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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 リーファス通りには長い屋根が設置され、冬の間でも生業が出来るようになっている。

 今年は降雪が早かったが何とか間に合ったようで、沢山の飲食、食材の露店がひしめき合っていた。

 寒く鬱蒼とする季節は気分も落ち込み、冬の間は仕事がない者にとってはここに来て楽しく過ごそうと連日やってくる。

 寒いからこそ外で飲み明かそうとする者や、何も用事がなくてもここに来れば知り合いと出会い時間潰しができるので、町中の人々がこの通りに集まってくる。

 人が集まれば熱気で寒さも忘れ、夏の間に蓄えた資金を惜しげもなく使い、また暖かくなれば一所懸命仕事に精を出すのがアルステル流であった。

 北側や南地区の静かさとはまるで別世界のような賑わいの中、トムとスーグリはお互いを見失わないように寄り添いながら、ごった返す通りに身を委ねていた。

「凄い人だな、店をじっくり見てる暇さえない……」

「あうう……トムさん私には何も見えないです……きゃっ」

 がしっと腕を掴まれたスーグリがトムの方へ引き寄せられる。

「大丈夫か、こんなに人が多いと見失ったら二度と見つけられなくなる」

「……ありがとう御座います」

 顔を赤らめるスーグリは、そっとトムの太い腕に自分の腕を絡めた。

 二人は流されるままに通りの奥へと進みながら、どこか休めそうな店はないか探して回った。

 アルステルの中心であるタロス通りとの交差点に近づくほど飲食店が多くなり、東西の大城門の付近では物売りが多く設置されていた。

 勿論、女性達は門に近いあたりに多く、男性は中心の飲食店目当てに集まる。

 トム達は人混みに流されいつの間にか交差点まで来ていた。

「このままだと町の外に放り出されそうだ、どこか店に入ろう、暑くてかなわん」

 人をかき分け建物の近くまで汗を掻きながら辿り着くと、目の前にあった飲食店に立ち寄った。

「ふう……やっと一休みが出来る、スグリどうしたんだ?」

 下を向いたまま何も話さないスーグリに、気分でも悪くなったのかと声をかけてみたが、

「何でもないですよ……」

(男の人と腕を組んで歩くなんて初めてだもの、男の人ってあんなに筋肉があるんだ……、そうだよね剣を軽々と振るんだし筋肉がないと無理だよね……だからトムさん、私には槍のほうが良いって言ったのかな)

 スーグリは自分の腕を擦ると、トムのものとは比べ物にならない位に細い事に気付いた。

「何処かにでもぶつけて怪我でもしたのか?」

「ち、違います……何でもないです」

 トムに見られると意識してしまって顔が赤くなるのを見られまいと、また下を向いてしまい、それをトムは不安そうに見つめた。

「よく分からんが、お腹が空いたのなら何か頼もうか」

「……」

 俯きながらスーグリは頬を膨らませた。

 二人は空いてる席を見つけると、トムが買ってくるから何が良いか聞いてきた。

「あっ……私が行ってきます、何が良いですか?」

「ふむ、じゃあ肉があれば何でも良いよ、済まないね」

「飲み物も買ってきますね」

 スーグリが建ち並ぶ屋台に向かって走っていった。

「それにしても人が多いな、毎日こんなに集まっているのか」

 ひっきりなしに人が流れて何処からともなく人がやってくる、ひしめき合う人と声が冬の寒さをふっとばすかのように熱気に包まれていた。

 緩やかに降る雪空は黒く夜の雰囲気を醸し出しているが、屋根がある通りは蝋燭明かりで昼間の様だった。

 まだ夕刻の時間でもないのに、周りでは乾杯の音頭を取ってへべれけになっている人達も多く見られた。

「宿の周りが静かなわけだ……、それにしてもスグリは遅いな何処まで買いに行ったんだ」

 雑多な声は誰の怒鳴り声なのか悲鳴なのかすら聞き分けることはできず、トムはスーグリが向かった方へと目をやった、すると人混みの中からスーグリがこちらにやってくるのを見つけてトムは安心したが、その後ろから見慣れぬ者がスーグリを追いかけてくるのが分かった。

「なんだ?」

 両手に買った肉と飲み物の小樽を抱えながら戻ってきたスーグリが、目に涙を浮かべながらトムを呼んだ。

「トムさん、知らない人が……」

 追いついてきた二人の男が、やっと捕まえたぞと言いたげな顔でスーグリの腕を掴む。

「なんで逃げんだよ、遊ぼうって言っただけじゃねえか」

「やめてください!」

 若い男達はスーグリの腕を引っ張ると顔を寄せてきて、手に持っていた樽を落としてしまう。

「別に悪い人間じゃないんだぜ、これからの夜を楽しもうって言っただけだろ」

「おいっ、やめんかお前ら」

 トムが若者の腕を握ると、叫び声を上げてスーグリから手を離した。

「いてててっ……何すんだよ離せよ、お前誰だよ……邪魔すんじゃねえ」

「それはこっちの台詞だ、連れに何をするんだ」

 トム達の周りの人も騒ぎを見て小さな空間を作り、遠巻きに四人に視線を伸ばしていた。

 トムは軽く握ったつもりだったが、離した若者の腕にはくっきりと手の跡が付いていて、それを見た若者は怒りに任せて懐から短剣を取り出すとトムに斬りかかった。

 トムは驚く事なくじっと剣先を見つめながら相手の手首を手刀で払い除けただけで、若者はあまりの痛さで短剣を落としてしまった。

「なんだだらしない剣の扱いも知らないのか、そんな細腕じゃまともに剣を持ったことがないだろう」

「くそっ!」

 武器がないなら素手だと、尚もトムに食って掛かる若者に、

「おいっ、もうやめよう……」

 後ろで見ていたもう一人の若者が仲間の肩を叩いて止に入ってきた。

「よう、坊主共もう終わりかい?」

「イーロ、ハーロいつもの元気はどうした、ははははっ」

 周りの人々から野次が飛び、軽くあしらわれている二人を見て薄ら笑いを浮かべている。

 その視線に気付き恥ずかしさを感じた二人は顔を赤らめて、そそくさと人混みの中に逃げていくように走り去っていった。

 人々からは笑いが起き、トムとスーグリは呆気にとられていると、落とした樽を拾った男性がスーグリに渡してくれた。

「兄ちゃん強えな、さっきのは南地区の腕白兄弟のイーロとハーロだ、気分が悪くなったな済まないね……俺が後で叱っておくから気にしないで楽しんでおくれ」

「いや、俺は構わないがこっちは……」

 人見知りのスーグリは中々怖かったらしく、トムの後ろに隠れたまま顔だけを出していた。

 男性が去っていくと、周りの人達も終了というように流れを作って去っていく。

「スグリもう大丈夫だ、冷める前に飯にしよう」

「ううっ」

 席について買ってきた肉を卓に広げて食べ始めると、リーファス通りとタロス通りの交差点の真ん中に大きな台座が設置されていて、そこに立った男から大きな声が発せられた。

「さぁさぁ、アルステルの皆の衆、今年も決めるぞアルステル姫ぇぇぇ」

 わあああああっ、と大歓声が起きてトム達は驚いた。

「何事だ……?」

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