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魔術師、開眼する 二

レンはまた、新しい技術を手に入れていた。

ティカが呆然としているが、驚かせてばかりで申し訳なく思ってしまう。

ほう、と息を吐くと、ティカはレンの肩を掴んだ。

「うん。

すごいわ、レン。」


レンについての話を聞き、レンのそばで見ていると、才能や実力なんてものが馬鹿馬鹿しくなってしまうとティカは思っていた。

つまりは頭の柔らかさなのだ。

レンはその柔らかい頭で、自分達普通の魔術師が無意識の内に決めつけて考えようともしなかった事を実行している。

そう理解出来て、そして単純にすごいと感じたのだ。

レンを見ていると、自分にもまだまだ出来る事がある、まだまだ高みに登れる、そう思える。

「帰ったら、私もやってみようかな。」


デュラハンは剣を残した。

片手で扱う程の、彼が使っていた剣を。

「これ、ユニアが使うか?」

「良さそうな剣ね。

帰っての鑑定次第で使うかしらね。」

レンの魔力感知に反応があり、魔力が込められている事もわかる。

少し汚れているが、あのデュラハンが残した物なのだ、とモロウは良い物である事を確信している。

ひとまずは部屋に入れる事にした。

「そうか、心底便利だな!」

「たくさんは入れられませんけどね。」


「魔力が、魔物が動いてます・・・、これは!

早く行きましょう、一旦退きましょう!」

レンが慌て始めたのは、部屋から帰った直後だった。

その言葉が表すものは危機。

三人はすぐに行動へ移った。

先を行くレンを追い、モロウが走る。

ユニア、ティカと続くが、ドラゴンと戦った部屋直前の十字路で、戦闘は始まっていた。

レンが魔弾で魔物を足止めしている。

「早く、先に退いて下さい!

私も後に続きます!」

四人はドラゴンの部屋まで退く。

「相手は何だ?

どんな奴だった?」

「多分悪魔種です。

二体見えましたけど、反応はまだありました。

後に続いて来ています。」

「それならここで迎撃するわよ。

部屋の入口を固めれば、こっちが有利だわ。」

「ここからなら、危なくなってもすぐ戻れるし、私は賛成。」

ティカの案に残りの二人も頷き、待ち構える陣形を取った。

入口左右に戦士二人が陣取り、正面少し離れた位置から魔術師二人が通路目がけて魔法を撃ち込む。

魔物側からも魔法が飛来するが、レンの魔弾に接触し、炸裂。

こちらまでは届かない。

「一体来ます!

すごい、強引に突っ込んで来てます!」

二、一と秒読みし、飛び出して来る機を戦士二人に知らせる。

合わせてモロウが大剣を振るった。

腹部にめり込み、悪魔は後方へ倒れ込んだ。

そこをティカの炎柱が襲う。

炎に巻かれ、悪魔の絶叫が響く。

レンの魔弾が降り注ぎ、一体目は絶命した。

塵となって消える。

「残りの反応は四です。」

「さすがにこれを見ては、続けて来る気にはならないか?」

「今の悪魔、来る時に障壁を使ってたんだけどね。

モロウが構わずぶった斬っちゃったから。」

「けど、悪魔ならこのままにはしないわよね。

連中、誇り高いから。」

四人は警戒をつづける。

人間に良いようにあしらわれたとあっては、悪魔達も我慢なるまい、と考えた。

魔弾の雨を間に挟み、睨み合いが続いた。


「二体、並んで来ます!

その後に他の二体も!」

「焦れて来やがったか!」

二体が障壁で守りながら迫る姿が見えた。

同じ要領で来る機を知らせるが、今度の悪魔は持つ武器で守った。

前衛同士が戦闘を始め、悪魔の後衛二体は前衛を支援している。

これ以上の魔弾は前衛二人の邪魔になると判断したレンは弾幕を止め、一点特化の魔弾を放つ。

大型の、体格に優れた鰐顔の悪魔に炸裂した。

受けた鰐顔の前衛は吹き飛びはしないものの、大きく体勢を崩す。

その隙にユニアが畳みかけた。

反応して援護しようとするクローク姿の後衛悪魔にも魔弾を飛ばし、こちらは遥か後方へ弾かれて飛んで行った。


気迫を込めたモロウの斬撃を太い二本の巻き角を持つ悪魔が斧槍で打ち返す。

女性型の見た目に反して、その細腕は強靭だった。

一合二合と大きな音を轟かせて打ち合い、直後素早い石突きがモロウの胸を襲い後方へと押しやる。

さらに打ち合いは続くが、モロウは相手の技量の高さに舌を巻いた。

「やるじゃないか!」

「貴様もな。

人間にしておくのが惜しい。」

その悪魔は、人の言葉を解するようだった。

互いを好敵手と認識した一人と一体は、自然と一騎討ちへ移行して行く。

激しい金属音を響かせて、誇りを賭けた戦いが始まっていた。


「もう、心配ばかりかけて・・・。」

そんなモロウを視線の端に見ながら、ティカは後衛の悪魔と魔法戦を繰り広げる。

長い杖を持ち、鍔広の帽子をかぶった悪魔は、ティカと同じように中級魔法を撃ち放つ。

お互いに飛来する魔法は相殺し、地点に引き起こす魔法は障壁で防ぐ。

始めは互角だった戦いも、しかし次第に守りに回る事が増えて行った。

悪魔の障壁は絶妙で、無駄無く早かった。

そして展開とほぼ同時に攻撃に転じる。

隙が無いのだ。

悪魔は恐らく、レンがやって見せた同時に魔法を使う技術を持っているのだ。

ティカはまだ試していない。

しかしそれが出来なければ、五分に持ち直す事すら困難だ。

(やるしか無い!)

幸い、レンの姿は眼前で見ていた。

同じようにやれば、出来るはず。

杖で攻撃魔法の魔力を練り、杖の無い左手で障壁の魔力を練る。

頭と腕がどうにかなりそうだった。

慣れない負荷が、押さえ付けられるような重い感覚をティカに与える。

(やるしか、無いのよ!)

鋭く悪魔を睨み付け、襲い来る魔法を障壁で弾いた。

そして同時に、風槌を打ち下ろす。

成功した。

ティカは、魔法を二つ同時に扱えるようになった。

内心で喜ぶが、それでも悪魔と並んだだけ。

戦いは、これで互角になっただけなのだ。

油断は出来ない。

「多数で少数に当たるってのが、戦いの基本でしょうが!」

突然の荒げられた声と共に、悪魔の障壁を鋭い突きが襲った。

ユニアが加勢に入ったのだ。

そうなれば、いかに魔法に長けた悪魔と言えど長くは持たない。

ユニアとティカの連携を前に、悪魔は塵に帰った。

「あと一体!」


「邪魔すんじゃねえぞ。」

モロウと双角の悪魔が睨み合う。

斧槍を時にはその細い片腕で軽々操る悪魔は凄腕の戦士だった。

しかし、この数日続いた戦いですっかり調子を取り戻し、さらに腕を上げたモロウは互角に対抗していた。

「デュラハンの時もそうだったけど、兄さんの悪い癖も戻って来ちゃったみたいね・・・。」

モロウは強い相手と戦い始めると、こうして己を試すようなところを持っていた。

生き返って以降なりを潜めているように見えていたが、やはり変わってなどいなかったのだ。

ユニアは早々に諦めて、戦利品の回収を始めた。

クロークと帽子が残されており、レンの感知で魔力を持つ事が判明する。

「良いものだったら、義姉さんにちょうど良さそうね。」

それからは、モロウの決闘を見守る事とした。


斧槍の素早い連携と織り混ぜられる魔法の攻撃を剣で受け、流し、或いは紙一重の見切りでかわす。

時折食らうが、鎧の厚い部分と後方へ身体を引く事で何とか凌ぐ。

そしてこちらからも大剣を打ち込む。

刃が斧槍で弾かれ、流され、受け止められる。

後半歩届かない。

そんなもどかしさを感じていた。

「やるなあ・・・。」

身体の内側にある沸々としたものが、少しずつ抑制出来なくなりつつある。

抑制しているのは理性だ。

抑えていなければ、悪魔の攻撃を捌き切れなくなる。

そうなれば、例え打ち勝てたとしてもティカを悲しませる事になるだろう。

それが、モロウに歯止めをかけていた。

「その目、狂戦士の気が見えるな。」

悪魔が、モロウにのみ聞こえる声で言った。

それ程の目をしていると言うのか。

モロウに自覚は無い。

「よく抑えている。

守るべきものを理解しているようだ。」

奇妙な悪魔だと感じた。

大きな二本の巻き角、白い首筋までの髪、紅く輝く眼、同じく真紅の唇、豊かな双丘、しなやかな筋肉が覆う起伏の大きい頑強な流線の身体、背中にある小さな皮膜の翼、そして漆黒の肌に整った美貌。

当然人には見えないが、悪魔が少し低めの穏やかな声で話している。

これまで対して来た者共とは違う精神を持っているようだ。

「私に拮抗する戦士と、悪魔と戦って尚欠ける事の無い仲間。

どうやら勝ちの目は無いらしい。」

悪魔は構えを解き、その戦いをここまでと認めたようだ。

「私の負けだ。

どうだろう、私を雇わないか。」


悪魔の提案に、四人は呆けた。

命と魂を奪わない代償として、四人に仕えようと言ったのだ。

「私はこちらの世界において、この斧槍に宿る事で命と魂を留めている。

これを持っていてもらえれば、私はいつでも召喚に応じ、その命に従おう。」

四人はそれぞれに、面白い提案だと思っていた。

レンは悪魔の知識に、ユニアは悪魔を従えると言う事に、ティカは戦力を増強する事による安全性に、そしてモロウはその技量に、興味を抱いた。

「乗った。」

そして、四人の意見は揃った。

そして悪魔は、テヘラと名乗った


すっきりとした、それでいて凡庸ではない姿の斧槍は、決して軽い物ではない。

攻撃を受けたモロウは理解していたが、充分な重量を持っている武器だ。

しかしティカですら、それを軽々と扱う事が出来た。

「その斧槍は、魔術師が扱うものとして作られたそうだ。

だから非力な者でも振り回せるよう、その力が与えられている。

そして魔術師が扱う事を想定しているのだから、当然杖の役割も備えている。」

「それなら、ティカが使うか?

テヘラが守ってくれるなら、俺も安心だしな。」

この斧槍さえあれば、挟撃を受けたとしても問題無く戦える。

テヘラならば、接近戦も問題無く立ち回ってくれるだろう。

「持つなら、私かレンになるわよね。

今更違う種類の武器なんて持つ気無いでしょ、二人には。

レンさえ構わないなら、私が持つわ。」

何せ、その悪魔は女性型だった。

最近のユニアはこれまで見た事が無い程嫉妬するようになっている。

レンが浮気など考えられない事であったが、精神衛生上良くないならば避けておくべきだ、と考えたのだ。

「私は身軽なのが好きなので構いません。

ティカさん、どうぞ。」


一行は部屋で一泊し、一旦帰途についた。

体力的にも食料的にも問題は無かったが、やはり日を浴びられないのは精神的に疲労を生んだ。

迷宮内の閉塞感もあり、一度外に出るべきだと判断が一致したのだ。

「やっぱりお日様浴びないと駄目ですね!

気持ちいい・・・。」

「空気もね、全然違うわ。」

外に出るなり、レンとユニアが破顔した。

モロウとティカも同意見で、四人は大きく、深く呼吸を繰り返した。

「これでもレンのおかげで、他の冒険者より随分ましなんだけどね。」

「しかしさすがに八階だからな。

良い緊張感だが、張り詰めっ放しはなかなか来るものがあったぜ。」


いつもの酒場で昼を食べ、四人は早速錬金術師を訪ねた。

デュラハンの剣と悪魔のクローク、帽子を鑑定してもらう。


剣は、炎の剣と呼ばれるものだった。

直線的で鋭い刃、炎の意匠の装飾が施された鍔、握り易い柄に末端の赤い宝石。

魔力を注ぎ、貯蓄しておく事で任意に炎を出せる剣だった。

言葉で発火と消火を行う。

「ほれ、ユニア。

片手の剣ならお前だろ。」

「魔力は任せて下さい!」

「ありがと、レン。

お願いするわね。」

鞘は無いので、後程作ってもらう事にした。


そのフード付きの白いクロークは、光通しと言う名を与えられていた。

纏う者の姿を隠してしまう力を持っている。

「何で光通しなんだ?」

「目はね、光の反射を受けて物を見ているのよ。

だから光を通してしまう事で反射を防ぎ、姿を隠すの。」

「ふむ、よくわからん。」

兄夫婦の会話を他所に、ユニアはクロークをレンの手に渡していた。

「斥候をお願いしてるんだから、これはレンの物ね。

身を隠せれば、より安全に進めるわ。」

「ありがとうございます。」

先行偵察の役割も、これで少しは楽になるだろう。

浅く進んで感知で探る事がほとんどだったが、これからは目で確認するところまで進めそうだ。


最後の鍔の広い帽子は、二つ目の杖と名付けられていた。

力はその名の通りのものだ。

魔力をあらかじめ注ぎ、貯めておく必要はあるが、念じる事で帽子からも魔法を使えるのだ。

魔術師垂涎の魔導具だった。

「これもレンかティカだな。」

「中級使えますし、ティカさんどうぞ。」

「良いの?」

それをかぶれば、ティカは三つの魔法を同時に扱える事となる。

突然の大幅な戦力上昇に、軽い目眩を覚える。

「良いって言うんだから、使いなよ義姉さん。

大魔術師の仲間入りね。」

ユニアの嬉しそうな笑顔がティカにとっても嬉しかった。


「ついでに、その斧槍も見てもらおうぜ。」

正確な性能を知る。

それは戦士として当然の事である。

「これは・・・難しいね。

名付けるなら、絶望を封印する者。

いや、希望の先導者の方が良いかね。

そう言った意味の古代語が使われているよ。」

「随分仰々しいわね。」

はっきりとした名称が告げられないのは初めての事であった。

変わった名付け方でもされているのだろうか。

ティカは不思議に思った。

「会話では使わないような、まさに仰々しい言葉が使われているんだよ。

そのまま発音するなら、ハル・テヘラ・ディグザルド。

力は魔法の発動体となる事、使用者に一切の負担を与えない事だね。」

「テヘラ・・・。」

それは悪魔の名前だ。

その名が付けられていると言う事は、この斧槍はそもそも最初から、テヘラを封じるために作られているのだと考えられる。

しかし、鑑定ではその力を見れなかったようだ。

いわゆる込められた力とは違う種のもの、と言う事か。

迂闊に聞くわけにも行かず、今は何も言わない事とした。

四人は目で意図を共有する。

テヘラは、何者なのだろうか。

聞けば答えてくれるとは思う。

しかし偶然手に入れたようなものの自分達が聞いて良いような事柄なのだろうか。

そう考えれば、やはり今は聞かずにおくのが最良だと感じる。

(あなた、何者なのよ?)

ティカはそっと、斧槍を撫でた。


(テヘラは絶望。

ディグザルドは打倒する、封じる、無力化する、退けるなど、否定する意味を持つ。

一方で反転する、転じる、転変するなど、ひっくり返す意味も内包している。

そしてハルは、新生する、新たにする。

或いは新しい者に付けられる言葉。

それは、エルハルやイルハルのハルと同じ。

この子達、一体何を拾って来たんだろうね・・・。)

錬金術師は、年若い友人達の身を案じた。


「じゃあそれ、希望の斧槍ね。

単純に行きましょ。」

捻りは無いが分かり易く、意味も外れていないのでユニアの命名で決まった。

帰宅した四人は、今回得たものを確認する。

「俺は特に無いが、まあ良い経験を積めたかな。

デュラハンもテヘラも強かったからな。

テヘラとはまた今度、手合わせしてもらうか。」

剣と鎧をユニアに手渡し、修復を任せる。

ほんのりと光に包まれた剣と鎧は、ゆっくりと消耗が修繕され始めた。

「私は何と言っても炎の剣ね。

鞘も作ってもらったし、前の剣は部屋に飾ったし。

この剣、刃自体もすごい出来が良いのよね。

早く試したいわ・・・。」

少々危ない気配を漂わせている。

そして、ちらりとモロウを見る。

「ふざけんな、冗談じゃねえよ。」

舌打ちした。


「今回は、私が一番色々手に入れたかしら。

斧槍に帽子に、レンのおかげで同時に魔法使えるようになったし。」

「そう言えば、さっきやってたわね。

格好良かったわよ。」

そう?と、嬉しそうに笑う。

レンも役に立てた事を喜んでいた。

「私はクロークと、ティカさんに同じくで魔法を同時に使う技術ですね。

思い付けて良かったです。」

魔術師二人は、顔を見合わせて笑顔になっている。

「姉妹ね・・・。」

「姉妹だな、完全に・・・。」

将来的にもそうなる予定なので、問題は感じない。

「弟!

弟ですからね!」


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