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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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95 オリスの苦悩

 ローザン大公国。

 マルティアーゼが居なくなってから城の中は不穏な空気に包まれ、常にピリピリとした雰囲気を醸し出している。

 ローザン大公ことローザン・オリスと妻アリアーゼの顔からも笑顔がすっかりと無くなって久しい。

 国民には体調不良を理由に公式の祭典や公務を欠席させており、国の太陽、未来の光などと云われていたマルティアーゼを見る事がなくなった人々は、彼女の心配する声や、あの祭りの事件が原因で外に出るのが怖いのでは、それで体調を崩しているのではないか、などと色々と噂が立っていた。

 何故、一体何処に行ってしまったのか、寝耳に水の出来事に大公は全国に兵を差し向け国内のあらゆる場所を捜索をさせたが、何処にもマルティアーゼを見つけることが出来ずに半年が過ぎ、オリスは国外の捜索に切り替えると各方面に向けて調査隊を編成させて直ぐに各地へ派遣させていた。

「一体一人で何処に行ったというのだ……、あれほど外に出るなと云っておいたのに何故だ」

 目の下に隈を作ったオリスは眠る時間がめっきりと減り、元々小太りだった体格も今はほっそり見えるぐらいに体重を減らしていた。

 定期的に戻ってくる調査隊からもたらされた情報は、見間違いや手がかりなしの報告ばかりで、それでも僅かな手がかりが出てきて欲しいと願い、どんなに眠く疲れていようとも兵士との謁見を最優先に考え報告を受けていた。

「貴方、少しはちゃんと眠ったほうが宜しいかと、何かがあった時に対処出来ませんよ」

「分かっておる……分かっておるがどうも気が急いてのぉ……、あのような手紙一つでは何も分からぬ……儂が叱った所為で出て行ったのか……、それなら謝罪でも何でもするから早く帰ってきて欲しい、一人で遠くに行けるわけがない、森の中で寒さと空腹で辛い思いをしてるのかと思うと寝付けんのじゃ、儂はあの子の事を思って云っただけじゃ、それがこんな事になろうとは……」

 妻からの心配も耳から流し、毎日謁見の場で初めに交わされる言葉が我が子に関することだった。

 マルティアーゼの残した手紙には、「自由が欲しい、このまま一生を城の中で過ごしたくない」といった内容で、具体的な不満を知ることができなかった。

 ローザン大公国では進展のない手を揉む捜索のまま、いつしかマルティアーゼが居なくなって一年が過ぎ新年を迎えた。

 入る報告は未だに発見出来ずと、何度も聞いた言葉だけが謁見の間に響く事が通例となってしまったようにその場にいるものは聞いていた。

 寒くなってきたローザン国の新年は寂しく交わされる挨拶からであり、臣下からの新年の挨拶も重く、声を落とした口調でひっそりと行われた。

 皆、大公の心中を察して笑顔もなく、どうにかして早く大公に笑顔を取り戻そうと、色々と宴を催して気分を和らげようとはしてくれていたが、本人は気持ちだけは受け取り出席しようとはしなかった。

「とうとう一年か……、あの子はどうしておるのだろうか、考えたくはないが既にもう……」

「あの子も生きているならもうすぐ十六になりますね、あの子が日に日に大きくなるのをこの目で見てきました、

 何処かで冷たい骸となり果て、風雨にさらされているではないのか、その姿を思い浮かべるだけでオリスの胸は激しい動悸に襲われていた。

「例え亡くなっていようとも亡骸だけは回収し、ちゃんとした場所に埋めてやりたいものだ……」

 ローザン大公国に雪が降り始めると、町も森も境目が判らなくなる程に国全体が白く染まり、それから何ヶ月も溶けることのない深い積雪の季節となっていく。

 そうなる前にどうにかしてマルティアーゼを見つけてやりたいと淡い思いを空に向けて願った。

 茶色と赤の森は葉を落とし、次の暖かい季節に備え衣を替え、枯れた木々は幹に養分を蓄え、新たな力を解き放つ時を静かに待ち続ける。

 オリスもまた国から出ることが出来ずに報告を待ち続けるだけであった。

「儂が国王でなければ自ら探しに行くんじゃが……、王とはこれほどまでに不便なものだったのか」

 昔のように兵を率いて駆け回ることも出来ないもどかしさに、己の不甲斐なさを感じずにはいられなかった。

 アリアーゼもまた夫の苦悩にただ見守っているだけではなかった。

 食事もまともに食べなくなったオリスの為に、少量でも栄養の高い料理を作らせたり、諸侯にそれとなく先に調査報告を聞いていて、何もなければ夫に連絡は不要ですと無駄に心労を増やさないように裏で動いていた。

 民衆に身をやつした調査隊の兵士達は総勢百を超えていたので、その全てをオリスが対応していれば寝る暇もなく体を壊してしまうと、諸侯にお願いしていたのである。

 元が侍女であったアリアーゼは主人への気遣いの心得は忘れておらず、何気ない細かい所にまで目が届き、気付かれないように直していた。

 ひっそりと日陰のようにお淑やかにしていても芯は強く、自分の立場をわきまえた範囲で夫に忠実であろうとしていた。

 いつも部屋に掛けてあるマルティアーゼの肖像画を眺め、物静かに安否を祈り続けながらいつか帰ってきてくれることを願っていた。

 日は過ぎ、暖かい風がゆっくりと積もった雪を溶かし、地面から生きる強さを空へと向けて伸びてくる新芽がそこいらから顔を覗かせてくる。

 世界各地に出かけていった調査隊も、深い雪が無くなりローザンに続く道が通れるようになると続々と帰還してきた。

「……そうか、手掛かりはないか」

 待ちに待った報告からも吉報は聞けず、夫妻の落胆ぶりは目に見えて暗かった。

「マルティアーゼ……、何も云わぬ、何も怒りはせぬ、だから早くその顔を見せておくれ」


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