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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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「おい! 止めぬか、何を言うつもりだ」

 ざわざわと重鎮達が騒ぎ出し、ダレイヌスも何事かと止めに入ろうとした。

 一体何を言うつもりなのか、広間にいる者達の視線がマルティアーゼに注がれる中、本人は国王から視線を外さずにゆっくりと口を開いた。

「此処に来る前タムサという町を見てきました、盗賊達は簡単に町に入ることが出来、町の人々は盗賊を見れば戸を閉ざして関わろうとせず、町を守るべき兵もやって来ませんでした、陛下はご自分の国の実状を把握しておられるのでしょうか、兵士は町を守らず、民達が盗賊達が暴れていても警備兵にすら連絡もしないのは国と国民との信頼関係が無いからです、盗賊達に誘拐を許すきっかけを国が与えてどうするのですか、これほどのお金があるのならば国家治安を向上させ、人々が安全に住めるように何故しないのですか、盗賊に捕まった人達は皆裕福層の人達でした、隣におられますダレイヌス侯爵様の御婦人もまた盗賊に捕まった一人です、貴族の方々でも容赦なく捕らえて、金品と取引するような盗賊がはびこっている国を他国が見たらどうお思いでしょうか」

 それは遠まわしに盗賊を野放しにしていた国王に対する統治の責任問題を追求した発言で、一語一句述べられる度にダレイヌス以下重鎮達の表情は強張り、広間全体の緊張が高まっていくのが手に取るように分かる。

 わなわなと国王の表情に怒りに変わる形相に誰も口を挟める者はおらず、今この場は国王とマルティアーゼの二人が、お互いの視線でぶつかり合っていた。

「お……お主は何を言っておるのか分かっているのだな……、国を……この国の王に対して……国政に口を挟もうと申すのか、無礼な……何たる無礼者、よそ者、只の旅人風情が調子に乗りおって……死刑じゃ! この者を即刻死刑にしろ」

 思っても見なかった自分に対する批判に、国王は怒り心頭だった。

「無礼は承知しております、ですが国は民の上に成り立つもの、民なくては国は存在致しません、その民の事を考えないで王と言えるでしょうか」

「黙れ! サン国の王は私だ、二百年守り通してきたサン国の統治者は我がサン一族であるぞ、お主のような辺境の小娘が我がサン国を侮蔑するつもりか! 誰かこの者をひっ捕らえすぐに処刑にしろ」

「お待ち下さい陛下、それは成りませぬ、功ある者を処罰しますとそれこそ我が国の名が落ちまする」

 ダレイヌスが慌てて王とマルティアーゼの間に割って入ってくる。

「それで私に大目に見ろとでもいうつもりか、ならぬぞ、この者は我が国だけではなくサン一族を侮辱したのだ、私が許しても先祖は許さぬであろう」

「何卒、何卒寛大なご処置を……」

 王座から立ち上がって睨みを利かす国王と、何とか場を収めようとするダレイヌス侯爵を前に、マルティアーゼは下を向いたまま許しを請うとも言い訳をするつもりもなく微動だにしなかった。

「相手はまだ子供、此処は王の寛大な御心でもってお許しくださいませ、お主も謝るのだ」

「…………、陛下には差し出がましい事を申し上げまして、この褒賞は辞退させて頂きます」

 マルティアーゼがうっそりと頭を垂れるが、

「当然じゃ、お主の失言をそれだけで許されると思っておるのか、此度の言でお主の功は取り下げじゃ、それだけでは腹の虫が収まらぬ、お主に明日までの猶予をやろう、それを過ぎても尚、サンに留まっているのを見つけた時は罪人としてひっ捕らえ極刑に処す、それで良いかダレイヌス」

「……はっ、陛下の寛大な御心に感謝致します」

 冷や汗を滴らせたダレイヌスは、マルティアーゼの腕を取り広間から連れ出そうとすると、居並ぶ重鎮達からも次々と、

「何たる無礼者、此処が何処か分かっておらぬのか」

「顔に似合わず身分をわきまえぬとはうつけ者が……」

 などと、口々にマルティアーゼに罵声を浴びせ始めると、逃げるようにダレイヌスがマルティアーゼを連れ出していく。

 その背中ごしに国王の言葉が飛んできた。

「お主の顔など二度と見たくもないわ、直ちにサンから出てゆけ!」




 急いで城を出た二人が階段を降りていると、

「全く何故あのような要らぬことを言ったのだ、何も言わず褒賞を受け取っておれば済んだものを……」

「申し訳ありません、どうしても国王に国の現状を伝えて、盗賊が女性達ばかりを捕らえ、彼女達がどれだけ怖い思いで囚われていたか知ってもらおうと……、これ以上被害を出さないように国王自ら動いてもらおうと思ったのですが」

「あのような言い方で王が話を聞くと思っておるのか」

 その話にいく前に国王の逆鱗に触れてしまい殆ど成果もなかった。

(短気というものじゃないわね、人の話をまともに聞く気がなかったわ)

 駆け足で馬車まで戻ってきた二人は急ぎ乗り込み、ダレイヌス邸へと走り出した馬車の中で、

「良いか、お主に恩はあっても義理はない、これ以上庇い立ては出来ぬ、屋敷に戻ったら直ちに出立するのだ、陛下が仰った一日の猶予、今からと合わせても一日半だ、よく聞けこれは陛下がお主を逃さぬつもりだと言うことだ、北の町まで早くて三日、国境を出るには更に三日以上は掛かる、到底一日半で出られる訳がない、陛下ははそれを分かっていてお許しに成られたのだ、大義名分を作り殺すつもりであろう、此処はサンの中心だ、捕まえれば後は何とでも罪状など作れるからな、必ず明後日には陛下は兵を差し向けるであろう、それまでにどれだけの距離を稼げるかが勝負だと肝に銘じておけ、よいな」

 苛立ちを見せるダレイヌスにマルティアーゼはニコリと笑って、

「何から何まで助けて頂いて感謝しております、それなのに侯爵様の立場まで悪くしてしまって申し訳ございません」

「ううむ、陛下とてあの若さで王位に就かなければ良かったのかも知れぬが、先王がご病気で亡くなられては仕方がない、周りの者達は陛下に媚び諂って地位を手に入れた者ばかり、先代に仕えた者達は陛下に讒言して逆鱗に触れ、投獄されたり官職を剥奪されてしまって殆ど残っておらぬ、何とか儂が陛下に人の道をと今まで苦労を重ねて少しずつ変えようと思っておったのに、お主があのように陛下を侮辱するような言い方ではご立腹されても当然だ、儂とてこの国の一角を担う者、儂が思ってることをお主が言ってくれたのには感謝するが、おいそれと賛同出来ぬ立場なのだ」

 ダレイヌスがマルティアーゼを見てため息をついた。

「ともかくだ、すぐに支度を済ませこの国から出るのだ」

「……分かりました」

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