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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 一刀目でブルスの右胸に剣を突き刺し、倒れ込んだ所を腹にもう一刀、剣を突き立てた。

「お前は……なにを……やめっ」

 ブルスは手で剣を防ごうと前に差し出しながら、弱々しい声を吐きながら驚愕の目でサドレムを睨んでいた。

「ブルス、やっと会えたな! キャスティさんを覚えているか、二十年前、お前が婚約を破棄され殺した女性だ、いまその仇を討たせて貰うぞぉ」

 サドレムが大声で皆の視線をかき集めた。

 一気に会場から悲鳴が巻き起こり、参列者達が一斉に蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。

「……な、何を……しておる?」

 隣にいたトルースは何が起こったのだと、サドレムが真っ赤に染まった剣を何度もブルスに突き立てているのを呆然と見つめているだけだった。

「あれ……君は誰だい? イリィさんじゃない……」

 デュースがマルティアーゼと目が合うと動揺しながら後ろの騒ぎに目をやった。

 マルティアーゼはデュースのことなど気にも留めず、参列者がこちらに押し寄せてくるのに乗じて人混みに身を隠しながら会場の入り口へと向かって走り出した。

「え、どういうことなのイリィ……」

 一瞬目を離したデュースが向き直した時には既にマルティアーゼの姿は何処にも無く、人々が建物から逃げようと入り口に波のように駆け込んでいく様子だけが目に映っていた。

 サドレムは既に死んでしまったブルスの死体を前に大声を上げた。

「ふはははっ、やっと……やっと貴方達の仇を取りましたよ、キャスティさんレントさん……、僕はもう思い残すことはないです、貴方の娘も立派に育てあげましたよ……、もう僕の役目は終わりです、この日のために生きてきたんだ、貴方達の恩を返す為だけに、もうじきそちらに……ぐっ」

 集まって来た兵士達が持っていた槍でサドレムを串刺しにした。

「ごぶっ……、ふふ……もうこれでもう……長い憎しみから……解き放た……」

 サドレムは振り上げた剣を落とし、純白の衣装を真っ赤にして立ったまま事切れた。

 その顔は安らぎと安堵の表情で笑っている様相であった。

「あわわ……、何故だサドレム、どうしてブルス大臣を殺したのだ……あわわ」

 トルースには一瞬の出来事で理解する前に事が終わっていて、真っ赤な血だまりの側でただ腰を抜かして座り込み、死んだサドレムに問いかけていた。

 建物から続々と人が逃げだしてきて、その中にマルティアーゼもブーケと引き裾を取り外し建物から出て来た。

「このまま走りきる!」

 マルティアーゼは後ろを見ず、バラバラに逃げ出す参列者とは別に一目散に敷地の外に向かって走り出した。

「とと、父様……大丈夫ですか?」

 デュースが震える足取りで父親の元にやって来て、震えながら言葉を掛けた。

 直ぐ横には血だらけのサドレムが床に倒れており、兵士達は周囲の警備と騒ぐ人々の誘導と整理におわれていた。

 茫然自失になったトルースが息子の顔を見ると、

「おお、おおデュースか……怪我はなかったか?」

「はい……でも、一体何が起こったのですか、どうしてサドレム町長が死んでいるのですか、それに……」

「儂にも……突然席に着こうとしたサドレムがブルス大臣の前に来た時にいきなり剣を抜いて襲いかかったのだ、何故……サドレムが大臣に……」

 会場にいた全員が何故ブルス大臣が殺されたのかなど知るよしもなく、ただ目の前で起きた惨劇に驚いていた。

「父様、イリィさんが……イリィさんが違う人になっておりましたよ」

「……何を言っておる、違う人とはどういうことだ?」

「どうもこうも分かりませんよ、イリィさんの顔を覗いたらイリィさんじゃないんですよ、全く知らない女性でした」

「なん……だと、おおっそうだ、サドレムの娘に事情を聞けば良いのだ、おいっ、兵士を集めサドレムの屋敷に行きイリィという娘を捕らえてくるのだ、あの娘なら何か知っているかもしれぬ、早う行かぬか」

 トレースが兵士の一人に伝えて立ち上がって、フラフラする足をデュースに支えられながら会場で起きた惨劇に目をやった。

 白い会場の中央に赤い血だまりの中にサドレムとブルスの死体が横たわり、兵士達が全ての入り口を固めて誰も入れさせないようにしていて、外のざわめきが会場にいるトレースの耳に聞こえていた。




 会場から逃げ出したマルティアーゼは必死にイリィの元に向かっていた。

 白いドレスを着た女性が汗を滴らせながら走る姿を、町の人達が不思議そうに見守る中、マルティアーゼは一心不乱に通りを駆け抜けていく。

 折角綺麗に整えてくれた髪も崩れて、長い髪を振り乱しながら人々の間を小さな体がすり抜けていく。

 その様は精霊が踊っているように灰色の髪がなびくたびに日差しに照らされて銀色に輝いていた。

「もう少し……」

 既に邸宅にはトムが来ており、二頭立ての馬車の荷台にはイリィとランドスが肩を寄せ合いながら荷物と一緒に乗せられていて、今や遅しとマルティアーゼの帰りを待っていたのである。

「姫様……」

 ぼそりとトムが呟く。

 手紙には今日、町長の邸宅に来てイリィさん達と馬車で待っていて、と殴り書きの手紙を手渡されたのである。

 何処で何をしているのか心配になりながらも邸宅に来ると、家の中に一人でいたイリィを見つけ連れ出してきたのである。

 イリィの他には誰もおらず、彼女も使用人達がいなくなっていることに気付いていなかったみたいで、トムとランドスが部屋に入ってきて驚いていた。

 イリィは使用人から支度が出来るまで待っていてくださいと言われただけで何も知らされていなかったみたいで、トムがマルティアーゼの手紙を見せると三人で裏庭へと回ってみた。

 すると、マルティアーゼの馬が荷台と繋がれて大人しく待っていたのである。

 荷台には沢山の荷物と大金が乗せられてあり、イリィとランドスが乗り込んで、トムは自分の馬を荷台に繋げて二頭立てにしていた。

 そして三人は馬車でマルティアーゼを待っていたのであった。

 結局トム達はこの家で何が起きてどうなっているのか誰も説明出来ないまま、マルティアーゼの言われたとおりに馬車で待つしか無かったのである。

「もう少し状況を書いていて貰えれば良かったんだが……、いつも何かをすっ飛ばして連絡してくるから、言われたままのことしか出来ないんだ、状況でも分かればこちらから動ける事もあるかも知れないのに……何故こうも一人で問題を抱え込もうとするのか困った人だ」

 本人がいないのをいいことに、トムは悪態を付く。

「大丈夫だったかい……、全然帰ってくる気配もなかったから心配したよ、親父さんとは話をしたのかい?」

 ランドスがイリィの体を抱きしめながら何処にも怪我はないのを喜んだ。

「いえ……帰ってくるなり薬を飲まされて眠らされたわ……、あのお嬢ちゃんと一緒に地下牢に閉じ込められたのよ」

 それを耳にしたトムが振り返ってイリィを問い詰めた。

「マ、マールさんはどうなった? まだ地下牢に閉じ込められているのか?」

「分からないわ……、先に私が牢から出されてそのままずっと部屋に軟禁されていたから……」

「くそっ探してくる、待っていてくれ」

 トムはすかさず馬車から飛び降りると、家の中に走って行く。

「入って一番奥に階段があるわ、鍵は扉の側にあるはずよ」

 イリィがトムに地下牢の場所を教える。

 だが暫くして家から出て来たトムの表情は暗いものだった。

「駄目だ居なかった……、家の部屋全て見てきたが何処にも居なかった……何処に連れて行かれたんだ」

「きゃあ」

 トムが頭を垂れていると、邸宅の門からマルティアーゼの悲鳴が聞こえてきた。

 トムは反射的に駆けだして門に行くと、地面で転がっているマルティアーゼを見つけた。

「どうしました、大丈夫ですか?」

 ずっと走り続けてきたマルティアーゼは足が上がらなくなって、邸宅の門前で足がもつれて転倒してしまった。

「早く馬車を出して……、此処から逃げるわよ」

 倒れたまま顔を上げるとトムがそこにいたので、すかさず指示を出した。

「ですが……」

「いいから早く!」

 トムは駆け戻ると馬車を門まで連れてくる。

 門前で立って待っていたマルティアーゼの姿は、白いドレスは汚れて手足には擦り傷から血を滲ませていた。

「イリィさん国を出るわ、貴方達の行きたい所まで連れて行くわ」

 馬車の荷台に乗り込んだマルティアーゼがすかさずイリィに伝えた。

「一体その格好は……」

「話は後よ、直ぐに国を出ないと二度と逃げ出せなくなるかも知れないの、トムに道を教えてあげて」

「分かったわ、じゃあ南に行って頂戴、そこの道を行けば街道に出られるわ」

 トムも切迫した現状を理解したのか、文句も言わずに直ぐにイリィの言った道へと馬車を走らせた。

 すると、後ろから大勢の兵士が邸宅に向かってくるのが見えた。

「そこの馬車、止まれ!」

 兵士から怒号が飛んでくるのをマルティアーゼは、

「駄目よ、止まらないで!」

 トムに言い聞かせる。

「分かってますよ、貴方が連れてくるのに碌なのが居ませんからね」

 いつもの如く何の状況の説明もないまま、訳の分からない危機的状況に巻き込まれたトムがぼそりと呟いた。

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