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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 まとめ上げた金色の髪を頭頂から腰まで垂らしていて、少し波打った金色の髪が霧の中でも美しく光っていた。

 少し低い鼻だったが整った小顔には良く似合っていて可愛らしく、年齢もマルティアーゼと同じぐらいの女性だった。

「少し会ってみたかったのよ、貴方達ね……私と年が同じぐらいで良かったわ」

 てくてくと小走りで駆け寄ってきたクリスティナが、マルティアーゼの手を取って喜んでいた。

「宜しくね、男性ばかりだったらどうしようかと不安だったのよ、女性がいると心強いわ、長旅だからどこかで暇な時にでもお話相手になってくれないかしら?」

「はい喜んで、私はマールです、心配なさらずに護衛の方はお任せして下さい」

「お嬢様、暖かくなったとはいえ体に障りますので馬車にお戻り下さいませ、もう出発致しますよ」

 ゼオルがクリスティナを連れて行こうとすると、

「ではまた後でね」

 クリスティナが手を振って馬車に向かう。

「いきなり気に入られたみたいだな、けど仕事はちゃんとしてもらうぜ、話相手が仕事じゃねえぞ、それと俺は緑の牙ギルドマスターのライゼムだ」

 ライゼムは言い終えると、仲間達に馬に乗れと指示をして去っていった。

「……知ってるわよ」

 マルティアーゼはライゼムを睨むと、静かに馬に乗り込んだ。

 時間的には夜が明けても良い頃なのに、まだ霧が深く空に昇った太陽も直接顔を覗かせるまでには至らず、ほの明るい街道は足元の石畳と周りの木々のシルエットしか見えない中、一行は行進していく。

 馬車を挟んで緑の牙の五人が先頭を行き、二人が後方に付く。

 マルティアーゼ達は最後方を付いてくるようライゼムから言われた。

 団体行動を得意とするギルドの方が発言権が上で、何かが起こった場合は各自決められた行動をするよう徹底されていた。

 マルティアーゼ達のような野良と呼ばれる者達には、隊を任せられないと決まっていた。

「何だか疎外感を感じるわね……、ギルドってそんなに偉いの」

「まぁ仕方がないでしょう、無理にお願いして受けさせてもらったわけですし、それにこういう護衛では向こうの方が我々より上手く動けるように訓練してるでしょうし」

 静かに出発した一行は三日掛けて、エスタル市が目前に見える所まで進んできていた。

 特に何事もなくゆったりした旅で、その間の宿ではクリスティナと食後の会話を楽しんだりした。

「お前さんとこの女二人は今日も姫さんとおしゃべりか、呑気なもんだな」

 男性は宿の周囲を交代で寝ずの番をしていて、トムも緑の牙ギルドに混じって警護をしていると、ライゼムが隣に来て囁いてきた。

「代わりに私がちゃんと見張ってますのでご心配なく」

 トムが事務的に答えた。

「お前さんはあの女に弱みでも握られてるのか、それとも美人だから一緒にいるのか? まぁ美人なのは分かるが性格がきついのは俺は嫌いだ、女は従順でなくちゃな、ははっ」

「……はぁ、私は別に弱みを握られているとかではなく、昔に助けて貰ったことがあるのでその恩返しってところです」

 すると、ライゼムはキョトンとした顔で、

「あの女がお前さんを助けたって……? 逆なら分かるが、でっかい斧を持ってたし見た目とは裏腹に馬鹿力だったのか、はははっ……こりゃおもしれえな、危うく俺も騙されるとこだったぜ、そんな女初めてみたぜ、はははっ」

 暗闇に向かって大笑いをしながら、

「いやあ、おもしれえ話を聞かせてもらったぜ、もうすぐしたら交代だ、ゆっくり寝てくれよ、ははははっ」

 ライゼムは思い出すと、笑いながら他の仲間の所にいくのをトムは真顔で見つめていた。

(俺は何か面白いことでも言ったかな、……よくわからん)




「私とそう歳が違わないのに傭兵のお仕事をしてるなんて凄いわ、女性だけで町を出歩いていて危なくはないの? お父様は外は荒くれた人達がいて危ないから一人で出歩いちゃ駄目だっていつも五月蝿く言うの、アルステルが傭兵の町だってことぐらい知ってるわ、私だっていつまでも子供じゃないんだから少しは外のことも経験しておいてもいいはずだと思わない?」

 食堂でスーグリとマルティアーゼがクリスティナに向かい合って、話を聞きながら苦笑いを浮かべていた。

 よく喋る令嬢はマルティアーゼ達を気に入ったみたいで、毎日のように食後はお話をするようになっていた。

 いつも家では誰かが付き従っていて同じ女性との交流が少ないらしく、かなりの鬱憤が溜まっていたようであった。

 今も近くには執事のゼオルがお茶を飲みながら、静かに主の話が終わるまで側に付き従っている。

「ええっ……そうですね、それでサスタークには何をしにいかれるのですか?」

 任務中は依頼主との関係は主従関係みたいなもので、むやみに依頼主に詮索をしてはならなかったが、クリスティナは気さくな感じがしてつい聞いてしまった。

 クリスティナは特に聞かれることを嫌がっておらず、にこやかに答えてくれた。

「お父様が決めた私の婚約相手がいるのよ、初めは嫌だったわ、だって知らない人と結婚だなんて考えられなかったもの、けどお話してる内に思っていたほど嫌な人じゃなかったわ、彼はひょろっとしてるんだけど中身はしっかりしていて優しいのよ、この間なんてアルステルまで来てくれたの、だから今度は私がサスタークに行くって約束したの、今は彼とはまだ婚約者だから先の話だけれど結婚には前向きに考えてお付き合いしているのよ、ふふふ」

 彼のことを思い出しているのか、小さな顔を縦に揺らしながら笑っていた、それをマルティアーゼ達はのろけ話かと二人は思いながら見つめた。

「ねえ貴方達にはお相手はいらっしゃるの? そんなにお綺麗なんだから寄ってくる男性がいるんじゃないの?」

「いえ私達にはそんな相手はいませんよ、生活するだけで手一杯ですからそんな暇はないです」

 マルティアーゼが即答した、仮に近寄ってくる男がいてもその前にトムを陥落させないことにはいけなかっただろうが、かなりの度胸と実力がないといけなかっただろう。

「まぁ……、それでも想い人ぐらいはいるんじゃない、アルステルは男性が多いのよ、一人や二人ぐらい町中で見つけたり出来るでしょ」

「ん……私にはそういう人はまだいませんわ」

 マルティアーゼは平然と答えたが、

「…………えっと、わ、私もまだ町に来て一年ぐらいだし、いない……かな」

 スーグリは言葉に詰まりながら答える。

「女性の花は二十までよ、蜜をたっぷりと溜め込んで花開かせるのは、しぼむ時は一瞬なんだからうかうかしていると手遅れになるわ、恋は良いわよ、毎日胸踊らせながら彼のことを想うの、恋ってまだ自分の物でも相手の物でもない中間のような気がするの、だから相手のことを強く想い、何をしてるのだろうと気になってそわそわするの、結婚してしまえば毎日一緒だからそんな感じも無くなるのでしょうけど、それまでが楽しいのよ、貴方達も早く見つかると良いわね」

「は、ははっ……」

 こんな他愛もない会話を毎日のようにしながらエスタルまでやって来ていた。

 先頭にいた緑の牙の一員がやって来て、

「このままエスタル市には入らないぞ、このままサスタークに向かう」

 どうやら昼をやっと過ぎた時間で宿に入るには早すぎると思ったのだろう、エスタルの町を流し見をしながら遠ざかっていく。

 此処から先、北の地に踏み込むのはマルティアーゼとスーグリは初めてで、トムもこの道から行ったことがなく、三人は長く続くエスタル市の城壁を見ていた。

「とても大きな町だったのね、壁の端がまだ見えて来ないわ」

 これが世界で最強と名高いエスタルの首都なんだと、マルティアーゼは昔の思い出が呼び起こされた。

(お城で教えられたエスタルの歴史をなんとなくだけど覚えているわ、数百年前は小さな国家と呼べるような物でもなく部族の集まりみたいな小さな国だった、森の中に逃げ込み森人と呼ばれ馬鹿にされていた国、その国王が魔法を扱えるようになった途端、一気に強国へとのし上がり周辺の国々を吸収、併合させ、たった数百年で北方を制覇してしまう……、お父様が長年仕えていた国でもある、武勇一辺倒なお父様は魔導ではな武力で功績を上げていった、褒賞として願ったのは今のローザンの辺境の地で、国家建設には現国王の力添えがあったと聞いるけど、エスタル王ってどんな人なのかしら……)

 物思いに浸りながら長い壁を進んでいくると、高い城壁からでも城の尖塔が見えているのに気付いた。

「大きな城ですね、ここからでも威厳を感じる荘厳な建物ですね」

「ええ、そうね」

 城の北側は丘があり、城壁ごしからの吊橋で渡れるようになっており、城壁の周りはムスト川から引っ張ってきている川堀で守られ、エスタル市の中を通って元の川へと戻っていく。

「裏からも出入りができるのね」

 吊橋がやっと確認出来るぐらいの遠い距離から、馬に乗ったマルティアーゼが見つけていた。

 丘を降りた先には兵舎が建ち並んでいる小さな町みたいな所があるが、そこは侯爵の守り固める地域みたいだった。

 どれ一つとっても壮大で、小さい町といっても普通の町ぐらいの広さがあり、そこには兵士達の家族や関係者の家々が住めるように造られている。

 遠大で壮大、全景を一目では見ることが出来ない程エスタルの中心は広く、どの国にも真似の出来ない洗練された面持ちと風情を兼ね備えた町造りになっている。

「ふむ……実に大きな町だ、一体町中はどの様になってるのでしょうね、世界の中心と言われているのですから一度は行ってみたいものですね」

「中々行く暇がないわね、今は稼いでおかないといけないけれど、余裕ができたら皆で行ってみたいわね」

 エスタルを過ぎるとまたゆっくりと自然の多い景色に変わっていく。

 道行く人達に目を光らせながらも、淡々とした足取りで北へ北へと確実に目的地のサスタークに近付いていた。

 人々は一行を見て何処かの偉い人なのかと思っていても、手や口を出す者もおらず何事もなく順調な旅は片道を終えようとした。

「サスタークにようやく着いたのね」

 サスターク領に入ってから二日目、いくつかの小さな町を通り過ぎて、ようやく森に囲まれ木々の隙間から見え隠れしている首都サスタークをマルティアーゼが見つけてトム達に伝えた。

 一行は慌てる様子もなくゆっくりと町に近付き入って行く。

 片道七日掛かった旅程だったが無事サスタークに到着し、一先ず安全に送り届けることが出来てマルティアーゼ達は安心した。

 一行は貴族の住む住宅街の入り口まで送り届けると、その先はゼオルが引く馬車のみが中へと入って行った。

「よし、我々の任務は一旦終わりだ、次は五日後、五日後の明朝に此処に集合、それまで各自ゆっくりとサスタークを堪能してくれ」

 ライゼムが全員に言い渡すと、解散の号令をかけた。

 皆散り散りになって自分達の好きな場所があるのだろうか、街中へと消えていった。

「あら……私達はどうしようかしら、初めてだし何処に何があるのか分からないわね」

「まだ夕刻には時間があるんですから、ゆっくりと町を見ながら考えましょうか」

「マルさん、早く行こうよ」

 スーグリの目的は分かっていた、旅の間、トムと肉の話ばかりをしているのを隣で聞いていた。

 三人は道すらも分からない町に戸惑いながらも、人混みの中へと姿を消していった。

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