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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 朝、朝食を食べようとカルエが迎えに来てくれて、彼女の家に迎え入れられると一緒に食事をした。

 家の床に大きな葉が敷き詰められ、その上に作りたての料理が置かれていた。

 焼いた肉に何かの練り物、果物を蒸した物など沢山の料理が出された、しかし食べ物を取るものや掬うものもなく困っていると、

「こうやって食べるんだよ」

 そう言ったカルエが手で直接食べ物をちぎったり、握って口に運んだ。

 マルティアーゼも真似ながら、葉っぱのお皿に乗っていた肉をちぎって食べてようとした。

 焼きたてで熱くて中々肉がちぎれなかったのを、カルエが苦もなくちぎってマルティアーゼに分けてくれた。

 それを恐る恐る口に入れてみると、香ばしく焼けた皮に肉は噛めば噛むほど濃厚な味と油が口に広がってくる。

「美味しいわ」

「でしょう、この辺りにいる鳥の肉だよ、それとこれを一緒に食べるともっと美味しいんだよ」

 カルエが隣のパンの様な、こねて焼いた物に包んで一緒に食べた。

 マルティアーゼも同じようにして食べてみると、

「これは……芋?」

「グバの実だよ、土の中にある球根ね、それを潰して焼いたんだよ」

 他にも色々と昆虫や魚などもあったが、マルティアーゼは昆虫は駄目だと魚などを中心に食べてた。

 トムのほうは何も語らず、隣で静かに出された物を食していた。

「君たちは何処に行くつもりなんだい?」

 食事が終わり一息ついた所で、お茶を飲みながらジルバが聞いてきた。

 明確な目的などなかったが、マルティアーゼは考えて、

「南に行こうと思ってるの、その前にどこか町があれば教えて欲しいの、荷物も何もかも無くしちゃったから買い揃えたいわ」

「ここより南となると砂漠になるが、ふむ……砂漠なら歩いてはいけないよ、ちゃんと荷物買い揃えないと死ぬだけだ」

「砂漠ってそんなに危ない場所なの? 御免なさい私砂漠って行ったことないわ」

 初めて聞く名前でどういう場所なのか想像できずにいた。

「私は見たことはあるよ、枯れた木と砂しかないんだよ、風が舞うと顔中砂だらけになるし、太陽が出てるともの凄く暑くなるんだよ」

「ははっ、カルエが見た場所はまだ砂漠の入り口、本当の砂漠では日陰もない一面砂と岩ばかりで水場なんてそこいらにあるわけじゃない、昼間の炎天下でなら水無しで行けば二日と掛からず死んでしまうよ」

 ジルバが笑いながら説明した。

「砂漠を渡るには馬車があったほうがいい、水と食糧も沢山積まないといけない、砂漠は一日二日で渡りきれない所だ、最低でも三日、余裕を持って四日分の食糧があれば砂漠の町に着けるはずだ、あそこにはサンっていう国がある、数少ない水場に造った町だ、そこまで行ければまた荷物を買い足せるだろうが」

 マルティアーゼは興味深くジルバの話に耳を傾けていた。

「何だか聞いてるだけで暑くなりそうな場所だわ」

「まぁとりあえずは何処かの町で買い揃えないといけないわけだが、この辺りに町なんて無いからな、一番近くともここから三日は掛かる、そこは小さい町だから必要な物が揃うかどうか分からない、もっと大きな町に行った方が良いと思うな」

 ジルバは考え込んでいだ。

「大きな町だと此処からどの位掛かるのかしら?」

 すかさずマルティアーゼは大きな町の場所が何処にあるのか知りたかった。

「ふうむ、七日ぐらいか、ここから北に行けば街道に出る、そこから西へ進めば森の中にミーハマットの首都のオファラムがある、そこでなら準備も整えられるだろう」

「七日……かなり遠いわね」

「森の中は曲がりくねっているんだよ、それに山を越えないといけないから距離が出てしまう、そのおかげでこの森に余所から人がやってこないとも言えるんだが」

 ジルバは何かを巻いた葉っぱに火を点けて煙を吸っていた。

「私がマールを街道まで送っていってあげるよ、そこまでなら良いよね」

 カルエが父親の承諾を貰おうと聞いた。

「そうだな、カルエがついていればガブにも大丈夫だろうし、街道まで行けばガブもいないから安心して町までいけるだろう」

「じゃあマール、明日からこの森を抜けるための生活を教えてあげるよ」

 そう言って次の日から当分の食糧と飲み水の確保の仕方、その他野宿で必要な火のおこし方や食べられる物の見極め方など、最低限の森での生活方法をカルエに教えて貰うために一緒に行動を共にした。

 マルティアーゼとトムはカルエに付いていき、森の中で食糧となる鳥を捕まえるための罠を仕掛けに行ったり、飲み水が湧き出ている沢から大量の水を運んだりした。

 マルティアーゼも助けて貰ったお礼にと、不満を漏らさず黙々と村の仕事を手伝いながら、日々汗水を流して働いた。

 朝から晩まで何かをしていたことや重い水を運ぶなんて重労働は初めてで、次の日は身体中が筋肉痛で痛かったが、それでも嫌だと言わずに懸命に働いた。

 カルエは歳も近く女の子同士だったので、一日中一緒に居ると仲良くなるのも早かった。

 此処に来てから二ヶ月も経つと、マルティアーゼの泊まっている家に来て一緒に寝る程、常に一緒に居ることが普通になっていた。

 そんなある日、大分生活にも慣れてきたマルティアーゼとトムにジルバが、

「ほれ、干し肉も出来たし、荷物の中身は此処にあるもので揃えられる物は入れておいた、持っていくと良い」

 小さな袋に食べ物と火起こしをするときの着火剤となる樹液が入った小瓶、それと水袋を二つ渡される。

 旅に必要な物を揃え終わったら村を出て行くと言ってから、材料探しや食材の加工、村の手伝いをしていてかなりの時間を村で過ごしてしまっていた。

 それも今日で終わり、マルティアーゼ達は村を出て行くことを数日前にジルバにすでに伝えていた。

 二人は寝るときの毛布にもなる厚手のマントを肩から掛けて、トムは長剣を護身用として受け取っていた。

「長い間使っていなかったから研ぐのに時間が掛かった、ここでは無用だから使ってくれ」

「何から何までして頂いて有り難う御座います」

 トムがジルバに礼を言った。

「いや何、構わんよ、カルエにいい友達が出来たんだ、この村は子供が少ないからいい刺激になったみたいだ、道中気をつけて旅をしてくれ」

「はい」

 マルティアーゼとカルエは森の入り口でトムを待っていた。

「では、お世話になりました」

 村に来てから余り会話をしていなかったがトムの話し方を聞いていて、ジルバは中々感じの良い若者だったとトムの背中を見送っていた。

 カルエの腰についた鈴がチリンチリンと鳴りながら三人は森に消えていったが、鈴の音だけはいつまでも聞こえていた。

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