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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 二人が辿り着いた町は沿岸諸国の一番南の国、ムングロ国だった。

 国土は四国連合で一番大きく、国の東側半分が砂漠にまで進出していた。

 人口も多く、南側には広大な畑を有していた。

 多くの魚介類に作物が獲れるためムングロ国の人口は日増しに増えていた。

 代わりにいかがわしい地域も出来はじめ、一画の界隈では毎夜男女の情事が繰り広げられている場所も存在している。

 豊かさと平和を享受していると、刺激を求め欲求の捌け口を必要とする場所が生まれるのは自然の流れであった。

 一部の貴族が疲れた身体を男女の行為で潤そうと密かに始めた密会の場が、次第に口伝えで広まり、金になると知ると辺りの土地を買い占め始めた。

 そこでは客引きをする女郎達が、行き交う男性を部屋に連れ込み行為を行う。

 その売り上げの一部が貴族達に入る、しかも後ろに貴族がいることでこの辺りの界隈での出来事は国も見知らぬ振りをしていた。

 当然、裏では貴族から国政に使われる一部の資金が、此処でのお金だと知る者は一部を除いて誰も知らない。

 搾取と循環が国の経済を知らない間に大きくさせる手助けとなっていて、国政を任せられる人々の肥やしにもなっている。

 人々は豊かな内はこういった裏の行いに目もくれず、己の欲望を満たさせるだけで満足であり、必死で働いたお金を惜しみなく注いでいた。




 マルティアーゼ達はムングロ国の一番東端の町カムリという砂漠の町にやっとの思いで到着していた。

 白茶けた町に入ると直ぐに宿へと直行して、歩き疲れた身体を休めていた。

 熱い日差しがじりじりと肌を焼き、吹き出る汗は瞬時に蒸発して喉はカラカラに渇いていた。

 海を目指して歩いていると、いつの間にか道を間違えてしまい砂漠に入っていたのだった。

 砂漠の知識も無いまま歩き続けてもう駄目かと二人の脳裏によぎった時、町を見つけることが出来た。

 宿に入るとまずは水をと、宿主から受け取った水袋を二人は息継ぎもなしで一気に喉に流し込んだ。

 冷たく流れ込んでいく喉の感触が生気を蘇らせていくようで、熱くなった身体も徐々に落ち着きを取り戻していく。

「はぁはぁ……、助かったわね」

「そ、そうですね、もう駄目だと思いました」

 草原から見えた山を越えると、枯れ木と砂が一面に広がる大地が見えた。

 遠くに町が見えたのでその方向に向けて歩んでいいたが、一向に町に着くことが出来ず、気がつけば砂漠の真ん中を歩いていた。

 その上、食べるものも飲み水もなくなり、二日間砂漠を彷徨っていた。

 日中の暑さと夜の寒さが、馬に乗って何もしていなくとも体力が削られてくる過酷な場所だったが、

「よく、生きてこられたと思います、これなら戦ってる方がよっぽど楽ですよ」

 トムは水袋を身体に押し当てて冷やしながら言ってきた。

「これが砂漠という場所なのね、ただ熱いだけの場所かと思っていたわ」

「そうですね、夜があれほど寒いとは思っていなかったです」

「それに足場が砂だから歩きにくかったわ」

 砂漠で足を取られた馬から二度ほどマルティアーゼは落馬していたが、落ちた場所も柔らかい砂だったので怪我もなかったが、体中砂まみれになった時の嫌な思い出が脳裏をよぎった。

「服の中が砂だらけだわ」

 汗と砂で服が汚れてしまったのが何より嫌だった。

「湯浴みをして服も洗わないといけないわね」

「この辺りは一面砂が舞っているので、洗っても汚れるだけじゃないですか?」

「んん、そうだけど何時までも着ていられないわ、あっそうよ、あれがあったわ」

 マルティアーゼが荷物の中から取りだしたのは、イリィの代わりに出た時の結婚式での衣装だった。

 ブーケと引き裾は無くなっていたが、短いタイトスカートのワンピースを寝台に広げて見せた。

「ああっ駄目だわ、ほらここが破れているわ」

 イリィ達と逃げる途中、馬車から落ちたときに打ちつけた衝撃でお尻の生地が破れていたのだった。

「……はぁ」

 トムは破れたドレスを見せられても、じっと見ているのも何だか恥ずかしく思いながら生返事をした。

「もうしばらくは我慢して、取りあえずは服に付いた砂だけでも落としておけば良いではないですか?」

「そうね……」

 唯一店で買った服はサドレムの屋敷に置いてきたので、荷袋の中を探してもそれ以上着る物は見つからなかった。

 これまで何度も荷物を失い、その度に買い直すことを幾度も行ってきた。

 この旅でマルティアーゼがローザンから持ってきた荷物といえばお金ぐらいしか残っていなかった。

 そのお金も大半をサム達に使用したので、殆ど残っていない。

 イリィの為にサドレムが貯めていたお金を、マルティアーゼ達がもらい受けた事で所持金としては十分あったが、この旅で少しは世間の金銭感覚というものを身につけたマルティアーゼは、旅に不必要な物はなるべく買わないように我慢することを覚えてきていた、が……。

「それにしても荷物の中身はいつも少ないわね……、服と食べ物、火起こしの枯れ木と火打ち石……、到底女子が持っている荷物とは思えないわ」

 マルティアーゼが眉を下げて苦笑いをした。

「ま、まぁ……旅の荷物としてはその位のほうが動きやすいですからね」

「貴方の方が私より荷物は多いわよ」

 トムの荷袋にはお店で買った服も入っていたので、マルティアーゼの荷袋よりも倍に膨らんでいた。

「私は自分の物は大事に持ち歩いてますから」

「むう、それじゃあ私がまるで物を大事にしていないように聞こえるわよ」

 マルティアーゼの眉がピクピクと震え、トムを睨んでいた。

「マ、マールさん……、荷物が軽くて良いじゃないですか、重くなるとまた愚痴をいう羽目になりますよ」

「私そんなによく愚痴を言ってないわよ」

 マルティアーゼは自分ではそんなに言った覚えもなかったが、

「ええ……言わない日がない位に聞いてますけどね」

「むうう、貴方だって初めに比べたら随分と小言を言うようになったわ、あれは駄目ですこれは駄目ですって、まるで侍女みたいよ」

 マルティアーゼも反論するが、トムはそれは当然とばかりに、

「私と立場が違いますからね、もしものことがあっては大変ですし」

 マルティアーゼがむっとしながら、

「その割には私のおかげで助かったこともあったし、私も危険な目にあった事もあったわ」

「その殆どが自ら招いた事ではないですか……、ランドスの事といい、その前の魔道士だってそうでしたよ、私が一人で出歩かないよう、放って置きましょうと言ったのに自分で災いに飛び込んでいったではないですか」

「うっ…………」

 痛いところを突かれて言葉を返すことが出来なかったマルティアーゼは、じっとトムを睨み続けていた。

「もう少しですね、安全な旅を心掛けて頂かないと、この先いつかはとんでもない事態になってしまいますよ」

 それ以上言うと怒りが爆発するぞと言わんばかりに、マルティアーゼの顔は真っ赤になって頬を膨らませている。

「話が逸れてしまいましたが……、荷物などまた自然と増えていくでしょうから心配せずとも大丈夫ですよ、それより先に腹ごしらえをしませんか? 喉も潤ったことですし、おなかも減ったでしょう」

 マルティアーゼは無言のままトムを見つめていたが、お腹の音はそれに反して返事をしてきた。

 顔を赤らめながらマルティアーゼはトムと宿を後にして町へと繰り出した。

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