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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「ふああぁ、まだ眠いわ、やっぱり宿で寝るとよく眠れるわね」

 小さな手で大きなあくびを隠しながらマルティアーゼとトムは街を歩いていた。

「折角沿岸諸国に来たのだから、まずは海を見に行きましょう」

 二人は緩やかな坂を下りながら漁港に向かって行く。

 舗装のされていない砂利道に苦労しながらも海岸にまで出ることが出来た。

 内海と違い、濃く深い海は海岸から少し泳げばいきなり深くなっている、代わりに漁港は魚市の目の前まで船を寄せることが出来て、獲れたての魚がすぐに水揚げ出来るようになっていた。

 比較的浅い場所までは桟橋が掛けられていて、沢山の船が停泊している。

「底が見えないくらい深そうね、見てると何だか怖いわ」

 時折見える黒い影のようなものがすうっと目の端を流れるように横切っていくのが見えると、揺れる波が太陽の光でそう見えたのか、それとも暗い海の中、海岸近くまでやって来ている大きな何かなのか見当が付かなかったが、それが余計に怖さを感じさせていた。

 見える怖さと見えない怖さで海岸まで来てみたが、マルティアーゼは到底水に入ろうとは思わなかった。

 人通りの少ない漁港をぐるりと見て回り、今度は繁華街の店を見に行こうと来た道を少し戻って、街道沿いのお店を見て歩いてみた。

「漁師町だから魚の匂いが凄いわ、身体に匂いが染みつきそうね、それにこの潮風の所為で髪がぱさつくわ」

 不満を言いながらも店先に並んだ魚の干物や変わった魚などに興味を持ち、店主にこれは何かと訪ねて興味ありそうに頷いて相づちを打っていた。

「ローザンの商店街を思い出すわ、あそこにも色々と変わったものが売っていたから楽しかったのよ」

 しかしトムは魚などに興味は無く、周りに歩いている日焼けした人達を見て、

「此処の人は皆日焼けが凄いですね、男も女も皆浅黒く日に焼けていますね」

 男も女も皆薄着で柔らかそうな布の生地で、重要な部分だけを取りあえず隠してますといいたげな格好をしていた。

「そうねえ、毎日これだけ暑いんですもの、私だってここに来るまでに結構日焼けしたわ、ほら」

 マルティアーゼが胸元の服をずらして日焼けの跡を見せた。

「姫様、そ、そんなことは……はしたない」

「だって此処の人は皆薄着よ、この服も暑いわ、私達も服を着替えて此処の人と同じような格好をしましょうよ、そうそれが良いわ……何だか楽しくなってきたわ」

 ポンッとマルティアーゼが手を叩く。

「また無駄使いを……」

「何よ、これから南に行くんだからこんな厚着してたら暑さでバテてしまうわよ」

「私はこれでも問題ありませんけどね、どうせ鎧を着てますので中の物を脱ぐだけで結構涼しくなりますし」

「ふうん、楽で良いわね……くんくん、貴方結構臭うわよ、ずっとそんなの着てるから汗が染みついてるんだわ、トム着替えなさい!」

 トムに顔を寄せて匂いを嗅いだマルティアーゼが嫌な顔をした。

「そんな臭う人と一緒にいてもこっちが困るわ、私が選んであげるから貴方も着替えるのよ、いいわね」

「はぁ……」

 トムはそんなに臭うかなと自分で身体を嗅いでみるがよく分からなかった。

 何かマルティアーゼに嵌められた感があったが、二人は街道沿いから外れた場所で見つけた服屋で服を物色し始めた。

 その店から出て来たとき、マルティアーゼは白く滑らかな生地の一枚布の服で体を包み、腰には太いサッシュで留めていて、手を広げるとふわりと袖から腰まで羽根を広げたような繋がった服装だった。

 頭にも布帽子をかぶり紐で額に括り付けただけの簡素なものを被り、足は革で出来たサンダルで脹ら脛まで伸びた革紐で縛り付けてあった。

 サッシュにはお金と秘薬袋にワンドをぶら下げ、身動きし易いか体を動かして確かめていた。

 一方渋々着替えたトムはマルティアーゼに選んで貰った町の男達の服装で、布のズボンに布のシャツ、上にはチェニックと細いサッシュで決め込んで、何処から見ても町人の格好をしていたが、腰にはちゃんと剣を差していて少し不格好な風体だった。

「似合ってるわよトム、その方が好感が持てるわ」

「……そのような物は目立つだけで私には要りませんよ、なるべくなら目立たない方が良いんですがね……」

 兵士としての格好に慣れてしまっていたトムはそわそわと、軽くなった服装に居心地が悪そうにしていた。

「そんなこと気にしすぎじゃない、貴方も年頃なんだし格好つけていい女性を見つけないといけないわ」

 マルティアーゼはトムの襟を直してあげて、一歩下がると全身をくまなく眺めて頷いた。

「好青年って感じで良いわね、ふふっ」

 二人は着てきた服を宿に戻って荷物を置くと、

「結構な値段でしたね、姫様お金についてですが……」

「姫様に戻ってるわよ、トム」

 ここ最近で呼び方が前に戻って来ていたので、マルティアーゼがたしなめた。

「ではマールさん、お話があります此処に座って下さい」

 トムは真顔になってマルティアーゼを椅子に座らせると、

「お金の使い方についてですが、この旅で既に半分以上のお金が減ってきているのです、何に使ったか覚えていますか?」

「……何? それがどうしたのよ、服を買ったぐらいで怒る事ないじゃない」

「サム達の家や生活費等、旅に必要な物は仕方ないですが必要以上の物にお金を使いすぎているのですよ、まだ旅に出て半年でこれだけ減っていてはこれ以上旅は出来なくなりますよ、ローザンに帰るというのであれば別ですが……」

 トムの最後の言葉に眉を動かしたマルティアーゼは、

「嫌よ、帰らないわよ」

 マルティアーゼは頬を膨らませてトムを睨んだ。

 しかしトムの方もこれ見よがしに、

「ならば、お金の無駄使いはやめて頂きましょうか」

「む……」

 じっと睨み付けていたマルティアーゼは何かを思い出したように、

「それならお金を稼ぎながら旅をすれば良いのね」

「……むっ、また変な事を考えてるのではないでしょうね……」

 トムに又もや嫌な予感が脳裏をよぎった。

「変な事って何よ、私は悪いことはしてないでしょう、私達も町で依頼の仕事をしましょう、稼ぎながら旅をすれば手元のお金を使わないで済むわ、良い考えじゃない?」

 マルティアーゼは自分でこれは合理的な考えだと胸を張った。

「依頼ならプラハで覚えたからやり方も分かる事だし、二人ならいい仕事も出来ると思うの、どうかしら?」

「……ん、まぁ、何か稼がないといけないでしょうが……」

 プラハでやっていた仕事など報酬も少なくて誰もやらないような簡単な採集で、稼ぐとなればもっと難しい依頼をしていかなければいけなく、マルティアーゼに出来るかどうかトムには不安はあったが、

「現状これ以上の出費は抑えたいのが本音ですし、いつかは仕事をしようとは旅に出たときに感じていました、その時は私が働くつもりだったのでマ、マールさんは宿でじっとしていて貰いたいのです」

「私にじっと宿で待っていろと? 何でよ私も働くわよ、いい加減お姫様扱いはやめて頂戴」

 マルティアーゼはイライラしながら怒った。

「もう公女何て身分は捨ててきたの、私は只のマール、そのように扱って頂戴」

「しかし、私も剣を捧げた主を守るという使命があるのです、例え身分を捨てたと言っても周りはそうは思わないのですよ、その事も分かって頂けない事には」

 いつもの言い合いが始めるとトムも負けておらず、自分の使命に対してマルティアーゼにしっかり伝えようとする。

 睨んでくるマルティアーゼにトムは真っ向から視線を受け止めた。

「貴方は私がローザンでどんな生活をしていたのか話したはずだわ、部屋で一人監視されながら生活していた事を、そんな生活が嫌で出て来たというのに、此処に来て宿で一人居座っていろと言うの?」

「御身の安全を考えての事で、現状出来る最善かと思われます」

「それで貴方だけ一人働かせてこれから旅をしていけるのかしら、貴方の身に何かあっても私は此処で何も知らずに一人待ち続けていろと?」

「私に何かあればローザンにお帰り頂くしか無いですが、姫様に何かあればそれこそ一大事、私ごときの身を案じて頂かなくても結構、姫様を無事ローザンに送り届けるのが私の任務と考えていますので」

「それなら考えを改めなさい、私はそんな安全に守られながらの旅をしたいと云ったことがあったかしら、いい? 良く聞いて、私は普通の人達と同じ生活がしたいの、中には危険な事だってあるでしょうし、経験したことが無い事ばかりで上手く出来ないかも知れないけれど、それでも皆はそれらを乗り越えて生きているのよ、私だってやってみて出来ることと出来ない事を経験しないといつまで経っても覚えられないわ、こんな安全な場所にいては人々と同じ目線で生きていけないわ、皆がしてることは私もするし、危険な事も何度も乗り越えてきたんだから、いつまでも特別扱いはやめて頂戴」

 いつもより過激に昼間から部屋で向かい合い、いつの間にか大声で言い争う声が宿に響いていたのか、心配した宿主が扉をノックしてきた。

「済まない、気にしないでくれ」

 トムが宿主を引き下がらせると、

「もう良いわ、この話は無かったことにして」

 窓辺に立ったマルティアーゼが珍しく引き下がった事を言ってきて、トムも諦めてくれたかと追求もしなかった。

 マルティアーゼはその日は一日中ふくれっ面のまま無言で静かに部屋で過ごしていたが、次の朝、トムが目覚めると隣の寝台にマルティアーゼの姿は無く、荷物も消えていた。

 慌てたトムが宿主に連れが何処に行ったか聞いてみると、先ほど出て行かれましたと教えられ直ぐに宿を引き払った。

 馬小屋にもマルティアーゼの馬は無く何処に行ったのか、トムは馬で街中を探しに出かけた。


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