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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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「そうかそうか、はははっ、とんだ回り道になったもんだな、まぁしようがないだろう、エスタルからだと沼地の臭い街道を通らんとならんしな、女の子にはキツイかもしれん、沼地に落ちれば十日は臭いが落ちんから気をつけることだ」

「私はもう十六よ、女の子ではないわ」

「私も十五ですよ」

 マルティアーゼとスーグリが反論した。

「そうかそりゃ済まない事をしたな、だがまぁそんなにムキになるところが女の子なんだぞ、はははっ」

「…………」

 それに対しては反論出来ずに、マルティアーゼは頬を膨らませただけだった。

 食後のお茶を飲みながらマルティアーゼがリム遺跡まで来た理由を話した。

 財宝のことは内緒にして仕事で探し物に来たが、何も見つからずに帰路に着く所だと伝えた。

 リム遺跡には西回りがあるらしく、ボルドはその道を辿ってエスタルや町に出かけているとの事だった。

 そんなことを知らないマルティアーゼ達は、遠回りの東回りで来たことを告げると大笑いされたのである。

 見た目とは違いかなり気さくなボルドは、本当は話好きみたいで三人のことを気に入ったらしく、部屋の奥から取り出してきた酒を飲みながら話に興じていた。

 マルティアーゼ達は酒など飲んだこともなかったし、臭いだけで酔ってしまいそうなぐらいに強そうな酒を水を飲むように平らげていくボルドを見て、あっけにとられていた。

「おお、そうだ嬢ちゃんに剣を見せてやらねえとな」

 ボルドはふらふらと千鳥足で壁まで行くと、飾られていた竜の骨で作った剣を取り外し、危ない手つきでそれをマルティアーゼに手渡した。

 剣を受け取ったマルティアーゼは慌てて柄に手を掛けて落とさないように力を込めると、彼女自身思ってもいなかったぐらいに剣は軽く、勢い余って天井に剣を振り上げてしまう。

 ガシッと、剣が天井に突き刺さってしまい抜けなくなってしまうと、

「まぁ、なんて軽いのかしら、抜けないわトム」

 切れ味も抜群で食い込んでしまった剣を、トムが自分の手をマルティアーゼの手に重ねて一緒に力を込めて抜いてくれた。

「重い物だと思っていたのにすごく軽いのね、それに凄い切れ味だわ」

 マルティアーゼでも軽く振ることが出来るほどに重さが苦にならない、トムがそれを見て自分も持ってみたいと言いだしたので彼に剣を渡した。

「なんという軽さだ、まるで腕を振る感じで全く疲れもしない、こんなのがこの世にあるとは信じられん」

 トムは軽すぎて逆に自分の腕の方が重く感じる程で、剣を扱う手が震えてしまいそうであった。

 ボルドがそれを見て大笑いをすると、

「はははっ、見た目は重そうだが鉄を使ってる部分は刃ぐらいだし、かなりの軽さだろう、それが竜の骨の特徴だ、軽くて丈夫しかし加工には技術が必要だ、儂もこの世界で二十年コツコツと腕を磨いてやっと技術を物にしたんだ、それも先祖からの伝統を受け継いでこその技だ、そこいらの鍛冶屋にゃ無理だろう」

「しかし竜の骨など一体何処で手に入るのですか、話に聞くぐらいで実際に見たのは初めてです」

「そうだわ、その竜の骨でなら私も武器を扱えるわ、何処に行けば手に入るのか知りたいわね」

 すると、いきなり難しい顔になったボルドが、

「そんなに簡単に手には入らん、四ヶ所あるがそこは命懸けで儂も死にかけたわ、それにその加工も特殊で骨が手に入ったからといって簡単に出来るものでもない、一本の物が出来るのに何本の骨を折ってしまうか、それだけ扱いは繊細なんじゃ」

「でも何処にあるか教えて頂きたいわ、これなら非力な私でも扱えるのですもの」

「そんなに竜の骨で作ったものが欲しいのか、幾らするのか聞いたら驚くぞ、材料集めだけでも命懸けだからの」

 ボルドが暫く悩んでいると、

「お金ならあるわ」

 と、マルティアーゼは口に出した言葉を後悔することになる。

「金粒大八百じゃ、これでも安くしてだぞ、作成に失敗したらその分値上がりもするがの、骨一本金三百上乗せだ、もし町で売ってるとしたら千は越えるだろうし、金持ちの奴ならそれ以上出しても欲しいと思うかもしれん、それだけ特別なんじゃよ」

「八百……」

 その金額にマルティアーゼとトムは開いた口が閉まらなかった。

 スーグリに至ってはその金額がどれ程の大金か把握出来ずに、唖然と呆けた顔をしていた。

 三人の固まった表情に、ボルドは素知らぬ顔で酒を流し込んでいたが、

「お主らいつまでも呆けておらずにそこに座れ、言っとくが此処にある物は自信を持って名品といえる物ばかりじゃ、もし壊れたり駄作と云われたら直ぐにでも鍛冶をやめる覚悟はある、その中でも竜武器は儂が鍛冶を目指した目標だ、これの制作をするには全力を注ぎ込む、他の仕事を中断してでもな、もし本当に欲しいのなら提示した金額を払うんじゃな」

「骨だけで三百……ならその骨を私達が持ってくればその分安くなるのかしら?」

 マルティアーゼの言葉にボルドの眉がピクリと動いた。

「そうじゃ……材料代を引いて五百じゃな、その代わり材料がなくなれば骨の代金は貰うし製作は終わりじゃぞ、儂も鍛冶屋じゃ、失敗品を売るつもりはない」

「いいわ、その骨を私が持ってくるわ……、何本あれば良いのかしら?」

「マールさん!」

「ふん、嬢ちゃんが骨をか……止めとけまだ若いんじゃ、命を粗末にするもんじゃない」

 ボルドは杯に残っていた酒を一気に流し込むと赤くなった顔でマルティアーゼを見つめた、その表情は馬鹿な事を言うんじゃないといいたげな目つきだった。

「どうしても欲しいの、でもそんなにお金に余裕があるわけじゃないから少しでも安くして貰えるなら自分達で材料を取りに行くしか無いでしょ、教えて欲しいの何処にあるのかだけでも、骨があれば武器を作ってくれるのでしょう、別に私達が死んだとしてもボルドさんに迷惑は掛からないはずだわ」

 今にも目を閉じて眠ってしまいそうなボルドが、無造作に席を立って奥の部屋に消えたかと思うと、一枚の地図を手に持って戻ってきた。

「……ここじゃ」

 皮に書かれた古い地図はリム王国の版図が載っており、広大な円が北方の東側に描かれていた。

 北にも西にも大小様々な国が書かれているが、字が薄くなって所々名前が消えかかっていた。

 その地図にはエスタルの名前はなく、エスタルがあるべき場所は深い森しかなく国一つも見当たらなかった。

 どの国も森を避け、山麓やラトール川周辺、海辺などに国が集中していた。

 見知った名前もあれば聞いたこともない国名まで書かれていて、この地図だけでも一つのお宝になるぐらい古い地図のようだ。

「先祖代々伝わる竜骨の在り処だ、此処と此処、それに此処と此処の四ヶ所、どれも命を掛けんと行けない場所だ」

 リム王国から南東の内海の真ん中にある島、深く迷う広大な森にあるベル山、北方よりも更に北に行かなくてはならない極寒の地、大陸の最南端にある最高地の山頂と、どれも危険な地域ばかりで一筋縄で辿り着くのが難しそうな地であった。

「どうじゃ行く気が失せたか、儂とて今までの人生で行ったことがあるのは二ヶ所だけ、それも死にかけて帰ってきたんじゃ、行って後悔するより自分に見合った物を探したほうが良いぞ」

 マルティアーゼはじっくりと地図を見つめ、場所を頭に叩き込んでいた。

「何か少しでも情報があれば教えてもらえませんか?」

 その横でトムがボルドに聞いていた。

「本当に行く気なのか? 若いからといって何でも出来ると思うとるのか」

「そうではありません、私は逆に行きたいとは思ってません、あの剣は素晴らしくいい剣だとは思いますが死にたくはありませんからね、ですがこの人は一度言ったら聞きませんから行くことになるでしょうね」

 トムが手を差し出してため息を吐いた。

「むう……嬢ちゃんはそんなに頑固なのか、見た目は清楚なお嬢ちゃんに見えるがはっきりと物事を言うし……そうか、人は見た目で判断出来ぬな……」

「筋金入りですから……」

 トムが付け加えると、

「もう何よトム、どうせ私はお転婆って云われてたけれど、言いふらされるのは嫌よ」

「うう……行くの? マルさん……」

 スーグリはもう怖い思いは御免だと、早く家に戻ってゆっくりと気分を落ち着かせたかった。

「儂が行ったのはベル山と極寒の北の地じゃ、北の地はこの北方とは全く違う寒さだ、常に雪に覆われ目印となるものが殆ど無くての、白い荒野で道に迷うとお終いじゃ、広く白い大地の最北にぽっかり空いた穴があるんじゃ、その穴の奥深い底に骨は落ちとるが普通の長さの縄では降りられん所じゃった、目印がない場所じゃから説明は出来ん……運が良ければ辿り着けるかも知れんがな……、ベル山は今じゃ街道が出来ておるから麓までは楽に行けるじゃろうが、問題は山自体じゃ、常に怒り狂う山の火口は熱した石が飛び交っておる、その一つでも当たれば瞬時に丸焦げとなるじゃろう、火口は真っ赤に染まった熱い水で溢れており、近くにいるだけでも焼かれそうになるぐらいじゃ、骨は火口から見える場所に落ちとるが到底そこまでは辿り着けんじゃろうな、儂は運良く手前に落ちていた骨を回収出来たが、それでも腕に火傷を負ってしまって暫くは槌も握れん状態じゃったわ」

 ボルドが腕をめくって火傷の後をマルティアーゼたちに見せた、二の腕から肩にかけて引きつった肌が火傷の酷さを思い知らせた。

「他の場所は知らん、嬢ちゃんが何処に行くかは勝手じゃが、何処も危険極まりない事には違いないじゃろう」

「分かったわ、よく考えてから決めるわ」

 夜も更け、とうに深夜になった所で床についた、と言ってもこの家にはマルティアーゼ達の寝台などなく、そこいらの空いた場所に外套を敷いて横になっただけだが、獣や寒さの心配もなく安心して深い眠りを送ることが出来た。

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