濫し、暴れ、それでも外には出さない。

しかし最後には激しい高揚と共に爆発し、外へ大量に溢れた。

溢れた魔力は大気に混ざり、部屋に吸収される。

レンは頬を紅潮させ、荒く呼吸を繰り返し、そのまま眠った。


それは、自己の魔力を強化するための鍛練だった。

内側に集めた魔力を圧縮、凝縮し、さらに集める。

それを繰り返す。

筋力を鍛えるような想像で行ったのだが、行き過ぎればこのように爆発した。

これから毎日、繰り返すつもりでいる。

何故なら、中級や上級魔術に含まれる使う事の出来ない要素を使うための条件が、魔力の強さなのではないかと思ったからだ。

きっかけはただの思い付きだった。

ただ思い付いただけだったが、レンとティカで灯光を比べてみた。

ティカのものと同じになるよう調節して使うと、こちらの消費が大きかったのだ。

逆に消費を合わせると暗くなり、持続も短くなる。

そこから、ティカの方が魔力が強いのだと考えた。




「鍛練の方法は間違ってるが、要素が使えない理由は合ってるよ。

魔力の強さは魂の強さ。

鍛練でどうにか出来るものじゃないのさ。」

「そんな・・・。」

サールに答え合わせを頼むと、そんな回答を得た。

レンにとっては残念過ぎるものだった。

つまりレンの魂は弱いのだ。

だから、強い要素を制御出来ない。

魂を強くする手段は、サールは知らないとはっきり言葉にした。

「ありがとうございました・・・。」

レンは帰った。

けれど諦めるつもりは無かった。

魂が弱いからだと理由はわかった。

そしてサールは、方法が無いとは言わなかった。

鍛練では出来ないと言っただけなのだ。

知恵の旧神すら知らない事なのだから困難だ。

しかしだからこそ探そう、と思った。




レンとユニアは時折妖精の部屋に入って、そこに飾った斧槍を撫でる。

テヘラは、三ヶ月経っても戻らなかった。

斧槍は、そこにこそ本体があるから預かって欲しいと頼まれて、そこに飾った。

ここに本体があるなら、行動しているのは分体。

だから、何かがあったとしても問題は無いと聞かされている。

けれど心配にはなるのだ。

「テヘラの事だし、上手くやってるとは思うけどね。

食べ物に釣られて、時間かかってるんじゃない?」

皇国にも、美味しいものはたくさんある。

あちこち飛び回っているなら絶対食べてると、ユニアは自信ありげに言うのだ。

想像には難くない。

「大丈夫、ですよね。」

「レンは心配し過ぎなのよ。」




二人はこの三ヶ月の間に、久しぶりに迷宮へと挑んでいた。

かつてより二人とも遥かに強くなった。

ユニアは接近戦において右に出る者はいないと言えるほどであったし、レンは使える魔法が爆発的に増えていた。

剣の腕も磨き、強化魔法無しでも人並の戦士として戦えるようになっていた。

「筋肉が付かないから、魔法の補助は必須ね。」

それだけが問題だった。

「そのままでも、私は構わないんだけど。

ごついレンなんて、レンっぽくないし。」

レンとしても筋肉を付けるくらいなら魔法の事を考えたいので、その予定は無い。

強化魔法で補えるのだから、必要性も無いのだ。

そうしてのんびりと進み、気付けば八階に到達していた。

一階から七階までの地図も出来上がっていた。

「描き上がったわね。」

「八階と九階は必要無いくらい単純な構造でしたし、これで完成ですね。」

せっかくなので、八階を覗く事にした。


広間には、レッドドラゴンが配置されていた。

地下であるため飛べないが、皮膜の翼もある上位の飛竜種である。

体躯も大きく、その実力は最下層で戦った吸血鬼よりも上であるかもしれない。

「これは久しぶりに、本気出せるかも・・・。」

「強化全開で行きます!」

(治療、活力、筋力、運動、全耐性、知覚、増加、対象、持続。)

「全強化。」

「何か、前よりすごくなってる?」

「改良はしました。」

笑って答える。

相手が相手なので、今考えられる最高の強化魔法を組み上げたのだ。

とは言っても、これまでとの違いは知覚力の強化を入れたくらいである。

反応速度に貢献するはずなのだ。

ただそれが、全体的な感覚を鋭く感じさせている。

「それじゃ私も。

月影!」

炎の剣は置き、宝刀月影を手に取った。

「行くわよ。」

「はい!」

戦闘が開始された。


ユニアは戦い始めて、まず驚く。

レッドドラゴンが遅いと言う事は全く無く、むしろ速い。

しかしその爪や尾、牙、息吹、全てに難なく反応出来る。

おかげで、少し戦って気付いてしまった。

「レン。」

呼びかけて、退く。

レンは飛んで退いて来た。

「同じ事、考えてます?」

「やっぱり?

・・・帰ろうか。」

「はい。」

炎の剣を回収し、二人は転移で帰った。


「今のレッドドラゴンが若いからだと思うんだけど、負けようが無かったのよね。

月影には、まだ出番が回らないわ。」

レッドドラゴンを前にしても、命の危険を感じられなかった。

もちろんレンの強化魔法もあるのだが、それを差し引いても一人で勝てただろう。

かつてテヘラの言った言葉が思い出される。

「人の殻を超えたら天井知らず、か。

それって、人なのかしら・・・。」


レンも同じような事を考えていた。

地下の、あの部屋に収まる大きさのドラゴンでは、自分達の全力に十秒と持たないだろう。

エルダー、或いはエンシェントと呼ばれる程に大きなドラゴンでなければ、二人の攻撃には耐えられない。

それがわかってしまって、戦う気が萎えたのだ。

サールが魔術を制限している理由が、理解出来た。

この力は強過ぎる。

ここまで自分が強いのは、魔石によるところも大きい。

けれど、これまで突き止めてきた使い方だけでも充分過ぎる力となるだろう。

誰にも、話せない。




居室では、座れるようになったアリサとユニアが遊んでいた。

アリサの手の平大の玉を転がし渡すと、アリサはそれを両手で持ち上げ投げた。

もちろん飛ばない。

けれどそんな事はお構いなしに手を叩いて笑う。

「アリサ、上手ね!」

一緒に手を叩いて喜ぶ。

この頃になるとアリサはユニアに構われても泣かず、よく相手をしていたものだからむしろ懐いていた。

レンはそんな二人を見て、にこにこと笑んでいた。

ただ、何となく暇を持て余す。

自分達は、この三ヶ月で暇潰し代わりに迷宮の地図を完成させた。

そこでふと、サンデリアスにあれきり会ってない事を思い出した。

たまには顔くらい出そうかと考える。

「サンデリアスさんのとこに行こうかと思うんですけど、行きます?」

「私はいいかな。」

「同じく。」

ティカとユニアは行きたがらなかった。

曰く、絶対に長話を聞かされるからだそうだ。

モロウは仕事に出ていていない。

仕方なく、レンは一人で行く事にした。

転移を試すと、見事に上手く行った。


両開きの扉の前に、レンは姿を現す。

いきなり中へ入るのは躊躇われたのだ。

ゆっくり開けながら、中に声をかける。

「こんにちは。」

「おお、久しいのう!」

派手なローブは相変わらずのリッチが、やはり変わらずに玉座へ座っていた。

サンデリアスはすぐに椅子を用意してくれる。

「今日は一人か?

まあ、座れ座れ。」

やたらに嬉しそうであった。

「あれから誰も来なくてのう。

退屈しておったのだ。

まずは用向きを聞いておこうか。」

「それが・・・。」

特に用があって来たわけではなかった。

ただ、しばらく会わなかった友人に会うような、気安い感覚で来てしまったのだ。

しかしそれは、サンデリアスを喜ばせた。

「何とわざわざ、ただ会いに来たと言うのか。

殊勝な子だのう・・・。

ならば、お主の話を聞かせてくれんか?

あれから何をしておったのだ?」

それからはたくさんの旅の話を聞かせた。

色々な町を訪ね、たくさんの人々と出会い、国を渡り歩いて、冒険を重ねて来た。

仲間のその後の事やテヘラの話、魔物の世界を歩いた事やニベルに会った事も。

レンはユニアのように面白可笑しく話す事は苦手だったが、サンデリアスはそれでも興味深そうにじっくり聞いていた。

二人の様子はさながら祖父と孫のようで、レンもいつもの愛くるしい笑顔を見せて話していた。




「それで今はそこの町に戻って来てるんです。」

「そうかそうか。

いや、面白かったぞ。

礼をせんとな。」

そう言って、ローブをごそごそと探り出した。

「いいですよ、そんな。

話を聞いてもらっただけですし・・・。」

「爺からの駄賃だと思うて、もらっておいてくれれば良い。」

そうして取り出したのは、二つの指輪だった。

宝石や装飾などは無く、極めて簡素な銀の指輪だ。

「そのユニアと言う者と、二人でつけると良い。

何処からでも念で話せるであろう。」

「すごい!

本当に良いんですか?」

「正直、作ったは良いが使う者がおらんでの。

迷宮に置くにも、相応しくなくてな。

だから遠慮せず持って行くと良い。」

サンデリアスからしっかりと手渡された。

レンは嬉しくて舞い上がってしまう。

その姿がまた、サンデリアスを和ませた。

「では、そろそろ帰る頃合いであろう。

また聞かせてくれると、嬉しい。」

「はい、また来ます!」


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