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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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23/1026

23 プラハの三兄弟

 首都のプラハに着いた時はこれが首都と思ってしまうほど森の中に隠れるように建っていて、周りの木々より高い建物は王の住まう城の尖塔が少し森からはみ出て見えるぐらいだった。

 城壁は木の柵で囲まれていて、城は台形の土台を幾層にも積み重ねた城になっており、各層に壁が設けられ重厚な感じがして侵入されにくくはなっていたが、首都にしてはひっそりと森の木々を隠れ蓑にしてるみたいで国としての威厳というのが感じられなかった。

「それにしても低いお城ね」

 円筒形の塔が数棟、森から背伸びをしているだけで、他に高い建物は見当たらず簡素な城だったが、代わりに広く土地を使い多くの兵が籠城できるように造られていた。

 二人は物見矢倉の門で調べられてから町の中に入っていく。

 城下町の景観は石造りの家に石畳と何処の町とも変わらない街並みで、人々も賑やかで活発に暮らしているみたいだった。

 長い通りが城の入り口まで伸びており、その間の通りには沢山の露店がずらりと並んでいた。

 肉の焼ける匂いが漂ってくるとマルティアーゼは急に空腹感が沸いてくる。

「早く宿を見つけて食べに行きましょう」

 通りから外れた所にあった宿屋で部屋を取ると、早速町に繰り出した。

「ミーハマットって国は肉料理が多いのね、嫌いじゃないけど野菜も食べたいわ」

「では、それを出すお店を探してみますか」

 大通りを散策しながら野菜料理を出していそうな店を見て歩いていく。

 ひしめき合う人混みの中、トムはマルティアーゼを見失わないように歩いていると、向こうから走って来た子供とぶつかった。

「すまない、見えなかったんだ」

「いいよ別に……」

 子供はそう言って人混みの中に消えていく。

「あ、ひ……マールさん」

 マルティアーゼの姿を見つけて直ぐに駆け寄ると、胸に違和感を覚えた。

 服の中を調べるとお金の入った袋が消えているのに気づいた。

「マールさんお金を取られたみたいです、さっきの子供か」

「え?」

 トムは振り返ったがとっくに子供の姿は見当たらなかった。

「マールさんは宿にお帰り下さい、私はさっきの子供を探してきます」

「いいえ、私も行くわ」

「しかし……」

「言い争いは後よ」

 二人は子供が逃げていった方へと向かい辺りを探し回る。

 大勢の人混みをかき分けながら通りに座っている人に、子供がこっちに走ってこなかったかと情報を集めながら、通りから通りへと走り回った。

「マールさんこの路地に子供が入って行ったらしいです」

「行ってみましょう」

 細い路地は大人が一人やっと入れる位に狭く、マルティアーゼはすいすいと入っていくが、トムは腰の剣や革鎧を着ていたので壁に体を擦りながら通りにくそうにマルティアーゼの後ろを付いていった。

 路地が何処まで続いているのか、先を歩くマルティアーゼが時折、交差する場所で立ち止まっては路地を覗いて子供がいないか確認して通りを抜けていく。

「いたわ!」

 何本目かの路地で子供を見つけたマルティアーゼがトムに小声で呼んだ。

 やっとの思いでたどり着いたトムがマルティアーゼの指差す路地を覗き込むと、子供が三人集まって何かを話していた。

「あの子供です」

「いい、気づかれずに行くのよ」

 子供達が猫背になってる所をそっと近付いていくと、二人で一斉に飛びかかりマルティアーゼが一人、トムは二人の子供を捕まえた。

「なんだ、離せえ」

「うわあ、やめてえ」

「逃げろおお」

 持ち上げられた二人の子供がバタバタと暴れるとトムが一喝する。

「おいお前らうるさいぞ、盗みとは死罪だな」

 その一言で急に子供達が黙り込み、目に涙を溜めていた。

「いやだああ」

「死にたくないよ」

「ごめんなさい、ごめんなさい」

 今度は一斉に謝り出す。

「ならちゃんと盗んだ物を返すんだ、警備兵に突き出すかどうかはそれからにしてやろう」

 子供達は何れも十歳になるかならないという位の本当に小さい子供達だった。

 見た目はみすぼらしく、薄汚れた顔に所々破けた服を着ていた。

 トムから盗んだお金は地面で広げられていて、三人で大金を確認していたのだろう、大量の金銀の粒が地面に転がっていた。

「よし、さっさと何処かに行くんだ、次、盗んでいるのを見つけたら本当に警備兵にたたき出すぞ」

 そう言ってトムが二人を地面に放り投げると、急いでお金をかき集めて懐に戻した。

「取りあえずお金は取り戻しました、その子供達は少しばかりお灸をすえた方が良いかと、こういう子供には躾が必要ですからね」

 マルティアーゼが捕まえた子供は仲間の二人が地面に腰を付いて動けずにいたので、すっかり怯えてトムを見つめていた。

「いやだぁ」

「注意だけだとまた誰かに盗みを働くだろう、少し痛い目を合わせないとな」

 トムが指を鳴らして威圧すると、

「待って」

 マルティアーゼがトムを止めた。

「貴方達みたいな子供がどうして盗みなんてしたの? 親は何処にいるのか教えなさい」

 腕を回して捕まえている子供にマルティアーゼが聞いた。

「こんな夜に子供だけで出歩いて盗みなど……、どうせ親もろくでもない奴に決まってますから注意した所でどうしようもないですよ」

 トムは決めつけて言い放った。

「駄目よ、例え子供を放任する親でも注意は必要だわ、さぁ教えなさい親は何処にいるの?」

「ぼっ……ぼ、僕らに親なんて……いないよ」

 涙を流しながら子供が答えると、後ろの二人も同じようにマルティアーゼ達に答えた。

「嘘を言うな、本当の事を言わないなら突き出して取り調べをして貰うぞ」

 トムが怒鳴った。

「うう、嘘じゃないよ、僕たちはここで暮らしてるんだ、やめて……捕まりたくないよ助けてぇ」

「五月蠅い黙れ」

「ちょっときつく言い過ぎよ、落ち着きなさいトム」

 マルティアーゼはトムを諫めながら子供達に問いただしてみた。

「どうして子供だけで住んで居るの、親は何処に行ったの?」

「僕たちは親に捨てられたんだ、寝る所は路地の狭い場所だし、食べ物も無くてしようがなくお金を盗んで生活してるんだよ、本当だよ」

 マルティアーゼの捕まえた子供が顔を上に向けながら必死に返事をした。

 その目を見つめていたマルティアーゼはそっと腕を放して解放してやると、

「いいわ貴方の言葉を信じましょう、でもいいこと? 盗みはやめなさい、ちゃんと働いてお金は稼ぐ物よ」

 と、子供達に言う。

 しかし、子供達の目にはそのような事が出来るならとっくにしている、とでも言いたげな眼差しが向けられていた。

「僕たちみたいなのを雇う所なんて何処にもないよ、こんな格好で行けば叩き出されるだけだ、僕たちには盗みをしていくしか生きていけないんだ……ううぅ」

 三人が涙を堪えきれずに泣き出し、それをマルティアーゼとトムが視線を交わして黙って聞いていた。

 らちが明かず考え込んだマルティアーゼが思いついたように表情を明るくした。

「分かったわ、じゃあ私に付いてきなさい、いい考えがあるわ」

 マルティアーゼが先頭を歩き三人の子供を挟むようにトムが一番後ろから付いていくと、そこはマルティアーゼ達が泊まっている宿だった。

 そこでマルティアーゼは宿の主にもう一部屋を借りると、三人を中に入れた。

「いい? 今日はここで泊まりなさい、それとお腹は空いてないかしら……あっ、その前に名前を教えて頂戴、私はマールよ、こっちはトム」

 何故か嬉しそうに自己紹介するマルティアーゼにトムは嫌な予感がしていた。

「僕はサム、十歳だよ」

 トムからお金を盗んだ子供が答えると、続けて二人も自分の名を言ってくる。

「僕はルーディ、九歳」

「僕はスレント、七つ」

 栗毛のサムに黒い長髪のルーディ、それにあどけない顔をしている直毛で金髪のスレントの三人はちょこんと寝台に座ってマルティアーゼに自己紹介した。

「有り難う、ちゃんと言えたわね偉いわ、サムが一番お兄さんなのね、私は十五歳よ仲良くしましょうね、まずはお腹が空いてるから一緒に食事をしましょう」

 ぽかんと口の開いたトムが我に返ると、

「ちょっとマールさん……、こちらへ」

 トムがマルティアーゼを自室へと連れ出して問いただした。

「一体どうするつもりですか、あの子供達を宿に泊めてどうするんですか?」

「どうって? 私はどうもしないわよ、あの子達がするんですもの」

 和やかに笑顔を見せるマルティアーゼにトムが訝しんでいると、

「あの子達に仕事と家を与えるのよ、そうすればあの子達だけでも生活していけるでしょう」

「…………はい?」

 何を言ってるのだとトムが言葉につまる。

「貴方は明日からあの子達が住めそうな家を探してきて頂戴、私は働けそうな所を探すわ、それまで暫くはこの町に滞在しましょう」

「ちょっ……ちょっと待って下さい、家と仕事を探すってどうしてですか? あの子供達は私達には関係のない子ですよ、家を探す……幾ら掛かると思っているのですか、簡単に買える物ではないですよ」

「貴方のそのお金でも買えないのかしら、家ってそれ程高い物なの?」

 マルティアーゼが首をかしげると、

「違いますそういうことではありませんよ、このお金なら幾らでも大きい家だって買えますが、どうしてあの子達に家を買い与えるのかを聞いているのです」

 トムは大切な旅の資金を見ず知らずの子供に使うなど意味が分からずにいた。

「だってあんなに幼いあの子達が必死で生きてきているのに、この国は何もしてあげていないなんて酷いと思わない? 国がちゃんと保護してあげていれば盗みなんてしなくていいのよ、幼いから……子供だからといって捨て置く事なんて出来ないでしょう、この国に居る同じような子供達全員は無理かも知れないけれど、せめて私達と出会ったあの子達だけでも助けてあげたいのよ」

 真剣な表情になったマルティアーゼがトムを見つめた。

「国を支える国民をないがしろにしていては国は成りたたないわ、あの子達もこれからのこの国を支える立派な国民よ」

「ですが、ここはローザンではありません、他国の事はその国がすべきです、我々にそのような義務などないのですよ」

「義務とか責務だとかそんなことではないわ、人としてすべきことをするだけよ、助けられる者が助けないで一体誰があの子達を助けるというの」

 マルティアーゼは反論する。

「それにこんなことは言いたくはないけれど、そのお金の殆どが私のお金なのよ、貴方が出したくないというのであれば自分のお金だけ分けて、私のお金で家を買ってきて頂戴、それなら文句はないでしょう」

「……姫様、私はそのような意地汚いことを言ってるのではありません……」

「もういいわ、貴方が嫌なら私が家を買いに行くわよ」

 マルティアーゼが怒って横を向いた。

「……分かりました、私が三人で住めるような家を探してきますよ、姫様が行っても買い方も分からないでしょうし……」

 しぶしぶトムが小さな声でマルティアーゼの言い分を受け入れた。

 が、最後のトムの言葉にマルティアーゼが頬を膨らませて睨み付けてきた。

「どうせ私は物の買い方も分からない世間知らずよ、悪かったわね」

 二人の言い争いが終わると子供達の部屋に戻り、一体僕たちをどうするんだろうという顔をしながら待っていた三人を食事をするために宿から連れ出した。

 マルティアーゼとトムの仲が妙に険悪になっている事を、静かに見つめながらサム達は後ろを付いてきていた。

 一行が一軒の店先で止まって入ろうとすると、店員から門前払いを食らってしまう。

「ここはそんな餓鬼が入るとこじゃねえんだ、他の客の迷惑だ他へ行きな」

 五人は店先に追い出されてしまい、マルティアーゼが怒った。

「なんて酷いことをするのかしら、客に対して無礼だわ」

「いいよ、いつものことだから」

 サムがマルティアーゼに教えた。

「僕たちはここでは邪魔者扱いなんだ、何処にいてもチュチュを見るみたいに扱われるんだ……」

 涙を浮かべたサムにマルティアーゼが叱りつける。

「何言ってるの、もっと自分に自信を持ちなさい……、でも……そうねぇ」

 じろりと三人を見たマルティアーゼが食事の前に服屋に連れて行って、三人に合う服に着替えさせた。

 三人とも町の人みたいに小綺麗な服装をさせると店主にお金を払った。

 綺麗な布の服にチェニックを羽織り、革のズボンと何処に行ってもおかしくないと思われた装いをしていた。

 汚れた服は店の主人に捨てて置いてと言うと、顔を歪ませながら服を受け取っていた。

 次に町の噴水に行って顔を洗うと、なんとか小綺麗な感じにはなった。

「それなら店でも文句は言われないでしょう、臭いは……宿に帰ったら湯浴みをしなさいよ」

 再度、食事をするためにさっきの店とは別の所を探して入って行くと、何も言われずに卓に着いた五人は早速注文をした。

「何でもいいわよ食べなさい」

 その一言でサム達は笑顔になって、どんどん注文をしては平らげていくのを嬉しそうにマルティアーゼは見ていた。

(やっぱり子供はこう無邪気でなければいけないのよ、どこかで間違ってしまうとどんどん底に落ちていく、手を差し伸べれば助けられるのに、手遅れになればどうにもならなくなってしまう、この子達にはまだ望みがあるのよ)

 一番小さなスレントも口の周りを汚しなら、他の二人に負けじと同じように夢中で食べ続けていた。

 三人ともやせ細り年齢の割に小さく感じられ、今までの過酷な生活環境が見て取れた。

 マルティアーゼとトムはゆっくりと食事をし、五人が満腹になって店を出ると、その頃にはサム達はマルティアーゼになついた様子で笑顔で隣を歩いていた。

「あんなに美味しい物を食べたの初めてだよ」

「うん、もうお腹いっぱい」

「おいちかった」

 三人の笑顔は屈託のない表情をしていて、それを見たマルティアーゼも笑顔を三に向けていた。

 宿に戻り湯浴みを済ませた三人は寝台に入ると直ぐに寝入ってしまった。

 寝台で寝ることがこの子供達には何日、何年ぶりのことなのか、二つの寝台の空いている場所で布団も被らずに身をゆだねて眠り続けた。

 マルティアーゼはトムと自室で今後の彼らについて話合いながら夜更けまで語り合っていた。

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