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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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(若いわね……私よりは上だろうけれど、王としては若すぎるわ……)

 それがマルティアーゼの第一印象だった。

 若々しい肌には艶があるが、体は細く病的で弱々しく感じる王に見えた。

 頬骨の出張った面長な顔に王冠が重くのしかかっているようで、王冠が動くたびに頭がゆらゆらと左右に揺さぶられている。

 金髪の長い髪は肩まで落ちてギラつく青い瞳でマルティアーゼを見下ろし、彼女を値踏みするかのように暫くの間見られていた。、

「ふむ、報告のとおり一介の旅人にしては顔が整っているんだな、ともあれまずは盗賊の首領カブースを捕らえるに際し助力してくれたことには私から礼を言おう、……してマールとやらお主はどうしてこのサンに来たのか申せ」

 威厳のない若さの象徴のような甲高い声でマルティアーゼを問いただしてくる。

「私も旅の途中で盗賊に捕らえられ気が付いた時にはこの地に連れて来られていました、その折に同じく人質になっていた人達の救出を試みましたが、途中盗賊達に捕まりそうになった所をダレイヌス侯爵様が来て頂けたことで皆無事に助かることが出来ました」

 マルティアーゼは目も背けずしっかりと国王の目を見て話をした。

「ふむ、サンに来たのは本意ではなく連れてこられたということか、では何処から来た、お主の出身は何処だ」

「ローザンでございます」

「ローザン……そこは何処にあるのだ、私はサン以外のことは知らぬ、他の国のことには興味があるのだ、どのような所か申せ」

 国王は身を乗り出してマルティアーゼに聞いてきた。

 どうしたものかと一瞬ダレイヌスに視線を送るが、彼もローザンのことには興味がありそうでマルティアーゼが話すのをじっと待ってる様子だったので、仕方なく気を取り直して国王に向き直した。

「北方のはるか東に位置し、辺境の田舎国家と呼ばれているローザン大公国です、森に囲まれ資源は林業と乏しいですが、民は懸命に土地を開拓し畑を耕しております、王は……王は質実剛健、武勇の方でその腕でもってエスタルより東の地を拝命され、かの地にいた部族をまとめて建国したまだ若い国家でございます」

「ふむ、辺境とな、誰かローザンという国の事を知ってるものはおらぬか?」

 国王は居並ぶ重鎮達に対して声を上げるが誰も辺境の国ことなど知らぬようで、ざわざわと囁く声だけが聞こえてくる。

「陛下、それがしが少しばかりなら知っております」

 そう言ってきたのはダレイヌス侯爵だった。

「ローザン大公、元はエスタルの重鎮だった武勇一辺倒の男らしく、数々の功績によりエスタル王より東の地を賜り国を建てた者でございます」

「それは今しがたこの者から聞いた内容と変わらぬではないか」

「はっ……、それと大公国には二人の公女がいるということ、その第二公女というのが絶世の美女だという噂でございます」

 ダレイヌスは知ってか知らずか、その隣で跪いている者がその人だということには気付かずに話を続けた。

「ほう絶世とな、そのような辺境の地によく美女が生まれたものだな、どのような女性なのか見てみたいの」

「まだ若いということしか……、しかし国民からは絶大な支持を受けているとか」

「ふむふむ、他にはないのか、私もまだ若い、年相応ということであれば向こうは第二公女、こちらに呼んでも問題はないのではないか?」

「それにはまた色々と問題が御座いましょう、ローザンとは交易もしておりませんし、友好な関係も持っておりませんので時間が掛かるかと……」

「友好な関係ならその公女が私の所に嫁いでくれば解決ではないか」

「そのように簡単には行きませぬ」

 話はマルティアーゼをほったらかしにしたまま違う方向へと話が進み始め、何やら自分をこの国に嫁がせようという話になっていた。

(どうしてこの国に私が嫁がなくちゃいけないの、本人の前で勝手に婚約話をされても困るわね)

「はははっ、中々いいことを聞いたな、辺境にそのような女性がいたとはついぞ耳に入ってこなんだ、世界にはまだまだいろんな事があるのだな」

「陛下、今はこの者との謁見、その話はまたいずれに……」

 ダレイヌスも話が逸れ始めたことに幾分気になったみたいで、国王に進言した。

「ふむ、ではマールとやらお主は一体何処のなのだ?」

「えっ……、私は一介の旅人、アルステルに帰る所でございます」

「お主のような美貌の持ち主が一人で旅とはこれまたいかに、もしそれが本当であるのなら、どうだ私の妾にならぬか、良い暮らしが出来るぞ」

(今さっき、他の国のから嫁にするとか言ってたのに、私に妾になれだなんて、色狂いなのかしら……)

 国王の目が狭められ怪しい眼差しを向け返事を待った、それに対しマルティアーゼは下を向いたままこう答えた。

「私のような平民が国王の妾などとは恐れ多い事で御座います、国王の側に平民を置いて置かれると災いの元に成りましょう、どうかご勘弁下さいませ」

 マルティアーゼは恭しく返答したが、国王はそんな理由では納得しておらず、

「私に使える気がないというのは誰か心に決めた者がいるとでもいうのか、お主なら選り取り見取りだろう、どうだいるのか?」

「どうかご勘弁下さいませ、私には戻らねばならない場所があり友人が待っております、この話はどうかここまでに……」

 マルティアーゼは頭を深々と下げて懇願した。

「友人の為に王の妾を捨てると申すのか、これまたおかしな事だ、平民であればこのような機会は二度と無いというのに、地位も金銀も思うままだというのにそれよりも友人を優先するのか、私には分からぬ」

「陛下、この者は我がサン国の盗賊を捕らえた貢献者ですぞ、例え平民であっても其の者に対しては無礼というものでございましょう、どうかそのような話は無きようお願い申し上げます」

 ダレイヌスがようやくマルティアーゼに助け舟を出してくれた事で、国王も少し考えを改めたようで、乗り出していた腰を落として椅子に座り直した。

「本日の謁見はお主の功績を称えて呼んだのだったな、お主を見ていてどうしても我慢がならなかったのだ、許せ」

「……いえ」

 まだ若さが勝っている王にとって、眼の前のマルティアーゼという美女を前にして欲望が押さえられず、周りの重鎮達もそんな王の行動に対して讒言する者もダレイヌスをおいて他にはいなかった。

(この国には王を諌める人が少ないのね、ダレイヌス侯爵以外はまるで人形のように立っているだけだわ、これでは国がよくなるはずがない)

「陛下、この者に褒賞を授けて下さいませ」

「うむ、良かろう、これ此処に持ってこい」

 国王が手を挙げると、侍女達が受け皿に乗せた金銀と首飾りを運んできた。

「それだけあれば十分であろう」

「…………」

(こんなにお金が……これだけでどれほどの事が出来ると思ってるの)

 目の前の輝きを放つお金に光沢を放つ宝石が散りばめられた首飾りを見たマルティアーゼは、嬉しさよりも失望を感じていた。

(この王様は他の町のことがどうなってるのか知らないのかしら、見える部分だけを見て安泰なら他はどうでも良いと思ってるの……、自分の国というものが分かっていないの……)

「おいっお主……感謝の意を示さぬか」

 ダレイヌスが横から囁くように言ってくる。

 マルティアーゼは品を見つめたままじっとしていると、

「はははっ、余りにも多くの金銀で呆けてしまったのか、そうだろう平民では手が届かぬ金だからな、良いのだぞそれはお主の物だ」

 それでも尚、マルティアーゼは微動だにせずじっと考え事をしていると、そっと王に面を上げてこういった。

「国王陛下、このお金でどれだけの人が救えるかご存知ですか?」

「……どういう意味だ? 何を申したい」

 王の目からは輝きが消え失せ、不信と疑惑の眼差しに変わっていく……。

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