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戦士と悪魔、街を守る 一

空を飛び、再び山脈を越える。

そのままの高さを維持し北上すれば、遥か下には町が見える。

レンは結局一度も足を運んでいないが、遠視で見れば平和な生活を送れているようだと安心する。

助けた五人の姿もちらほらと覗け、達成感が胸に湧き上がるようだった。

北に目を向ければ、そこには隣国の街が見える。

近くの身を隠せる茂みに潜み、一旦部屋へと入った。


部屋では、ユニアの変装が行われていた。

髪型は背に届く長さだったものを切り、耳が隠れる程度に揃えた。

前髪も目に届かない辺りで切り揃え、手櫛でさっと整える。

色も茶に染めた。

浴室を出て服を脱ぎ、さらしを巻いて胸を小さくする。

服は赤茶のローブに変え、腰帯を巻いてレンの小剣を後に差し込む。

ここまですれば、別人に見えた。


レンとテヘラは姿を見られていないので必要無いのだが、ユニアはしっかり目立ってしまった。

だから全く違う印象にしなければならない。

「レン、どう?」

「素敵ですよ。」

「では、行こうか。」

テヘラは変わらず外套を、ユニアは灰色のマントを纏う。

そして三人は街へ向かった。




「くれぐれも、淑やかにな。」

テヘラが小声で釘を刺す。

ユニアは頷くが、不機嫌そうだ。

あまり喋らない方が良いと言う判断で、無口と言う体で行く事にしている。

情報を聞き出すのは、テヘラとレンだ。


街へはその後どうしているか、主にもう一度手を出す気があるのかを調べに来た。

まず、何故あのような暴挙に出たのか。

それすらもまだ、判明していないのだ。

呪術を使うなど、余程の計画が無ければ考えられない。

大陸全土で禁忌と扱われている魔法なのだ。

その危険性は軽々に扱うには高過ぎる。

しかも、他国から人を拐ってまで使った。

そこには邪悪な気配しか感じられない。

以前、この街と隣の町は交流があった。

商人が行き交い、商いが行われていたのだ。

関係は、そう悪いものではなかったはず。

では何故そのような事をしでかしたのか。

テヘラはそれを調べたいと言った。

今となっては彼女も仲間。

仲間の願いなら、否など無かった。


街は活気のある、良いところであった。

南とは違う文化が育っており、建築様式も三人の目には真新しく、新鮮であった。

屋根は模様が走っているように見えたが、それは幾つもの同じ規格で作られた物を端が重なるように並べているようだった。

扉は前後ではなく横に動き、中ではどうやら履き物を脱ぐようだ。

「宿、取りましょうか。」

「ふむ、そうしようか。」

ユニアも頷き、満場一致で宿泊が決まった。


宿は賑わっていた。

洞窟が解放された事で、旅人や商人などが押し寄せているのだ。

何とか部屋を取れたが、この状況は都合が良いと考えた。

これなら多少突っ込んだ事を聞いても、噂好きの野次馬と思われる。

三人は早速酒場へ向かった。


酒場も雰囲気が違った。

テーブルに椅子の席もあるのだが、一段上がった履き物を脱いで座る席もある。

そちらの席は珍しさもあってか埋まっており、三人は慣れた椅子の席へと通された。

「ブーツだから、こちらで良かったですね。」

「確かにな。」

笑って座る。

酒とつまめる物をと頼んで、辺りを窺った。

旅の者が多いが、冒険者が見当たらない。

考えてみれば、隣国と接しているきな臭い場所だ。

ランバルドも話していたが、戦争になるかもしれない。

戦争ともなれば、安い報酬で無理に雇われると予想出来る。

そのような場所にわざわざ足を運ぶ冒険者などいない。

そういう事だろう。

酒場には、街の衛兵らしき一団もいた。

警備も兼ねての食事だろうか。

彼らの衣服も独特だ。

大きめのローブの上から、やはり大きめの脚衣を履いている、と言う風体だ。

足には植物を使ったブーツを履いている。

もしくはサンダルのような何かだ。

ちょうど隣に座っていたのだが、レンはうっかり見過ぎてしまい、目が合ってしまった。

「ごめんなさい!」

申し訳なくて恥ずかしくて、顔を朱に染めて謝った。

「いや、構いませんよ。

南の方でしょう?

こちらも物珍しく見させていただいてますから。」

笑って気さくに許してくれる。

その人の良さそうな笑顔は、とてもあのような暴挙に出た国の人物とは思えないものだ。

四人組の衛兵だったが、彼らは皆それぞれに怪我を負っているようだった。

ローブの下から包帯が見え隠れしている。

「あはは、これですか。

先日とんでもなく強い賊が入りましてな。

その時に、手酷くやられてしまいまして。

おっと、ここだけの話ですよ?」

しまった、と言う顔で、唇の前に指を一本立てた。

つい、ふふっと笑う。

それから隣同士で話をした。


テヘラは自分達を法国の貴族だと名乗った。

レンを令嬢とし、ユニアと自分は召使い。

そして、ユニアは無口で無愛想だから気にしないで欲しいと話す。

ユニアに睨まれているが、その方が都合良いのだから仕方ない。

黙殺する。

彼らはやはり衛兵であるようだ。

カネヒサ、シゲマサ、タケサダ、イエノブと名乗る。

年の頃は皆同じで二十前後と言ったところ。

中肉中背で、大きな特徴も無い。

タケサダがやや大柄で、カネヒサが優男であるくらいか。

カネヒサ、シゲマサの二人は剣、この国では刀と言うそれが得意で、タケサダ、イエノブの二人は槍が得意なのだそうだ。

平民上がりの兵で位は低いが、腕には自信があるようだ。

ちなみに、カネヒサはレン、シゲマサとイエノブはテヘラ、タケサダはユニアをそれぞれに気に入ったようだ。

美女揃いなのだ、仕方ないとテヘラは寛大に思う。

一人は女ではないのだが、それは然程大きな問題ではない。

放置する。


料理や酒が来ると、話はまた盛り上がりを見せる。

彼らが色々と教えてくれるのだ。

女三人がまず困ったのは、箸と呼ばれるものの使い方だ。

懇切丁寧に教わったが、レンがなかなか上手く使えなかった。

カネヒサがゆっくりしっかり教えているので任せておいたが、酒が入ったレンへの反応が見るに堪えなく、ユニアとテヘラは笑いを必死に堪える必要に迫られた。

二人は箸を器用に使った。

次いで、ナイフが無い事に戸惑った。

この国では全て箸で食べるようで、魚の身も彼らは綺麗に箸だけで食していた。

これは二人も苦戦した。

そんな事も楽しみつつ、男四人から色々と噂話を聞き出した。

酒の入った彼らはどうやら非番だったらしく、長い時間付き合ってくれた。

夜も更けたところで酒場を出て、別れを告げて宿へと戻った。




「面白い連中だったな。」

「笑い堪えるの大変だったわ。

そうそう。

私、カネヒサとイエノブは覚えてるわ。」

ユニアには敵わないが若い見た目のわりに使い手で、他の騎士が苦戦しているところを助太刀に入り一戦交えた。

「ほう。

ユニアは規格外として、それならば結構な腕ではないか。」

規格外、と言う言葉に少しの衝撃を受けた。

あれだけの人数を相手に立ち回れたのだから、何となくは感じていた。

しかしいざ言われてしまうと、人間を離れたようで心に効いた。

「自覚は無かったのか。」

「薄々、ってとこね。

人を相手にする事なんて、あまり無かったもの。」

魔物ばかりを相手にここまで来てしまった。

鍛練に明け暮れる日々で、実力を確認しようなど思う暇も無かった。

強くなればなっただけ、より強い魔物と戦っていたのだし、当然の如く仲間のモロウやティカ、そしてレンも同じように成長していた。

そしてテヘラだ。

しかも最近は魔法が活躍する事が多く、戦士としては物足りない日々だった。

自分の実力を見失っていたと言っても良い。

さらに言えば、レンの存在が大きかった。

仲間になった当初は自分が導いていた。

それがやがて隣に並んで、今は追い抜かれて前に行かれた。

そんな気がしているのだ。

眠るレンの髪を撫で、微笑む。

いつの間にか頼もしく育ってくれた、愛しい人。

少し、遠くに感じ始めている。

だから、自分が強いなどと思えなかった。

「戦士はな、ユニア。

人間と言う種の殻に、どうしても阻まれてしまう人種なんだ。

それを突破するのは、並大抵の事ではない。

しかしお前は、突破すべき壁の目前まで来ている。

私はそのままのユニアでいて欲しいのだが、あえて言おう。

足掻いて、励め。

一度突破すれば、そこからは天井など無い。

その時、お前は人の先にあるものが見えるだろう。

だが重ねて言うが、私はユニアにそうなって欲しくない。

それは人を辞める道で、歩み始めれば幸せからは遠退いて行くだろう。

特にレンと共に在りたいならば、尚更私は勧めない。」

「私はこの子と何処までも行くって決めてる。

あなたの言う道がどんなものなのか、私にはわからない。

でも、レンといれば私は大丈夫だと思うの。

ちゃんと二人で歩いていれば、きっとお日様に向かって行けるから。」

それは姉の残した言葉。

日に向かって進む。

一切恥じる事無く、そして悔やむ事も無く。




「南の女性、綺麗だったな。」

「白い髪の方に、心を掴まれてしまった・・・。」

「イエノブ、お前もか!」

「貴様らな・・・。」

四人の若者は、如何にも若者らしい話題で盛り上がり、家路についた。

カネヒサは戸を開き、父の姿を見て声をかけた。

「父さん、お疲れ様。」

「カネヒサか。

館から使いの方が見えて、文を置いて行ったぞ。」

「わかった、ありがとう。

すぐにでも、読むよ。」

文を受け取り、開いて中を確認する。

その顔が、急速に色を失って行く。

手が震え、唇まで変色させていた。

「どうした、カネヒサ?」

「・・・この国は、一体どうなってしまったのだ?」

その手から文がこぼれ落ちる。

「明朝戦支度の上、日の出の刻に門へ。」

戦争が、始まろうとしていた。




窓の外に気配を感じ、ユニアとテヘラは武器を取った。

しかし殺気は無く、音を隠す技術も素人のようだ。

テヘラはユニアにレンを任せ、窓際に身を潜める。

そこから顔を出し覗き込んだのはカネヒサであった。

「カネヒサさん?」

テヘラは声をかけた。

まさかレンへの夜這いと言うわけでもないだろう。

その表情は穏やかではなく、差し迫ったものを感じさせる。

「テヘラさん!

護衛も兼ねてらしたとは、さすがですね。」

そう言ってからカネヒサの告げた言葉は、とても見過ごす事の出来ない事態だった。

「明朝、戦争が始まります。

そうなれば帰れません。

それどころか、悪くすれば皆さんの身柄も・・・!

俺にはそんな事許せません。

どうか今夜中に、街を出て下さい。

では、お達者で!」

それだけ早口で話すと、カネヒサは立ち去った。

二人は見送る。

「見た目通り、良い人だったみたいね。」

「止めるか?」

「もちろん。」

戦争の報が入ったと言う事は、少なくとも新たな領主が既に街へ来ているのだろう。

そこへ国から指示が来た。

ならば、すべき事は領主を止める事。

「最悪暗殺になるぞ。」

「それでも、戦争を止められるのなら。」

「レンはどうする?」

しかし見れば、既に目を覚ましていた。

にこりと微笑む。

「置いて、行きませんよね?」

二人は諦めた。




館の構造は知れている。

問題は警備がどの程度か、だ。

三階の領主の部屋さえ手薄なら構わないのだが。

立ち並ぶ民家の上を飛びながら、レンとテヘラがそれぞれに見る。

「ねえ、下のあの人達。

さっきの四人じゃない?」

そこには四人が集まっていた。

民家の裏手で、何やら話し込んでいる。

「聞き耳を立てるか。」


「新しい領主様も変わらないのか?」

「いや、俺はあの方を知っているが、このような事を考える人物ではない。

従わざるを得ない何かがあるのではないか?」

「しかしそれをどうにかする時間など無いぞ。」

「向こうの町に報せるか?」

「この間からそう時間が経っていない。

今行ったら袋叩きになるぞ。」

「戦争なんて、冗談ではないぞ。

隣国には、叔母がいるんだ。

死なせたくない。」

「シラナさんだったか。

俺も世話になったからな。

同じ気持ちだ。」

「どうしたらいい、くそっ。」


「領主は、そう悪い人物ではない?」

「とにかく、会うだけ会ってみようか。

一人の話だし鵜呑みには出来ないけど。」

会う事には、他の二人も異論は無かった。

問題は、それに伴う危険やその後の不利益だ。

「三人揃って行くのは、今後を考えると面倒ですね。

変装して、一人が会いましょう。」

「ならば、私か。」

一人が素顔変えて会うのであれば、自分達三人の事が知られる危険は少ない。

テヘラならば適任だった。

「それじゃ、頼むわね。」

「任された。」

テヘラは領主の部屋へと向かった。

レンとユニアは隠れて、後を追う。

窓際に身を隠し、話に聞き耳を立てた。


「誰だ?」

「戦争を止める者。」

「殺す、か。」

「何故戦争を行う?

あなたには、回避出来ないのか?」

「国の方針だ。

逆らえはしない。」

「何故?」

「聞いて、何とする?」

「可能であれば、戦争の目を摘む。」

「・・・ま、良かろう。

私は身一つで、ここにいる。

元々はここよりさらに北西、辺境の港町にいたのだ。

その地の領主をしておった。

そこから、一人で連れて来られたのだ。」

「家族が、そこに?」

「さてな。」

「連れて来よう。」

「出来るものか。」


「全速力で飛びます。

防寒着、しっかり巻き付けて下さい。」

レンは浮遊を使い、三人で飛び上がった。

そして北西へ向かう。

身体に当たる冷気が急激に身体を冷やす。

身を寄せて、抱き合うように互いを暖めた。

「寒いです!」

「と言うか痛い!」

「さすが北国だな!」

しかしその甲斐あって、半刻もかからずに港町へと到着出来た。

そこも領主の館がある。

しかし、家族が何処にいるかはわからない。

とにかく潜入して、それらしい人物を探す。

「閉じ込められるように過ごしているか、或いは監視が付いているはずだ。

そのような人物を探そう。」

再び二人は見る。

感知を駆使し、町の空から探った。

しかし、いち早く見つけたのはユニアだった。

「ねえ、あの家見てくれない?」

言われてその家を見ると、そこだとわかった。

ただの民家にしては、中の人間が多い。

「何故、わかった?」

「この国の建物って、縁側とか言うのがあるじゃない。

あれが無いし、雨戸って言うので閉めてるわけでもないから。」

盲点だった。

魔法で探す事に意識を持って行かれ、建物を観察する事すら忘れていた。

「やるじゃないか。」

「素敵です!」

「ま、まあね。」

屋根に降り立つと、今度こそ二人の出番だった。

中の魔力を調べ、位置や様子を知る。

そもそも大きな家では無い。

小さな部屋二つには二人と三人。

大きな部屋一つには五人の反応があった。

「屋根か壁か、穴を開けられるか?」

「レンの付与で、斬ってみようか。」

遠視が壁の向こうを見れたら良かったのに、と思わずにいられない。

何処の部屋が当たりなのかわからない以上、全部覗く必要がある。

しかしそれには破壊が付き物となってしまう。

そこまで考えて、思い付く。

「部屋の一つの気付かれ難いところに小さく開けてもらっていいですか?」

ユニアの引き抜いた剣に、魔力を乗せる。

「天井でいいわよね。」

端の方に少しだけ刺し込んだ。

「これで大丈夫なの?」

レンは覗く。

中が少しだが見えた。

「大丈夫です。」

遠視を使う。

目を中へと潜ませた。

遠視は、視線が通るところにしか飛ばせない。

しかしそれは、通れば飛ばせると言い換える事も出来る。

さらに移動を司る浮遊。

レンは二つの魔力を合わせた。

要素が合成され、遠視の移動能力が拡張される。

「見えます、見えますよ!」

レンは静かに興奮した。

この真下は二人の部屋だったが、そこは外れだった。

目は大部屋へと移動する。

そこは見張りが五人いるだけだ。

さらに移動し、三人の部屋を覗く。

そこには女性と男の子が二人、寄り添うように眠っていた。

「見つけました。

三人の部屋です。」


「問題は、どうやって救出するかね。」

「入る事さえ出来れば、部屋で・・・。」

さらに気付く。

動く目に魔力感知を併用し、妖精の部屋に魔力を流し込みつつ、三人とこちらの二人を指定した。

そして、置く。


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