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冒険者組合のある世界 四

三人組の二人は、斥候役の言葉を信じていた。

レンを意外そうな目で見ている。

成人したかしていないかの少女が、実は強かった。

普通ならば信じられない話だが、二人は仲間の言葉を信じる事に決めているのだ。


「よく考えたら、一人旅出来るんだ。

強いはずだよね。」

「言われてみればそうだな。

この年でか・・・。

自信無くすぜ。」


そんな理由でも納得していた。


「すごかったんだぜ。

ハイゴブリンが真っ二つだからな。」


ちなみにそれは、魔術師の女性によるものと思われていた。

斬り裂く魔術で倒したのだ、と。

レンの、それも小剣の技とは誰にも思われなかった。


(当たり前だけどね。)


しかし一緒に戦った事は事実として認めてもらえて、よくやってくれたと誉めてもらった。

頭を撫でられて満面の笑みを浮かべる少女が凄腕の冒険者だなどとは、誰しもが思えなかった。


「すげえのは剣だけじゃねえ。

飛び込む速さだとか思い切りの良さだとか、並の動きじゃなかった。

お嬢ちゃんはこの年で相当な経験を積んでるぜ。」

「い、色々あったもので・・・。」


苦笑いだ。

そんな調子で、ごく一部に力の片鱗を認識されてしまった。




商隊は進み、日暮れを迎えた。

理を知り得た今となっては、レンに悟れないものはほぼ無い。

魔力感知によって情報を得れば、辺り一帯の詳細が容易く掴めた。

それによれば、離れつつある森の中にはまだまだゴブリン達がいるとわかる。

そこに集落があるのだ。

もっとも、襲撃して来ない限りは手を出すつもりも無い。

彼らも生きるのに必死なだけだ。

襲われない限りは、わざわざ出向いてまでとは思えなかった。

だが、問題が一つだけあった。

そこに、似つかわしくない者がいるのだ。


「悪魔がいるな。」

「おや、わかりますか。」

「お前と繋がっているからな。

俺が魔力を供給出来るように、お前が使う魔術を覗くくらいは出来る。

ゴブリン達は、あの悪魔の手下のようだ。

悪魔のくせに、随分と小物のような事をするものだが。」

「倒した方が良いのでしょうか?」

「どちらでも構わない。

神にも悪魔にも、与する気など無いだろう?

俺達の目的はただ一つ。」

「そうですね・・・。」


二人はひとまず様子見とした。

来ないなら良し、来るなら火の粉を払う。

そして依頼を完遂し、その後で見に行くなら行けば良い。

行かないなら、次へ向かう。

そう考えておいた。

この場を離れるわけにも行かない以上、選択肢も無いのだが。




名を呼ぶ声で、レンは目を覚ます。

辺りは暗く、まだまだ夜の明ける時間ではない。

ひやりと冷気を感じ、外套の前をしっかりと閉じた。


「レン、奴らが来ているぞ。」

「来ちゃいましたか・・・。」


魔力感知で探れば、その数が五十五であるとわかる。

その内三十はハイゴブリンだ。

彼らの住処には通常種しか残っていないところを見るに、戦力となる者全てを動員しているように見受けられた。

そして、悪魔の姿もある。

報復戦のつもりだろうか。

一様に殺気立っており、退く事などあり得ないだろう。


「ゴブリンがここまで好戦的になるとは信じ難い。

この世界のゴブリンが好戦的なのか。

そうでなければ、奴に唆され扇動されたのだろう。

どちらにしろ、彼らは選んだのだ。

このまま来るなら、戦いになるな。」

「仕方ないんですよね・・・。」

「お前次第だ。」

「え?」


メスティファラスの返答に、思わず抜けた調子で返してしまう。

戦わずに済ます手段など、この段階であるのだろうか。

レンには思い当たらない。


「以前戦争を止めるために、お前は何をした?」


レンが止めた戦争と言えば、皇国の内乱だろう。

その時は両軍の間に陣取り、魔術によって威嚇し押さえた。

それを、ここでやれと言うのか。


「目立つだろうな。

だがそれで、退けられるかもしれん。

でなければこの数だ。

こちらにも相応の被害が出るだろう。

それすらも、お前が力を使えば防げるのだがな。」


葛藤する暇など無かった。

冒険者達が戦闘態勢に入ったのだ。

斥候によりゴブリン達は発見され、その数も確認され、情報がもたらされた。

冒険者と商人の護衛、合わせて二十四。

レンを含めて二十五だ。

対するは三十のハイゴブリンと二十四のゴブリン。

そして悪魔。

勝ち目は薄い。


ごくり、と誰かの喉が鳴った。

冒険者達の目はハイゴブリン三十と悪魔の姿を捉えていた。

その上で、ただのゴブリンではあるが二十四もの数が控えているのだ。

誰もが、勝利への道筋を見出だせずにいた。




少女が一人、前に踏み出した。

その両手から、魔力が溢れ出る。

見える者が見れば、その膨大な輝きに感覚を眩まされただろう。

しかし直後には、その輝きを誰もが目にする事となった。


「四千の槍よ!」


少女の高い声が響く。

同時にその頭上に、数え切れない程の魔力の槍が姿を現す。

青白く光放つ槍は、全てがゴブリン達に穂先を向けた。

両陣営がざわめく。

一面に広がる光の槍、その群れ。

最早壁のようでもあり、その光は夜の闇を煌々と照らし退けた。

あまりにも埒外、目にしている光景を誰もが疑った。

しかし何度目を擦ろうとも、何度瞬こうとも、四千の槍は消えない。

見間違いでも錯覚でも、夢でもない。

誰かが呟いた。


「ば、化物・・・。」


それが聞こえたのだろう。

少女は少しだけ、表情を曇らせる。

けれど顔を上げて、魔物に対峙した。


「退きなさい!

退かない者は全て、この槍で貫きます!

まずは百よ、眼前へ!」


第一射目として、百を彼らの目の前へと降らせた。

地に刺さる百の槍。

それが自らに降り注いでいれば、命は無かった。

しかしその数は、一割にも遥か満たない。

ゴブリン達は震え上がる。

言葉はわからなかった。

しかしそれでも、悟れる事はある。

振り上げられたあの手が言葉と共に振り下ろされれば、自分達は死体どころか肉片となるだろう。


まず、後方のゴブリン達が逃げ始めた。

やがてそれは伝播して行き、ハイゴブリン達も。

そしてレンに睨まれている悪魔だけが残された。


「わかっていますよね?

あなたが何故、私に見られているか。」


悪魔は呻く。

彼がゴブリン達を率いていた。

それは誰の目にも明らかだった。

だから、少女に睨まれていたのだ。


「あなただけは、見逃す事は出来ません。

・・・貫け!」


号令を受けて、全ての槍が降り注いだ。

土煙が悪魔の姿を隠してしまったが、響き続ける轟音に紛れる微かな断末魔によって、その死を知る事は出来た。


冒険者達は呆然として立ち尽くす。

このような魔術師が存在したのか、そもそも魔術師だったのか、それどころか人間だったのか。

少女が姿を消してしまった今となっては、誰にもわからない。

少女は荷物も残さず、悪魔を葬った痕跡だけを残して、消え去ってしまった。




レンは転移して、平原の真ん中に立っていた。

ちょうど魔物もおらず、人もいない。

そんな場所を選んだ。


荷を背負い空を見上げて、頭を振って意を決する。

自分達には目的がある。

そのためには振り返ってなどいられない。

立ち止まればそれだけ、遅れてしまうのだ。


「行きましょう!

私達は先に進まないと!」

「了解だ。

より上へ、行くぞ!」


再び、世界からずれる。

狭間に入り、心臓が止まり、しかし今回は意識を失わなかった。

到着した瞬間に激痛を感じるが、すぐにメスティファラスが調整したおかげでそれも消える。


「大丈夫か?

今回は近かったらしいな。

前回程危なくもなかった。」

「そ、そうですか。

すごい痛かったです・・・。」

「心臓が不具合を起こしたのだ。

痛みが無くてはむしろ困るだろう。」

「それもそうなんですけどね。」


メスティファラスは笑った。

釣られてレンも、笑う。


「近い、と言うのは?」

「世界間の距離もあるが、それは同時に理の近さにも言える。

理の近い世界は、階層を跨いでも近くなるのだ。

囚われ過ぎると把握し難くなるが、糸口にはなるだろう。

言葉によって行使した事、忘れずにな。」

「はい!

早速試してみましょうか。」


レンは指の先へと魔力を集める。

そして、命じた。


「剣を一つ、作りなさい。」


しかし、魔力は形を為さなかった。

やはり、そのままではない。


「残念。

また、探しましょう。」

「それしかあるまいな。

充分気をつけて、行こうか。」


そうして二人はまた歩き出す。

幾つもの世界を渡り、大切なものを取り返すために。

そしてその道程で力を身に付け、二度と奪わせないよう強くなるために。


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