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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 スーグリは二人を引き離して座らせた。

 マルティアーゼは顔を横に向け、トムは真っ直ぐ顔を向けたまま静かに座ると、

「何で二人が喧嘩してるのか良くわかんないけど、私のことで喧嘩ならやめて下さい、私なら大丈夫です、二人がいるならどこでも安心してついていけるし、一人より三人でいるほうが楽しいから……、トムさんには剣を教えてもらってるし、マルさんは女の子同士で折角友達が出来たと思ったのに……だから二人がいないと駄目なんです……」

 スーグリが泣き出しそうになったので、マルティアーゼは肩をすくめて、

「……わ、分かったわよ、もう喧嘩はしないから泣かないでよ」

「スグリ大丈夫だ、驚かせてすまない、よくあることで本気で喧嘩をしてるわけじゃないから心配しないでくれ」

 トムも落ち着いた声でスーグリに謝った。

「うう……いつものこと? いつもこんな喧嘩してるんですか」

「たまにだよ、マルさんが危ないことをする時はいつもこんな感じで言い合いになるんだ、だからあまり気にしないでくれ」

「……」

 スーグリにはこれで別れ離れになってしまい、また自分も一人になるのかと不安を感じていたのに、本人達はそれほど興奮した様子もなくて馬鹿にされていたのではと思ってしまうぐらいに、落ち着いた表情でスーグリを見ているのがとても悔しかった。

「もう! やっと帰ってきたのにどうして仲良く出来ないんですか、どれだけ心配したと思ってるんですかマルさん」

「私に言っても仕方がないじゃないトムが五月蝿いからよ」

「当然ですよ、何かあってからでは遅いんですよ」

 また二人が口論をし始めるのを見て、

「駄目ぇ!」

「えっ……きゃあ」

 スーグリがマルティアーゼに飛びついて寝台に倒れ込んだ。

 トムの寝台に二人が倒れ、マルティアーゼに跨るようにスーグリが抱きついていた。

「喧嘩は駄目って言ったばかりですよ、どうしてマルさんはそんなに悪い子なんですか、この胸が悪いんですか、このこの……あっ、なんか大きくなってる感じがする、やっぱりこのおっぱいが原因……ぐりぐりっ」

「嫌よ止めて、くすぐったいわ……」

 マルティアーゼの胸にスーグリが顔を埋めて頭を左右に振る。

「止めてったら……分かったから…………、止めなさい!」

 マルティアーゼの拳骨がスーグリの脳天に直撃した。

「……ううっ、痛い」

 胸の上で動きを止めたスーグリは、マルティアーゼに抱きついたまま離れようとせず、顔を上げてマルティアーゼを見つめた。

「本当にトムさんと二人で心配してたんですから、このまま帰ってこなかったらどうなるのか不安で……不安で、トムさんが言うことにも少しはちゃんと答えて下さい」

 真顔になって涙ぐむスーグリを見て、マルティアーゼもやれやれと言った感じに力を抜いてため息を付く。

「分かったわよ……、後でちゃんとトムには説明するから、どいて頂戴」

 スーグリはマルティアーゼの真偽を確かめるように彼女をじっと見据えると、ゆっくりと寝台から起き上がった。

「まったく……、トム、今日はもうこれで終わりよ、私も聞きたいことがあるけどまた今度話をしましょう、疲れたわ少し寝かせて」

「わかりました、ゆっくり休んで下さい」

 寝台から降りたマルティアーゼは衣服を整えると、スーグリと二人で部屋に戻っていった、トムも一悶着あったにせよマルティアーゼと無事出会えたことに安心した様子で、薄く笑みを浮かべて窓の外に目をやった。




 マルティアーゼがアルステルに戻ってきて、あっという間に三日が過ぎた。

 持ち物の整理に防寒具の買い出しと、スーグリと二人で久しぶりの町をぶらつきながら時間を過ごしていた。

「もうすぐ暖かくなるのに今更厚手の服を買うのももったいない気がするけど、あんな重ね着で歩き回るのも不格好だわ」

「マルさん、その髪飾り似合ってますね」

 マルティアーゼは灰色の髪を後頭部で丸く纏めて、長い棒に黄色い花飾りが付いた髪飾りで留めていた。

「暖かい季節に合うように黄色にしてみたわ」

 スーグリはマルティアーゼのお団子のような髪を見て、自分もしてみたかったが髪の長さが足りなくて出来ずに、羨ましそうに見つめていた。

「髪の色に合ってていいなぁ、私もしてみたいな」

「ありがとう、髪を伸ばせばいいじゃない」

 スーグリは剣を教えてもらっていたので長い髪だと邪魔だと思い、意識して短髪にしていたが、マルティアーゼのように髪を纏めていれば問題なかったのだと気付いた。

「今からじゃ結構時間掛かるかも……」

「伸びたらかわいい髪飾りを買ってあげるわよ」

「本当? マルさん」

 スーグリに笑みが溢れる。

「ええ、伸びたらね……スグリなんていやらしい顔してるの、伸びたらって言ってるでしょう」

「えへへっ」

「もう買い物も済んだから帰りましょう」

 帰宅すると宿の夕食を食べてから部屋に戻る途中で、マルティアーゼはトムと話をしてくると言うとスーグリは心配そうに、

「喧嘩しちゃ駄目ですよ」

「……分かってるわよ」

 部屋の前で分かれるとマルティアーゼはトムの部屋に入っていった。

 トムとまともに顔を合わせるのは帰ってきた以来で、部屋の椅子に座っていたトムに、

「話をしましょう、ちゃんと説明するって約束したんだから今夜は覚悟してよね」

 と、トムに言った。

「いいでしょう、お聞きしますよ」

 トムの部屋での二人っきりの会話は夜更けまでかかり、マルティアーゼは事の顛末を細部まで事細かく話し続けていた。

 トムも夜というのもあってか、大声を出さずに静かにマルティアーゼの話に耳を傾け、サンからアルステルまでの帰路に何があってどうなったのかを静かに聞き続けた。

「……ふう、私からは以上よ」

「わかりました、とりあえず素性を知られたのはダレイヌス侯爵お一人だったのですね」

「ええ、あの人なら大丈夫よ、国に忠誠は誓っていても現国王には不信しか感じていないわ、私の事も軽々しく口にはしないはずよ」

「それはどうかと、よしんばそうであっても国のためとなればどう出るかわかりませんよ」

 トムは慎重に言葉を選びながら口に出した。

「それはもうあの人に賭けるしかないけれど……」

 マルティアーゼは、ダレイヌス侯爵の性格や国での立場を考えると、先代からの古株というので置かれている立場だけで、国王からはそれほど信頼はされていなさそうにみえた、その先代からの少数派に属する彼がマルティアーゼの事を口に出すというのがどういう結果になるのかは重々知ってるはずで、簡単には口にしないだろうと考えていた。

「ジルバさんやサム達も元気そうだったのは何よりです、そうですかもうそんなに大きくなりましたか……、あの三人も色々と考えているものですね」

「もうサム達は自分の力で歩き出しているのよ、私達も自分の道を見つけないといけないのよ、トム……私ね、旅を終わらせようと思うの……」

「なんと……本当ですか? そ……それではやっとローザンに戻られるというのですね?」

 やっとこのお転婆姫も旅の辛さが身に沁みて、国に帰ることを決断したのかとトムは思った。

(旅がどれだけ過酷なものかやっと分かってくれたのか、夢を見ていた子供からようやく現実を理解してくれたのだな)

 少しは大人になったのだなとほころぶ笑みを我慢していると、

「帰らないわよ……、どうして帰ると思ったの」

「えっ……ローザンに戻られないんですか? では旅を終わらせるとは一体なんの事ですか」

「私、アルステルに住むことにしたの、カルエやサム達も自分のやりたいことのために動いてるのよ、私も何かやりたいことをこの地に住んで見つけようと思ってるの」

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