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銀の魔導   作者: 雪仲 響


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101 戦争の残り香

 トムが川辺から森へと続く道を見つけていた。

「この川辺はもしかしたら水汲み場かも知れませんね、ここの地形を見て下さい、人の手が加えられたみたいですよ、岩場を削って掘り下げたのかも知れませんね、そうだとするとこの道は何処かの集落に続いているはずです」

 高い崖が続いていたラトール川が、ここだけ大きく削られているのは不自然であり、どこかに集落があるに違いないとトムは考えた。

「この辺りに村か町があるのかしら、といっても昔の話よね、でもいいわ……地面で寝ないで済むならそのほうが良いわ」

 トムの予想ではまだリム王国は西にあると思っているのだが、それでも知らぬ間に結構な距離を歩いて来ていたのかと地図を見ていた。

 分け入った森の中は歩いている部分だけ大きな木がなく、日光が地面を照らし光の道を作っていた。

 足元まで生い茂った雑草の道を日没まで歩いていくと、木々のない広い場所に出ることが出来た。

 夕暮れの赤い広場は一面雑草が敷き詰められ小さな草原になっていて、建物など人工物は何も見当たらなかった。

「ここは何の広場かしら、自然にこれだけの広い場所は出来るのは変よね」

 人がいないのは勿論、静かに風が草の上を走り抜け、ザザザッと草木の擦れる音が耳に入ってくる。

「そうですが、もう日も暮れてきましたし今日はここで野宿ですね」

 だだっ広い草原には小さなコブのような丘が幾つもあって、でこぼことした草原の真ん中に向かって歩き始めると、トムが急に止まって地面を覗いた。

「危ないです、段差がありますよ」

 よく見ると草むらに石段が隠れていて、綺麗に積まれて横に伸びていた。

「これは階段?」

 石段は一段の所もあれば二段になっている場所が、周囲の草むらにも見え隠れしていた。

 コブのような丘は全て石段の盛り上がった場所になっていて、

「もしかしてこれ全部に石段が積まれているの……、祭壇か何かかしら?」

「にしては数が多すぎませんか、ちょっと上に行って見てきます」

 そう云うと馬から降りたトムが石段を上がってみると、広い敷地にいくもの穴や腐った木材や石ころが無造作に転がり草で隠されていた。

 高い場所から当たり一帯の丘の上部は、皆似たように廃材らしきものが落ちていて石は周囲だけのようで内側は土で固められていた。

 上から眺めるとよく分かったのだが、丘は規則正しく並んでいる事だった。

 降りてきたトムが、

「ここは村なんじゃありませんかね、中央に幅の広い道のような物がありますし、石段が規則正しく並んでいるのも昔の家の土台ではないでしょうか」

 トムは持ってきた古びた杯の欠片をマルティアーゼに見せた。

「廃村ということね」

「ええ、何もこの村に関するものは無かったですが、少なくともリム王国のどこかの村じゃないですかね」

 三人は暗くなってきたので、座れそうな場所を確保する。

 やっとリムに入れたという安心と、早くアルステルに帰りたいという気持ちで一杯だった。

 既に食料は底をつき、水だけで空腹を紛らわせる。

 森では何かしらの動く生き物を耳にしていたが、それが動物なのか昆虫なのか目のあたりにすることは出来ず、襲ってくる様子もなかったので気にもしていなかったが、此処に来て空腹の余り腹に入るものなら食べたい欲求が出てきていた。

 朝の太陽を頼りに、中央の道らしき場所から西へと森を突き進んでいく。

 森に入り、そして抜けると何処かの広場に出てくるのを繰り返していくと、徐々に村の広さは大きく、町らしき密集した場所へ、木から石造りの建造物へと変わっていき、三日歩き続けてやっとの思いで首都らしき広大な広場に到着出来た。

 森で見つけた野豚のようなずんぐりとした大きな獲物を必死で狩り、久しぶりに腹を満たすことが出来たのでここまでやって来られた。

「やっと着いたぁぁ」

「あの建物が城ですかね」

 城壁だけが綺麗に残り、尖塔は崩れ落ちてみすぼらしい姿の城は苔や草にに覆われて広場の北でひっそりと佇んでいた。

 形を保っているとはいえ、色褪せた城壁も石との間から伸びた蔓や雑草が、じわじわと崩壊の足音を忍ばせているのが恐ろしく感じさせる。

 マルティアーゼはここがかつての大国の成れの果てだと思うと、戦争で負けた国に訪れるのは虚しさしかないのだと、目の前の有様を見て思い、此処にいた人々は何処に行ってしまったのかと考えていた。

 人の手が入らなくなった建物は脆く崩れていき、人間から自由を取り戻した苔や草は、生を謳歌し至る所に勢力を伸ばし続けてきた。

 そしてこれからもここにある建物を全て土に変え、一面を森の姿に戻すまで止まらないだろう。

「ここが目的地ってことね、じゃあ何処に杖があるかよね」

「お宝ってことはやっぱり城にあるんじゃないですかね」

「そうかしら……国の宝なら宝物庫じゃない? だってローザ……いえ、それじゃあ城に行ってみましょう」

 危うくマルティアーゼはローザンなら宝物庫に集めてあると、言ってしまいそうになった。

 すぐ隣ではスーグリは何のことやら分かっていない様子で、周りの建物の方に興味を注いでいた。

「肉もまだありますから数日は食事に困りませんし、ゆっくり探せますね」

 小さな家から大きな家まで分け隔てなく腐り、生活道具などは埃を被りそのままの状態で残っているのもあった。

「もう数百年も経ってるのよね、それにしては保存状態が良いわ、盗賊とかに荒らされているのかと思ったけどそれほどでもなさそうね」

「此処は庶民の家が並んでますから盗るものが少ないのでしょう」

 どの建物も石の部分だけを残した状態で、ぽっかり空いた窓枠の穴や入り口の形でどのような家だったか想像を掻き立てる、二階建てなどなく庶民の家は平屋が普通だったのか、高い建物はなかったがそれも少しづつ様相が変わってくる。

 次第に一軒一軒の間隔が広くなり、大きな家の残骸が目立ち始める。

「この辺りは貴族達の住居ですかね」

 家とは別に広場を設けた住居の庭は、見たこともない色々な植物が伸び放題になっていて、足を踏み入れようとは思わないぐらいに密集していた。

 建物の方は頑丈に出来ていたのか屋敷の面影を残しているものが多く、その中の一つに入ってみた。

 天井は崩れて青空が覗いていたが、広い居間や寝室など一つ一つの部屋は大きく高く造られているみたいだった。

「何も残ってませんね……」

「調度品は全て盗られてるみたいね」

「貴族ってこんなに広い家に住んでるんですか……、なんかそわそわする」

 何も残されていない所為か余計に部屋を広く感じさせていて、そこに立っている自分達が此処にいるのは場違いではないかと思い起こさせる程、居心地の悪さを感じていた。

 床は腐り剥き出しになった地面からは、唯一の住民となった雑草だけがそよ風に揺らされ生命の息吹を確固たるものにしている。

「他を行ってみましょう」

 見えない何かに見られているような不穏な視線を感じたマルティアーゼが声を潜めながら言った。

 近くにあった家も全て同じように、中はがらんどうとしていて変わったものは何もなかった。

「この状態では既に城の方も空っぽかも知れませんね……」

 遺跡というには何もなく、建物の保存も悪かったので期待した宝も夢想のままに終わりそうだった。

 だが城に入ると空気が変わっていくことになる。

 何重にも建てられた壁を横目に城へと階段を上がり、城壁を通り過ぎる度にリム王国の城の全貌が姿を現していった。

 遠くからでは尖塔が崩れて少ししか見えなかったので大きくなさそうに見えたのだが、壁に隠れていた城を見た途端、この国がどれだけの力があったのかと思い知らされた。

 入り口の扉は人の手で開け閉め出来るような代物ではなく、鎖で吊り下げられた上下する大きな扉というより門に近い入口だった。

 何人もの人が鎖を引き上げ開け閉めするのだろその扉も、支えてあった鎖が錆びて朽ち果て、崩れ落ちて無残にも粉々になって破片が散らばっていた。

 そこを通り抜けると真っ直ぐな石畳の道が城の扉まで続いている。

 周囲は庭なのだろうか、綺麗に石畳を避けて生える草が三人を迎えているようにお辞儀をしていた。

 城は尖塔の崩壊と共に壁面にも大きな穴を空けていて瓦礫の山が出来ていた、その部分からは内部の通路や部屋の一部が見え隠れしていた。

 マルティアーゼ達は慎重に崩れてこないかどうかを確認しながら、城へと足を踏み入れていく。

 入り口の広間は目の前に大きな階段があり、誰の仕業か踊り場に飾られていたであろう肖像画は切り刻まれた状態で色褪せ紙がひらひらと揺れている。

 その階段も木で出来ていたので腐り広間に落ちていたので、上には行けそうもなかった。

「…………」

 一様に三人は黙り込み、声を出そうとしない。

 何がと云われても誰もそれを説明はできない、しかし重々しい空気と湿った埃っぽさが息をするのを妨げているように上手く呼吸が出来ずにいた。

 三人は声も上げずに武器を握る手に力が入り、自然と臨戦態勢を取りながら目配せをすると城の奥へと進んで行った。

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