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明けましておめでとう御座います。
本年もよろしくお願いしたします。
「ぐぬぬぬ……、馬鹿とは何だ! ブルス大臣を殺した時にいた君が何故こんなところにいるんだ」
顔を真赤にしながらマルティアーゼに怒鳴った。
「失礼ね、私は殺してなんかしてないわ、暗殺を行ったのはイリィさんの父親よ」
「君もサドレムの仲間ではないか」
「私は雇われてイリィさんの代わりに結婚式に出席しただけよ、イリィさんが嫌がるのが良く分かるわ」
マルティアーゼが、ふんっと鼻で笑った。
「ぼ、僕の何がおかしいと言うんだ、僕を誰だと思ってるんだ」
「だから馬鹿息子」
「また言ったな、今まで一度もそんなことを云われたことがないのにぃ」
デュースの顔が耳まで真っ赤に染まっていくのが、手に取るように分かった。
「君を連行して取り調べてもらうぞ」
「どうして? 私は雇われただけだわ、あの事件はもう解決済みじゃないわけ?」
「いや……それはそうだけど、でも君はサドレムの一味じゃないか」
「関係者で言えば貴方だってそうじゃない、大勢いる人の目の前で犯行が行われたのよ、多くの目撃者がいたはずで誰が犯人なのかは一目瞭然でしょう、馬鹿じゃないの……」
「まっ……また言ったぁ、君はなんて口が悪いんだ、どうして僕を馬鹿だと言うんだ、親の顔が見てみたいものだ、全く……」
「何よ、親を悪く言わないで欲しいわ、それじゃあ貴方の親は見た目も悪いから貴方もそんなに顔が悪いのね」
「ぎゃああ、僕だけでなく親父の悪口まで、きいいい」
まるで子供の口喧嘩みたいに言い合う二人に、トムや相手の従者二人もあっけに取られながら聞いていた。
「坊ちゃま、一体何が……この小娘は誰でございますか?」
「この女の所為で僕の結婚が滅茶苦茶になったんだ、痛めつけてやって」
デュースがマルティアーゼを指差して怒鳴る。
「イリィさんは元から貴方なんかと結婚する気なんてなかったのよ、お付きの者にさせないで自分で仕返ししたらどうなの、そんな軟弱だから彼女に嫌われるのよ」
「僕の何処が軟弱だと言うんだ」
まるで火に油を注ぐようにデュースを馬鹿にすると、
「君のせいで僕は僕は……ぐすっ」
デュースの目に涙が溜まった。
「私にどうしろというの、イリィさんの代わりに結婚でもしろって言うわけ?」
「え……いや、そんなこと僕から……」
突然デュースの顔色が変わって、恥ずかしそうに俯く。
「ふふん……面白いわね、それじゃあ勝負して勝てば貴方のお嫁さんになってあげてもいいわよ」
「えっ本当……、い、いや……待てよ」
「?」
(こんな我儘そうな女を娶ったらそれこそ僕の一族が崩壊してしまうんではないだろうか……しかし、容姿は申し分ないよな、イリィなんかよりよっぽど良い、けど性格がなぁ……)
デュースは考えながらマルティアーゼを横目で見た、どこをどう見ても申し分ない程の女性である、年齢も自分より若く背丈も丁度良い、連れて歩けば皆が羨むだろう事は疑いない。
(欠点は性格だよな……)
マルティアーゼは少し顎を上げて腰に手を置き、どうしたんだ掛かってこいと言わんばかりの態度でデュースを凝視していた。
(こんなきつそうで傲慢そうな女、家に入れたら親父が怒るだろうなぁ)
「どうしたの、怖気づいたかしら?」
「む! 僕がどうして君を恐れなくちゃいけないんだ、いいだろう挑戦を受けてやる、けどお嫁さんではなく君を妾にするってことでどうだ!」
「なんだって良いわよ、貴方の物になれってことでしょう」
どちらでも関係ないと、さも面倒くさそうにいい放った。
「ふん、あとで吠え面をかくなよ、で……何で勝負しろって言うんだ」
「彼と決闘をして貴方が勝てば好きにしていいわよ」
マルティアーゼがトムを指差して答えると、デュースは卑怯だ勝てない勝負をしろとでも言うのかと喚く。
「女性を自分の側に置きたいなら自分の力で勝負しなさいよ、出来ないならこの勝負はなかったことね」
「ぐぬう、僕は人と決闘なんてしたことがないのに……卑怯だ」
「そうよね、その体では彼に勝てないわよね、それじゃあ……貴方は剣を使っていいわよ、彼には素手で相手してもらうわ、決着は貴方が彼にかすり傷でも追わせられたら勝ち、貴方が参ったと言うか尻もちをついた時点で負けでどうかしら?」
決闘の内容にデュースの顔に笑みがこぼれた。
「じゃあ僕は怪我はしないんだな……よしっ、少しでもか……それなら僕にでも勝てそうだ、それでいいぞ」
(妾なら問題ないよな、結婚相手は親父が探してくれるだろうし、両手に華だ)
デュースはニヤニヤとこれでこの女を毎晩寝台で泣かしてやると、もう勝ち誇ったように思いを巡らせていた。
「ちょっと待って下さい……一体どうして私が彼と戦う羽目になったんですか、それに一体この彼は誰ですか」
呆然と二人に口を挟む間もなく眺めていると、決闘することになってしまってトムは困惑しながらマルティアーゼを問いただした。
「あら、ごめんなさい、言ってなかったわね、この人はイリィさんの元婚約者よ、私が代わりに出た時のお相手、もう少し格好良ければ出た甲斐があったけどね」
「それがどうして決闘になってしまったんですか……、私は嫌ですよ」
トムは決闘には反対だった。
「嫌なの? それじゃあ私は彼と結婚しなくちゃいけなくなるわ……どうしましょう」
「違いますよ、こんなひ弱な彼と戦うのに怖気づいたわけじゃないですよ、ちょっとと押しただけで怪我してしまいそうな細い体なのに……」
「大丈夫でしょう、少なくとも男の子ですもの、そんな軟な人ではないとは思うけど……」
マルティアーゼとトムは二人してデュースを見てみると、細く華奢な体付きで剣も持てなさそうな腕をしていた。
二人から冷たい視線を浴びて、デュースは火が出そうなほど恥ずかしくなり、二人に怒った表情を見せた。
「……二人共、僕をどこまで馬鹿にすれば良いんだ……、さっさと勝負しろ!」
「坊ちゃま、そのような危ないことは……」
従者が弱々しく主を止めようとしてくるが、
「煩い、このままおめおめと馬鹿にされて引き下がれるか、僕にだって誇りは持ってるんだ」
デュースは地団駄を踏みながら早くしろと催促してきた。
「私が掛かってるんだから頑張ってよ、うふふっ」
マルティアーゼは楽しそうに微笑むが、
「はぁ……、何故私が……」
トムの方は面倒臭い事に巻き込まれたなと肩を落とした。
(こんな子供の喧嘩みたいなのに付き合わなければならないのだ……、それに彼も彼だ、姫様の安っぽい挑発に乗せられるなんて、それほど醜男というほどでもないが良家のお坊ちゃまらしい、こういう口喧嘩などしたことがないんだろう、率直な反応を見ていると悪い子ではなさそうなんだがな……、やっぱり姫様は何処に居ても騒ぎを起こすのだな)
「どうした早くしろ」
「こんなひと目に付く所で剣なんて振ってたら大騒ぎになるじゃない、町の外に行きましょう、そこでなら誰にも見られないでしょうし」
「ふんふん」
デュースの意気込みは凄まじく燃え上がり、目にもの見せて馬鹿にしたことを後悔させてやると躍起になっていた。




