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案内させた店は導具屋で、そこの店主の言い値で即決で売り払った。
大した金額にならなかったが、スーグリの手を離さずにそのまま武器屋に直行していく。
トムがスーグリに合った剣を探したが良い物が揃っておらず、どうしたものかと考えた末に、一本の槍を手にした。
長さ的にはスーグリの身長より少し短く、剣先は両刃で柄の部分は固い木で出来ているので軽く、値段も安かったので初めに扱う槍としては十分だろうと購入を決めた。
「はいっ、次っ!」
腕を引っ張られたスーグリが無理やり店から連れ出される。
「次は何処行くんですか?」
防具屋にきたマルティアーゼは店に入るなり、トムに外で待っているように伝えると女性店員にスーグリを引き渡した。
「この子の採寸をして、体に合った革鎧一式を頂戴」
「え……?」
焦るスーグリに、
「はいはい、ではこちらへ」
店員に肩を掴まれて奥の小部屋に声を出す暇もなく連れて行かれる。
奥から悲鳴のような声が上がり、それからシクシクと鳴き声に変わってきた。
店員が笑いながら出てきた後に、目に涙を溜めたスーグリが出てきて、
「ううっ、……酷い」
泣きながらマルティアーゼを見た。
「採寸ぐらいでなんで泣くのよ、そんなんじゃ剣士に成れないわよ」
「だって裸にされて色んな所測られたんですよ、……恥ずかしい」
スーグリが顔を手で覆っていると、
「お客様に合う一式ですと、この辺りかと……一度試着されてはどうですか、多少の調整などは出来ますので合わせてみては?」
「お願いするわ」
「え……」
又もやスーグリが店員に連れられて奥へと消えていった。
「だ、大丈夫です、一人で出来ます、いやっ……そこは」
「……着替えるだけなのに何をしてるのかしら」
腕を組んで待っていたマルティアーゼは着替えたスーグリを見て、口元がほころんだ。
「良いじゃない、似合ってるわ」
白い布服の上に肩のない胸当てと手袋、膝までのスカートに長いブーツを履き、腰には分厚いサッシュベルトをつけていた。
全て革で揃えたのは雨にも強く破れにくい、革は長く使えば使うほど色合いに味が出てくるので、見た目にも剣士らしく見えてくるだろうと思ったからである。
「ごわごわしてて、動きにくいですね」
「使っていれば柔らかくなってくるわよ、いいわこれを頂戴、あっ……あとこれもね」
マルティアーゼは壁に掛けてあった外套も一緒に購入した。
「あの……これは……」
「私からの贈り物よ、それなら文句はないわよね、というか文句は言わないでよ」「文句なんて……」
「さぁトムに見せてあげましょう」
外で待っていたトムにスーグリの姿を見せると、
「いいじゃないか、よく似合ってる、すっかり剣士っぽくなったね、ほらこれを持って」
トムは武器屋で買った槍をスーグリに渡す。
「それだけあれば無駄なお金を使わなくて仕事に専念出来るわね」
しかしスーグリの表情は暗かった。
「どうして……どうしてここまでしてくれるんですか? 私、何もお返しなんて出来ないのに」
「私が見返りなんて願ったかしら、私は自分がそうしたいと思ったからしただけ、必要じゃなかったかしら?」
「そうじゃないです、名も知らない私なんかにどうしてかなと……」
「知らないわけじゃないでしょ、お話もしたし名前だって聞いたわ、貴方はミーハマット出身で祖父母が亡くなったからアルステルに来て、お爺さんに剣を教えてもらった腕で働こうとしてるんでしょう」
「そうじゃないですってば、出会ったばかりなのにこんなことをするのが不思議に思っただけです」
「人との距離を測るのに時間は関係ないわ、貴方を見てると昔の私みたいで放おっておけないのよ、一人というのは寂しいもの……頼れる人がいるというのがどんなに心強くしてくれるか、勿論一人のほうが良いという人もいるでしょうけど、必ず人は何処かで誰かに頼らないといけないものよ」
「スグリ、マールさんのすることにいちいち気にしないほうがいい、あげると言われたなら素直に貰っておけばいい、この人は一度言ったら聞かない人だから」
トムは言い合いをしても疲れるだけだと、スーグリを諭した。
「……」
村以外の人にこれ程まで親切にされたことなど無かったスーグリには戸惑いはあったものの、マルティアーゼが心配してくれているのが口調から伝わってくるのは感じられていた。
同じ女性、しかも歳も近かったのがより一層親近感をもたらせてくれたのか、マルティアーゼにそれ以上の反論するのは止めて素直に好意を受け止めようと考え、
「……分かりました、有難うございます、大事にしますね」
「やっと素直になってくれたわね」
マルティアーゼの表情も緩み笑みを浮かべると、スーグリの手を握り、
「いい? 私達はもうお友達よ、何か困ったことがあるなら遠慮せずに言って頂戴ね」
「……友……達?」
「こんなご時世だもの、友達は沢山いたほうが楽しいでしょう、助け助けられる仲間って良いじゃない」
スーグリは何も言わずに頬を赤らめたのを見て、それが彼女からの返事だとマルティアーゼは理解した。




