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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 二頭の馬は地面についた馬車の轍を頼りに、迷うことなく突き進んでいた。

 この先がどういう場所なのかさえ分からないが、とにかく轍を頼り進むしかなかった。

 逃げ出した仲間はメラルドに向かったことは確かで、道に明るい人達が通った道なら間違いないだろうという、今はそれを信じて無駄な考えをしないようにしていた。

 後ろからは同じように馬で追いかけてくる数騎の兵が微かに見えていたので、変に迷っていられなかったことも確かだった。

 自分から捕まりに行ったアーリがどうなったのか、そんな考えをする余裕もなく走り続けていた。

 陽は高々と昇り、一面何も隠れる場所のない荒野を明るく照らし、二人の居場所を何処までも照らしているかのようだった。

「暑くなってきたわね」

「余り喋ると舌を噛みますよ、まだ兵士達が追ってきているんです、速度を落とさないで下さい」

 滴る汗も直ぐに蒸発していき、体から水分が抜けていくのが手に取るように感じられる。

 揺れる馬上でなんとか手にした水袋から補給をしようとするが、中々喉に流れない水が口端から溢れて服を濡らしていく。

 貴重な水だったが、それでも少しは喉を潤しておかないと荒野のど真ん中で倒れてしまうと、マルティアーゼは惜しげもなく水を口に運んでいた。

「兵士達がまだ諦めていないということは、まだ此処はムングロだということですかね、皆はもうメラルドに着いているんでしょうか……」

「追っ手の兵士を倒したほうが早い気がするけど、それほど数も多くないでしょうし……」

 ちらりと後ろを振り返ってさっと目算した。

「五人ぐらいかしら、ぼやけてよく見えないわ」

「止めておきましょう、これ以上敵対行為をすると、アーリに対して不利な状況を作ってしまうかも知れません」

「……そうね」

「見てください、轍があそこの山に続いてますよ、少しは隠れられる場所があるといいんですが……」

 山というより小高い丘のような、天辺が平らになった岩山に向けて進路を取っていく。

 見るもの全てが茶色の平原に、二人の逃避者と追跡者が砂埃を上げて幾筋もの線を引いていた。




 山に入ると思ったよりも足場が緩く、崩れやすい岩場に足を取られながらも狭い道を登って行く。

 下を見ると、追っ手の兵士達も滑る足場に苦労しながら登ってくるのが見えた。

「三人だったのね」

 両側に高い岩壁がそびえ立つ山道に入ったマルティアーゼ達は、その先がずっと一本道だと気付く。

「逃げ場も隠れる所もないですね」

「そうね……」

 その道は岩場が割れた隙間を道としただけの自然の通り道で、足元には大小様々な石が転がっていて整備なんてされてもいない。

 ただ、馬車が此処を通れたということは、馬でも通れるだけの道であるのは間違いなかった。

「馬もかなり疲れてきてるわ、この道を抜けられるかしら」

「しかし、登る場所もないですし、突き進むしか無いでしょう」

 何処も切り立った鋭利な岩が二人を真上から覗き込んでいるようで、進む道が細くなって行き止まりではないかと思わせるぐらいの錯覚を起こさせていた。

「やってみるわ」

「! 何をするんですか」

 マルティアーゼが馬を止めて振り返ると魔法を唱え始めた。

「マールさん、兵士を殺しては……」

 止めようとするトムの制止も聞かずに火球を飛ばした。

 ドンッ、と反響する轟音が言葉をかき消した。

 火球が岩山で弾けると、割れた岩石が頭上から降り注ぐ。

 大量の岩が落ちてきて、砂埃とともに道を塞いでいくのを見たトムが、

「こ、これは……」

 追ってきた兵士達も目の前で起きた爆発に、足を止めて迫ってくる砂煙から逃れようと後退していく。

「どう? あの兵士を殺してないわよ、これで足止めが出来たわ、今の内ね」

 落ちてきた細長く太いつららのような岩が幾つも地面に突き刺さり、通り抜けられるだけの隙間はあったが、今にも倒れてきそうで兵士達はどうしたものかと躊躇していた。

 薄暗い崖の道を抜けたマルティアーゼ達はまた見渡す限りの荒野に出てきた、しかし、視界に入った荒野は一面平坦な場所ではなく、所々大きな岩が転がっていたり、山がそびえ立っていたりと起伏のある荒野だった。

 それでも緑の見えない茶色の景色でしかなかったが、少しづつでも変わり始めているということは前に進めていると感じられた。

「さぁ、じっとしてはいられませんよ」

「行きましょう」

 折角下がってきた体温が、一歩日向に出るとぐんぐんと熱が篭ってくるのに嫌気を差しながらも、崖を降りて馬車の走った後を走っていく。

 追っ手が来る気配はなかったが、日差しの強さは強くなってきていた。

 天空に輝く太陽を隠す雲すらない晴天、肌を焼かれる熱さに耐えながら先にいる皆の元へと急いだ。

 それから三日間、轍を見ながら疲れ果てる日没まで走り続け、荒れた草原、枯れた森を抜けたが一向に皆の姿すら眺めることは出来なかった。

「仲間達は本当にこの道を通ったのでしょうか? もう三日間走り続けているのに砂埃一つも見えませんよ」

 焚き火を挟んでトムが言ってきた。

「おかしいわね……、もう出会っていてもおかしくない距離を走ったはずよね、それに此処はどのあたりなのかしら、もう国境は越えてるのかさえ分からないわ」

「それより早く何処かの町に行かないともう食料も水も尽きてしまいます」

「皆の通ったこの轍を行くしか無いわ……、でも馬車四台も走っていて一台も見つけることが出来ないなんて、いくら急いでいても休憩を取らないわけにはいけないはずよね」

「…………四台? おかしいですよ、轍は二台分しか付いていませんが……」

 削れた地面には四本の車輪の跡がうっすらと残っているだけで、四台だと八本の跡が無いといけなかった。

「あっ……私なんて馬鹿なのかしら、そうよね八つ無いといけないんだったわ、熱さで頭が回らなかったなんて言い訳でしかないけれど、こんな単純な間違いをするなんて……」

「では、残りの二台は何処に行ったのでしょう、何処かで二手に分かれたんですかね、そのような分かれた場所など気が付きませんでしたが」

「う……ん」

 マルティアーゼは思い出してみた。

 初めから二台分の轍だったか、それともちゃんと四台分の轍があったかどうか。

 逃げることに必死で、轍が伸びている方向へと走っていただけで、何本の轍かまでは数えていなかった。

(何処かで分かれるなんて、そんなこと思いもしなかったから……、何故別れる必要があったのかしら)

 そんな約束事を話し合ったこともなく、皆一様にメラルドに行くとしか話していなかった。

(何かそうしなければならない問題でも起きたのかしら)

 だが何処で問題が起きて分かれることになったのか、マルティアーゼ達が走ってきた道中で何か変わったことがあったのか、それすら何も感じることなく此処まで来たので、思い出そうにも無理なことであった。

(皆は何処に行こうとしているの……)

 闇夜の広がる荒野の真ん中で小さな火を囲みながら、この先の不安を隠しきれずに二人は夜を明かしていった。

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