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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「どういうことかしら、聞かせてほしいわね……、私が寝ている間にどうしてそんな考えが浮かんできたのか教えて頂戴!」

 マルティアーゼは語尾を強調した。

「今は三国の街道は通れないそうなので、このまま南に行ってもキエヌ止まりになると思われます、それでもまだ先に進むと言うのならまた何処かの兵士と戦う羽目になりますが」

 トムは冷静に考察した考えを述べる。

「私は好きで戦うところに行きたい訳ではないわよ、それではまるで戦闘好きに聞こえるわ、初めから判ってるなら行こうとは思わないわよ」

 マルティアーゼは怒った顔でトムに言った。

「では戻りますか?」

「…………貴方の言う戻るとはどうせローザンの事でしょう、それなら帰らないわよ」

 マルティアーゼは今までと同じような台詞で言い返した。

「いえそのようなことは申しません、戻る理由は幾つかありますが、第一にマールさんのお体のことが心配です……、南方に来てから二度も体調が崩れてしまったのは、私達ローザン生まれにとってはここの気候に慣れていないと思うので、もう少し北のエスタルやアルステル辺りまで戻ったほうが良いと感じたのです、それとさっき申し上げたように紛争地帯の近くにいるとまた何かの事件に巻き込まれないとも限りません、此処に来るまでどれだけの事に関わってきたか、どうにか此処まで来ることが出来ましたが、この先もそんな保証は無いんですよ、ローザンに帰ろうなどとは申しませんが、何処かゆっくりと過ごせる場所を見つけたほうが自身のためだと思いますが……」

「私はこの世界をこの目で見るために旅に出たのよ、ゆっくりと住む場所を見つけるためではないわ」

「世界を見るのなら此処までに沢山の事を見て経験されたでしょう、私でさえ初めてのことが沢山ありました、それにマールさんは人々がどのような生活をしているのか、どのように人生を謳歌しているのか見たいとも言ってましたよね、それなら居を構えそこで生活することも、人々と同じ目線から物事を見ることも出来るのではないでしょうか、各地を放浪すれば色々なものが見えますが、それは旅人としての目線であり、実際そこで生活している人達の細やかな物事は見ることは出来ないでしょうから、人々が何に悩み何に切磋琢磨して生活しているのかを知ることも世界を見ることだと思います」

 トムはまるでマルティアーゼがどういう言葉を出すのか分かっていたかのように即座に言い返した。

「……」

 トムはマルティアーゼの返事を待ったが返事が帰ってこず、二人の間に沈黙が出来てしまった。

 それを見計らったように卓に料理が運ばれてきて、トムはマルティアーゼからの返答を待つ間、じっと料理を眺めていた。

 静かに時間が流れ、このまま返事を待つ間に料理が冷めるのではないかと、トムは沈黙を破りマルティアーゼに料理を食べようと提案した。

「今直ぐ答えを出すのではなく、他にも情報を仕入れながら此処にいる間じっくりと考えていきましょう、お腹も空いてるでしょうし熱いうちに食べて下さい」

 確かに目の前から漂ってくる匂いにマルティアーゼのお腹は自然と反応を見せ、一切れの料理を口に入れた途端、手が止まらず卓の品が無くなるまで夢中で食べ続けた。

 食器を置いて食べ終えると、

「……世界は本当に広いわね」

 マルティアーゼは一言呟いた後は、店を出るまで一言も話さなくなった。




 重々しい空気の中、二人は町を散策して歩く。

 奇妙な尖塔が立ち並ぶ家が多く、家壁の角には大小の違いはあれど必ずと言っていいほどの尖塔が建てられていた。

 人が住居出来る塔もあれば装飾としての小さな塔もある。

 それにどんな意味があるのかは分からなかったが、先端が丸く上部が尖った塔は何とも南国の青い空に溶け込んでいた。

 南国特有の茶色の壁だがよく見ると壁に細やかな彫り物に色を流し込んでおり、殺風景な石を積んだだけの家ではなく綺麗に着飾った家々は、見る者の目を楽しませてくれる。

 マルティアーゼも周りの景色に気付いたみたいで、顔を上げてきょろきょろとしだした。

「この国はかなり古い国家みたいですよ」

「そう……」

 マルティアーゼは首を左右に、居並ぶ家壁の細工が何処も違う事に気づいた。

 壁に描かれた絵はその家独特の模様なのか、何か特別な意味でもあるのか分からなかったが、それは動物であったり景色であったり、よくわからない模様だったりと、色々な彫り物が描かれていた。

「とても繊細な彫刻がされてあるのね、ローザンでは見たことがない模様だわ」

「ですね、よく石壁に彫れるものです、どのくらいの時間が掛かるんでしょうか」

「それに雰囲気も何だか他の国とは違う感じがするわ、そう……此処の人は物静かなのね、町全体の音が五月蝿く無いというか、大勢の人がいるのにとても静かなんだわ、だからかしら……人混みにいても貴方の声がはっきりと聞こえてくるわ」

 通りには沢山の店が立ち並び、人々が買い物や品物を物色している雑音はするのだが、話し声はとても穏やかであまり騒いでいる人が見かけられず、五月蝿く感じられない。

「これは国民性なんですかね、沿岸州の人たちは騒がしく陽気でしたが」

「あの白い塔は何かしら、見に行ってみましょう」

 マルティアーゼが指を差し示した。

 もう、さっきまでの重苦しい表情は消え、すっかりターメの街並みに興味が湧いてきているみたいだった。

 町の家よりも高い塔は町の何処からでも見えていて、さっきからちらちらと目に入っていた。

 二人は白い塔を目指して家々の間の路地を通って近づいていく。

 マルティアーゼは額に汗を浮かばせながら当に向かっていくが、見える塔が中々近くに行くことができなかった。

「ふう、……暑いわね」

「何処かで休憩でも取りますか?」

「いえ、いいわ、あんなに近くなんだからもうすぐ着くはずよ、貴方は暑くはないの?」

「砂漠に比べたらそれほどでもないですよ」

 いつもの革鎧を着ていながらそれほど汗をかいていないトムは元気よく答えた。

「……そうなの? 私は中々馴れないわ、私そんなに此処の気候に合わないのかしら」

「いえ此処も暑いのは同じですが、何というか柔らかい暑さというのでしょうか、息苦しくは感じないですね」

 トムは身体に当たる日差しが、時折眠りを誘うような心地良ささえ感じていた。

「海に近いというのもあるかも知れないですし、丘を駆け上がってくる風が暑さを和らげてくれているのかも知れません」

「ふうん、私は体の中から熱が出ているみたいよ」

 マルティアーゼのほうが薄着をしていたが、汗で不快さを露わにしていた。

「食事をした店の中はあんなに涼しかったのに、こんなに汗が吹き出てきたわ」

 パタパタと服をばたつかせる様子をトムに見せた。

 膨らんだ胸元に汗が伝って流れていくのを見て、トムは顔を赤らめた。

「さ、さぁ……早く塔に行きましょう、中に入れるならきっと暑さもしのげるでしょう」

「?」

 トムは一歩先を歩いて塔へと急いだ。

 路地を抜けるといきなり目の前が真っ白に染まった。

 仰ぎ見るほど高く白い塔は太陽の日差しを浴びて、眩しくてまともに見ることが出来ないくらいに明るかった。

「とても大きいのね」

 四角い塔は上に行くに連れて細くなっていて、先っぽに四角い窓が幾つもついていたが見るからに小さい。

「中に入れるみたいですね」

「中に何があるのかしら、見てみましょう」

 入り口は木製の大きな扉で出来ていて、そこに人が次々と中へと入っていく。

 老若男女問わずに白い塔に入っているが殆どが現地民の人ばかりで、旅人の姿は見当たらなかったが、構わずマルティアーゼ達は人々に付いて入っていく。

 日陰に入ると一気に温度が下がり熱い体から熱が奪われていくようだった。

「中はすごく広いのね……、あれは何かしら」

 そうはしゃいだ声が室内にこだまして、中に居た人々がちらちらとマルティアーゼ達に振り返り、怪訝そうな表情をしてきた。

「声がすごく響くのに、此処にいる人は静かね」

 小声でトムに話しかける。

 そっと人々の一番後ろに並ぶと、皆が見つめる物を見た。

 それは大きな人の像で、威厳を称えた格好で椅子に座っていた。

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