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銀の魔導   作者: 雪仲 響
138/983

138 炎夏の戦い

「おおお!」

「うりゃああぁ」

 数ではダレイヌスの私兵が勝っていたが、盗賊達も口だけはなく腕もあり一進一退の互角の戦いを繰り広げている。

 マルティアーゼの目に映った戦いは、両者ともまだ目がよく見えていないのか、闇雲に剣を振ったり狙いが定まらなくて一振りに時間が掛かっていた。

 何故かその様子を見ていて子供がじゃれ合ってる様に思え、何とも滑稽に感じられる。

 お互い必死に剣を振るい、一人また一人と地に倒れていく。

 盗賊の方は一人やられればその分他の仲間に負担となり、均衡が崩れ始めると見た目でも判るほど盗賊達に兵士が集まっていくのが分かる。

「てめえら踏ん張れ!」

 カブースの怒鳴り声は彼らの耳には届いてなかった。

 カブースはダレイヌスとの一騎打ちで打ち合っていたが、味方の姿が一人一人と倒れていくのを横目で確認しながら焦りを感じていた。

 盗賊達は押し寄せる兵士に剣を振るのが精一杯で、カブースの声など耳に入ってこない、悲鳴と怒号が交じる中で敵味方の声など雑音にしか聞こえず、目の前の敵だけが状況確認出来る唯一の真実で、そこから活路を開くしか道はなかった。

「うおおお、何処だ何処だ、てめえら何処に居る、俺の所に集まれ」

 巨体のグヌイが兵士を斬り倒して叫んだ、先程まで隣りにいた仲間も戦ってる途中で見失っていた。

 無我夢中の戦いで何人の敵兵を倒したのか覚えていなかったが、グヌイは一人奮闘していた。

 大きな体と豪腕を活かし軽々と振り上げる剣は間合いに敵を寄せ付けず、長い腕で弧を描くように剣を振り回して、もの凄い力で剣を交じ合わせることなく叩き斬っていた。

 しかし、斬っても斬っても敵は減らずに逆に仲間が倒れると応戦していた敵兵が集まってきて、さすがのグヌイにも生きた心地はしなかった。

「くそぉ、おじき何処だ、ガイ、エミス返事しろ」

 あちこちで塊となって仲間が一人で何人もの兵士を相手にしているのは、想像したくもない悲惨な結末しか思い浮かんでこなかった。

「くそお!」

 助けに行きたくても自分でさえもう駄目だと感じ始めていたグヌイは、ジリジリと包囲してくる兵士で姿が隠れて見えなくなっていく。

 カブースとの一騎打ちは誰も手出しさせず、ダレイヌス自身が相手をすると兵士に伝えていた。

「ぬうう、さすがは頭領を名乗るだけのことはあるな」

 もう何十合と打ち合っても尚、お互い一太刀も与えることすら出来ず、相手の一挙手一投足に目が離せず疲労だけが蓄積されていく。

「サン兵士ごときにやられてたまるか」

「いかにサンが弱かろうとその中で儂は研鑽を積んできておる、全ての兵士が弱いと勘違いするではないぞ」

「うるせえ! 椅子にふんぞり返ってでかい態度で生活してる貴族なんかに負けてたまるかよ」

 カブースが連撃を繰り出すと、ダレイヌスは剣先を上下させてはね返して相手の剣を持つ手首に斬りつけた。

「ぐあっ……」

 カブースが剣を手放すと、ざっくりと切られた手首から血が滴り落ちてくる。

「勝負あり」

 ダレイヌスが切っ先を額に伸ばす。

「くうう……」

 どくどく流れる出血で力が抜けていく感じがしたカブースは、手首を押さえ堪忍したように大人しくなった。

「この者を引っ捕らえろ、生かして裁判にかける」

 ダレイヌスの声が全体に響き渡った。

「……終わったみたいね、これで安心して家に帰れるわよ」

 女性達と一緒に戦いの顛末を見ていたマルティアーゼは、静かになっていく戦場に勝負が決したことを理解した。

 固唾を飲んで見守っていた女性達からは、歓声の声が上がり涙を流していた。

「ありがとうありがとう、あんたのお陰で助かったよ」

「貴方がいてくれたから、皆助かったのよ、本当に有難う」

「有難うお姉ちゃん」

 口々にマルティアーゼへの感謝が言い渡されると、

「礼を言うわ、このことは父に頼んで存分にお礼はさせてもらうわ」

 バスティが照れくさそうに言ってくるのをマルティアーゼは笑顔で返す。

 結果、ダレイヌス私兵は五十人居たのが約半数近くまで倒され、盗賊の方は十一人だったのが生き残ったのはカブースとグヌイ、他一名だけだった。

 三人とも負傷していて、グヌイは腹部と足の刺し傷から血が止めどなく流れ出ていて瀕死の状態だった。

 生き残った兵士の怪我をした者は、応急処置を施されて馬に乗せられていく。

「はぁはぁ……くそお、痛えよ」

「サンまで生き延びていられたら向こうで裁判にかけてやる」

 ダレイヌスがカブースに言うと、そこにマルティアーゼがやって来て、

「止血だけならしてあげるわ、彼らにはちゃんと罪を償って貰うのよ」

 マルティアーゼが魔法で三人の傷口を塞いでやると、縄で縛られ馬まで連れて行かされる。

「あ……待って」

 マルティアーゼが慌ててカブースに駆け寄ると、

「これは私のものよ、返してもらうわ」

 そう言ってカブースの腰につけていたマルティアーゼのお金袋を取り戻し、自分の腰へと括り付けた。

 その様子を見ていたダレイヌスは戻ってきたマルティアーゼに、

「君は一体何者なのだ、その肌だと北の人なのか、他国の貴族の方かな?」

「いいえ、只の旅の者ですよ」

「しかしその若さにその物腰……到底一介の旅人には見えぬが……」

「ふふっ、旅人には色々な人がいるんですよ、詮索は無しにして頂けませんか?」

 マルティアーゼは笑って答えた。

 その様子もダレイヌスには、今しがたまで危機的状況にあった者とは思えぬほどの無邪気な振る舞いに、只ならぬ人物なのだろうと感じたが妻を助けてもらった恩もあり、いらぬ詮索はよそうと分かったとだけ返事をした。

「タムサに帰りたい者はいるか? いるならこのまま兵士に送らせる、他の者は一度首都まで戻るとする、よいな……では出発」

 被害は甚大に及んだが、女性を取り戻し頭領のカブースも引っ捕らえることが出来たことは大きな成果だった。

 そして、一行は首都サンに向けて移動を開始した。

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