{神の視点から見てみよう}
眠るミコの胸の辺りから、ドロリとした闇が這い出てきた。
闇はスライムじみた動きでベットの上に落ちると、少女の形に姿を変え、不貞腐れた顔をミコに向けている。
自慢の悪夢をことごとくスルーされ続け、夢魔として大分心が折れているようだ。
ミコ相手に精神攻撃を選んだ時点でコイツの負けは確定してたんだけどな。
俺が長年ミコを巻き込み続けてきたせいで、アイツの精神力は鍛えに鍛え抜かれてるから。鋼だとか自認してるけど、実のところオリハルコン超えてる気がするんだよな。
本気で何事にも動じなくなってきたし。
騒動の渦中でも淡々とした態度を崩さないミコを見るのが最近の楽しみだったりする。
周りのカオス具合との温度差が凄すぎて、笑うしかないって。
それもあって、ミコを巻き込まないって選択肢は俺にはないんだなー。
文句言いつつ割と簡単に許してくれるミコに、大分甘えてるって自覚はあるけどさ。
さすがに続けて大きな厄介事に巻き込むと文句が半端ないから、多少自重してるけど、この騒ぎの中にミコが平然と立ってたら面白いだろなーとか思うとウズウズが止まんなくなってさー。
思い出し笑ってると、もそり、と夢魔がミコを覗き込むように動いた。
『ボクのプライドずったずたにしといてさぁ〜、なぁあに穏やかぁな顔して寝てんだよぉお〜……ほんとむかつくぅ〜』
そうとう意気消沈しているらしく、恨みごとにも覇気がない。
敵意はもうなさそうだな、と警戒レベルを下げておく。
『……』
だが、何を思ったのか。
夢魔が人差し指をミコに向け、そぉっと近づけはじめやがった。
おいテメェ何だその指は。まさかミコのほっぺた狙いじゃねぇだろうな?
「ん」
『ふぅうん。こういうのは普通の反応なんだぁ〜』
あっ、テメ、マジでやりやがった!
「ん、ん……むー……?」
『……こぉしてると素直そぉなのにねぇ〜』
イラッ。
ふにりふにりとミコの頬を指先で軽く押しながら、薄笑い浮かべてんじゃねえぞ?
馴れ馴れしくミコに構いやがって。
夢魔の顔面を鷲掴んで威圧してやりたくなったが、ミコの命に危険がない場合は極力放っておくようにするって約束しちまってんだよな。
気に入らねぇってだけで乱入するってのは約束に反する気がするから、ちょっとむかつくけど見逃してやろう。
まあ、ここで乱入して夢魔を軽くしばいたとして、それがミコにバレても、何だかんだ文句言いつつ許してくれるだろうけどな。
幼馴染の凪いだ目を思い出し、自然と口角が上がった。
冷めてるわけでも、死んでるわけでもない、静かな目で全部まとめて受け入れてくれる寛容さを、尊く思う。
慣れたとか諦めたとか言ってるけど、それができるだけで凄いんだっての。
普通の人間が受け止められるレベルじゃない経験をあれだけしてきて(いや俺がさせてきたんだけど)、なんで普通で居られるんだろな。
マジ安定感が半端ない。
そこに救われてるんだけど。