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銀の魔導   作者: 雪仲 響
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 上に行けないのなら一階を調べるしかなく、瓦礫を踏み越えて長い回廊を行くと大きな部屋の扉が並んでいるのが見えた。

 扉の無くなった部屋を覗いて、一体何の部屋なのか調べながら進んでいく。

 天井がなく日光が回廊に差し込んできているので通路にいれば暗くはないが、部屋の中に一歩入れば暗く、空気が循環していなくて湿り気を帯びた冷たい空気が肌に触れてきた。

「見事なままに何もないわね……、石で囲まれた只の部屋でしかないわ」

「滅亡してから数百年ですからね、仕方ないと云えばそうですが本当に宝なんてあるんでしょうか?」

「宝かどうかなんて人の価値観でどうとでも言えるでしょう、もしかしたらごく普通の日用品程度の物かもしれないわよ、ただ古いだけの安物かも知れないわ」

「まぁそれでも持って帰れば高額の報酬が貰えるんですから、探し出したいですけどね」

「私は早く帰りたいな、安くてもアルステル近くの仕事のほうが良かったかも」

「ちょっと……今更そんなこと言わないでよね、ここまで何日掛かったと思ってるのよ」

「ぶうぶう」

 次々と部屋を見て回り、元の入り口までぐるりと一周をしてきたが、何もそれらしい調度品など一切見つからなかった。

「宝物庫は普通どのあたりにあるものなんでしょうか?」

「普通かどうかは分からないけれど、城の周辺に別の建屋がある……むっ」

 マルティアーゼがトムを睨んだ。

「……あっ!」

「?」

「……まぁ、城の裏手に行けば何かあるかも……」

 一旦城の外に出ると、雑草の生い茂る庭を城の壁伝いに裏手へと回りこんでいった。

 密集する草に足を取られながら何とか裏側へと行くことが出来たが、広大な裏庭も一面の雑草や草花が伸び放題だった。

「ここは庭園だったみたいね」

 石畳が中央の噴水跡から放射線状に敷かれ、周りにある花壇には色とりどりの野生と化した花々が咲いていた。

「まだ歩きやすくていいわね」

 水が出なくなって何百年と経った噴水は、所々ひび割れ欠けていて真ん中にあった人形の像も足首だけを残して無くなっている。

「あの離れにある建物がそうでしょうか?」

 奥にも小さな城みたいに尖塔がついた建物が、木々に囲まれて隠れるように建っているをトムが見つけた。

 四角い箱の上に塔を乗せたような建物は石扉で塞がれていて、トムが力を込めて扉を引っ張った。

 ギギギッ、と重く錆びついた蝶番の軋む音が響き渡り少しづつ扉が開いていく。

 すると、中からひんやりではなく、ゾクッとするぐらいの冷気が足元から這い上がってきた。

「ひい……」

 スーグリが悲鳴を上げた。

 熱い季節が終わろうとする時期であっても外はまだまだ暑い、その火照った体を一瞬にして身を引き締め、体温を奪われるのを防ごうと鳥肌が現れるぐらいに、冷たい空気が体を包み込んできた。

「寒い……、中も真っ暗ね」

「暗くてよく見えませんね、此処で待っていて下さい、松明を持ってきましょう」

 トムは二人に絶対に中に入らないで、と注意をすると走って城壁の外に残してきた馬たちの元へと走っていった。

 残ったマルティアーゼとスーグリは中を覗いたり、建物から離れて体を温め直したりしてトムの戻ってくるのを待ち続けた。




 トムは荷物の中から松明を取り出すと、直ぐ様マルティアーゼへと階段を走り出す後ろ姿を見つけた者がいた。

「あいつは何者だ……」

 風体から騎士や農民とはとても思えず、ざんばら頭に着れればいいみたいに寄せ集めただけの統一感のない服装をした男達二人に女一人が、そろりと足音を忍ばせながら馬に近づいて行った。

 トムの後ろ姿を眺めながら三人組は馬に乗せた荷物を漁ったが、特に欲しいものがなかったのか漁るのを止めて、トムの後を追って階段を上がり始めた。

「ふう……はぁはぁ、暑いですね、少し涼ませて下さい」

 戻ってきたトムは扉の前で冷たい風で汗を冷やすと、手にした松明に火を灯す。

「さぁ入りましょう、気をつけて付いてきて下さい」

 トムを先頭にマルティアーゼとスーグリが後に続いた。

 通路をはさんで両側に部屋があり、中に入っても窓など外と繋がる物が一切ない密閉された空間だった。

 松明の火も暗さに気圧されて、照らし出すのを躊躇っているように暗く感じられる。

 探索していくが何もない部屋ばかりが続き、最後の一部屋の扉を開けると、

「あ!」

 三人が一斉に声を上げた。

 その部屋には幾つもの大小様々な箱が積み上げられていた。

「ここですか……これがこの国の宝の部屋でしょうか?」

 薄明かりに照らされた年代物の箱は真っ黒に汚れていても価値がありそうな装飾が施されていて、その一つに目をやると鍵は壊され誰かが開けた形跡があった。

「もう開けられていますね」

 トムが箱を開けるが中身は空っぽだった。

「じゃあ此処にはもうないのかしら……」

 他の箱も開けてみたマルティアーゼが中を覗きながら答えた。

「……ないわね、他にも宝が隠されている場所があるのかしらね」

 暗い部屋で三人が考え込んでいると、マルティアーゼが異変に気付いた。

「…………」

 マルティアーゼの前髪に微かな風が当たってくるのを感じて、キョロキョロと暗い部屋を見回したが何処からくる風なのか見当がつかず、部屋中の箱を動かし始めた。

「どうしました、何か気になることでも?」

「風よ、風が吹いてるの……何処かしら、こう暗くては良くわからないわね」

「私達も手伝いましょう」

 箱を持ち上げたり移動させたりして、床や天井、壁などを徹底的に調べ始めた。

「マルさん、ここ……何か少し風が出てますよ」

 スーグリが床の一角の石畳の隙間から吹き出てる風を見つけると、トムが剣を隙間に差し込んで石畳を持ち上げると、その下に小さな階段を見つけた。

 人一人がやっと通れそうな細い階段から、冷たい風がゆっくりと部屋に気流を巻き上げる。

「入ってみましょう」

「では、私が先に……」

 カビ臭い匂いが下から漂ってきて、マルティアーゼ達は口を覆いながら真っ暗な地下を降りていくと、小さな部屋がそこにあった。

 小部屋と言ってもそれなりに広く、寝台や机、書棚に樽や食糧棚など生活必需品は一通り揃っていて、三人が入っても狭くは感じさせないぐらいに広く、天井は高くないがマルティアーゼの身長なら立っても頭が当たることはない、けれどトムは少し頭を下げないといけない高さで、中腰にして窮屈そうにしていた。

「トム、あれを見て……」

 部屋の一番奥の机を前にして、座っている人物がいた。

 椅子に座したままこちらを向こうともせず、静かに暗闇を見つめて佇んでいた。

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