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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 トムは宿に戻って荷物と馬を引き連れて戻ってくると、アーリの好意で地下室のある家の二階に住まわせてもらった。

 アーリが皆に改めてマルティアーゼ達を紹介すると、男達の目からは期待の視線が注がれていた。

 中には、これでもしかすると家族を取り戻せるのはないかと涙ぐむ者もいたが、その期待を裏切るようにトムが話を切り出した。

「皆の気持ちはわかるが、一朝一夕で腕が上がるわけじゃない、しかもこの人数で事を起こそうなんて無謀にも程がある、まずは自分の身を守れるように剣の扱いを覚えてもらいたいんだ」

 皆真剣にトムの言葉に耳を傾けていた。

「もし本当に敵の後ろに国の存在があるなら、下手に動けば犯罪者になるだろう、ひとまず目立たずにしっかりと剣を覚えてほしい」

「分かった」

「おおぉ」

「年老いた儂も何だか元気が出てきたわい」

 男達の意気込みが倉庫に響く。

「トム、私も剣を覚えてもいいかしら? 折角なんだし皆と一緒に覚えたいわ」

「……もう好きにしてください、その代わり覚えるだけですよ、実戦なんてしないでくださいよ」

「ええ、分かってるわ」

 トムが素直に答えてくれたのが嬉しかったのか、マルティアーゼも皆と同じように歓声を上げた。

 彼女の分かったという言葉がどれほど自分で理解出来ているのか、トムは今までの彼女の行動で何度も騙されてきていたので心配だった。

 何はともあれ、その日からトムの剣術の指導が始まり、剣がある者は剣で無いものは鍬や棒きれを手に持っての練習が始まった。

「おれはもっと剣や鎧を知り合いに言って作って貰ってくる、それにまだ町には此処の皆と同じような境遇の奴らがいるかもしれないから、人集めも密かにしてくるよ」

 アーリがマルティアーゼと話している内容を、トムはそっと聞き耳を立てて聞いていた。

 毎日全員で朝から日が暮れるまで練習に没頭して、筋肉痛になりながらも弱音を吐くものはいなかった。

 アーリは練習が終わるとフェンとどこかに出かけて、夜遅くまで帰ってくることはなかったが、朝になると何事もなく練習に打ち込んでいた。

 マルティアーゼの方はというと、皆と同じように木の棒で振りを繰り返すが直ぐに腕が疲れて一人遅れ気味だった。

「やはり剣は無理なんじゃないですか?」

 夜、部屋でマルティアーゼが腕をさすっているのを見て、トムが言ってくる。

「使ったことのない筋肉だから、見てこんなに腕が固くなったわ」

 マルティアーゼがトムの方へ腕を伸ばしてくる。

 トムがそっとマルティアーゼの二の腕を掴んだが、手で一周出来るほどの細腕のどこに筋肉がついているのかと思うほどに柔らかかった。

「……」

「それは貴方みたいに腕は太くないわよ」

 トムの反応を見て馬鹿にされた雰囲気を感じ取ったマルティアーゼは、腕を振り払って怒った。

「……本当に剣を覚えるつもりですか?」

「当然よ、今まであんたのお陰で助かったことが何度もあったわ、その度に私は助けられてばかりで何も出来ずに見ているだけだった、どんなに魔法が強力であっても時と場合によっては使えないことがあるのをこの旅で学んだわ、私も臨機応変に剣も魔法も使いこなせるようにしておきたいのよ」

「だから私がいつも申し上げてるように、何事にも首を突っ込まないで下さいと言ってるではないですか、それがなければ今までの旅など気楽なものになっていたでしょうに……」

 久しぶりにトムは声を荒げて反論した。

「それとこれとは違うわ、結果が悪いことだったとしてもそれはただの結果論よ、初めから悪い結果になると分かっていてやってるわけではないわ、別に私は良し悪しや損得を考えて行動をしているつもりはないのよ、私が見ているものは皆が笑顔で生きていけるかどうかなの、理不尽な事や不条理な事に出くわしてもこれだけは譲れない信念みたいなものよ、その為なら悪いことだってするし人を殺めたりするかもしれない、私は聖人君子でもない只の人間、だからこそ努力をしないといけない存在なのよ」

「私は身の上のことを考えて言ってるだけです、もしものことがあったら国元にどう説明するんですか? 誰も聖人君子などとは思ってませんよ、我儘で世間知らずのお姫様なんですから……あっ」

「むうぅぅ……」

 トムはしまったと思ったが、時既に遅く、マルティアーゼの表情は眉をひそめ真っ赤にして頬をパンパンに膨らませながら睨んでいた。

「言ったわねトム、こうしてあげるわ」

 マルティアーゼがトムに飛びかかって抱きつく。

「姫様お止め下さい」

「貴方が悪いのよ」

 トムの腰に馬乗りになって、ポカポカと軽い拳がトムの胸を叩いてくる。

(なんて軽いんだ、食事をあまり食べてないから重さを感じないぐらいだな)

 そうトムの脳裏によぎったが、いつまでも殴られている訳にはいかないと、マルティアーゼの腰を掴んでヒョイと持ち上げると寝台へ投げ飛ばした。

「ひゃあ」

 マルティアーゼの体は寝台で弾んで悲鳴を上げた。

「全く……、剣を覚えるならもっとたくさん食事をして下さい、そんなに軽いのでは相手の剣を受け流すことも出来ませんよ」

 マルティアーゼは寝台の上で無言のままずっとトムを睨み続ける。

 トムは小一時間、ずっと睨まれながらも静かに剣の手入れをしていたが、気がついたらいつの間にかマルティアーゼは疲れて眠りに落ちていた。

「一体誰に似たのやら……」

 勇猛、豪傑で名を馳せたローザン大公国国王ローザン・オリスもまた、マルティアーゼと同じように率直で回りくどい物事の考えが嫌いで、自分の思った事は直ぐに口に出す性格であった。

 逆に母親のアリアーゼは元が侍女であった為なのか、ひっそりとローザン大公の陰に隠れて夫を立てるお淑やかな性格だった。

 どちらに似たかは一目瞭然で、そうでなければ一人で町に出歩いたり、国を出るなどという行動力は見せなかったと思われた。

 姉のディアンドルからしても父親似でしか考えられない性格で、マルティアーゼでさえも手を焼かされるほどの豪胆さがあった。

 それはもうトム自身が身に覚えがある程に、自分の思ったことは口に出さないと気が済まない性分で、それが間違っていたとしても平然とだから何なのだという風に相手を見つめてくる胆力を持ち合わせている。

「あの親にしてこの子ありか……」

 ぼそりと、眠っているマルティアーゼの横顔を見つめながらトムが呟くと、毛布を掛けて部屋のランタンを消した。

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