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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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 トムの歩調に合わせながら休み休みに進みながらもなるべく早くにこの森を抜けようと頑張って歩き続けていた。

 マルティアーゼは旅の間、寝る前にトムの治療をして傷を治しながら眠りに付く日々を過ごしていた。

 残り一日半の距離を三日掛けて走破し、やっと街道のある道に出てくることが出来た。

「ここを真っ直ぐ西に行けば町があるんだよ、でもまだ距離は結構あるけど歩きやすいから森と比べれば楽なもんだよ」

「カルエは来てくれないの?」

「あたしの仕事は此処までだよ、行きたいけど村の皆も父さんも心配するしね」

 はははっと笑いながらカルエはマルティアーゼに言う。

 名残惜しくも別れなければならないマルティアーゼはカルエと抱擁を交わす。

「折角お友達になれたのに寂しいわ」

「そりゃああたしだって寂しいよ、けどあたしはいつだってこの森に居るよ、また会えることを楽しみにしてるからさ、マールも元気に旅をしてね」

 二人は見つめ合って目に涙を浮かべながらもう一度抱擁を交わした。

 名も知らぬ街道で別れをしたマルティアーゼは、トムと西の方角へと歩き出していく。

 手を振るカルエに応えながら何度も振り向いて、距離が遠ざかり小さくなっていくカルエを見つめていた。

「もうカルエも見えなくなってしまったわね……」

 初めての同じ歳の友達との別れに悲しくなって、マルティアーゼは立ち止まり泣いてしまう。

「姫様……」

 城に居ればいつも誰かが側についていて億劫に感じていたのに、自分から人と別れるなどという事がこんなにも悲しいことなのかと思っていた。

 今まで自分はいつもそこに居るだけで、周りが勝手にマルティアーゼから居なくなって一人寂しく部屋にいる事しか出来ずにいた。

 お気に入りのフランも居なくなってしまってからは、侍女が誰であろうが気にすることもなくなってしまい、城にいる寂しさに耐えきれずに飛び出してきたはずだった。

 それなのに外の世界で違う寂しさを感じる事があるのだと実感して、側に居て欲しい人とは一緒に居られない運命なのかと思ってしまう。

「どうしますか姫様、このままローザンに帰っても宜しいのですよ」

 トムがマルティアーゼに優しく声を掛けた。

「いいえ帰らないわ、まだ旅は始まったばかりよ」

 それでも首を振って涙を拭ったマルティアーゼは歩みを再開した。

 何もない砂利道の街道で誰も通る人もおらず、淡々とひたすら西へと向かって歩いていく。

 トムの治療を毎日し続けていたのが功を奏したのか、街道を進んでいく間にも傷口は塞がりまだ鈍痛はくるみたいだったが普通に歩行出来るまで回復していた。

「なんだか歩き方を忘れてしまったみたいな感覚ですね、でもやっぱり自分で歩けるのはいいです」

 添え木を取り外し、何度か足を折り曲げて痛みはないか確認を取ると、トムの顔に笑顔が戻る。

「これで少しは旅も楽になります、有り難う御座いました」

「まだ無理はしないで、ずっと足を動かしていなかったんだから」

「はい」

 高い木々の間に伸びる街道は続き、先の見えない道をマルティアーゼ達はそれから数日歩き続けて、やっと目の前にぽっかり空いた場所に出来た町に到着した。

 森の中の大きくえぐれた地面から山が生えているような町で、町の周辺を掘り下げたのか、深い崖に高くそびえ立つ町があった。

「まぁ、変わった町ね、でも大きいわ」

 二人はくねくねとした道を降りていき町に着いたのはそれから二時間してからだった。

 入り口は丸太で積み上げられた検問所があり、そこを抜けると長く続く階段がずっと上まで伸びていた。

 山全体は丸太で囲まれていたが、町中は以外にも石造りになっていた。

 馬などは入り口近くに大きな馬小屋が並び、旅人達はそこに馬を預けてからこの階段を上っていく。

「とても高いわ、頂上まで続いてるのかしら」

 目視でも階段の先が見えないぐらいに伸びて、途中幾つも踊り場が設けられて、そこから左右に伸びる道は平坦になっていて色々な店や家が立ち並んでいた。

 そのような形になった建物がずっと上まで何層にも出来ていて、住宅街や商店街といった区画整備がなされている。

 山の斜面に建てられていたと思っていた建物は、近くで見れば斜面を削り平坦な道に舗装され石畳が敷かれていてしっかりしている。

 二人は休憩をいれながら上へと上がっていくが、

「まだあんなに階段が続いてるわね」

 マルティアーゼは汗を拭いながら山の頂上を見た。

 急勾配の階段は侵入者を防ぐ為なのかどうかは分からないが、此処の住民は頭に荷物を乗せて苦も無く上り下りをして、マルティアーゼ達に笑顔で挨拶をしてすれ違っていく。

「どこかに宿屋があるはずなのでそれまで頑張って下さい」

 マルティアーゼよりも怪我をしているトムの方が辛いはずなのに、立ち上がった彼は深呼吸を一つすると荷物を背負って、マルティアーゼが歩き出すのを待っていた。

「ええ、私も早く休みたい気分よ」

 体についた汗の匂いや埃を落としたい気持ちでイライラしていたが、何を言ってもどうなるものでもなく、とにかく早く宿屋の風呂に入りたいが為に重い腰を上げて上り始めた。

「ねえ、この町を出るときは馬を調達しましょう、もう歩くのは嫌だわ」

「他にも色々と買い込まないといけないので馬は町を出るときにしましょう」

 二人が大きく削られた平坦な場所に上がってくると、そこは何処にでもありそうな町の風景が目に入った。

 広場もあり、幅の広い通りは石畳が綺麗に敷かれていて、沢山の店や旅人の姿があった。

 通りの突き当りにはまだ階段が上と続いていたが、そこからはこの町の城に続いてるらしく兵士が階段の前に立って警備をしていて、関係者以外は通れないようであった。

 高い所に建てられた城は城壁で隠れていて下からは見えにくいが、尖塔が幾つか見えていてこの山の頂上にはこの町の象徴なのか、太陽の光に照らされて煌めく建造物が掲げられていた。

「宿屋があるわ、あそこで良いから部屋を取りましょう」

 そんな建造物に今は興味も無いマルティアーゼは、宿屋に直行していった。

 部屋に入ると、いても立ってもいられずにマルティアーゼは荷物を寝台に放り投げると、すぐに湯浴みをしに向かった。

「ここは何処の町なのかな、店主に聞いてみるか」

 トムは窓を開けて外の風景を見て呟いた。

 湯浴みから上がり部屋に戻るとトムの姿は無く、服を着替えたマルティアーゼは寝台に横になって目を瞑った。

 窓から入り込む風が気持ち良く、サラサラになった肌をくすぐられているといつの間にか眠ってしまっていた。

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