第1話-1「彼らが主人公《オタク》です」
春とは言ってももう5月中旬で暖かいを通り越して暑い日もあるなか、本日も昼を過ぎ夕方が近づいているというのにサンサンと太陽の光が降り注いでまだ学ランやブレザーを着ることを指定されている下校途中の高校生たちに熱という名の地獄を見せる。
学校を出れば基本自由なので学ランやブレザーを脱いでシャツ姿になっている学生がほとんどである。
そんな下校途中の学生たちの中に彼ら3人はいた。
中を歩く1人は学ランを完全に脱ぎ右手に持ちそれでも暑かったのであろうかシャツの袖を両肘の辺りまで捲っている。
右を歩く1人は学生服を脱いではおらず学ランの前のボタンをすべて開けズボンに入れていたシャツを外に出している。
左を歩く1人は持つのが面倒だったのか学ランを羽織ってシャツの袖を捲っていた。
彼らは何気ない会話をしていたのだが突然真ん中を歩いていた1人が声を上げる。
「いいや、絶対に包容力があってエロくておっぱいがでかく綺麗でてエロくてエロくてエロくてエロい年上のお姉さんたちこそ至高なる存在なわけだよ!これは現実であろうが二次元だろうが変わりはない!!何があろうがこれだけは絶対に譲れねぇ!」
帰り道、他の学生も帰宅している中3人で帰る彼らの内1人が周りの目など気にせず大きな声を出したのだ。
堂々と自分はお姉さん系が大好きと宣言しているのは杜永朔人という名の少年である。
彼は言っている通り二次元だろうが現実だろうが美人な年上のお姉さんを自分の好きなカテゴリーとしている。とは言うものの彼は美人でかわいい女性であれば誰でもよく、その中でも年上のお姉さんが好きなだけであるということだ。
つまりは女好きなのである。
そんな彼ではあるが説明が女好きだけでは流石に可愛そうなので色々付け加えていくとしよう。
高校二年生。勉強は下の上で苦手というわけではないが勉強しないからその辺に留まっているわけで、性格の方は先ほど言ったように女好きなのと女性に対しては優しくするのが当たり前で「女性のためなら命もはれる(容姿にもよるよね)」と言っており女性に関すると紳士的になる。まぁ、そんな機会はないわけで女性と接するときほとんど変態的になってしまうわけだが。
運動能力はよくて中の上で現在は部活にも所属しているわけでもなく日本男児の平均値くらいといったところだ。
そんな彼の気になる容姿といえば普通である。イケメン寄りだとかブス寄りだとかそんなことはなくこれもまた平均値で普通なのだから仕方がない。
短めの黒髪は染めているわけでもなく地毛で、身長の方は少し低めの165cm弱である。
彼はこれまで存在しているエロアニメすべてを観ており、あるもの(右のやつ)曰く「朔人が知らないエロアニメはねえ」と言われるほどである。ちなみに高校生である彼にはお金という制約があるために本当に気に入った作品以外は購入していない。
この変態の説明はこのくらいだろう。
と、そんな変態のセリフに異議を唱える者がいた。
「おいおい、ババァ好きもいい加減にしろよ朔人。いいか、可愛らしくて守ってやりたくなるような妹や小さな女の子たちこそが絶対の存在なんだよ。お前の言う年上のお姉さんってのはな、俺からすれば腐った果実と同じなんだよ。それに比べて幼い者たちを見てみろ。愛らしく一つ一つの仕草が可愛く、これからどんな風に育っていくのかすら妄想できちゃうんだ。ゆえに妹や小さな女の子こそ正義!!」
もう今すぐにでも捕まってもおかしくないほどのセリフを多くの人がいるなか堂々と言えるのは、先の変態のセリフに異論を唱えるだけのとこはある。
この将来マジで警察の厄介になっていそうな左の変態の名前は矢中啓介と言う。
彼はこの3人の中で一番普通ではない。先の変態発言とかの話ではなく。
彼の一族は代々この街の病院を経営しており金持ちである。
そんな彼が私立などの頭がいいところに行かずに地元の公立の高校にいるのは別に頭が悪いからではない。どちらかというと彼は天才肌で少し勉強するだけで地元とはいっても地域内でも指折りの進学校である高校で学年トップになるほどである。
ではなぜ私立に行かないのかというとその理由は単純で遠くてめんどくさかったからだった。
彼の親も自主性に任せるというか自由放任主義的なところがあるためとくに反対されることはなかった。
啓介は頭はいいが運動面でいくと朔人とさほど変わらなかったりする。
身長は平均的な170cmちょうどで、短めの黒髪のくせ毛と朔人と違って目つきが少し怖いのが特徴的だ。別にブサイクということはないが少ししかめるだけで睨んでいると勘違いされてしまうことが多々あったりする。
そんな彼は自分で言っている通り妹系や小さい女の子が大好きなシスコン&ロリコンで犯罪をかなりの確率で起こしそうでやばいわけだが今日まで犯罪を犯さず何とかやってきているわけだ。それは実の妹のおかげだったりもする。
彼に関しては幼女系や妹系はアニメ・ラノベに関わらずすべて集めているわけだが、まさに朔人とは好むカテゴリーが正反対だ。まぁ、幼女や妹を性的な目で見ていないという点でいえば朔人よりマシかもしれない。
実はこの3人のグループのまとめ役である彼ではあるが暴走した時が一番ヤバいので他の二人はそれに気を付けている。
年上か年下か相容れることのない思想は二人の間では決着しそうになかったので第三者に決めてもらうことに。
「「和也はどっちがいいと思う!?」」
二人の視線は最後の1人である右にいる少年へと向けられる。
問いかけられた少年は何度目だよこの討論とあきれたため息を吐きながら答えた。
「はぁ、俺は二次元でかわいい子なら誰でもOK。3次元なんてもってのほかだから。あ、声優さんならOKな。てか、そもそもお前らに聞くけどさ、エロい体で見た目は美人なお姉さんだけど中身は10歳はどうなんだよ。逆に体は10歳くらいの美少女で中身は年齢が分からないほど長生きしているやつはどうなんだ?」
その質問に朔人と啓介雷に打たれたかのような衝撃を受けていた。
一応二人の討論を止めることに成功したのは紫嶋和也である。
彼は3人の中で最もオタクと言えるオタクだ。
彼は啓介には及ばないものの毎回学年20位以内に入るほど勉強ができ、運動は中の上程度だが家事スキルを持っている。
アニオタであるがゆえにアニメが大事なのだがそれよりも家族を大事にしている。両親は海外で仕事をしているため小学生である啓介の妹と同級生の双子の妹と弟と暮らしているため家事スキルを持っているのだ。とは言っても最近では妹が家事をほとんどするようになってしまっている。
先の二人と比べるとコミュニケーション能力が低いが友人さえいれば何とか他者とも会話もでき、悪ふざけをすることもある。
男子にしてはツヤのある黒髪で少し長いため前髪の毛先が目に入ったりしてよく「あ゛あ゛あぁぁぁぁ」とか言いながら目を押さえつけたりしているのだ。身長は3人の中で一番高く173cmで容姿で特徴的なものは朔人と同じくらいでこれと言ってとくにはない普通の高校生だ。
朔人や啓介と違って現実の女性(声優さんを除く)にはこれといって興味がなく、日常で先の変態たちみたいに取り乱すこともほとんどない。ただ、アニメや声優など自分の趣味に関するものになれば手に負えなくなるのは目に見える。ちなみに仮面ライダーはもちろんだが、「相棒」も好きだったりする。
3人の共通点と言えばほぼ中肉中背、高校二年生で同じクラス、オタクというぐらいなのだがなぜ仲がいいのかというとやはりオタクということが関係してくるわけだ。
結論を出した朔人が決め顔をしながら和也に言う。
「ふっ、和也。俺にとってはどっちも大歓迎だぜ!かわいい女の子なら関係ねぇ!!」
その隣では両手で頭を抱えながら必死に考える啓介の姿が。
「おっ俺は……見た目はババァでも精神面が幼き少女ならそれは少女というべきか言わざるべきかあっあ゛あああぁぁっぁぁぁぁっぁぁぁぁーー」
決め顔の朔人と悩み続ける啓介をやれやれといった表情で見ながら学ランのポケットに入れていたスマホを取り出す和也。
「あれ、おっかしいななんでスマホ点かないんだ?まだバッテリーはあったはずなんだけど……ボタン長押しの起動もならねぇ。どうしたXperia!お前の力はそんなものなのか!?」
自分の愛機に声をかけながら頑張ってスマホを点けようとする和也だったがやはりつくことはない。朔人も和也につられるようにスマホを取り出し点けようと試してみたが点くことがなかった。
さすがにおかしいと思い始めたとき啓介が声を上げ、二人も初めてその異変に気付く。
「おい、おかしくないか。なんで俺たち以外に人がいなくなってる!?」
和也は啓介の言葉の通り周りに人がいなくなっていることに不思議に思い周りを見渡した。
明らかにおかしかった。
3人以外の人がいなくなっているだけではなく、空に浮かぶ雲が動いていない現象や周りの雑音が消えている現象。
それはまるで――
「時間が止まってるみたいだ」
「お、おい和也!お前、なんか緑色の光の穴に吸い込まれてるぞ!!」
啓介の言う通り和也は足元にいつの間にか出来ていた神々しい緑色の光を放つ穴?にゆっくりと引き込まれていた。
それを見て彼は特に乱すこともなく「ははーん、これが異世界召喚とかいうやつだな」とか思いながら同じ現象が起きている目の前にいる二人に笑いながら言う。
「あっはっはー、お前らも穴に引きずり込まれてんぞ。超ウケる」
「お前なんでそんなに余裕なんだよッ。やばいやばい、ダメだ!引き込む力が強すぎて抜け出せねぇ!!」
「いやだぁぁぁぁぁ!!今日は俺のゲーム内の妹の誕生日だから夜7時には絶対にログインしなくちゃいけないのにぃぃぃぃ!!」
朔人を吸い込むのは紅蓮のように輝くしく真っ赤に染まる穴で啓介は白色にも黄色にも見える摩訶不思議な色の穴に吸い込まれていた。
そして彼らは不思議な穴に吸い込まれていき完全にその姿が消えると同時に穴も消えそしてそこに残るのは彼らの学生カバンだけとなった。