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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「ランドス、もっと早く」

 必死に手綱を引きながら検問所を突破したイリィとランドスは、検問所の兵士に追われていた。

 トム達と別れてからそのまま検問所に辿り着いた二人は、言付け通りに馬を止めずに門番を蹴散らしてそのまま国を出て来ていた。

 ここから隣の国まで一日ほどの距離を、ずっと走りっぱなしというわけにはいかなかったが、追われている以上、止まるわけにもいかなかった。

「何処か隠れられる場所で一旦馬を休ませないと倒れてしまうよ……」

 街道は海岸沿いに反対側にはうっすらと広がる森というより林といった、まばらに木々が生えていて幹の細い森には隠れられる場所も見当たらない。

「こんな平坦な所じゃ隠れる場所も……」

 先に見えるのは砂利道の街道が海岸沿いに延びていて、向こうから行商の馬車がやって来るのが見えるほど見通しの良い街道だった。

 ずっと後ろから検問所の警備兵が追ってきているのが見え、捕まればそこで終わる状況にランドスは必死に馬を駆り立てていた。

 だが、重い荷台のせいで速度が出せず、追いつかれるのも時間の問題だった。

「イリィ、荷台の荷物を捨てて少しでも軽くしないと追いつかれてしまうよ」

「分かったわ」

 家財道具や衣類などサドレムが二人の為と思って載せた荷物をイリィが荷台から投げ捨てていく。

 その度に街道に大きな音と共にばらまかれ結果、進路の障害になる見たいに壊れた家財が散乱していった。

「こんなものまで……」

 それはサドレムが大事にしていた鏡台で、イリィの母親キャスティの使用していた思い出の品だった。

 父親の大事にしていた物まで荷台に積んでいたという事にイリィは一抹の不安を覚えて、どうしても捨てることが出来なかった。

 それ以外でも大小のお金袋が二つもあり、中には金粒がぎっしりと入れられていた。

「もう捨てる物は無いわ」

 お金と鏡台だけを残し全ての家財を荷台から降ろすと、軽くなった馬車の速度がどんどん上がっていく。

「よしこれなら……いけるかも知れないよ」

 警備兵は足を取られないよう気にしながら、散乱した道を速度を落としながらもやって来くる。

 カラカラと灼熱の日差しを浴びながらどんどん街道を進んでいくが、警備兵も諦めることなく距離を縮めてきていた。

「もう此処までか……」

 検問所を出てからかなりの距離を走破してきたが、この何も無い只の道が自分達の終着点なのかとランドスは思った。

(どんなに頑張っても僕の人生の距離はこのぐらいしか行く事が出来ないんだ)

 もう警備兵の顔が分かるぐらいまで追いつかれた馬車は急激に速度を落とし始めていく。

 馬は口から泡を吹いて体力の限界まで駆けていたのである。

「……ごめんよ」

 酷使させてしまった馬達に呟くと馬車は街道の真ん中で止まってしまった。

 直ぐさま馬車の前にやって来た警備兵二名が剣を抜いてランドス達に詰め寄る。

「貴様ら、今すぐ降りろ!」

 警備兵達もかなりの距離を走らされ汗でびっしょりとなり、検問を突破して逃げた二人に対して怒りを露わにしながら馬から降りてきた。

 ランドスはイリィと共に馬車から降りて警備兵達に何故逃げたと聞かれると、イリィが進み出て、

「私はサドレムの娘イリィです、ちょっと親と喧嘩して逃げてただけよ、通して欲しいの」

「サドレム……? マニーラの町長の所の娘か、親子喧嘩でもしたのか知らぬが例え町長の親族でも検問を受けるのは規則だ、一旦国に戻って調べさせて貰うぞ」

 イリィがどうしても隣のディストレア国にいかなければいけないと押し問答をしていると、後ろから新たに兵士五人がやって来て、

「サドレム町長の娘のイリィだな、サドレムのブルス大臣殺害で聞きたいことがある、連行しろとのことだ」

「……え? 何の話よ、父が殺人を……一体何の事を言ってるのか分からないわ」

「そんなことはどうでもいい、お前を連れてこいとの命令だ」

「嫌よ、父が何をしたのか知らないけれど、私には関係ない事よ」

「ええい黙れ、逃げた理由も聞かんとならぬ、捕まえろ」

 兵士がイリィを捕まえようとすると、ランドスが一人の兵士に体当たりをすると剣を奪い取った。

「イリィから離れろ!」

「ランドス!」

 剣を振り回しながらイリィの腕を掴んで引き寄せた。

「何をする貴様」

 一斉に兵士達も剣を抜いて構えを見せた。

 ランドスは震える手で剣を握りしめ、イリィを守ろうと果敢に兵士達と対峙して見せた。

「貴様など用は無い」

 兵士の突き出した剣にランドスは剣を重ねる。

 甲高い音と共にランドスの持っていた剣は宙に飛ばされる。

 ドンッと鈍い振動が胸に響くと、ランドスの体に剣が突き刺さっていた。

「……ごぶっ」

「いやああっ」

 兵士が右胸に刺さった剣を引き抜くと、ランドスが力なく崩れ落ちる。

「ランドス! ランドス! いや……死なないで……」

 血が勢いよく胸から滲み出て、砂利道の街道が吸い取って消えていく。

「ふん、邪魔をしなければ死ななくても良いものを、さぁ来い」

 イリィを取り囲んで連れて行こうと肩を掴んで立たせようとするが、

「嫌っ、やめてえ、嫌よ」

 イリィがランドスに抱きついて離れようとしなかった。

 兵士達が数人でランドスからイリィを引きはがした時、

「おいおい、ベストラの国の兵士ってのは国の外でも国民を苛めてるのか?」

「いけないな、乱暴な国とは聞いていたけどやり過ぎはいけないな」

 そこに馬に乗った二人の男達が馬上から兵士達に言葉を投げ掛けてきた。

「何だ、貴様らは……邪魔をするでない」

 兵士達が男達に振り向く。

「ここはおめえ達の国じゃないんだぜ、指図される覚えはねえよ」

「殺れ!」

「ふんっ、遅えよ」

 そう言った男は兵士達が構えを見せる前に馬上から剣で薙いだ。

 一振りで兵士二人を切り倒すと、周りの兵士が男に剣を突き出してきた、するともう一人の男の持っていた長い槍が風切りと共に振り下ろされると、

「ぎゃあ」

「ぐぶっ」

「うああ」

 繰り出した兵士達の腕が枯れ木のように折られて、剣を地面に落としていく。

 三人の兵士の腕はだらりと垂れ下がり気付いたときには、剣を持つ男が横一閃になぎ払った剣先が兵士達の胸を通り過ぎていった。

 その鮮やかで息の合った連携を見ていた警備兵二人は、何も出来ないまま男達二人の剣と槍の餌食となって街道に倒れていった。

「弱えな、まぁ沿岸諸国の連中なんざこんなものか」

「ふうむ、もっと鍛えないといけないな」

 一合も剣を交えることなく兵士達との戦いを終わらせる。

 あっという間の出来事をイリィは呆然と見つめていて、気付くと周りにはさっきまで威勢良く怒鳴っていた兵士達の骸が転がっていた。

「……あっ、ああ……」

「もう大丈夫だよ、お嬢さん」

 槍を持つ男がイリィに声を掛けてくる。

「……はっ、ランドス、ランドスが……」

 イリィは男に返事をする前にランドスの元に駆け寄り抱き起こした。

「ランドス、しっかりしてランドス」

「…………イ、イリィ、……無事だったかい、よかっ……た、ごぶっ……」

 ランドスの口から大量の血があふれ出る。

「いやっランドス、死なないで……お願い彼を助けて」

 イリィが男達に告げる。

「助けるってもなぁ、俺達は魔導は得意じゃねえし、その様子じゃ傷を塞げても血が流れすぎだ、助からねえよ」

「これこれ、お嬢さんの大事な人なんだ、言い方を考えないといけないよ」

「言い方ってもなあ、それで助かるなら楽なんだけどな」

 男達は冷ややかにイリィ達を見つめながら、

「悪いな、俺達じゃどうにもならん、自分の命が助かっただけでも儲けもんと思いな、じゃあな」

「済まないねお嬢さん」

「そんな……」

 泣いてるイリィをそのままに、男達は街道を立ち去って行った。

 残されたイリィはランドスに声を掛けながらどうすることも出来ずに抱きしめていた。

「もういい……、僕の分まで生きて……」

「嫌よ、貴方と一緒でなければ生きていても仕方ないわ、ああ誰か彼を助けて」

 街道を見渡してみても人はおらず、暑い日差しがイリィ達を静かに見守っているだけだった。

 イリィはどうにかして馬車に乗せようと、自分よりも重いランドスを引きずって馬車まで連れて行こうとしたが、傷口が開いてランドスが苦しそうにうめき声を上げる度に立ち止まって容体を心配していた。

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