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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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76 メラルドの洗礼

 結論として、目の前に残った轍を追いかけることしかなく、他の道程を行った仲間達を探す事はできないと、二人は朝から目の前の跡を追うことで合意していた。

 ここまで何気なく進んでいた轍の跡も、今日からは注意深く確認しながら進むことにした。

 このあたりは気候的にはまだ砂漠で、もしかすれば何処かに水飲み場があるのかもしれない、そこに水を汲みに分かれて別の仲間は何処か日陰で休んでいて、仲間の帰りを待っているのかもしれない。

 それは地理を熟知している誰かの提案で別行動しているだけかも知れなかった。

 ともあれ地理に疎いマルティアーゼ達には見えている印を頼るしかなかったのではあるが、この殺風景な荒涼とした景色の何処にいるのだろうと、目を凝らしながら走り続けていく。

 砂だらけの砂漠とか違い固い地面なだけ走りやすく、平坦で馬を飛ばすことが出来ただけに距離は稼ぐことが出来た。

 枯れた草木から少しづつ青みがかった草になり密集した草原へと変わって、時折遠くに何かしらの動物が歩いているのが見えていた。

 轍の跡も薄れてきていたが、まだ見分けることが出来るぐらい跡が残っていた。

「トム、そろそろ轍が判らなくなるわ、注意してね」

「はい、あの先に向かって続いているのは判りますが、その先は厳しそうですね」

 トムの言う先には森というより林のような木々が密集していて、その向こうには山が立っていた。

 また山登りなのかと辟易していたが、あの中に行けば少しは日陰があるだろうと先を急いだ。

 夜には林の中に入る事ができて、木陰で体を休めていた。

「もう馬にやる水も我々の水も無くなりました、あとはもう明日までに町につけることを祈りましょう」

「……そう」

 次の日、暑くなる前に山を越えようと明け方から歩き出して、山の斜面を右に左に登っていく。

 道などなく馬車の轍もすでに消え失せて、わずかに馬車でも通れそうな幅の斜面を見つけてこの山の頂上に登っていく。

 もし、この山の反対側にも同じように荒野が続いていればもう打つ手はなく、後は野たれ死ぬまで彷徨うしか無いだろうと覚悟を決めていた。

 乾いた砂地の斜面と熱い日差しに耐えながら、一歩一歩確実に上へと登っていくことだけを考えていた。

「はぁはぁ……、喉が渇いたわ」

 マルティアーゼは空になった水袋に一滴でも残っていないか、袋を逆さにしてみたが落ちてくる気配さえなく、無駄な足掻きだった。

 トムは体力の消耗を抑えようと無口に目の前の足場だけを見つめている。

 流れる汗すら出なくなり、吐く息は熱風となって体を温めていく。

 ぼんやりと思考もままならない状態で、気がつくと頂上まで登り切り、いきなり顔に冷たい風が当たってきた。

 実際はぬるい風だったが、火照った体には冷風が当たったように感じられ、得も言われぬ気持ちよさで暫く立ち止まっていた。

 目を瞑り、下から上がってくる風に身を委ねる。

「ああ……気持ちいい……、眠くなるぐらいこのままずっと風に当っていたいわ」

「ふう……本当に、ようやく町が見えましたね」

 崖下の左側には平原が広がり、右側には森が見えた。

 森の奥には水平線が見え、森と海の境目に建物が顔を覗かせていた。

「あそこがメラルドなのかしら、まだ距離があるけれど目的の場所が分かっただけでも元気が出てくるわね」

「あそこに行けば仲間達がいるかもしれませんしね」

 ひとしきり風に当たり、体を冷やすと崖を進んでいった。

 馬も人心地なのか馬心地だったか一声嘶いて元気が出たようで、足取りも軽くすんなりと下まで降りて行けた。

 森の中は密集した木陰で幾分涼しく感じるぐらい気温が低く、馬達にとっては食べるものがそこいらに生えているので立ち止まっては草を食んで、中々先に進もうとしなかった。

「仕方ないですね、まだ距離もありますし今日は此処で体を休めましょうか?」

「そうね……どうせ何処かであと一日は野宿しないといけないなら、きょうはもう休みたいぐらい疲れたわ」

 山越えだけで半日掛かり、陽はまだ沈んでいなかったが体温が下がってくると疲れがどっと出てきていた。

 早めの野宿を決め込んでも食べ物も水もない体の疲れを取るだけで、とにかく無駄な体力の消耗を抑えるには寝て時間を使う以外なかった。

 真夜中に二人はどこか遠くで獣の遠吠えらしき声をおぼろげに耳にしていたが、疲れのせいでまたすぐに眠りに落ちていった。




 朝、唇に落ちてくる雫をマルティアーゼは無意識にそれを舐め取っていく。

「う……ん……」

 渇いた唇が艶やかに濡れると、うめき声を上げながら目覚めた。

「もう朝……」

 まだ体力が戻っていないのか、軋む体に鞭を入れながら上体を起した。

「おはようございます、体が温まったら行きましょうか」

「ええ、今日中には着きたいわね」

 お腹が減った二人とは違い、水分を含んだ草をたくさん食べた馬達は元気よく、朝からまたもりもりと草を食べている。

「いいわね、私も馬になれれば食べ物に困らなかったのに……」

「それだとじゃじゃ……いえなんでも、さぁ行きましょうか」

「何か云った?」

 横目で見てくるマルティアーゼと目を合わせないように、トムはそそくさと出発の準備をするために馬の方へと歩いていった。

 この森を抜け出られれば町まで一息で、薄暗くはあったが足元が確認できる時間になると直ぐに出発した。

 まばらな痩せた木々に短い草木が生えている森の、道なき道を進んでいくと直ぐにマルティアーゼの顔に翳りが出てきた。

 しんとする森の中ではさわさわと木々の擦れるかすかな音だけが響いてくるが、その音に混じってガサガサと何処かから聞こえてきていて、それがどの方向なのか皆目分からず、トムは右に左にせわしなく視点が動かして気配を読み取っていた。

「何かいるわ……」

「はい、そのようですね」

 近くではなく遠くからみたいで、マルティアーゼ達の前方から聞こえてくる。

「人……かしら?」

 町の住人が森に狩りでもしに来ているのかも知れない、それならばこちらから声を掛けないと獲物と間違って襲われでもしたら大変だなと、考えていた。

 進むにつれ物音は大きく激しくなってきて、それは一つではなく幾つも重なってくる。

 道のない森は奥に行けば行くほど人が入り込んだ気配もなく、木々の間隔も狭く密になっていた。

 マルティアーゼ達は音のする方へと近づいていくと、小さく開けた場所が見えてきた。

 そこには馬車の荷台が二つと動くものを感じ取ったマルティアーゼは、

「馬車だわ、二台ある、きっと皆よ、あんな所で休んでいたんだわ」

 笑顔を見せてトムに報告すると、馬を急かせた。

 そこで見たものは……馬ほどもある大きな動物が数頭、仲間を食べていた……。

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