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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 両刃の斧はほぼ全体が竜の骨で出来ており、丸く反った刃と先端には突き刺すための短い刃が付いていた。

 それ以外の部分は全て竜の骨で出来ていて、使われている鉄は極力押さえられていた、そのため渡された斧をマルティアーゼが持って見ると、女性でも軽々と持てるほどに軽かった。

「なんて軽いのかしら……」

「おお……これは素晴らしい」

 トムは目を輝かせながらマルティアーゼの持つ斧に興味津々のようで、彼みたいな武器や防具に関心のある者からすれば、その制作の凄さが手に取るように分かるみたいで、ボルドの技術の高さに驚いていた。

 柄の部分には芸術と言わざるを得ない装飾が施されていて、女性的な美を感じる流線や花を着想とした絵が彫られていた。

「ものすごく細くて握りやすいのだけれど……折れたりしないのかしら?」

 マルティアーゼの手でもしっかり握れる太さの柄だったが長く、先には重い両刃が付いているので、打ち合ったり殴ったりした時に、簡単に折れそうな感じがしていた。

「はっはっはっ、そんな心配は無用だ、それだけ強く叩いたら逆に刃の方が欠けてしまうだろうな、竜の骨は簡単にで折れるもんじゃない、加工するなら鉄の方が楽なくらいだ、竜の骨の加工は技術が必要なんだぞ、だからこそ貴重で高価、そこらの鍛冶屋じゃ到底作れんわ、はははっ」

「マルさん、私にも持たせて下さいよ」

 トムが斧を貸して欲しいとお願いしてきた、その異様なトムの見惚れ具合にマルティアーゼは無言で渡した。

「おおっ……おおおお、凄い素晴らしい……、まさしく最高といえる出来ですね」

 トムはまるで恋人との出会いに喜び、愛撫するような手つきで斧の隅々までくまなく調べて感嘆の声を上げていた。

「…………」

 マルティアーゼは武器などよく分からなかったが、装飾は可愛くて良いとは思っていても、トムのように刃の部分の薄さや刃の曲線に見惚れるほどの興味はなかった。

(切れれば良いんじゃないの、どうせいつかはぼろぼろになって壊れるのに)

 マルティアーゼの中ではそのくらいでしか、武器を消耗品としてしか見ていなかったので、トムの姿が異様に映っていた。

「どうだ、良い出来だろう」

「良いというものではないですよ最高です、これほど素晴らしい斧は見たことがありません、竜の骨で作った斧がこんなにも軽いなんて驚きですよ」

 持ち上げたり振ったりして感触を確かめていたトムは、子供のようにはしゃいでいた。

「はははっ、それが骨の特徴だ、硬くて軽い、これ以上の素材は何処にもないぞ」

 二人の会話は何処の鉄鉱石だの研磨剤は何を使うだのと鍛冶についての難しい内容に広がっていき、そんな事に興味がないマルティアーゼはどこで口を挟んで良いのか分からず、ボルドが口を大きく開けて笑っている時に、

「じゃ……じゃあ、お金を払うわね」

 と、切り出した。

「ああっそうだったな、つい彼との話しに夢中になっていたわい」

「トムお願い」

「はい」

 トムが腰の袋からお金を取り出しボルドと金額の確認をしながら料金を払うと、

「しかと受け取った、おおっそうだ……これは儂からの贈り物だ受け取ってくれ、骨を二本貰ったからな」

 ボルドは大きな袋の中から短剣を取り出してトムに渡した。

「金策だったのだろう……使うなり金に変えるなり好きにするが良い、それなりの値段にはなるはずだ」

「これもボルドさんが打った短剣ですか……」

「当たり前じゃ、儂が自分で作った物以外の武器を持つわけなかろう」

 漆黒の短剣で刃の部分だけが鈍く輝いている。

「なんとも禍々しい剣に見えますが、素材はなんですか?」

「そいつは石で出来ておる、黒曜石を丹念に磨いて作った代物だが欠けやすいから実戦では使えぬが肉を切るぐらいなら使えるぞ」

 黒光りする表面はつるつると鏡のように光を反射させて、とても磨いて作ったとは思えないほど傷一つない短剣だった。

「こんな良い物なのに実戦で使えないとは、何だかもったいない気がしますね」

「トム、それは貴方が持ってなさいよ、私は斧があるから結構よ」

「……いいんですか?」

「ええ……ワンドも付けてるし、その上短剣まで挿してたら邪魔になるだけだわ」

「邪魔とは失礼ですよ……ボルドさんの一品なんですよ」

 トムが目の色を変えてたしなめると、マルティアーゼはふくれっ面で睨んだ、それを見たボルドは大きな声で、

「はっはっは、構わんよ、それはもうお前さん達の物だ、好きに決めればいい、金は貰ったし儂はそろそろ行くとしよう、いやぁ今回はいい仕事が出来て嬉しかったわ、修理があればまた儂のところに来てくれ、その斧だけは他の鍛冶屋に直させるなよ、ではまたな」

 大きな体に大きな袋を肩に担いで部屋から出ていこうとするのを、

「ではお見送りしますよ」

 とトムが後ろから付いて一緒に出ていった。

 マルティアーゼは仏頂面で二人が出ていった扉を見ながら、

「何よトムのあの態度、まるで鍛冶屋が主みたいに心酔してるじゃない……」

 外から笑い声が聞こえてきて二人が話に盛り上がってるのが分かると、マルティアーゼの頬がぷくっと膨む。

 部屋に戻ってきたトムの笑顔を見て余計に腹が立ったマルティアーゼは、腰に手を当て仁王立ちで彼を睨んだ。

「ちょっとトム、貴方の主は誰か分かってるわよね、武具が好きなのは知ってるけれど貴方の主は鍛冶屋ではないのよ」

「どうしたんですか、当たり前じゃないですか」

 何をそんなに怒っているのかさっぱり分からないトムは首を傾げていた。

「だったらさっきの態度は何よ、貴方は私より短剣の方が重要なわけ?」

 マルティアーゼは前かがみになって覗き込むようにトムを見上げた。

「何を言ってるのか分かりませんが、もしかして短剣に嫉妬してるんですか?」

 すると、怒ったマルティアーゼが、

「むう……どうして私が短剣に嫉妬しなくちゃいけないのよ、貴方に言ってるの、鍛冶屋と聞いたら見境なく敬意を払ってるじゃない、まるで王様扱いだわ」

「何を言ってるんですか、ボルドさんほどの腕がある鍛冶屋はそういませんよ、私には分かります、あの方は普通の鍛冶屋ではありませんよ」

 トムは笑顔で自信ありげに言い切った。

「……はぁ、もういいわ、何だか馬鹿らしくなってきたわよ、食事の途中だったから食べてすぐ寝るわよ、変なところで体力使ってしまうと明日が大変だわ」

 話す気力もなくなったようで、うなだれたマルティアーゼが部屋を出ようとすると、

「スグリはどうするんですか、あの調子だと明日は無理でしょう」

「じゃあ明日だけ休みにしましょう、明後日からね」

 振り返りもせず手を上げて答えたマルティアーゼは斧を担いで部屋を出た、トムはもう一度腰の短剣を取り出すと、

「本当に石で出来ているのか……凄いな」

 と、黒曜石の短剣を見て悦に入っていた。

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