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城内都市のある世界 一

ユニア、ルナ、レミレラウラが拐われ、レンとメスティファラスが旅立った日から、およそ三ヶ月が過ぎた。

幾つもの階層を下り野宿を繰り返して、ようやく三人は青空の下へと帰って来た。


「空が、青い!

木々が緑だわ!

水も透明で、赤でも黄色でも黒でもない!

やっと、馴染みのある色になったわ!」

「後は住人が眷属かどうかですね。」


ユニアとルナは、見知った色彩を持つ世界に見惚れた。

この三ヶ月の間はずっと目に映る全てが異常で、しかしそれにも慣れてしまった。

だからこそ、この空の青や木々の緑、川の透明な水、大地の土の色が美しく見えた。


「現在、合計で二十八層を下りました。

先は長く感じますが、下れば下る程楽になるはずです。」

「人が住んでいるところまで下りられれば、普通に過ごせるわよね。

それまでの辛抱だわ。」

「一ヶ所に長く留まって力を蓄えて幾つかの階層を一度に下りる、と言う手段も取れます。

ずっと楽に下りられますよ。」

「それならお金、稼がないとね。

冒険者稼業再開かしら!」


全ては眷属の領域を抜けたら、の話だが。

まずはその確認をしなければならない。




三人は、やはり川に沿って下る手法を選んだ。

人里は見つからなかったとしても、渡るための橋があればそれは街道だ。

そこから辿って町に着ける。

大河と言える太さなので、橋ではなく船で渡るのかもしれない。

そちらだったとしても、船着き場は街道の突き当たりになるだろう。

どちらでも構わなかった。

そうして歩いて、それを目にした。


始めは遠くに、何かの影が見える程度のものだった。

近付けばそれが建物であるとわかる。

聳えるような城のようで、城下街の存在を期待した。

しかし歩けど歩けど辿り着かず、それが途轍も無い大きさなのだと知るに至った。

そうと気付けたのは、大河の真上にあって尚且つ、その幅を上回る大きさだとわかったからだ。

幾つもの尖塔が天へと突き立ち円に並び、中央の一際高い一つを囲む。

よく見れば幾つかの輪で尖塔は繋がっており、中央にも各尖塔から線が伸びている。

尖塔は下部で巨大な建物となって一つに繋がっており、裾が拡がるように大地へと根差している。

ようやく辿り着いたそれは、あまりにも大きな規模の城だった。




「やっぱり、眷属の城?」

「ここからでは・・・あ、いえ!

門が彼らの大きさにはなっていません!」

「あら、本当・・・。

って事は、やっと人の世界に来られた?」


門が開いていくところが見える。

そこから、何騎もの騎兵や何台もの馬車が走って出て行く。

街道を走り、何処かへと進軍するようだ。

軍の列が終わると門は閉じる。

その大きさはユニア達の知る程度であり、人が作るものだった。

騎馬に乗る兵達も人型の姿をしており、この世界が人の住む世界だと知る事が出来た。


「やったわ・・・、ここは眷属の世界じゃない!」


ルナと抱き合って喜ぶ。

まだまだ幼さの残る笑顔がユニアには堪らなく愛おしく感じられた。

その笑顔は、もう二ヶ月以上は見られなかったものだ。

ユニアが笑いかけても疲れ果てていて、それでも必死に付いて来ていた。

不満を漏らす事も無く、けれど代わりに笑顔を無くしていた。

感情を失ったかのように無口で、表情からは疲労の色しか見えていなかった。

それがやっと、笑顔になった。


「よし、行くわよ!

どんな城なのか、たっぷり見せてもらうわ!」

「うん!」


幸いな事に、旅人らしき者達の姿もあった。

まずは彼らと話そうと考え、そちらへと近付く。

見てわかった事は、彼らは雑多な一団だったと言う事実だ。

人間もいる。

しかしそれだけではなく、人型の魔物達が大半を占める一団だったのだ。


「おや人間さん。

二人旅かい?

珍しいね。」

「え、ええ。

そうなのよ、二人でここまで来たの。」


蜥蜴人が気さくに応じた。

勇壮な体格の、青い肌の雄だった。

彼と同族の青い蜥蜴人が他に二人、薄茶色い体毛の犬人が二人、深い赤の羽毛を持つ鳥人が一人、それに人間が男性二人、合計八人の冒険者らしき一団だ。


「美人さんの二人旅じゃ大変だろう。

とっとと入って、休んだ方が良い。」

「そうね。

途中まで一緒に行っても良いかしら?」

「そりゃもちろん。」


一団に紛れ、ユニアとルナは城へと向かった。

門の近くまで来ると兵が十人程出て来て、先頭から身なりの確認が行われる。

オーガのように大柄な二人組の兵が、ユニアを見咎めた。

抜き身の刃に視線は注がれている。


「やっぱり、駄目?」

「まあ駄目だな。」

「賊に拐われて、これだけで逃げて来たのよ。

だから他には何にも持ってないわ。」

「それは難儀だったな・・・。

鞘くらいなら幾らもせんだろう。

来い。」


二人の兵はユニアとルナを連行する。

ユニアは一団に手を振って挨拶を済ませ、後へと続いた。

城の一階は広大な空間が広がっており、そこに街があった。

たくさんの家屋が立ち並び、中央を通りが突き抜けている。

太い柱や壁などがあちこちにあり、見上げる程の高さの天井を支える。

天井には幾つかの光があり、まるで日差しのように街を照らし、暖めていた。

兵達はその中央通りを進み、一軒の店へとユニア達を誘う。

そこは武器の店で、幾つもの見た事のある武器や、幾つかの見た事の無い武器などが陳列されていた。


「主人、失礼する。

彼女の剣に合う鞘は無いか?」

「どれ、見せてみな。」


渡すと長さや幅を見て、適当な物を持って来た。

一度分解して当てて合わせ、調節して完成となる。

主人は手慣れており、瞬く間に整った。


「三十ザーラで良いぜ。」


ザーラ、と言うのが貨幣の単位なのだろう、とユニアは考える。

四国や八石では、鞘はおよそ銅貨三枚だ。


「女、これは貸しだ。

この街で三十ザーラを稼ぎ、返しに来い。」

「わかったわ、ありがと。

仕事って、何処で探したら良い?」

「心配するな。

斡旋所まで案内してやる。」

「親切ね。

助かるわ。」


久しぶりに会う他人が親切な者ばかりで、ユニアは嬉しくて始終笑顔だった。

絶世の美女であるユニアの笑顔はあまりにも魅力的だ。

兵二人は実のところ、とうに魅了されている。

だからつい親切にしてしまう。

そんな事情だった。




案内された場所は東門前区画の中央にある、白く大きな建物だった。

三階建て程の高さの、奥に長い形をしている。

中へと入ってみると、たくさんの人々で賑わっていた。

白いローブを来た人物が何人かいて、接客でもしているように見える。


「レンさん!」


兵の一人が、ユニアの大切な人の名を呼んだ。

耳を疑い、そして目も疑った。

そこには白いローブを纏った、三編みのレンが立っていた。

名を呼ばれ、レンはこちらへと歩いて来る。

ユニアもルナも、あまりの事に動けなくなった。


「この方に、仕事を斡旋してくれないか?」

「旅の方ですね?

もちろん構いません。」

「助かるよ。

一応話しておくと、三十ザーラなんだ。」

「それならすぐですね。

わかりました。

私が責任持って、稼がせてみせます。」

「ありがとう。

レンさんなら安心だ。」


それから兵はユニアを見る。

そしてようやく、異常に気付いた。


「レン、なの?」

「どうしました?」


ユニアは思わず抱き締めた。

思わぬ再会に、止まれなかった。

目尻を滲ませて、胸に掻き抱く。

しかし、その瞬間に違和感を覚えた。

華奢な身体は相変わらずで、女性的な抱き心地も懐かしいものだ。

しかし、あるはずのない感覚を覚えた。

一度身体を離し、その胸に手を触れる。

そして、柔らかい感触。


「ちょっ、何するんですか!」

「え、女性?」


別人であった。




事情を簡単に話せば兵二人は笑い、レンと言う名の女性も納得してくれた。


「旦那さんと間違えたのか!

そんな事もあるんだな!」

「本当にごめんなさい!」

「事情はわかりましたし、もう大丈夫ですよ。」


自分達の事は、兵に話したそのままにしておいた。

賊に拐われ、何とか逃げ出したものの、ここが何処かすらわからない。

旅を続けて帰るための資金を得たい。

そう話した。


「それじゃ、レンさん。

後は任せたよ。」

「俺達は仕事に戻る。」

「はい、任されました。

お疲れ様です。」

「ありがとね!」


ユニアとルナは手を振って見送る。

まず三十ザーラ稼いで、しっかり返す。

それから何かで、恩に報いたいと考えた。


「では改めて。

レンと言います。

この斡旋所で、主に旅の方に仕事を紹介してます。まずは、お名前を伺っても?」

「私はユニアよ。

この子はルナ。

叔母と姪の間柄ね。」

「よろしく・・・。」

「はい、よろしくお願いしますね。」


笑った顔までレンにそっくりだった。


「それで、目標とかあります?

何ザーラまでとか、何日滞在するとか。」

「そうねえ・・・。

二ヶ月は最低でもいたいかしら?」


ユニアは、ここでレミレラウラの魔力を貯める方法を選ぶ事にした。

二ヶ月あれば、十層下る程度の力になる。

その間に金を稼ぎ、旅に必要な物を揃えるつもりだった。


「腕に自信はありますか?」

「あるわね。

何だってぶった斬ってみせるわよ。」

「すごいですね!

ルナさんはどうします?

お仕事します?」

「私は、魔術師。」

「そうなんですか!

それなら、臨時の兵士なんて如何ですか?」

「臨時の、兵士?」


仕草が全てレンのままで、ユニアとルナは不思議な気分を味わっている。

驚いた時の表情や身体の動き、何かを思い付いた時の手を軽く叩き合わせる動作。

どれもこれもが懐かしく、早く会いたいと言う気持ちを掻き立てた。

そんな事とは露とも知らず、レンはにっこりと微笑んで頷く。


「はい。

一ヶ月単位の契約で、街を巡回したり外で魔物退治をしたりと、旅の方の力を借りているんです。

武具などは貸し出されます。

宿舎は一般の宿を利用していただく事になりますが、その費用も指定の宿であれば食費含めて支給されます。

それで一日五十ザーラが基本の給金となりますね。

そこに仕事内容次第で追加があったりします。

魔物退治に行くと、まずそれだけでもらえますよ。

後は、暴漢を捕まえるとかですね。

どうでしょう?」

「ふうん・・・。

悪くないかも?」


荒事には慣れているユニアだ。

自分なら問題無い。


「ルナと離されたりしないかしら?」

「それはこちらから頼んでおきます。

離されそうになったら、規約違反として私のところまで来て下さい。」

「頼もしいわね。」

「これでもこの仕事、長いですから!」


レンと同じに年齢不詳であるようだ。

そんなところまで似ている。

もう、ユニアには他人と思えなくなっていた。


「ところで今夜、宿に泊まれないんですよね?」

「う、そうねえ・・・。

文無しだものね。」

「それなら、私の家に来ませんか?

レンさんの話、聞いてみたいですし!」


二人はありがたい申し出に甘える事とした。


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