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魔術師が希少な世界 一

レンが気付くと、そこは何処かの部屋だった。

寝台の上に寝かされており、そばには荷と外套、剣も置かれている。


「起きたか、レン。」

「ここは何処でしょう?」

「今回はな、町の中に出てしまったのだ。

ここは町の衛兵の詰め所だ。

奇しくもまた、衛兵の世話になる事となった。」


メスティファラスが低く心地好い声で教えてくれる。

詰め所だと言われて見れば、彼らが仮眠を取る程度の部屋なのだろうとわかる。

寝台が二つあるのみなのだ。

ひとまず起き上がり、剣と外套を身に付けて荷を背負う。

それから部屋を出ると、そこはもう詰め所となっていた。

四人程の衛兵が談笑している。


「おう、起きたか。

痛めてるところは無いか?」

「はい、ありがとうございました!」

「そしたら、ちょっとだけ聞かせてもらっても良いかね?

君、突然現れたそうなんだが、何か心当たりは無いかい?」


ここは、当然だが何もわからない振りをするしかない。

レンは心苦しいが、嘘をつく事にした。


「あの、ここは何処なのでしょうか?

突然現れたのですか?

私はただ旅をしていただけなのですが・・・。」


衛兵四人はそれぞれに、同情するような表情を見せる。


「奇妙な現象だが、何かに巻き込まれたかな。」

「いきなり現れただけならまだしも、気を失っていたからな。

悪戯な魔術師がやったのかもしれん。」

「こんな愛らしい冒険者に、何て惨い事を!」

「ともかく、もう少し付き合ってくれるかな。

確認しなければならない事もあるからね。」


そうして、質問攻めとなった。

名前や出身地、直前までいた場所の地名などだ。

もちろん彼らの知らない事ばかり。


「この子はもしかしたら、俺達の知らない程遠くから来たのかもしれないな。」

「それじゃ、帰れないじゃないか。」

「それどころか、金も無いのではないか?」


衛兵達の同情が、さらに強まる。


「お金ですか。

これ、使えますか?」


使わなかった銅貨一枚を見せる。

これ以外にあと二枚、銅貨が残っている。

使えるかもしれない可能性があったからだ。

絵柄は違うものの、銅貨であれば同じと判断されるかもしれない。

使えなくとも、三枚程度邪魔にもならない。


「見た事の無い銅貨だな。

使えるんじゃないか?」

「これだったら、収集癖のある貴族に売れるだろ。

そっちの方が良いと思うが。」

「なるほどな。

それなら案内してやれよ。」

「そうだな、行ってくるか。」


と言う事で、衛兵一人がレンをある貴族の下まで送った。

話を通してくれて、その貴族に会う。


「このお嬢さんが噂の。

なるほど、そういう事なら私も快く応じよう。

見せてくれるかね?」

「はい、お願いします。」


銅貨三枚を出し、レンは貴族に渡した。

貴族は目を凝らしてよく見、一つ頷いて銅貨を置いた。


「これならば、一枚当たり銀貨二枚で買おう。

どうだろう?」

「さすがですな!

銀貨二枚とは!」


レンにとってはただの銅貨だ。

それが銀貨、それも二枚となるならこれ以上の話も無い。

二つ返事で了承した。


「ありがとうございます!」

「こちらも珍しい物を手に入れられて良かったよ。

また何か手に入ったら、いつでもおいで。」


そうしてレンの銅貨三枚は、銀貨六枚となった。




「そうだ。

銀貨一枚は、銅貨百枚の価値がある。

銀貨百枚で金貨一枚と同等だ。」

「そうなんですね。

それじゃ、私にとっては二百倍のお金に・・・!」


衛兵は笑った。

レンの頭を手の平で優しく叩く。


「良かったじゃないか。

でも、味をしめちゃいかんよ。

お金は地道に稼いでこそ、だからな。」

「はい!」

「良い返事だ。」


それから衛兵は、レンを商店街にある組合まで案内した。

そこは商人たちの組合で、行商や冒険者などの旅をする者達の支援も行っている場所だと言う。

衛兵としては、出来る事も多くない。

だから、と組合を紹介してくれるのだ。


「ここなら、きっとお嬢ちゃんに良い仕事をくれるだろう。

国には帰れないかもしれないが、ここで無事に生活していってくれると俺達も嬉しいよ。」

「何から何までありがとうございました。

このご恩は、決して忘れません。」


そうして、人の良い衛兵は帰って行った。


「レンは、人に恵まれるな。

素晴らしい事だ。」

「良い人ばかりです!」


後ろ姿を見送って、レンは組合の建物へと踏み込んで行った。




依頼はやはり、掲示板の形で張り出されていた。

どの層でもこの形と言うのは落ち着く先が掲示板なのか、層が近いから変わらないのか、レンにはまだ判断が出来ない。

しかし慣れたものが変わらないおかげで、わかり易くて助かっていた。

依頼は、やはり商人絡みのものが多い。

冒険者向けの依頼としては、特定の素材となる物の収集や隣町までの護衛などだ。

また以前のように護衛でも受けようかと考えていると、メスティファラスが小さな声でレンに声をかけた。


「どうしました?」

「レン。

魔術師らしき者が一人もいない。」


言われて周りを見てみると、戦士や盗族のような姿は見受けられるが魔術師は一人としていなかった。

杖を持つ者が一人もいないのだ。

短杖すら見かけられない。


「これは由々しき事態ですね・・・。」


魔術師がいないのだとしたら、自分で理を探し当てなければならない。

気が遠退くようだった。


「しかし、全くいないわけではないはずだ。

衛兵の一人が魔術師の話をしていた。

数が少ないか、杖を必要としないのだろう。

悲観するにはまだ早い。」

「そうですね。

まずは探してみましょう。」


レンはまず、冒険者に聞いてみた。


「魔術師の方って、いらっしゃるのでしょうか?」

「あまり見ないね。

俺が最近見たのは・・・、一年は前かな?

ふらっとこの町に来て、護衛の仕事を受けて行ったぞ。」

「お嬢ちゃん、魔術師を探してるのかい?」

「はい、そうなんです。」

「秘密主義の上に少ないからな。

なかなか会えないと思うぜ。」

「俺は見た事も無いな。

そんな冒険者も結構いるくらいには、少ない。」


幾人かに聞いたが、誰もがそんな答えだった。

この世界では、魔術師が希少であるようだ。

姿としては、杖を持つらしい。

だから、見ればわかると言う。




情報を得て、レンはひとまず宿を取った。

部屋で相談し、方針を決める。


「ここで会えるのを待つか、探しに向かうか。」

「或いは枷を砕くか・・・。」

「それは、俺は勧めん。」


メスティファラスは、レンの言葉に難色を示した。

かつて彼が方法の一つとして挙げた事なのだが。


「どうしてです?」

「魂への負担が強いのだ。

お前の魂が、持たない可能性が高い。」


持たなければ魂が砕ける。

それは存在の消滅を意味する。


「それでも、いざとなればやります。

私は、立ち止まれない。」

「その時には俺も、全力で支えるがな。

忘れるな。

俺達はユニア、ルナ、レミレラウラの三人を無事に取り戻すために向かっているのだ。

そのためなら手段は選ばんつもりではいる。

だがな、俺にしろお前にしろどちらが欠けても失敗なんだ。

先走るなよ。

俺達は、俺達自身を無事彼女らに会わせなければならない。

危険な旅だが、自ら危険に飛び込む事など俺が許さん。」

「・・・そうですよね。

ありがとうございます。

私もよく覚えておきます。」


やはりメスティファラスがいてくれて良かった。

レンは改めてそう実感し、感謝した。

自分だけだったなら、きっと躊躇わずに試すだろう。

今はやり方すらわからないが、知れば必ず試していた。

そして魂を砕いてしまう結果を招く。


「お前が無茶をやる男だと言う事は、俺が一番よく知っているからな。

ユニアがそばにいない今、それを止めるのは俺の役割だ。

だから、何度でも止めてやるさ。」

「酷い言われ様ですね・・・。」

「ユニアも案外止めなくて、ひやひやしたものだがな!」


二人で笑った。

ユニアとも長く過ごして来たが、メスティファラスとはそれを上回る付き合いなのだ。

それを思うと、安心感に包まれる。

そして暖かい気持ちを抱いて眠りに就いた。




結局方針としては、待つ事を選んだ。

大きな隊商が向かっている、と言う話を聞いたのだ。

もしかしたら、魔術師が同行しているかもしれない。

そんな期待を抱いていた。

その間は、細々と仕事を受けて宿代の足しにした。

一泊銅貨五枚の宿に泊まっているので、銀貨が六枚ある現状では必要の無い事なのだが、この銀貨を何となく使いたくないと感じたのだ。

それはただの貧乏性と言われるものだったが、より上の階層へ行った際にさらに高価になるかもしれないと言う思いもあった。

一枚だけは崩して使ったが、残り五枚は大切に包んで懐にしまっている。


受ける仕事は採集の物が多い。

隊商を待つのだから、町からは遠く離れられない。

すると、町の周辺で出来る依頼に限られてしまう。

護衛などはまず無理だ。

新たに街道を塞ぐ悪漢の討伐依頼なども出ていたが、これも行き帰りで何日か取られるので却下だった。

魔術が使えない今では、返り討ちとなる危険もある。

なので、選択肢に入らない。

満足に出来る依頼は、採集くらいのものだったのだ。

ついでに良さそうなものもあらかじめ取っておけば、後で依頼があるかもしれない。

そう考えて、節度は守りつつ種類多く採集した。


森の中に入っての作業だったので、やはり魔物には襲われた。


「えっと、オーク?

それともコボルド?」

「いよいよ変わり始めたか。

猪人間、と言ったところだな。」


毛深いオーク、或いは太ましいコボルドと言うような魔物が、棍棒や槍などで武装して現れた。

採集用に買った腰に巻く型の袋に採った物を押し込み、小剣を引き抜く。


「やるか?」

「いえ、逃げます!」


脱兎となって走る。

今の自分では、荷が重いと判断した。

木々の間をすり抜けて、なるべく木を挟んで逃げた。

後方から、槍が木に刺さる音が聞こえる。

投げたのだろう。

もう一本が、頭の上を飛んで行った。

前方に突き刺さる。

その柄を走り抜け様に斬り払っておく。

それで槍としては使えなくなる。

もう一体は棍棒だったために投げては来ない。

走る速度の違いから、レンは何とか逃げ出せた。

森から飛び出せば、後を追っては来ない。

小剣を鞘に収め、一つ大きく息を吐く。


「今日は帰るか?」

「ですね。

明日は違う場所で採集しましょう。」


そんな日々が、四日程続いた。

報酬としては一日七、八枚の銅貨を得られた。

採集用革袋は銅貨十枚だった。

湯は大きな桶一杯を銅貨二枚でもらえたので、二日に一度もらう。

そうでない日は野宿で構わなかったので、二泊で銅貨十枚。

食事は手持ちの物で済ましたので、収支は黒となっている。

レンはにこにこと笑顔だった。


「嬉しそうだな。」

「嬉しいですよ!」


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