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次の日からトムは家を探しに出かけると、マルティアーゼはサム達三人と一緒に仕事を探しに出かけた。
「サムはどんなことが出来るの?」
「僕は足が速いから走ることなら何でもいいよ」
「足ねぇ……、じゃあルーディは何が得意なのかしら?」
「僕は計算なら出来るよ、お金を分けるのは僕の仕事なんだから」
「じゃあスレントは?」
「僕は……分かんない」
スレントは考え込むが何も思いつかないようだった。
「まあ、これは大変ねえ、貴方達に合う仕事はあるのかしら」
子供達でも出来そうな仕事となると限られてくるが、それでも仕事がないよりはいくらかマシだろうと手当たり次第に店に入っては店主に話をしてみたが、当然のように軽くあしらわれて中々仕事を見つけることが出来なかった。
マルティアーゼは三人と昼食を食べながら町の景色を眺めていると、ふと目に入った店を指差した。
「サム、あそこのお店は何かしら?」
三人が食べながらマルティアーゼの指差す店を見ると、
「あそこは依頼所だよ」
「依頼所って何かしら、知らない店ね……」
「仕事の紙が沢山貼ってあるとこだよ、でも僕たちには無理だよ」
「仕事の紙が? どういうことかしらね、食べたら見に行ってみましょうよ」
マルティアーゼには何の事かさっぱりで、食事中じっと店の入り口を見ていた。
店には傭兵風情の格好をした者から商人風の人達が出入りしているのを見て、一体中はどうなっているのだろうかと興味をそそられた。
食後、三人を連れて依頼所に入ると、部屋の壁には沢山の貼り紙が貼られていてマルティアーゼが驚いた。
「まぁこんなに沢山、何が書いてあるのかしら」
色々と見て回りながら何が書いてあるのか確認すると、動物の骨集めや石集めなどの内容の下に報酬金額が書かれていて、金額の大きさはまちまちだった。
「これはどうすればお金が貰えるの?」
マルティアーゼがサムに聞いてみた。
「この依頼を受けて内容の物を探してくると此処でお金が貰えるんだけど、依頼を受けられるのは十歳からなんだ」
「そう……ならサムなら受けられるじゃない」
「けど、僕一人じゃ集められないよ」
「何言ってるの、やってみないと分からないでしょう、これなんてどう? 木の実集めなんて簡単そうじゃない、報酬は少ないけど初めならこれで良いんじゃないかしら、一度やってみましょうよ、どうすれば依頼を受けられるのか教えて頂戴」
サムが木の実採集の貼り紙を取ると、店主の所に持っていった。
サムの後ろから何をしているのか覗き込んだマルティアーゼは、店主がサムの年齢を聞くと卓の下から用紙を取り出して、ここに名前を書くように言ってきた。
「待って、私に書かせて、私は十五歳よ受けられるわよね」
「構わんよ、但し依頼の猶予は三日だぞ、遅けりゃ報酬はなしだ、いいな」
店主のゴツゴツした顔に蓄えられた髭がぴくぴくと動いていた。
「分かったわ」
マルティアーゼが偽名のロンド・マールと記入をすると、店主から契約内容の用紙を受け取った。
「これであとは依頼の物を集めて貴方に渡せばいいのね」
「ああ」
意気揚々と店を出た四人が宿屋に帰ってくると、既にトムが部屋で待っていた。
どうやら良さげな家が見つからなかったみたいで、明日他を当たってみると云うことだった。
「それで、そちらの方は仕事は見つかりましたか?」
トムが聞いてくると、マルティアーゼがにこりと笑って、懐から契約書を取り出して見せた。
「ふふっ、あの子達でもお金を稼げそうな仕事を見つけたわ、見てよ」
得意満面にトムに依頼書を渡したが、トムにはそれが珍しくもなさそうに内容を読んでいた。
「依頼の仕事ですか……、あの子達に出来ますかね」
「あら知ってたの残念ね……、お店に回ったけれど何処も門前払いだったのよ、そしたらそこの依頼所を見つけてね、サムなら依頼を受けられるっていうから、これだって思って試しに受けてきたのよ」
驚かそうと思って言ってみたマルティアーゼは、トムの無関心な表情を見てがっかりした。
「それはそうですよ、何処の町でも依頼所はありますからね、ローザン大公国にだってありますよ、規模はそれぞれですが時間がない者や裕福層なんかがお金を出せば、手を煩わせずに手に入れる事が出来ますからね、一番規模が大きい依頼所はアルステルだと聞いた事があります、あそこは沢山の傭兵が集まりますから様々な依頼が集まるみたいです、それに比べて……これまた安い依頼を受けてきましたね、銀粒小で十五ですか……」
「いいのよ、初めなんだから、慣れてくればもっと高いのにしていけば」
折角、マルティアーゼが取ってきた初めての仕事にケチを付けられたみたいで、怒った顔をトムに向けていた。
「この先あの子達が自分達でお金を稼げるって自信を付けて貰わないと、そうすれば盗みを働かなくて良いでしょ、このままだといつか本当に捕まってしまうわ、今からこの木の実……秘薬の一つね、黒花の種百五十粒を集めに出かけましょう」
「今からですか……、明日にでも良いのでは?」
もう陽は真上を過ぎていて往復の時間を考えると収集する時間は殆どなかった。
「期限は三日って云われたわ、黒花は固まって生えないから見つけるだけでも時間が掛かるの、今日にでも行って少しでも集めておきたいのよ」
五人は宿を出ると、麓に預けていた馬にマルティアーゼがスレントを前にサムを後ろに乗せ、トムがルーディと乗り込んで崖を登っていく。
「お姉ちゃん、良い匂いがする」
前に座っていたスレントが顔を上げてマルティアーゼに言ってきた。
「そう? 有り難う、ふふっスレントも綺麗になって可愛いわよ」
「へへっ」
たわいもない話をしながらスレントやサムと楽しく進んでいく。
(お姉ちゃんか……、いままでお姉様と言っていた立場だったから、下の子からこう言われるのはサナ以来ね、何だか恥ずかしい気分だわ)
三人とも初めて見たときに比べかなり明るく、活発で年相応の笑顔が戻って来ていた。
(人は環境で人格が左右されやすい、特にスレントなんてまだ七歳、本当ならまだ親から愛情を注がれていなければならない歳なのに……)
綺麗な金髪の少年に向けるマルティアーゼの視線には母親のような優しさがあった。
一行が崖を登り切り森についたときは太陽が赤くなりつつあった。
「さぁ、降りて黒い花を探して頂戴、花弁の裏に黒い実がついてるはずよ、それを集めてね」
五人が森の中に分け入り手分けして探し始めるとすぐに、
「あったよ」
ルーディが駆け寄ってきて手のひらに二粒の黒い実を見せた。
「凄いわ、じゃあ此処に入れて頂戴」
ルーディが小袋に入れるとマルティアーゼが頭を撫でてあげると、ルーディは笑顔を見せてまた走り去っていった。
黒い実を見つけるたびにマルティアーゼに頭を撫でて貰えるのが嬉しいのか、三人は一生懸命探し続けて、その度に大きな声で持ち寄ってくる。
木の実探しに夢中になり、気づくと足元が見えなくなってきていたので、トムがそろそろ宿に戻ろうと言ってきた。
太陽は森に明かりを差し込む力が弱まり、みるみるうちに沈んでいくのが目に見えて分かった。
「じゃあ帰りましょう、明日も宜しくね」
「おおっ」
「おー」
「うん」
帰りも長い崖を降りていき、宿に戻る長い階段を上がった時には夜の街明かりが煌々と灯り、皆疲れてお腹が空いたといっていた。
宿に戻るついでに食事を取り、寝台に横になると三人は倒れるように寝てしまって、トムとマルティアーゼで三人に布団を掛けてから自室に戻った。
「どうだった? 三人とも良い子じゃない」
「それは……そうですが」
「貴方だってルーディと仲良く話してたじゃない」
「まぁ……初めに比べれば良い子だと言うことは分かってきましたが……」
「まだ何か気に入らないことがあるの?」
寝台に向かい合わせに座ってトムを見つめるマルティアーゼが、まだ何か歯に何かが挟まった物言いのトムに詰め寄って聞いてみた。
「いえ、気に入らないというのはないですが、この先、本当に三人で依頼だけでやっていけるのかが気になるのです、今日の依頼みたいに簡単な仕事がいつもあるわけではないですし、それに銀粒小十五なんて三人の一食分の金額で割に合いませんからね、もっと高額の依頼を受けないといけなくなるなら何か腕を身につけないとやっていけなくなりますよ」
じっと聞いていたマルティアーゼが腕とは何かと聞いてみた。
「例えば魔導や剣技ですね、あと情報力も大切です、依頼内容では旅に出ないと出来ない事もありますから、まだ小さい三人……サムならまだ何とか出来そうですがそれでもまだ十歳ですし、スレントには無理でしょう、となると生活を支えるのはよくてサムとルーディでやっていかなければならないのです」
「……ふうん、なら貴方がサムとルーディに剣を教えてあげれば良いじゃない、長剣は重いから短剣の扱い方ぐらいなら教えられるでしょう、その間、私がスレントと一緒に依頼をこなしておくわ、どうかしら?」
「剣を覚えるのはそんなに簡単じゃありませんよ」
無理なことを言わないで下さいと言わんばかりに反論した。
「だから暫く此処に滞在するっていってるじゃない、その間だけでも教えてあげてよ、スレントだって賢い子よ何度も依頼をしてれば手伝いだって出来るはずだわ」
マルティアーゼもどうにかしてあの三人で生活出来るようにしてあげたく、それにはトムも協力して貰いたかったが、本人にやる気が感じられなくて少しイライラしていた。
トムはこれ以上言うと、マルティアーゼと喧嘩になりそうだと諦めて要求を受け入れた。
いつも二人の言い合いはトムが折れるまで続き、結局はマルティアーゼに言いくるめられるのであった。




