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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 優しく起こされる母親のようにゆっくりと目覚めたマルティアーゼは、辺りがすっかり朝になっていることに気付いた。

「野宿なのにとても良く眠れたわ」

 大きな欠伸を一つすると、立ち上がってトムを起こした。

 いつもなら起こされる側のマルティアーゼだったが、今日は珍しくトムも気持ちよく眠っていた。

「何だかまだ眠り足りないくらいにぐっすりと眠りましたね、ふあぁ……」

 トムも立ち上がって大きく手を挙げて欠伸をした。

「さて、行きますか」

 支度といっても荷物の少ない二人は直ぐに馬の背に荷袋を積むと、西の街道へと入っていった。

 直ぐに景色は両側の木々に前後の街道といった、殺風景なものになっていく。

 見渡せど、高い木々の間に直線的に作られた街道では何も見えなくて、街道に歩く人の姿すら居なかった。

 朝早いのでまだ人通りも少ないのかと思いながら単調なリズムで街道を進んでいった。

 しかし、陽が暮れ始めても人とすれ違うことなく、心配になり始めてきた頃に数軒の宿屋を発見した。

「今日はここで泊まりましょう」

 二人は単調な旅にいつもより疲れていたので、早めの宿泊をすることにした。

 宿の主に聞くと、三日ぶりの客だと言われた。

「今は旅人より宿屋のほうが多いんじゃないかって言われるぐらいめっきり人が減ったけどね、それでもあたしらはここで生活が出来るぐらいには稼げてるんだ、それにこの宿はあたしのひいおじいさんからの宿だからね、簡単に店を畳むことは出来ないよ、子ども達は継ぎたくないってサスタークに行っちまったから、ここもあたしで最後になるかもね」

 年々宿の主の高齢化に街道沿いの宿屋も減ってきているという、いくら人が減ったとしても街道に来る人は少なからずいるわけで、もし一軒もの宿屋がなくなったら、この怪しい街道で皆野宿する事になるだろうと思われた。

 そうなれば余計にこの街道を行き来する人が減ってしまい、更に恐ろしい噂や怪しい生き物が闊歩する場所になってしまうかも知れなかった。

「中央国がもう少しこの街道を重要視してくれればねえ、何百年も前からある街道には沢山の人の思い出が詰まってるんだよ」

 そう、宿の婆さんは悲しそうに話してくれた。

 五日間、時が止まったような変わらない景色の街道を進み、宿も野宿することなく順調であった。

「あそこに道があるわよ」

 行く先の街道で丁字路に差し掛かった。

「この先は何処に繋がってるのかしら……」

 左側に伸びる道にも石畳が敷かれていて、北の方角へと続いていた。

「この先はベル山の麓だったはずです、その先は確か随分前に無くなったカーディア国だったはずです」

「あの伝説の魔道士の話ね」

「そうです、ですからもうこの道を行っても何もないはずです」

「そうね……」

 そのまま真っ直ぐ街道を進んで行くと、宿場に到着した、しかし、宿の店先で何やら数人の老人達が集まってひそひそと話し込んでいるのに、二人は何があったのか近づいて聞いてみた。

「あんた達、此処に来る時に五人ほどの集団に会わなかったかい?」

 老婆がマルティアーゼに聞いてきた。

「いえ、誰ともすれ違ってないけれど、それが?」

「いやね、ちょいと気になっただけだから、何かあった訳じゃないんだけどね、その五人の中に一人だけ女性がいたんだよ、それがまたこんな小さな子で女の子って言ったほうが良いかね、とても利発な感じの可愛い子なのよ」

 老婆はマルティアーゼの目線の高さに手を上げて、女の子の背の高さを示した。

「その子がなにか?」

「なんでも初めての仕事らしく、依頼所で知り合った人達と仕事に向かうっていうんだよ、ここは傭兵くずれや商人でもってる宿屋だから、大事な客にあまり変な事を聞けなかったんだけど、周りの男達が女の子にあれこれ聞いたり、執拗に優しかったりして何だか気持ち悪さを感じていたんだよ、女の子の方は笑顔で答えていたけど、嫌な目に遭わないか心配でね」

 老婆は手を組み心配そうに宿の仲間達と心配しあっていた。

「嫌な目って何かしら?」

 トムに聞くと、

「まぁ、あのお婆さんの話からして強姦ではないかと思いますが……」

 と、トムが答えた。

「強姦? 女の子が大変じゃない」

 マルティアーゼが驚く。

「そうと決まったわけではないです、心配性の老人の言葉ですよ」

「でも初めての仕事って言ってたわ、騙されて連れて行かれているかもしれないわよ、行ってみましょう」

「ちょっと待ってください、もうすぐ暗くなりますよ」

 マルティアーゼは馬首を変えると今来た道をもどり始める、その後をトムも追った。




「赤と青い石が採れる所ってここで合ってるの?」

 大きなくりっとした目の女の子が隣の男性に聞いくる。

 宿の老婆が云っていた五人の集団は北のサン山へ向かって街道を進んでいた。

「ああ、この道を真っ直ぐ行けばベル山に着くよ、そこの麓に流れる川にあるはずだからしっかり探してくれよ」

 フードを被った魔道士の男が言ってくる。

「はい、赤が二十個で青が十五個っと……、石を探すのに五人も必要ですか?」

「ああ、そんなに簡単に見つけられないと思うよ、かなりの広範囲で手分けしないといけないんだ、それだけの数だと三日は掛かるかもしれないな」

「ほえぇ、そんなに見つかりにくいものなんですか?」

「ああ、それとあまり山の北側には行かないほうが良いぞ、死人が彷徨ってる時があるからね、石拾いに夢中にならないように注意してね」

 男性は優しそうな目で女の子を見つめてくる。

「はい、有難うございます」

「初めての仕事でしょ、何かと戦うわけじゃないんだし緊張しなくてもいいよ、頑張って初仕事を成功できたらお祝いしよう」

 丁寧に説明を受けて仲の良さそうに会話をしながら、目的の川まで来た。

「わあ、綺麗ですね」

 手で水をすくうとひやりとした感触が伝わってくる。

「とても冷たいです」

「ベル山も今は山が暴れているけど、昔は緑に覆われた綺麗な山だったそうで沢山の水を貯めているからね、この水を求めて此処に来る人もいるぐらい美味しいみたいだよ、それよりさっさと石集めを始めよう、陽が暮れるまでが勝負だ」

「おう」

「だな」

 皆各々荷物を置くと川に膝まで入っていって、水の中に落ちている石を探しじ始めた。

 目を凝らしながら水の中を覗き込みながら一所懸命探す女の子。

 水の冷たさに耐えながら、たまに水から上がって体を温め直してはまた水に入る作業を繰り返していく。

 夜になると火を囲み暖を取りながら、今日の収穫の確認と食事を始めた。

「赤三つに、青が二つ、こんなものかな、明日も一日中水の中だからしっかり体を休ませておいてくれよ皆」

 魔道士の男の言葉に、

「あいよ」

「疲れたな」

「もう何だか眠たくなってきましたね」

 女の子の目はうつらうつらと閉じたり開いたりしていて、そのたびに首が上下に振れていた。

「おいおい、こんな所で寝ないでちゃんと横になって寝てくださいよ、ははっ」

「そうさせてもらいますね、お先に失礼……」

 女の子はそう云ってフラフラと焚き火から離れた木の根元に外套を敷くと、横になって直ぐに眠りについた。

 微かに寝息が聞こえてくると、男達から低い笑い声が流れ始めた。

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