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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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「なんだが彼の残した物は杖だけではないような気がします、命を賭してまで守り続けた品を我々はお金に変えようとするのは気が引けますね」

「このままそっとしておきませんか……」

「……何、貴方達がそんなに感傷的な性格だったなんて思わなかったわ」

 マルティアーゼは二人とは違う考えだったようで、

「杖なんてただの物でしかないのよ、リムの血縁が生きているのも怪しいのに、このまま捨て置くというの? これが仕事でしょう、私達が見つけなくても他の人がいつかこの部屋を見つけたら杖を持っていくかもしれないのよ」

「しかし、この者の気持ちを考えるとどうも……」

「なら、俺達が頂くとしよう」

「!」

「……うぐっ」

 振り返ろうとしたスーグリに暗闇から二本の手が伸びてきて、口を塞がれ首筋に短剣をあてがわれる。

「おっと動くなよ、話は聞いたぜ王家の品か、こいつは良いものが手に入ったぜ、お前たちは盗賊か? 何処の人間か知らねえが遠路はるばるやって来て隠し部屋まで探し当ててくれるなんざ、俺達はツイてるぜ」

「何者だ……」

「安心しな、俺達は殺し屋じゃない同業者だ、お前たちも宝探しに来たんだろう」

「それをよこしな」

 後ろから女が歩み寄り、マルティアーゼの手から本を取り上げた。

「殺しは嫌いなんでな、けど暴れるとあっちゃ間違って剣がブスリと刺さっちまう事もあるからな、静かにしてたほうが身のためだぜ」

 グイッと、スーグリの顎を上げて剣先を見せつけた。

「ふふふっ……」

 女からは笑みが溢れ、マルティアーゼに顔を近づけてじろじろと見回した。

「あんた結構綺麗な顔してるねぇ、こんな所じゃなきゃ夜を一緒に楽しもうと誘うんだけどねぇ」

 女がマルティアーゼの頬を撫でる。

 マルティアーゼは真顔で女の目から視線を外さずに睨みつけていた。

「おい、馬鹿な事をしてねえでさっさと出ろ」

 階段の外にいた男が上から怒鳴り声を張り上げると、二人は外に出ていこうと後ずさりしていく。

「おい、その子を離せ!」

 スーグリが首に刃を当てられたまま後ろ向きに引き摺られていくのを、トムが叫んだ。

「ふん、せいぜい生き延びろよ」

 階段の前まで下がった男は、スーグリを突き倒すと足早に階段を駆け上がっていく。

「待て!」

 追いかけようとしたトムの胸にスーグリが倒れ込んできて、階段の上からゴオンと蓋を被せられる音が鳴り響いた。

 トムが階段を駆け上がって石の蓋を開けようしたが、いくらやってもビクリともしなかった。

「蓋の上に重りを置かれてしまったみたいでビクともしません」

 スーグリを抱き寄せたマルティアーゼは、何も云わずに状況を整理していた。

 暗闇の部屋に閉じ込められてしまった三人は、ミイラになった男を見つめ黙り込んだ。




 三人はどうしたものかと考え込んでいたが、このままじっとしていても奴らが助けに来てくれる訳でもなく、こんな遺跡に人が頻繁に来るという保証もなく、来たとしても奴らのような輩ぐらいしか来ない。

「じっとしていても時間が無駄になるわ、何かいい案がないか考えましょう」

 マルティアーゼの顔が小さく弾ける松明の明かりに照らされながら、二人を見てくる。

「案と云われても、入り口が塞がれてしまってはどうすることも出来ませんよ」

「うう……このままここで死んじゃうのかな」

 スーグリがマルティアーゼの胸に顔を埋めて震えていた。

「悲観的な事を聞いているわけじゃないのよ、出る方法を考えましょうって聞いてるの」

「ですが、それが……」

「いい? 彼はここで何日も生き延びてきたのよ、本にも食料を求め外に出たことを書いてたわ」

 マルティアーゼはミイラになった彼に視線を流した。

「それはここから出られたからではないでしょうか」

 トムが階段を指差した。

「出られる時ならそこから出たでしょうね、でも長い間ずっとそこから出られるとは限らないのよ」

「では他に出口があると云うのですか……」

 トムは視界に全部入るこの小さな部屋の何処かに、外に繋がる道があるのかと見回してみるが、物の少ない部屋で調べられる場所など限られている。

「ではそこの食糧棚の裏に隠れているのでしょうか?」

 トムは松明を置くと、棚を動かし隠れていた壁を調べてみたが、石の積まれた壁が現れただけで何処にもおかしな所はなかった。

 次に寝台、机の下と置いてある家財道具の周辺を見たが、何処にも通路のような出口は見つからなかった。

「何もありませんよ、やはりここからでしか出られないのでは……」

「…………」

 マルティアーゼは彼の書いた内容を思い起こしていた。

「宝物庫の下に隠し部屋を作る時に、物を置かれる事を考えないで作るかしら、それなら物が少ない部屋に作ったほうが安全のはずよ、上には沢山の箱が置かれているのに、誰かが少しでも箱を動かしてしまえば出られなくなるのは分かるはずよ」

「隠し部屋を作った後に、ここを宝物庫にしたという可能性もありますよ」

「それならこの部屋に逃げこまないと思うわ、私ならそんな危険を冒さないし、ここを宝物庫になんてさせないわ、彼はここの管理者でしょう、ここを任されていた彼がそれを許すかしら」

「しかし現に出口は見つからないのです、密室からどうやって出られるのですか」

「……何か、忘れてることがあるはず……」

 マルティアーゼはこの部屋を見つけた時の事を、もう一度思い出してみた。

(宝物庫でおかしなことと言ったら……風! そうよ風だわ……風が吹いていた、宝物庫の石畳の隙間から吹き出していたのよ、あの風はどこから……)

 部屋を見渡すと微かに部屋の空気に流れを感じることが出来た。

「やっぱりこの部屋の出口はもう一つあるわ、よく探しましょう、必ず何処かにあるのよ、スグリ貴方も手伝って頂戴、このままここで死にたくはないでしょう」

「うん」

 三人でもう一度部屋の壁を調べ始めた、風の出処を調べ回る為にもう一度寝台や棚を動かしてみて探ってみるが中々見つからない。

(おかしいわね……、一体風は何処から吹いているのかしら…………)

 マルティアーゼは考え込みながら部屋を見渡した。

「…………トム、そこの樽を調べてみて」

 目についた二つの樽を、トムが蓋を開けて中を覗いてみた。

「うっ……臭い、水が腐って虫の死骸が……」

「中じゃないのよ、それをどけてくれない?」

 トムが樽を持ち上げてみたが、水で変色した石畳が現れただけで出口らしいものは無かった。

「もう一つは?」

 云われた通りにもう一つの樽も井戸させると、

「あっ、ありました」

 狭いが丸い穴が床の下から現れた。

「それね……」

 暗い穴には梯子が掛かっていて下に降りられるみたいだった。

「それでは早くここから抜け出ましょう、もうかなり時間が経ってます、既に奴らに杖を奪われてるかもしれませんが、追いかけるなら間に合うかもしれませんよ」

「ええ……」

 トムがまず降りていってどこまでの深さなのか、中が安全かどうかを確かめるために穴に入っていく。

 松明の明かりが消えたマルティアーゼ達は、真っ暗な中、穴から漏れてくる明かりを見つめ、トムの返事を待ち続けた。

 上から見える火が小さくなった途端、一瞬にして明かりが消えた。

「真っ暗で何も見えないわ、そうだわ魔法で……」

 マルティアーゼが手の平に青白い炎を出した。

 隣りにいたスーグリの顔すら見えなかった部屋に、青い明かりがほのかに照らし出された。

 暗闇に視界を塞がれる不安を感じるよりは、青白く薄気味悪い雰囲気でも視界に物が見える方が安心した。

「トム、どうなってるのか返事をして」

 マルティアーゼが穴に向かって呼んでみるが、トムからの返事は返って来ない、その後も彼の名を何度も呼んだのだが一向に返事がなかった。

 何かが起こったのか、悲鳴や叫び声すら聞こえてこないまま、まるで吸い込まれて消えてしまったかのように、しんと静まり返っていた。

「……降りてみましょう」

 そう言ったマルティアーゼが、寝台のシーツを破り炎を移すと床に置いた。

「明かりは此処に置いとくわね」

 そして梯子に足を掛けて降りようとすると、下からトムの呼ぶ声が聞こえた。

「降りてきて下さい、大丈夫です」

 そのままマルティアーゼは梯子を降りていく。

 結構な深さがあり、狭くてあまり体は動かすことは出来ないが、崩れてくるような恐れはなかった。

 粘土質の壁は掘ったままの状態で補強もされておらず、そのまま通路として利用していたみたいだった。

 トムのいる場所に降り立って上を見上げてみると、スーグリの顔が判別出来ないぐらいの高さがあった。

 スーグリにも降りてくるように伝え、三人が穴の下に並ぶように集まると、

「こっちです、頭に気をつけて下さい」

 松明の明かりとマルティアーゼが新たに出した青い炎に浮かび上がった横穴は、幅が狭く縦長に出来ていたが高さがなく腰を曲げていなくては通れない細い通路だった。

「ここは彼が隠れている間に掘ったのかしらね」

「いや、違うと思いますよ、ここの土はかなり固いです、短期間で掘れるようなものではないでしょう、前々から掘っていて出来上がる前に襲撃がやって来たのではないですかね」

 長くどこまで続いているのか、ひんやりとした通路をかなりの時間を掛けて歩きき続けると、トムが立ち止まった。

「ここから外に出られるようになってます」

 顔を上げると又もや梯子が掛けられた縦穴が現れた、それを順番に一人ずつ上がっていった。

 もわっとする息苦しさとと熱い空気が肺に送り込まれ、目も開けられない程の日光が襲ってきた。

 長い間、暗く冷たい場所にいたためか体の反応が鈍く、別世界に出たように一瞬体が硬直した。

「暑いわね……」

「ふああ……やっと出られたあ」

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