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幼馴染が神なもので。  作者:
――最近? うーん、特に変わった事はないかなぁ。――
8/15

月曜日

 昼休み。友達どうしで集まり、楽しくおしゃべりしながら弁当をつつく……などという素敵なシチュエーションとは一切縁の無い私は、チャイムと同時にスッと席を立ち、颯爽とした足取りで人気の無い場所へと向かいました。

 ……憐れまないでくださいね。よりいっそう悲しくなるので。


 さて。

 校内に数ある無人スポットの中で、今日私が選んだのは五階の隅にある空き教室です。

 片側のドアの鍵が壊れているので、容易に侵入可能なんですよね。それ故に、誰かが先に使用している事もありますが……まあ、その時は移動すれば良いだけです。

 ドアを開ける前にさらっと中の気配を探り、誰も居ない事を確認してから潜入しました。

 机も椅子も端っこに片付けられている為か、普通の教室よりも広く感じます。

 私の定位置は、その広々とした教室の隅っこです。

 一人で自由に使えるにも関わらず、あえて隅っこに陣取り、広々とした空間のほとんどを無駄にするのが私のスタイルです。落ち着くんです、隅っこ。

 壁に寄りかかって座り、弁当箱を広げ、両手を合わせていただきます――


 ――を、しようとしたところで、キュインという甲高い音と共に男子生徒が現れました。

 教室の真ん中へ、唐突に。

 上履きの色から察するに、三年生のようです。胸の名札には『江角えすみしょう』と書いてあります。

 特にこれといった特徴の無い、THE平凡といった感じの印象を受ける方ですが……何も無いところから唐突に出現するというユニークな特技をお持ちなようです。人は見かけによりませんね。

 それにしても、今日の卵焼きはなかなか良い具合に焼けました。味のバランスといい、焦げ目の具合といい、いつになく……


「……なぁ」

「はい?」


 こっちを見たまま動く様子が無かったので放置しておこうと思ったのですが、話しかけられたら無視するわけにはいきませんよね。

 二口目の卵焼きを諦め、仕方なく箸を置いて視線を合わせました。

 そんな怪訝な顔で見なくとも良いと思うのですが。少々、顔面が面白い事になっていますよ?


「何で……そんな普通に弁当食べてんの? 今の、あの……色々、聞いたりしないんだ?」

「はい」


 頷けば、さらに怪訝に歪む顔……今のその顔、本人に鏡で見せてあげたいです。


「……何で?」

「初対面の人の事を詮索するのは、無神経かと思いまして」


 と言いますか、ぶっちゃけ虚空から急に湧いて出てくる様な人にアレコレ突っ込んだら、そのまま何らかの厄介事に巻き込まれる流れになってしまいそうなので遠慮したいんですよね。

 正直なところ、このまま私の事など気にせずにささっと去って欲しいのですが。


「いやいやいやいや、あれを目撃しといてそれで片付けられるのがオカシイって! あ、もしかして君も能力持ち?」

「いえ、何の特殊能力も無い一般人です。ただ異常事態に慣れているだけで」

「慣れるってどんだけだよ! どんな人生歩んでんの!?」


 びしっとキレの良い音を響かせ、裏手でツッコミを入れる姿に慣れを感じます。

 成程、これがツッコミ属性というやつですね。


「語れば三日三晩……いえ、それ以上かかると予想されますが、聞きたいですか?」

「聞きたい」

「え。まさかの即答?」


 てっきり、またツッコミが入るかと思っていたので意外でした。


「あれを軽くスルーできる程の経験してきたって事だろ? そんなん興味沸くに決まってる」


 いや、そうワクワクと目を輝かせられましても……

 私は未だほとんど手つかずのままの弁当に視線を落とし、そっと首を横にふりました。


「好奇心を刺激しておいてあれですが、長々語るのは疲れるし面倒なので嫌です」

「人をその気にさせておいて……!」


 ガクリと項垂れさせてしまいました。ガーンという効果音を背負っている幻覚が見えましたよ……何ともノリの良い人ですね。


「そこまで情熱的に求められるとは予想外でした……そうですね……さわりだけ言うとすれば、私は『冠城 灯春の幼馴染』です」

「……あ、うん。何か想像できたわ。苦労してきたんだな」


 今までの勢いがぴたりと止まり、同情に染まった瞳をすっと逸らしつつ、労わる様に私の肩に手を置く江角先輩。

 ……ご理解いただきありがとうございます。そしてその理解の速さを見るに、先輩もモハとそこそこ深く関わっていそうですね……。


 その後、一緒にお昼を食べながら、お互いの苦労話をぽつりぽつりと語りあったのでした。

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