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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 二日間はマナマの実を買い出しに行かずとも大量に買ってきていたので、マルティアーゼの看病にトムは専念していた。

 マルティアーゼは寝台から降りて部屋の中を歩き回るまで回復して、トムと話をしていた。

「もう大分良いみたいですね、良かったです、一時はどうなるものかと思いましたよ、食事も取っておられますし安心しました」

「さすがに果物だけでは駄目かと思ってね、それに食べないと貴方を心配させてしまうから」

「では旅を再開しますか?」

「そうね……その前に湯浴みをしたいわ、ずっと寝たきりだったんですもの、汗臭いからすっきりしたいわ、明日には出ましょう」

 マルティアーゼは自分の体臭を嗅ぎながら嫌な顔をした。

「あと、あの果物をもう少し食べたいわ、あの果物の乾物があるならそれも買ってきて欲しいの」

「どうですかね、ちょっと見てきましょう」

 トムは立ち上がって部屋を出ようとした。

「ええ…その間、湯浴みを済ませておくわ」

 二人がそれぞれ自分達のすることを始めていく。

 外に出たトムはカレーナの店に向かうと、彼女の姿は無く店番に立っていたのは違う女性だった。

「カレーナはどうしたんだ、ここで働いていた女性は何処に?」

 年配の女性はトムの質問に対して、

「カレーナ……? ああっ前の女の子かい、あたしゃ昨日からここを任されてるんだよ、あの子は他の仕事をする事になったとか聞いたけどね、確か畑仕事でそっちの方が賃金が高いからとか言ってたけど」

「その畑は何処にあるんだ?」

「さぁね、あたしにゃ分かんないね」

 年配の女性は上を見ながら考え込んだが、思いつかなかったようだった。

「店主はいるか?」

「今はいないよ、何処かに出かけちゃったよ」

「……そうか」

「何か買っていかないのかい? 売り上げが上がれば賃金も上げるらしいんだよ、買っていっておくれよ」

「……あ、ああ、じゃあマナマの実とこれの乾物ってのはあるかな、あれば欲しいんだが……」

「あいよ、待っとくれよ」

(カレーナが畑仕事……、何故わざわざ重労働を……店番でもちゃんと返せるぐらいの賃金のはずなのに)

 マナマの実と乾物を手に宿に戻ったトムは、それをマルティアーゼに渡すとまた直ぐに宿を後にした。

「旅に出る前に乾物を食べないで下さいよ」

 そうマルティアーゼに言い残して出て来たトムは、馬で街中を歩き回った。

(畑など何処にあるんだ……)

 山の斜面には何処にもそのような畑をする場所もなく、海岸沿いは漁業関係の物や店ぐらいしか見当たらなかった。

「町の外なのか……」

 近くに歩いていた男性に聞くと、この町で畑なんてものはなく、あるとすればこの町を抜けた南に僅かだが畑仕事をしている地域があると教えて貰った。

「時間は……」

 上空の太陽の位置を確認してまだ真上には来ていなかったので、馬を走らせ町を出て行った。

「南と言ってもどの位走れば良いのか……」

 山を迂回しながら海岸沿いの街道を走っていくと所々灌木地が見えてきた。

 そう多くはなく、個人の菜園程度の物から企業がやっていそうな大きな場所まであった。

 畑と畑の間は樹木で区切っているのか、高い木が生えていてその木陰で休憩をしている人達が所々見受けられた。

 トムはこの辺りなのかと、馬の速度を緩めながら見渡してみる。

 しかしカレーナの姿は見つからず、休んでいた人に尋ねてみた。

「それは誰の畑だい?」

 トムは町の青果店の名を告げると、急に休んでいた人々の顔色が曇って、

「知らないね、あっちに行っておくれ」

 と急に立ち上がって畑仕事を始めようと逃げるようにトムから離れていく。

「おい、ちょっと待ってくれ……何なんだ」

 回りでも青果店の名を聞いた人達は皆、トムと話をするのを嫌がるようにそそくさと立ち去って行って、一人トムはぽつりと取り残されてしまった。

 仕方なく街道を歩きながら畑を見て進んでいくと、街道から離れた広い畑で働いているカレーナを見つけることが出来た。

「おおい、カレーナ」

 馬から降りてカレーナに近付くと、

「こんな場所で働いていたのか、こんなに広い畑を一人で?

「……ええ、ここなら倍の賃金を出すって言われたんですよ」

 布で汗を拭きながら笑顔で答えたカレーナだったが、トムは畑を見て急に顔色が変わった。

「……おい、これは……」

 畑には身の丈の低が腰まで程の緑が生い茂っていたが、その栽培している物を見て愕然とした。

 カレーナには何を栽培しているのか分かっていないのか、不思議そうにトムを見つめていた。

「どうかしたんですか?」

「カレーナ、君は何を作っているのか分かってるのか?」

「店主は薬草だと言ってましたが、違うんですか?」

「只の薬草じゃない……、これは麻薬だ」

「…………え?」

 ローザンでもこの麻薬、乾燥させた葉を粉末にした麻薬が出回り、一時期国では非常事態になったことがあった。

 初めは粉末を炙って匂いを嗅ぐことで脱力感を味わい時間経過の麻痺から、中毒者はお茶に混ぜたり、食事に入れて食べるなど経口摂取する者もいた。

 幸い出回り始める前に発見され、撲滅部隊が南のスラム街を一斉捜索して売買人の逮捕が出来たので良かったが、この麻薬で数人が死亡、数十人が中毒者となってしまった記憶が蘇ってきた。

 この麻薬は南国でしか育たないことも分かっており、ローザンのような北部の寒い地域では栽培は無理ということまで分かって、それからは国境警備が強化され国への持ち込み、所持に関して厳しく取り締まるようになった。

 お茶のように粉末なので見た目や匂いで判別しにくく、火で炙ってみてその煙でようやく分かるものだった。

 富豪者、貧困者問わず遊びや現実逃避をする者がはまりやすい物だった。

 それをこんな場所で堂々と栽培しているとは……。

「あの店主、君にこんな事をさせて罪を被せるつもりなのか、これは中央国じゃ何処でも死罪に当たる代物なんだ、今すぐこんな仕事を辞めるんだ、あの狸親父、儲け話と言ってこんな事をさせるなんて許せんな」

「そんな……どうしたら……」

 口を押さえて涙ぐむカレーナをなだめながら、町に連れて帰った。

(ここの住民が口をつぐむって事は只の店主ってだけではない、裏でとんでもない事をしてる奴だって事だからか)

 トムは唇を噛みしめ店主の元へと向かう。

 カレーナに店主の住処を聞いてから彼女を待ちで降ろすと、

「此処の警備兵に助けを求めてきてくれ、働いてる店主に麻薬の栽培をさせられているから助けて欲しいとな、俺は少し奴に話がある」

「……はい」

 事が大きくなるのが恐ろしいのか、カレーナは身震いをしながら返事をした。

 自分はどうなるのか、こんな事が知れたら父や自分の身に危険が及ぶのではないのかと不安が隠せずにいた。

「心配しないで俺が片を付けてくる、いいか身元を保護して貰うように言うんだ」

 トムは急いで店主に会いに馬を走らせた。

 教えられた店主の家は豪華な佇まいで、金五十でやり繰りが大変だ等とは到底思えない広い敷地で、嫌らしい装飾を施した建物に奇妙な置物が沢山飾ってあった。

「狸の住処にしては豪華だな……」

 トムは門をいきなり開けると、ずかずかと中へと入っていった。

 すると、物音に気付いた使用人らしき男が家の中から出てくると、

「どちら様ですかな」

「此処の主に話がある、今すぐ出せ!」

 トムが叫んだ。

「主人は留守でございます、また日を改めて下さい」

 口調は丁寧だが、使用人と呼べるような見た目ではなかった。

「それともこう言えば良いか、畑のことで話があるとな」

 男の表情が翳り、無言で店主を呼びに行った。

 すると家からはぞろぞろと怪しい男達が出て来てトムに睨みを利かせるが、トムの方は驚きもせずに仁王立ちで店主を待ち続けた。


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