第1話-3 「妖精の次は女神様と思ったら……」
初めての魔法である“場所移動”を体感した3人だったが感じからすると自分たちが移動したのではなく場所が勝手に変わったような感覚だった。
フェリの魔法によって3人は先ほどの場所とは明らかに違う場所にいた。
先ほどの場所が殺風景だったのに対し、今フェリと3人がいる場所はよく王様などが居座っている玉座の間のように中央の奥には豪華で大きなイスが配置されていて、赤いカーペットが玉座から伸びるように敷いてあり、他にも様々な装飾品が飾られている。
そして、玉座には一人の女性が座っていた。
フェリと3人はその女性に相対するような形の場所にいるわけで、その女性の顔を見た朔人は女性のあまりの美しさと言葉では言い表せそうにない神々しさに緊張するほどだった。
確かに今、朔人たちが対面している女性は一言で表すなら美しいという言葉以外出てこないほど煌びやかな上に、金色に輝く長い髪は自ら光を発しているのではないかというほどだ。座っていてもわかるスタイルの良さ、姿勢がいいためピンと背中がまっすぐになり意図せずしてその大きな胸が強調され、1枚の白い布のような神秘的な服装から覗く白い肌は艶めかしさも表していた。
女性は立ち上がり、朔人たちの目の前までやってくるとその艶やかな唇を開く。
「お初にお目にかかります神々に選ばれし勇者様方。私の名前はミリエナ・イレ・モリアーニと申します。ミレイとお呼びください。私はここの管理人兼案内人をやっていまして、あなた方がここに来るのを待っておりました。使いの者を出したのですが何か粗相はございませんでしたか?」
と綺麗な女性ことミレイが質問したのに対して、朔人はミレイが近くに来たためによりその美しさと艶めかしさ何よりもおっぱいのでかさに自分好み過ぎて感動して硬直してしまっていた。逆に啓介はというと相手が年上だということに嫌悪感を抱いてお口にチャックをし、残された和也は人見知りなうえに初めてのしかも年上の女性とあまり話したくはない、と思っていたのだが先の二人がどうにも話せそうな状態でなさそうだったので渋々といった様子で言葉を返すのだった。
「えっと、使いの者ってこの子ですよね?この子は別に粗相はしてないというか、どっちかっていうとこっちのやつがこの子に対して変なことしようとしたくらいで」
「そう、ですか。うちのものに失礼が無くて安心しました」
「あの、それで俺たちが今どういう状況にいるか説明してもらえるんですよね?」
「そうですね、確かにあなた方にはいろいろと話さなければなりません。ですがその前にお名前をお聞きしてもよろしいでしょうか」
「俺は紫嶋和也です。こっちの前かがみになって固まっているのが杜永朔人、それでこっちが矢中啓介って言います」
「……なるほど、お名前から察するに確かに異世界の方々のようですね。
ああいえ、独り言なのでさきほどのはお気に召さらずに。それでは管理人兼案内人であるミリエナ・イレ・モリアーニがご説明させていただきます。突然のことで驚いてると思いますが、カズナリ様、ノリト様、ケイスケ様、あなた方は先ほども言った通り神々に選ばれた勇者なのです。カズナリ様は風の神に、ノリト様は炎の神に、ケイスケ様は雷の神に選ばれたのです。そして選ばれたあなた方勇者様の役目はこの世界の危機からの救済。つまりはこの世界を救っていただきたいのです。本来であれば勇者は残りの水・木・地の神に選ばれた3名の方々もいたのですがその方々は少々わけがありまして……残るあなた方に頼るしか今はないのです」
「えっと、じゃあ本当だったらここにあと3人いたってことになるんですよね?わけがあってというのは、」
「申し訳ございません、それはお答えできないのです。私は案内人であなた方を出発地点までに導き立たせるのがその役目になっていまして、あなた方からの質問に一切答えることができないのです」
彼女のその言葉を聞いた和也が真っ先に思い浮かんだのはゲームに出てくるNPCだった。NPCはゲームにおいてプレイヤーがストーリーを進めるうえで、時に必要な話やアイテムを授けたりプレイヤーの目的を示唆するなどの役目を持っているわけだが、それはNPC側が一方的に話してくれるわけであって必要以上のことは何も話さなずこちらの質問には答えてくれない。
まさに今のミレイはそんな感じなのである。
これでは埒があかない、と考えた和也はなるべく黙っていることにした。
「あの、どうかいたしましたか?」
「いっいえ、話の続きお願いします」
「はい、では話を続けさせていただきます。あなた方が勇者に選ばれたことによって神々からどのような恩恵を得たのかお知りになりたいですよね。まず、お気づきになったと思うのですが超人的な身体能力。神々から授かった膨大な量の魔力。その他にも数え切らないほどの恩恵を授かっています。ただ、魔力に関してなのですがカズナリ様はともかくノリト様とケイスケ様のお二方には制約がかかっているようでして、ケイスケ様はこの世界で言うところの中級魔法使い程度、ノリト様はその……魔法使いになれるかなれないかというほどにまでなっていまして。他の恩恵に関してはそのようなことはないと思うのですが。カズナリ様が神の域の魔法を使えるのに対してケイスケ様は最高でも上級魔法、ノリト様は中級魔法程度しか現状では扱えないようです。なぜ、そのような制約がかかっているのか私にもわかりませんが、ある一定の条件を満たせば一時的に制約が解除されるようになっているみたいです」
硬直している朔人が話を聞いているかはともかく啓介はミレイの言葉を聞いて少ししょんぼりしていた。
そんな彼に対して何の制限もなく魔法を使うことができると言われた和也は気の毒そうな顔を向けた。
「どんまい、啓介。大丈夫、そこにいる変態よりはマシらしいから」
「おい、変態と比べられる方の身にもなってみろ。あーあ、てっきり俺は最初からいろんな属性の最強レベルの魔法が使えると思ったのに。まぁ、いろんな属性の魔法で足りない部分を補うか」
「そうそうその意気だ啓介。例えば、風と炎の魔法の合わせ技とか炎と水の魔法を応用して水蒸気爆発をやるとかいろいろあるんだからさ」
「だよな!うん、そうだよ。別に中級って言ったって朔人みたいに弱いわけじゃないんだからな」
啓介が自分に課せられたものに対して和也の気遣いの言葉ともにポジティブ思考になっているとミレイが本当に申し訳なさそうな話で二人の話の間に入ってきた。
「あの、盛り上がっているところ大変申し訳ないのですが魔力の件でお伝えしなければならないことがあと1つありまして。実は皆さんはそれぞれ1属性の魔力しか持ってらっしゃらないのでその属性の魔法しか使えないんです」
「「え……?」」
「この世界の生物は必ず生まれもってして火・水・雷・風・地・木の六つの属性の魔力を持っています。わかりやすく数字にしますね。1つの例として、1人の人間の全体の魔力を100とすると内訳では火30水20雷10風15地15木10というふうになり、この場合は火の魔力が多いため得意魔法は火魔法となるわけです。ですがカズナリ様の場合は風が100、ケイスケ様は雷が100、ノリト様は火が100となっているのです。そのため、その持っている魔力の属性の魔法しか扱えない、ということになります。原因として考えられるのはカズナリ様たちがもといたところでは魔力がない世界だったためにあなた方は魔力を持たず、恩恵によって与えられた属性の魔力しかないのだと思われます」
1つの属性の魔法だけといっても神の領域の魔法を使える和也は隣でポジティブ思考を破られた啓介の肩にそっと手をのせて慰めるのだった。
「啓介、もしお前が魔法で勝てない相手がいたら風魔法でフォローしてやるから元気出せって。それにほら俺たちには人離れした身体能力があるんだからそこで補えばいいんだよ」
「でも俺たち武器持ってないんだぞ。身体能力高くても丸腰じゃ結構きびしいだろ」
「でしたら次の話の段階に入りましょう!」
パンと両手を合わせて少し嬉しそうに言うミレイだが、さきほど啓介のテンションを下げたことを気に病んでいたのだ。
それを挽回できるチャンスが来たためか彼女は少し明るい顔になっていた。
「この世界では魔法を使う上で必要なものがあるのです。それがこの――」
彼女の手元から光が溢れだしたと思うと光は淡く消えていき、彼女の手元に現れたのは先のところに碧の宝石が装飾された杖だった。
長さからして持ち手の部分を持って振り回すタイプのものである。
「“魔装”です。私のは杖ですが人によって弓や剣、盾であったりもしくは本や羽根ペンといった日常用品だったりと人それぞれによって違ったものになります。まぁ、魔法使いの場合は大抵は杖や弓といった遠距離用の武器の形にはなるんですけどね。通常、この“魔装”は10歳になると誰でも召喚することができます。そして今からその召喚を行ってもらいたいと考えているのですが……そろそろノリト様をどうにかしていただけませんでしょうか」
ミレイに言われるまで朔人が興奮して硬直していたことを忘れていた二人はオタクなら誰でもあこがれる武器召喚、というイベントのために朔人の目を覚まさせるために動き出す。
動き出したといってもただ和也が彼の耳元でとあることを呟いただけだが。
「(おい、朔人。今から武器召喚ていうのやるらしいんだけど、ここでもしお前がカッコいい武器召喚出来たらあのお前好みのお姉さんを手中にできるんじゃないか)」
「何そのイベント!超最高じゃんッ!!」
ミレイは朔人が硬直から戻ってきたのを確認するといよいよオタクたち楽しみの召喚の説明を始めた。
「召喚といっても魔方陣を描いたりなどの面倒なことは今回あらかじめこちらで用意しておいたので大丈夫です。この召喚で必要なのはあなた方の魔力と血、そしてこの魔方陣が描かれた羊皮紙になります」
ミレイから手渡された魔方陣が書かれた羊皮紙を三人で見比べてたものの三人全員まったく同じ魔方陣だった。
ということは魔方陣によって召喚する“魔装”が変化するのではなく彼らの魔力と血によって変化するようだ。さきほどミレイが人それぞれによって“魔装”が違うということはそういうことなのだろう。
「まずこちらのナイフでで指先を少し切ってもらって血を魔方陣の真ん中につけてください。そうすると魔方陣から文字が浮かび上がりますのでそちらを読み上げてもらえば“魔装”の召喚が完了します。では、どなたからしますか?」
「はいはいはいッ!自分から行かせてもらってもいいですかミレイさん!!」
ピン!とまっすぐに右手を伸ばして積極的にアピールする朔人。
ミレイの名前を呼んだということはどうやら硬直していた間も話は聞いていたようだ。
朔人はミレイから小型のナイフを受け取ると左人差し指を軽く切るとプクーと出てきた自分の血を指示されたとおりに魔方陣の真ん中あたりにつけた。すると羊皮紙に描かれている魔方陣が赤く淡い光を発したと思うと魔方陣から文字が浮いて出てきた。
その浮いて出てきた文字は初めて目にするようなものだったのに対して、日本語を読むようにすぐに何と書いてあるか理解できたが特に朔人はそのことは気にせずに浮いている文字を読み始める。
「《我が杜永朔人の名のもとに全てを斬り裂くその漆黒の姿を現せ》」
朔人が文字を読むと同時に浮いていた文字が魔方陣に吸い込まれるように消えていき、すべての文字が魔方陣に消えていくと魔方陣が先ほどの文字のように浮き出し大きくなるとそこから黒色の鞘に納められた一本の日本刀が出てきた。
魔方陣が消え浮いていた日本刀がゆっくりと朔人の両手の中に。
朔人は自分の手にある刀を鞘から取り出してまじまじと見つめその刀身に食い込むように見ていた。
刀身も黒色だったが鞘の黒よりもさらに深い漆黒の色だった。
「おおー、なんかちょっと感動だな。漆黒の刀とかやべーよ自分で言うのもあれだけどかっこよすぎだろ。えーっと、名前。あれ名前は?すみませんミレイさん、この“魔装”に名前とかないんですか?」
「“魔装”は人それぞれですから召喚した人がその“魔装”の名前を付けなければいけないのですよ。私のこの杖の場合は“六つ目の月”と名付けています」
「うーん、俺はどうしようかなぁ」
「朔人が悩んでるうちに俺も召喚しようかな。なんか朔人のやつ見てたらテンション上がってきたし」
と続く啓介。
彼も朔人と同じように浮かび上がる文字を読み始める。
「《我が矢中啓介の名のもとに全てを穿つ蒼白きその姿を現せ》」
そして啓介のもとに現れたのは彼の背よりもはるかに長い二メートルほどの蒼色をベースとし所々に白い稲妻が走るような模様が描かれた直槍だった。
「うーん、俺は槍かぁ。あんまりパッとしないんだよな、槍って。どうせならエヴァのロンギヌスの槍みたいなのが……おおっ?」
自分の“魔装”が槍だったのに対して少し不満を漏らしながら別の槍の姿を想像していると彼が手に持つ直槍が想像した通りの姿の槍に変化した。
まさかとは思い別の槍を想像してみると見事に想像した通りの槍に変化して見せる。
それにはさすがの啓介も予想外だったようでその機能には意外と気に入ったりしていた。
「よし、これの名前は“雷の如く穿つ死槍”にしよう」
朔人や啓介が自らの“魔装”を召喚していくなか、召喚イベントというものに浮かれていたはずの和也は少し召喚することに戸惑っていたのだ。
オタクなら誰でもあこがれるであろう召喚イベントをためらう理由それは、
「あの、すみません。そのナイフで指先切った時って痛みとかないんですか?痛いのは嫌なんで出来るだけ避けたいんですけど」
「ああ、その点でしたら安心してください。あのナイフには少し特殊な魔法をかけてあって、指を切っても痛みは出ませんし少ししたらすぐに傷口はふさがりますよ」
それを聞いた和也は一安心してナイフを受け取り指先にその刃先を当てるまではよかったのだが、怖いという感覚は消えないようで慎重にナイフを自分の指に突き刺す。
すると血がゆっくりと刺した部分から出てきて指先に赤い半球状が出来上がる。
そして、先の二人が行ったように魔方陣の中心に血を付けた。
浮かび上がる文字。
その文字を見ながら、ふと思うことがあった。
(初めて見る文字なのにスラスラと読めるのか。不思議な感じだよなぁ、これも神の恩恵かな?)
そして浮かび上がる文字を読んでいく。
「《我が紫嶋和也の名のもとに全てを断罪するその白き姿と黒き姿を現せ》」
現れたのは白と黒の対になっている剣だった。
鞘に入っていない2本の剣は色以外はほとんど変わらない。長さは70センチの傘よりも少し長いくらいだろうか。
とりあえず和也は両手にそれぞれ剣を持つ。
(重いのかなと思ったけど特にそんなに重くはないな。……名前つけなくちゃいけないのかぁ。冷静に考えてみれば、こういうのに名前つけるのってめちゃくちゃ恥ずかしくないか……。異世界もので主人公が銃とかに名前つけるの見てて、なんか見てるこっちが恥ずかしくなったこともあったからあんまり気が乗らないというか。でも、つけないといけないって言ってたしなぁ)
剣に対する感想は重さ以外特になく、それよりも名前をつけないといけないのかということに憂鬱になっていた。
だが、付けないといけないという強制的な感じなので仕方ないと観念して白と黒の剣を見ながら考える。
(……白と黒かぁ。こういうのって考えすぎると後々、後悔しそうだからパッと決めよう)
「和也は決めたのか?あとはお前と朔人だけなんだから、早くしてくれよ」
「あぁ、俺のは今決めたよ。白いのが極夜丸で黒いのが白夜丸にする」
名前の由来は、つい先日見ていたテレビで極夜と白夜に関することがあっていたためちょうどいいとそこから考えたのだ。
「ん?それだったら普通逆じゃないか?」
と啓介は和也があえて名前を逆にしたことに気づいた。
白夜とは1日中太陽が出ている状態で黒か白かと言われると白である。
一方、極夜とは一部の地域で太陽が1日も出ない状況のことでこちらのイメージとしては黒だ。
だが、あえて和也は白の剣を極夜丸、黒の剣を白夜丸とした。
その理由は特に深いものはなくただ普通が嫌だっただけである。
「まぁ、お前がそれでいいなら特に俺は何も言わないけど。朔人ー、あとはお前だけだぞ」
「俺も今決まった!こいつの名前は、神の影と書いて神影刀だ!!」
それを聴いた和也は、異世界もので主人公が武器に名前を付けているのを見ていて恥ずかしくなった時のように恥ずかしくなった。
朔人があれこれ熟考した結果なので特に深く聞くつもりはない。
が、ただ後々冷静になったときに名前つけた朔人本人が恥ずかしいと思うんだろうなぁと口には出さないもののそんな感じの目線で彼を見ることしか和也にはできなかった。
そんな和也の気も知らないミレイは次の話へと移す。
「これでようやくだいたいの準備は整いました。あとはあなた方を運命の導くまま“瞬間移動”するだけです」
そう言うと彼女は先ほど出した“六つ目の月”を手に構える。
朔人と啓介は何だか空気に流されるままになっているのだが、和也は疑問しかなかった。
これまでの流れからわかったことは自分達が神に選ばれた勇者であるというのが一番大きいくらいで他にも色々と疑問があるのだ。
(えっ、嘘でしょ……まさか、もう現場行き?。突然ここに来させられてあなたは勇者だから世界救ってね、とかいろいろ訊きたいことしかないんですけど!いやいや、まさかね。まだちゃんといろいろ――)
そんな和也の思いを裏切るかのようにミレイはやりきった感を出しながら笑顔で、
「それでは勇者の皆様、ご武運を。これより先は私たちは手を貸すことはできません。ですが、私たちは心からあなた方の活躍を応援しておりますので。――“瞬間移動”」
ミレイが魔法を唱えると三人の姿が消えるのだった。
消える間際、何か和也が言いたそうにしていたのだがとりあえず自分の仕事を完了したことに安堵の息を吐く。
そんなミレイにおずおずとしながらフェリが尋ねる。
「あの、ミレイ様?あんなにおざなりな感じでよかったんですか。当初の予定より説明やしなければいけないことをかなり省いていたようなんですが。召喚獣のこととかあったと思うんですけど」
「……そっ、それはね、面倒になったとかではなくてね、色々訊かれてボロが出てもダメでしょう?特にカズナリさんとケイスケさんは鋭そうだったから……ね。召喚獣のことは別に別に忘れていたとかではないわよ?決して!……もう、イヤ。もともと私にこんなことするなんて向いていないのに。はぁ、お兄様もなんで私にこんな重要な役割を…………」
ため息を何度も吐くミレイ。
その姿からはさきほどのもののような気品さや艶かしさなどは感じられない。
そんな主人の姿を見て、気分を落ち着かせるためにお茶を入れに行くのだった。