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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「一体何だったんだ……」

 しかし、トムはリンという女に目を奪われることもなく、直ぐに自分も扉を通って外に出て行った。

 外では仲間達がトムを待っていてくれて、皆で闇夜の紛れて農場へと向かう背中からは、待ち焦がれていた月長祭が阿鼻叫喚の宴となったしまった、人々の悲鳴が町の外まで聞こえていた。

 ミレーンの町は赤々と夜空を照らし、長い夜にいつまでも燃え続けていた。

 農場の倉庫に帰ると、久しぶりに家族や恋人に再会することが出来た女性達が、抱擁を交わしすすり泣く声が鳴り響いていた。

「トム!」

 マルティアーゼがトムに駆け寄り無事を喜んだ。

「皆は戻ってきましたか?」

 マルティアーゼに襲撃に行った仲間達の安否を聞くと、

「大丈夫よ、皆戻ってきたわ、大成功よ」

「アーリ達もうまくやってのけたのですね、それは良かった」

「先生! やりましたよ、見てください皆の嬉しそうな顔を」

 アーリが走り寄ってきてトムに報告してきた。

 純粋に喜ぶ笑顔は幼い少年のようで、褒めて貰おうと目を輝かせながらトムを見てくる。

「ああ、よくやったなアーリ、だがまだ安心は出来ない、あれだけの火事と襲撃を引き起こしたんだ必ず捜索が掛かるだろう、今のうちに家に戻る者は早く帰るよう伝え、メラルドに行く者は直ぐに支度をさせておくことだ、早朝直ぐに此処を離れられるよう仮眠を取らせておくんだぞ」

「分かりました、皆に言ってきます」

 アーリが居なくなると、トムはマルティアーゼにも、

「マールさん、我々も支度をしておきましょう」

「でも皆いい顔をしてるわ、それはそうよね望んでいた再会が出来たんですもの、元通りになっただけなのにこんなに嬉しそう……、許せないわね人から笑顔を奪ってお金儲けにするような町が存在するなんて」

「この国だけではなく、国があればそれだけの権力者がいるのです、権力者全てが善行を行ってるわけではありませんよ、長く続く貴族なら生まれ落ちたときから力を行使するのが特権と考えてるのが殆どで、市民などは自分達が動かすものとしか見てないんですよ」

「私もそれに入るのかしら……、何も考えず物心ついたときから側には侍女達がいたし、何をするにも言えばしてくれたわ、彼女達だって元々貴族でも何でもない市民なのよね、いつも側にいてくれたから貴族だ市民などと考えたこともなかったけれど、私も彼女達に我儘ばかりで酷いことをしていたのね」

 仲の良かったフランも心の中では立場の違いを感じながら、仕方なく言う事を聞いていただけなのだろうかとマルティアーゼは思った。

「侍女達は自分達の意思で働きに来ているだけですよ、無理やり王宮で働いていたわけではありませんので、そのような事と彼女達とは大いに違いがありますよ」

 トムは目の前で抱き合う女性達を見ながらマルティアーゼに言った。

「私が言いたいのは売春自体は何処の国にでも多かれ少なかれありますが、それは個人で勝手にやっているだけで国として認めているところは少ないです、これほど公に町一つが盛大に隠そうとせず、ましてや国自体が暗黙して放置しているなど聞いたことがありません、淫行が何故厳しく取り締まるようになったかは、はるか昔強国として地域一帯を治めていた国家が淫行に没頭し腐敗しきった所を、国民の反乱分子により一夜にして滅んだ国家があったらしいです、その轍を踏まないように国が淫行に溺れないよう規制するようになったのです」

「それは……ロンダリア大帝国のことかしら? 北方の今はもう誰も居なくなった大地にあったという伝説の国だったわね、本当にそのような国があったのかどうかさえ分かってないはずよね」

 昔に教わった滅亡した国々の中に、自滅の国として聞かされた事を思い出していた。

「有る無しは兎も角、そのような行為で国がなくなってしまうのを恐れた国々が、国内の淫行防止に力を入れて規制をし始めたということです、私は別段この国が腐敗して無くなろうがどうでもいいことですけど、アーリ達のように普通に生活をしたい人々が巻き込まれるのは許せませんね」

「どうにか出来ないかしら……」

「どうにもならないでしょう、私達余所者が国を相手に出来ることは限られていますよ」

「……」

「さぁ、もう夜も更けています、少しでも寝ておかないと明日も早いですよ」

 トムは歩きだして倉庫にいた皆に明日の事と、休むように伝えに行った。

 連れ去られた女性達の中には既に殺されていた者もいて、倉庫の端で膝を折って泣いている男達もいたが、それ以外の女性達は全員救出に成功出来た。

 ちょっと剣をかじっただけの素人で事を成し遂げられたことだけでも御の字、大成功と言わざるを得なかったし、手加減など出来ないアーリやグレンの隊では、宿の主や用心棒を斬り殺した事や、客を負傷させた事は致し方ないと思わざるを得なかった。

 月長祭はアーリ達の念願だった連れ去られた女性達の救出成功で、喜びと共に静かに深い一夜が終わっていく、はずであった。

 深夜、農場では皆、疲れ切った体をそこいらの地べたや馬車の荷台で深い眠りに落ちている頃、マルティアーゼは一人部屋の窓辺に立って外の景色を眺めていた。

 暗い部屋で静かに佇みながら、透き通るような星空の淡い光を見つめている。

 一旦は寝たのだったが、深夜に目が覚めてしまい少し風に当たろうと思い、外を見ていた。

 冷えてきた風が緩やかに部屋に流れ込んでくる。

 気持ちのいいそよ風がマルティアーゼのきめ細かい肌を優しく撫でてくる。

 目を閉じて、されるがままに風を感じていると、また眠気が訪れてきそうで落ち着く気分になっていた。

(熱い太陽と冷たい夜風……、これが砂漠というのかしら、厳しい日差しと優しい風の二つの顔を持つ場所、たまに起きる砂嵐というのも初めて見たわ、これだけ厳しい所でどうして住もうと思うのかしら、いつも体中が砂だらけになってお肌に悪いのに……)

 そっと自分の頬を手で触れてみると、冷たい感触が伝わってきた。

(体が冷えてしまったわね、もう一度寝ようかな)

 寝台に戻ろうとした時、目の端に何か黒いものが横切る。

「?」

 もう一度目を凝らして外を見てみたが、暗闇の中では何も動くものは確認すら出来なかった。

(……見間違いかしら)

 そう思い、そろりと自分の寝床に入っていくと、農場が規則正しい寝息で包まれ静かに夜が明けていった。

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