67
「手助けするつもりでしょう」
部屋に戻ると、トムがいきなり話を切り出してきた。
「どうしてそう思うの? 貴方は関わるなと言ったのに、まるで私に関わるように仕向けている言い方に聞こえるわ」
「ではこのままこの国を出て南へ旅を始めますか? しないでしょう」
「……」
マルティアーゼはトムが何が言いたいのか真意を探るように注意深く、直ぐに返事はしなかった。
「残ると言ったらどうするつもり?」
ゆっくりと言葉を選んでトムに問いかける。
「マールさんがそう仰るならそのように従うだけです」
「どういうこと? アーリさん達と一緒に女性達を助けるのを手伝ってもいいってこと? いつも反対ばかりしていたのにどうしてなの?」
「今でも反対ですよ、それは変わりません、反対してまた勝手に一人で行かれるのは困ります、それに私も彼らに剣を教えたので心配はしてます、腕が上がったとはいえ素人が少し出来るようになっただけ、実戦になどまだまだな連中ですから」
トムは心境を語る。
「トムはずるい人ね、自分でも気になって助けてあげたいと思うならそう云えば良いのに、私に助けましょうと云わせようとしているわ、それなら私はここで彼らと女性達を救う手伝いをするわ、どう? これで満足かしら」
マルティアーゼはトムの本音を代弁するかのようにすんなりと答えを出す。
「私の思いなど……私の使命はマールさんをローザンに送り届けることで、他のことに気を取られている場合ではないのです、ですから私の思いなどは……」
「ああ、もう回りくどいわよ、トム! 私はそういう扱いは嫌いだと何度も言ったわよね、私はしたいようにするだけ、貴方もそうすればいいのよ、彼らを助けたいなら助けよう、といえばそれで済むことなのよ、立場だの何だのと貴方はもうローザンの兵でも何でもないのよ、国に従う必要はないわ、此処では貴方と私は同じ立場、言いたいことやしたいことがあるならはっきりと言いなさい!」
マルティアーゼの中で溜まっていた感情が爆発したかのように、指を差して口早にトムに言い放つ。
トムの頭の中では今だに何処かでローザンの兵士としての職務を全うしなければいけないと染み付いた思考が働いてしまい、兵士として逸脱した行動は慎まなければならないと自分で勝手に束縛している部分があった。
もうローザンから離れて一年以上だというのに、トムはまだその呪縛から解放されていなかった。
「トム聞きなさい、貴方と私は国を捨ててきたのよ、貴方は私に剣の誓いを立てたからには今の貴方の国は私なのよ、私の騎士として余計なことは考えずに主君を守るべきよ」
腰に手を当てながら頬を膨らませ、眉を吊り上げたマルティアーゼがトムを見下ろしていた。
(国を捨てた……、姫様が私を連れ出したのでは……)
トムはそう思ったが口にはせずに、頭を垂れた。
「分かりました、もう何も言いません、どこまでもお供致します」
「よろしい、ようやく素直になれたみたいね、もう変に私に気を回す必要はないのよ、私をローザンにちゃんと帰したければ、二人でこの旅の困難を乗り越えていかないといけないわ」
さっきまでの怖い顔が嘘のように消えて、にこりとマルティアーゼが笑った。
「では、決行日にはどのようにしてアーリ達に手助けしますか?」
物事の切り替えも早く、トムはもう迷うことなくアーリ達との行動に関してマルティアーゼに聞いてきた。
「貴方はアーリさん達を率いて町に行って頂戴、それが一番皆が戻ってこられる確率が高いわ、アーリさん達に私達も参加することを伝えて皆と作戦を練ってくれればいいわ、私が行っても足手纏いだろうから、私は此処で馬車の用意をして皆で逃げる準備をしておくわ、それが一番よね」
「マールさんにしては何というか……、私も行くと言うかと思ってましたが、消極的な言葉ですね」
いつもなら率先して私も付いていくと言うはずのマルティアーゼが、今回は裏方に徹するという考えにトムは不思議に思った。
「そうかしら? 現状を考えて私だと力不足を感じずにはいられないからそう云ったまでよ、変だったかしら?」
「いえ、何というか今までのことを考えると大人になられたように感じただけで、私としてもそのようにしてもらえたほうが有難く感じます」
「大人っぽくなったかしら、自分では分からないけれど私だって国を出てから随分と市井のことは学んだのよ、成長しないなら私は只の馬鹿ってことになるわ」
少し大人と認められたことに嬉しさを感じながら、マルティアーゼは微笑んだ。
「ではアーリ達が三日後に事を起こすのなら、それまでに必要な物の買い出しに行ってきます」
「そうね……」
マルティアーゼは神妙な面持ちで答えた。
「まだ何か気になりますか?」
「ええ……、本当に助けられるのかと思ってしまうわ……」
「そう信じるしか今のところ無いですが、信じれば叶うと仰ったのはマールさんですよ」
「そうね、云った本人が信じていないといけないわよね」
不穏な雰囲気さえも見せつけない夜空には満天の星々が散りばめられ、暗く眠りについた町に優しく淡い青い光を落としていた。




