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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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69 大火の祭り

 トムは三十人の男達を引き連れミレーンの手前まで来て馬車から降りると、少人数に分かれて町へと入っていった。

 町の入り口にはいかつい顔をした男達数人が、町へ入ってくる人達を遠巻きに監視しながら、剣や武器になるようなものを持っていないか目を光らせていた。

 トム達は町人の格好で勿論手には何も持っておらず、仲間と和気あいあいと話をしながら、今夜の楽しみは何処で過ごそうかと笑いながら入り口を通っていく。

 ミレーンの町に続々と入ってくる男性達に紛れて、トム達は町中に入ると足早に路地に駆け込んだ。

 すると、少しづつ仲間達も色々な路地から合流してくると、各自が隠し持っていた火打ち石や木の棒、藁、布、油を出し合い、松明を作れるよう材料を手渡していく。

「よし、火をつけるのは入り口近くにある使われていない小屋と各自襲撃する宿の近くの家だ、なるべく盛大に注目を惹きつけられるようにするんだぞ、時間は今から半刻後、出火の合図で馬車が町に突入してくる、良いか武器を手に入れたら各自役割を忘れるな、女性を助け出した隊から直ぐに逃げろ、他の隊のことは構うな」

 トムが皆に伝えた。

「アーリ、グレンは状況を確認しながら皆の指示をしていくんだぞ、もし時間がかかるなら救出は中止するんだ、もたもたしてると町から逃げられなくなるぞ」

「分かった」

「はい」

「よし、では配置について時間が来たら一斉に火を放て、いくぞ!」

 集まった仲間達は顔を見合わせて頷くと、それぞれ担当の場所に向かって散らばっていった。

 大通りでは宿を素通りしようとする男達に、女郎達が窓から手を振ってお誘いの声をかけ、客を取ろうと呼び込んでいた。

 服をわざと乱して自慢の白い肩を露わにしながら、男達の欲望を掻き立てると、すかさず宿の前に立っている引き込みの男が声をかけては宿へ誘おうとしていた。

 ミレーンに来た多くの男達はみるみるうちに宿へと吸い込まれるように姿を消していき、代わりに新たにやってくる男達で、通りにはまた騒がしい掛け声が飛び交っていく。

 ミレーンの町が濃密な行為に没頭し始めて、そこかしこの宿から卑猥な声が漏れ出すと、通りにいた男達はより一層、目がらんらんと活気づき早く良い宿を探そうと歩を速めていく。

 空が暗く濃くなるに連れて、町明かりは強く輝き出し、町全体が命を吹き込まれたかのように活気が頂点に到達しようしていた。

 そして、ミレーンの町が宴たけなわになった頃、町のあちこちから町明かりとは別の明かりが立ち昇った。

 入り口の小屋と他にも数か所から炎が上がり、煌々と燃え上がる火の手で町は一瞬にして狂乱へと変わっていった。

 この町の警護をしていた男達は何事かと通りに出て、火の手が上がっている場所に向かって集まっていく。

 宿から出てきて逃げ惑う客の男達や女郎達が、通りに集まった人達とぶつかり悲鳴を上げると、その声が周りに伝染していき阿鼻叫喚へと広がっていった。

 その間を縫って数台の馬車が通りを駆け抜けていき、目的の宿の前で待っていた男達で停車する。

 すかさず男達は荷台から剣を握りしめて、宿の中へと飛び込んでいった。

 それは一箇所だけではなく、人々が火の手に注目を向けてる裏で素早く行われていった。

 トムは剣を受け取るや否や一人宿へと入っていくと、視界に男が映ると同時に剣を繰り出し、なるべく殺さないように剣の柄で気絶させていく。

 ぐうの音も出ずに崩れ落ちる男達には目もくれずに、奥へと突き進んでいく。

「何だ貴様は、ここは……」

 部屋から出てきた男を倒すと後ろから仲間が声を掛ける。

「おい、エレン助けに来たぞ」

「ああ……ブライ待ってたわ」

 部屋にいた女性が飛び出してくるとブライに抱きついた。

「他の女性達を早く」

トムが急げと叫ぶ。

「分かったわ」

 エレンが奥に続く仲間の部屋を次々に扉を叩いていくと、部屋から女性が服装の乱れたまま出てきたり、ありったけの荷物を持った女性が飛び出してきた。

 部屋にいた客の男に手を掴まれて引き止められる女性や、大声で助けを呼ぶ女性の部屋にはトム達が入って行き、男達を黙らされたり気絶させて助け出していく。

「これで全部か?」

 トムは一応全部の部屋の中を見て回って、女性の姿が見当たらないので助け出した女性に聞いてみた。

「この宿はこれだけだよ」

 エレンが云った。

「よし、じゃあ引き上げだ」

 トムは全員馬車に乗れと宿から出ていき、宿の前に泊まっている馬車に女性達が次々と乗り込んでいくと、すぐに荷台は満員になってしまい、溢れたトムと数人の男は乗れなくなってしまった。

「直ぐに馬車を出せ、俺達は他から脱出する」

「分かった、気をつけろよ」

 御者の男が手綱を引いて馬車を走らせる。

「よし、俺達も町から出るぞ」

 トムは仲間と路地に身を隠し、頭で覚えた地図を頼りに町を抜け出そうと走り抜けていった。

 火の手は遠くからでも分かるほどに高く火柱を上げ、各地で消火活動や逃げ惑う人々で通りは混雑している。

 警護に当たっていた男達は、真っ赤に燃える石造りの家から火が隣の家に移らないよう必死に水を運んでは家の中に投げ込んでいるが、大きくなった火には効果もなく焼け石に水だった。

 警護の男達の中には、これは何かの事件ではないか、何者かが火を放ったのではないかと、通りを見回し不審者がいないか指示をしたり、この町の統治者であるゾーディア男爵に連絡に行くよう声を掛け合って、この不審な事件に冷静に見ている者もいた。

 火の手が計四ヶ所から燃えているのを知ると、明らかに誰かの陰謀、しかも単独ではなく組織だった仕業だと、警護の男達は隠していた武器を手に持ち、町から不審者を出さないよう入り口を固めようと動き出す。

「此処を抜ければ入り口近くに出るはずだ」

 トムは仲間たちにそう云って路地を走り抜けようとしていた時、いきなり横路から伸びてきた手がトムの手首を掴んだ。

「誰だ!」

 びくりと驚いたトムが声を上げると、か細い腕の先から女性が顔を覗かせた。

「誰……だ」

「そっちじゃないよ、こっちに来な」

 妖艶で浅黒い肌に、整った眉に少しきつそうだが大きな瞳がトムを見てきた。

 トムは知らない女からそう云われて、腕を引っ張られると横路へと引き込まれていった。

「君は誰だ?」

 腕を引っ張られながらトムが女に聞いた。

「あたしはリン、此処に働きに来てる余所者だよ、あんたたちが宿を襲ってるのをずっと見てたよ、此処の男共は軟弱な男ばかりで飽々してたけど、あんたたちみたいな男もいるんだね、あたしは激しい男が好きなんでね、だから手助けしてやろうと思ったんだ」

 長い黒髪からは甘酸っぱい果物のような香りを漂わせ、トムの鼻孔をくすぐっていた。

 女は知り尽くした路地を抜けると、指を差して、

「今ならあそこの扉から出られるよ」

 ミレーンの町の防砂壁に付いた扉の周囲には誰もおらず、トムは仲間達に手を振って出ていくように指示した。

 次々と仲間達が扉を抜けて外へと出ていくのを確認すると、トムはリンという女に礼を云った。

「構わないさ、もし次に出会うことがあるなら一杯ぐらい奢っておくれよ」

 片目を瞑って笑顔を見せたリンは、手を振りながら路地奥へと戻り姿を消していった。

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