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雑話 四人の冒険者

皇国と言う国は、正義を重んじている。

正義の神イルハルを信仰し、首都の皇都には大神殿がある。

大神殿は各地に神官を派遣し、国の平和を騎士や貴族達と共に守っていた。

魔物が現れれば直ぐ様駆け付け、その集落まで殲滅する。

悪漢が現れても直ぐ様駆け付け、根城から繋がりのある他の悪党共まで根こそぎ捕らえた。

そんな神官に憧れ、町の神殿の戸を叩く子供は多い。

かく言う俺も、そうであった。


十二の年に志を告げ、感動した親に後押しされる形で神官を目指した。

神殿での生活は辛く厳しいものだったが、その日々は確実に、この身の血肉となっている。

知識を得るための勉強、信仰を培うための祈り、身体を鍛えるための鍛練、そして魔物や悪漢に負けないための訓練。

そんな日々は、同年代の志を同じくする同胞達と切磋琢磨する、楽しい生活だったと記憶している。




五年の歳月が流れ、神官になるための最後の試練として、俺は同胞達三人と魔物の退治に向かわされた。

「魔物は悪魔の手先である。

悪魔の尖兵たる奴らは、我らイルハルの子供達にとって根絶やしにすべき敵である。

人々への被害が出ぬ内に殲滅せよ!」

その指令に従い、俺達は集落へと向かった。

潜み覗くと、小さな集落だった。

何処にでも現れると言われるゴブリン。

小鬼と呼ばれる彼らの、非常にささやかな集まりだった。

「この規模なら、俺らだけでも余裕だな!」

「油断はしないでよね!

やられたら、置いて帰るから!」

そんなやり取りに笑い合い、俺達四人は武器を取った。

一斉に飛び出し、手当たり次第に斬り、叩き、貫いた。

魔法など使うまでもない、たわい無い任務だった。

俺達は武器を掲げて互いを称えた。

血に塗れ、集落を破壊し、俺達は喜んでいたのだ。

それをおかしいとは、その頃の俺は欠片程も思わずにいた。


神官として認められた俺は、神殿に所属するのではなく、冒険者として自由に各地を飛び回り、人々の助けとなる道を選んだ。

親は反対したが、この志に触れ、またも感動して送り出してくれた。

思えば本当に、良い両親だった。


冒険者を選んだ俺は人の集まる首都、皇都を目指した。

道中で二、三の魔物と戦闘になったが、神殿で一番の腕利きだった俺に敵う魔物ではなかった。

皇都に着くなり酒場を目指す。

冒険者と言えば酒場だと聞いていたからだ。

そしてそこで、俺達は出会った。


四人の中では、俺が一番年上だった。

女魔術師が一つ下で男戦士がもう一つ下。

男戦士の妹の女戦士は兄より二つ下だった。

つまり上から順に、十七、十六、十五、十三。

事情は聞けなかった。

十三は若過ぎる。

しかし恐らく、兄について来るしか無かったのだろう。

こんな事があって良いのか、そう内心で憤ったのを覚えている。

しかもこの兄妹は、戦士とは名ばかりの素人だった。

見た目で、農村から出て来た事は察せられた。

武器だけは何処かで手に入れたのだろう、それで戦士を名乗ったわけだ。

俺と魔術師が手を組んだところで酒場に入って来た二人は、同じ年頃だった俺達に声をかけた。

他に、声をかけられるような人間はいなかったのだろう。

俺にしても、それは同じだったのだから。

入った瞬間にずっと年上の連中がこちらを値踏みした。

苛立ちと失望の眼差しを向けられた俺は、これが話に聞く冒険者なのかと疑念を抱いた。

そんな俺の後に姿を見せたのが魔術師だった。

彼らと俺を見比べた彼女は、こちらによろしくと言った。

同じ気持ちだったので、俺は快く応じ、握手を交わした。

心底安堵して、ひとまず座って自己紹介などと思っていたところに現れたのが二人の戦士だ。

この状況では、選択枝など無いに等しい。

四人は見事に新米だけで集まったが、冒険者についての細かな事は、幸い俺が先輩神官から聞いていたので何とかなった。

整えるべき装備、食料、水、それぞれの相場。

宿や酒場の選び方や依頼についてまで、皆教わっていた。

人の運も良かったのだろう。

そんな経緯で四人は仲間となり、以後末永い付き合いとなった。


戦士二人には、最初に俺が少しの手解きをした。

どちらも基礎的な筋力や体力は思っていたよりも備えており、素振りによる反復練習と技術面での補助をした程度でその実力を開花させるに至った。

兄は体格に優れ、戦士と言う職が天職とも言えた。

妹は年が若く身体も頼り無くあったが、それを心で補っていた。

何がなんでも強くなると言う意志がその目から迸っていて、俺も魔術師も感じ入ってしまう程だった。


二人は力と速度、違う型の戦士として育った。

戦闘では二人が前衛として暴れ、俺が二人の隙を塞ぎ、魔術師が必要に応じて支援する。

そんな形が出来上がり、二年、三年と過ごす頃には、充分な連携が出来るようになっていた。

魔物も悪漢も俺達の相手ではなくなっており、皇国中を人助けして回っていた。

その頃には、兄妹が皇国を嫌っている、疎んじていると、俺も魔術師も察していた。

生まれ育った国をそんな風に思ってしまう事を俺は理解出来なかったが、しかし事情があるだろう事はそれまでの付き合いでわかっていたので、受け入れてはいた。

しかし二人を止めてしまった事で引き起こされた事態が、それが正しかったのか間違っていたのか、俺を悩まし続ける結果を招いた。

今でも判断が出来ていない。




魔物の集落があった。

そこでは戦闘の準備が進められており、しかし俺達四人で挑むには数が多すぎた。

集落の近くでは、皇国の軍隊が陣を構えていた。

街とも言うべき規模の集落をそのままにしておけず、先手を打っての布陣だったと言う。

兄妹は、軍隊を止めるべきだと主張した。

魔物達はただ生活を営んでいただけに過ぎないと。

敵対行動など取ってはいないと彼らを擁護した。

ただ、その言葉の端々に、皇国への非難が含まれていた。

しかし皇国の民としてもイルハルの信徒としても、軍隊を止める事など俺には考えられなかった。

魔物は悪で、いつかこちらに仇なす存在なのだ。

そう信じていた。

被害が出てからでは遅い。

作物を作る際に害虫から守るための手段を講じるのと同じように、魔物に対しても守るための手段を講じる必要があるのだと説いた。

二人はそれでも感情の面で、納得出来なかったのだろう。

魔物に報せ、逃がそうと動いた。

俺は当然止めた。

もう戦闘が、軍隊による集落への攻撃が始まろうとしていた事もある。

しかし二人の行動が軍に、国に知れたら、二人はただでは済まない。

それだけは看過出来なかった。

結果、集落は蹂躙され、魔物達は残らず殲滅された。


それで良かったのだと、何度自分に言い聞かせただろう。

もちろん、たかだか四人の冒険者に出来る事などありはしなかった。

しかし二人を止めなければ、非戦闘員の魔物くらいは逃げられたかもしれない。

それを考えると、あの時止めた事は本当に正しかったのかと、疑問に思わざるを得なかった。

魔物は全て悪だと思う自分と、蹂躙された集落跡を眺めた時に感じた気持ちとどちらが正しいのか、俺にはわからなかった。

目の前に広がる凄惨な地獄絵図は、この国の闇を集めて撒いたような有り様だった。

貫き、首を斬り、手酷く傷め付けて、その末にわざわざ並べてさらし置いた。

その必要が、何処にある?

これだけの数を殺し尽くして、それ以上に何を見せ付けようと言うのか。

そしてそれは誰に向けた見せしめなのだ。

俺以外の三人は、涙を流していた。

以降、俺は間違ってしまったのではないかと何度も振り返り、その度にこれで良かったのだと言い聞かせた。

言い聞かせる外無かった。


それから俺も、何となく皇国を離れたくなっていた。

これで良かったのだと言い聞かせる一方で、あの光景から逃げたい気持ちが働いていたのかもしれない。

頃合い良く、法国で迷宮が発見されたと言う情報を聞き付けた。

それからの俺達は迅速だった。

荷をまとめ、場所を調べ上げ、足早く皇国を出た。


その町で俺達は、結果的には解散する事になったが、それは未来に向けてそれぞれの道を歩き始めたに過ぎないのだから、決して悲しいものではなかった。

俺は町の神官から教えを受けて後継となり、兄と魔術師は愛し合って夫婦となった。

妹も今では新しい仲間を得て、二人・・・ともう一人いるらしいが、仲良く旅に出ている。

そして俺の隣にも、大切な人がいてくれる。




「何だルタシス。

お前まだ気にしてたのか。」

酒を飲んで、つい話し過ぎてしまった。

どうやら今日は、久しぶりに飲み過ぎたらしい。

「俺もユニアも、あれで良かったと思ってるぜ。

お前が止めなかったら、俺達は魔物に殺されるか軍に殺されるか、どちらにしても死んでたからな。」

魔物達は既に臨戦態勢だった。

そこへ人間が現れ何かわめいたとしても、取り囲まれ殺されるだけだ。

軍を止めれば不届き者として捕まえられ、処刑されていた。

止めてくれて良かったんだ。

その時に死んでいたら、ティカと夫婦になれなかった。

その時に死んでいたら、ユニアもレンと出会えていない。

そして、その時に死んでいたら、お前もエンリアと出会えていないだろう。

そう、モロウは話した。




あの時の、農村からそのまま出てきたような男が、今俺を救ってくれている。

やはり、飲んで酔おう。

今日は酔わずにはいられそうにない。


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